23.俺が味方になるから。
リリアーナがイリアスの右腕にしがみ付いた時に
魔法を放つイリアスの手がピタリと止まる。
「もう、いいです…。イリアス様。」
普段とは異なり、初めて見た氷のような顔を見て
背筋が凍りつくような心地がしてイリアスの腕を掴む手が震える。けれど、必死にもういい、と懇願する。
「私は…大丈夫ですから。」
そうリリアーナが言えば、
「リリアーナ…。分かった。」と返して
イリアスは氷結魔法を止めた。凍っていたクレアのドレスの裾は溶けていき水になり布に染み付いていた。
恐怖で限界を迎えたのか、クレアは立っていられなくなり足から崩れ落ちた。恐怖からか涙腺が崩壊していた。
「クレア!!」
アッシュはすぐに駆けつけ、クレアを支える。
何度も応答しても何も言わずにただ口をパクパクとしているクレアを見て
「すみませんが、妻の容態が良くないため馬車にお送りします。」
と言って優しくクレアを起き上がらせて今いる空間から出ようとしたが、ピタリと足を止めリリアーナの方を向いて「ごめんな。リリアーナ。」と言って話を続ける。
「クレアも悪気があってあんなことを言った訳じゃないんだ。心の底から心配しているからこそ何だよ。そこを理解してくれないか?」優しい笑みでそう言った後
クレアと一緒に今いる部屋から出ていった。
心配していると思って言いながらも結局は
内心ではルナティアのことしか考えないあの人を。
どう理解すればいいというのか…。
顔を曇らせて下を向くリリアーナに手のひらと腕に温かさを感じる。ふと顔を少し上げてみれば白狼が。
白狼は手のひらと腕に鼻を擦り付けて「クウン…」と優しく鳴く。まるで心配するかのように。
「リリアーナちゃん、大丈夫?」とアレットが近寄り
話しかけてきて、リリアーナは「大丈夫です。」と微笑みながらそう答えた。実際、大丈夫ではないのを隠して。
必死に、涙が溢れそうになったのを堪えながら
震える手を必死に抑えながら。
そんなリリアーナを見てやはりお見通しなのかネオは
「どこが大丈夫なんだよ?」と発する。
「何で、何も言わなかったんだよ。あいつに。
何で黙ってあいつの言うことを聞いてるんだよ。」と
続ける。
「…別に黙って叱責されてた訳じゃない。
どんな言い訳をしようか考えていたわ。」
「けどよ…、あいつの言っていること可笑しいと思わなかったのかよ?お前の母親、お前の心配どころか妹の方を心配しているように見えてたぞ?そのことに何か言おうとは考えなかったのかよ?」
「それは…。」
前のように、ルナティアがお茶会で恥を晒された件の時
初めてクレアに向かって反抗した。あの時は初めて反抗したからこそ運良く怒られるのを免れることができた。
けれど、2回目は反抗してくるのを予想していつもみたいに叱責してくる可能性があると分かっていた。
だからこそ今回は、ただクレアを宥めようとすることを考えた。
言っていることは可笑しいと分かっていても
何を言っても無駄だから。
ギュッと強く拳を握りしめながら体を震わせるリリアーナ。
互いにギスギスとした空気になり
それを見た、アレットは「まあまあ。」と言いながら
2人の間に入る。
「ネオ君の言っていることは分かるよ。
俺だってあの人の言っていることは可笑しいと思ったよ。」
「リリアーナちゃんも多分、可笑しいと分かっているんだよ。
…多分、リリアーナちゃんはあの人に何を言っても信じてくれないから、自分の都合のいいことにしか聞かないから言わないんだけだと思うよ。」
何もかもアレット言う通りだった。
そしてリリアーナの方へしゃがみ込んで話を続ける。
「叱責されて傷つくのが嫌だったんでしょ?
少しでも傷つかないように、自分を守るようにしていたんでしょ。だからあの時何も言わなかったんでしょ?」
「…」
「そうじゃない?だから今、リリアーナちゃん曇った顔をして、苦しそうで泣きそうな顔をしているじゃない。」
叱責されごめんなさいと謝り続け
時には泣いて過呼吸になるくらいの状態で謝っていた。
叱責され続けて
いつしかどうやればここを乗り越えられるか
いつしかどうすればクレアの怒りを宥めることを考えるようになっていた。
面倒なことになるからではない。
叱責され
自分自身が傷つくのが嫌だから。
少しでも傷つかないようにしたかったから。
アレットの言う通り。
下に俯いたまま、リリアーナの視界にはうつるのは
水玉模様。止めようとしても止まらず水玉模様は広がっていく。
視界に誰かの靴が入ってきた。
伸ばされた手はとても柔らかく温かい。
伸ばされた手によって顔を上げられる。
優しく向けてくる銀色の目と自分の目が合う。
「…泣いていいんだ。リリアーナ。
泣くことは別に悪いことではない。」
と優しく言われた時にリリアーナの水玉模様から
大粒の水滴が溢れ出てきて少しの間、イリアスにしがみついた。
そんなリリアーナをただ優しく抱き締めるイリアス。
「少し落ち着いたか?」
イリアスの腕の中で頷くリリアーナ。
それから、リリアーナはイリアスの腕の中から出てきた。
ふとネオと目が合う。
先程ギスギスした雰囲気になっていたからか
互いに気まづい空気になっている。
先に動いたのはネオで泣いて目がまだ涙が残っているのを見て涙を手で拭い去った。
「…っ?!」
「涙拭ってあげてるだけだよ。」
「…」
そう言いながらネオは気まづそうな雰囲気で
「さっきは、悪い。
お前だって、あんなこと言われて何も思わないわけないもんな。傷つくのが怖くてどうにしようとしていたんだな。」
「いいのです。分かってくださっているのなら…。
私は…。」
「また、何かあいつが可笑しい理由で叱責してきたら、俺が何とかしてやるから。」
「はいっ?」
「俺が盛大に論破して何も言えない状態にしてやるからさ!」
「ええ?」
「だから!お前が、何かあいつに叱責されて悪者にされようが俺は味方になってやるってことだよ!」
「…。」
呆然とした様子のリリアーナ。
ふと沈黙が流れ、ネオもどうすればいいかと考えている時にふとリリアーナが
「フッ…フフ…ッ
それはとても頼もしいですわねっ…
フフフ…」と笑いだした。
何かと思いきや、笑うリリアーナに対し
ネオも「へへッ…」と笑いながら
「なんだ、お前笑えるじゃん!
いつも仏頂面だったからさぁ…。」と言った。
リリアーナもこんなにも笑えたんだと実感した。
それはネオが自分の感情に正直だからなのかもしれない。思ったことを言う、可笑しいなと思ったらすぐに口に出す。
彼につられて…慣れていないこと…
あんなにも笑ったのは初めてだった。
そういうのも悪くないのかもしれないと思うリリアーナだった。
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