第14話:衝動的な決断
「そんなにペンを握りしめてたら、折れちゃうぞ、政司」
ナツキの声が、僕を一気に現実へと引き戻した。
自分の手元に視線を落とす。確かに、プラスチックが悲鳴をあげるほどの力でボールペンを握りしめており、指先は完全に白くなっていた。
先生がドアをくぐり、第一回義の授業が始まるまで、あとたったの10分だった。
「大丈夫だ」僕は嘘をつき、デスクの木目上にぽんとペンを放り投げた。
「はいはい、そりゃよかった。で、俺はクラス一番の秀才ってわけだ」ナツキは椅子にふんぞり返りながらからかった。「15分間も、まるでモンスターでも飛び出してくるみたいにドアを凝視してる癖にさ」
僕は答えなかった。頭の中が目まぐるしい速度で回転していた。
僕の目は入口のドア枠から離れなかった。一秒一秒を計算し、朱莉が現れる正確な瞬間を待っていたのだ。昨日の我が家の前でのキーホルダーの一件を経て、手をこまねいて指をくわえているのが危険であることは疑いようもなかった。
今日、ただの傍観者でいるつもりは毛頭なかった。
まさにその瞬間、教室のドアが滑るように開いた。
数人のクラスメイトが笑い合いながら入ってきたが、そのすぐ後ろから、落ち着いた足取りで視線を床に向けた朱莉姿を現した。
彼女はバッグを肩にかけ、まるで周囲の世界が全く別の速度で漂っているかのような、彼女特有の穏やかな表情を浮かべていた。敷居をまたぐと同時に彼女の視線がすっと上がり、一秒の迷いもなく僕の目とまっすぐに衝突した。
ナツキが少し僕の机の方へ身を乗り出し、小声で口笛を吹いた。
「おいおい政司……入ってくるなり、またお前を凝視してるぞ。昨日二人で本当に何もなかったのか?」
「黙れ、ナツキ」背中のすべての筋肉が緊張するのを感じながら、僕は低く呟いた。
朱莉は机の間の通路を進んできた。いつものように僕の隣の席へ直接向かう代わりに、彼女は僕の机の真横で足を止めた。
僕のデスクの端に両手を置き、軽く身を乗り出すと、目立たないほどの小さな微笑みを僕に投げかけてきた。
「おはよう、政司くん」僕をじっと見つめながら、甘い声で言った。
ナツキはまるでテニスの試合でも見ているかのように、政司と朱莉の間で激しく首を振って目を丸くした。
政司は動じなかった。微かな緊張の欠片も見せず、その視線を真っ向から受け止めて彼女の目をじっと見つめ返した。
「おはよう」政司は椅子にもたれかかりながら、起伏のないトーンで返した。「何か用か?」
朱莉は引き下がらなかった。遠ざかるどころか、彼女は微かにクスッと笑い、ナツキの呆然とした視線の前で二人の顔の距離をさらに縮めるように、もう少し身を乗り出してきた。
「別に何でもないよ」彼女は口元を少し緩めて囁いた。「ただ、始める前にちゃんと挨拶したかっただけ」
「おいおいおい……」ナツキが必死の小声で割り込んできた。「俺、何か見落としてる? お前ら付き合ってんの? それとも一体何が起きてるわけ?」
「まだだよ」朱莉は即座に答え、ナツキの方を振り返ると、冗談なのか本気なのか読めない完璧な微笑みを向けた。
政司は重いため息をつき、背もたれに深く体を預けた。
「朱莉」
「なぁに、政司くん?」彼女は即座に彼へと意識を戻した。
「君の席は隣だろ。先生がいつ入ってきてもおかしくない」
「知ってるよ」彼女はテーブルを回って彼の隣に腰掛けながら、髪の毛を一筋耳の後ろへと整えた。「でも近くにいたいんだもん。ところで、今日の昼休みは逃がさないからね。私と一緒にご飯食べるの」
それは質問ではなく、絶対の余裕をもってなされた宣言だった。
政司は、彼女が何事もなかったかのようにバッグから本を取り出す様子を、ただ静かに見つめていた。
「君と一緒に食べる?」姿勢を変えずに、片方の眉を跳ね上げて尋ねた。
「うん。何か問題ある?」彼女は無垢そうに首を少し傾げて答えた。
「別に。ただ、昨日の友達がいるんじゃないかと思っただけだ。でもいいよ。君がそこまで言うなら、断りはしない」
ナツキは頭を抱え、信じられないものを見るような目で朱莉と僕を交互に見つめた。
「完全に一章分読み飛ばした気分だわ……」ナツキは諦めたように独りごちた。「分かったよ、今日は一人で昼飯食うってことだな。友情に感謝するぜ、政司」
「昨日、彼女と友達になりたいって言ってたのはお前だろ。喜ぶべきじゃないか」横目で答えた。
ナツキが抗議する前に、教室のドアが勢いよく開いた。先生が力強い足取りで入ってくると、教卓の上にブリーフケースをドスンと落とし、その重い音が教室中に響き渡った。
「全員席について静かにしろ。教科書の42ページを開くように」先生は時間を無駄にすることなく命じた。
教室全体のザワつきが一瞬で消え去った。朱莉は隣の机にノートを広げたが、先生が黒板に向かって背を向けた途端、彼女の肘が僕の腕に軽く触れるのを感じた。
少し視線を動かした。朱莉は指に小さな折られたメモを挟み、横目で僕を見ていた。彼女はそれを僕のデスクの上にすっと滑らせた。
先生の注意を引かないよう前方を向いたまま、机の下で紙を開いた。
『お昼ご飯、口に合うといいな。二人分作ってきたからね』
メモを見つめ、それから彼女を見た。朱莉は完璧な姿勢で黒板を見つめていたが、その唇の端は微かに釣り上がっていた。
(この子、本気で来てるな)、僕は思いながら、メモをズボンのポケットに仕舞い込んだ。
最初の二時間は不気味なほどの静けさの中で過ぎ去った。ついにスピーカーから休憩時間のベルが響き渡ると、ナツキは三秒と経たずに荷物をまとめ始めた。
「じゃ、デート楽しんでくれや。幸運を祈るぜ、政司」ナツキはからかうような笑みを浮かべ、僕の肩をポンと叩くと、教室からロケットのように飛び出していった。
「デートじゃない……」言いかけたが、彼はすでに廊下の彼方へ消えていた。
ゆっくりと立ち上がり、制服を整えた。朱莉の方を向くと、彼女はすでに小さな布袋を手に持ち、立った状態で僕を待っていた。
「行こうか? 屋上に人があんまりいない良い場所を知ってるんだ」彼女は僕のシャツの袖を優しく引っ張り、歩き始めようと促した。
抵抗はしなかった。彼女の指先が袖にかける軽い圧力が歩調を刻むのを感じながら、廊下を案内されるがままに進んだ。重い屋上への扉へと続く階段を上っていく。
ドアを開けると、午後の心地よい風が僕たちの顔を直撃した。反対側の端に二、三人の生徒がいるのを除けば、そこは実質的に誰もいなかった。
朱莉は小屋根の陰にある木製のベンチまで歩いていくと腰を下ろし、隣の空いているスペースをポンポンと叩いた。
「ここに座って」小さな布袋の結び目を解きながら、彼女は言った。
適度な距離を保って隣に腰掛けたが、彼女はパーソナルスペースなど存在しないかのように、お弁当箱を二人の中央に置き、蓋を開けた。そこには完璧に準備された二人分の料理が入っていた。
「二人分持ってきたのか……」弁当箱を見つめ、それから彼女を見た。「つまり、家を出た時からこれを計画してたってことか」
「そうだよ」彼女は当然のように認め、箸を僕に差し出してきた。「今日はあなたがお弁当を持ってきてないって分かってたから」
「なんで分かったんだ?」
「直感」彼女は微笑みを浮かべながら、自分の分に箸を伸ばして答えた。「食べてみて、美味しいか教えて」
箸を受け取り、一口食べてみた。バカみたいに美味しかったが、顔にはあまり出さないようにした。
「美味いよ。でもさ、朱莉。昨日僕たちは三言くらいしか交わしてないのに、今日は何年も前から知り合いだったみたいに振る舞うじゃないか。この急な興味は一体何なんだ?」
朱莉の手の中で箸が止まった。彼女は瞬きもせずに僕の目をまっすぐに見つめ返し、一瞬だけ、その顔から温もりが消え、より深く読み解きにくい何かが浮かび上がった。
「気になってる人の近くにいたいと思っちゃダメかな?」彼女は首を傾げながら呟いた。「それに……あなただって昨日のあなたとは違う人みたいだよ、政司くん。前より疲れて見えるけど、同時に……私が何をしても驚かないみたい」
背筋を微かな寒気が駆け抜けたが、冷ややかな表情を崩さなかった。
「ただサプライズに疲れてるだけだ」もう一口食べながら答えた。「でも、そんな風に僕をまとわりつかせるつもりなら、少なくとも自分が何を求めてるのかはっきりしてくれ」
朱莉は屋上の風に消えていくような小さな笑いを漏らし、僕へと少し寄り添ってきた。
「私が求めてるのはすごく単純だよ、政司くん」僕の目をまっすぐに見つめながら、彼女は囁いた。「あなたがどこまで辿り着くのか見たいの」
僕は数秒間、彼女の視線を受け止めた。
正午の風が彼女の髪を軽く乱したが、朱莉は一ミリたりとも動かなかった。僕の顔に何らかの反応――赤面、躊躇、あるいは動揺の素振りが現れるのを待っていたのだ。
僕はそのどれも与えなかった。
「期待外れで悪いけど、どこにも辿り着くつもりはないよ。言葉遊びで誰かを感心させたいなら、相手を間違えてる」
僕は平淡なトーンで言い切り、箸を容器に戻した。
朱莉はパチパチと瞬きをした。僕の返答を処理するのに一秒を要したようだった。
彼女の唇に浮かんでいた余裕のある微笑みが少し崩れ、純粋な困惑の影が覗いた。
「遊びなんかじゃないよ、政司くん」僕たちの間の距離を少し縮めながら、彼女は呟いた。「本気で言ってるの」
「僕もだ」僕は彼女を正視して答えた。「昼飯は感謝するよ、本当に美味しかった。でも、僕の近くにいるつもりなら、謎解き抜きにしてくれ。自分の人生で起きていることだけで手一杯なんだ。君が何を考えてるのか当てようとする余裕はない」
彼女と出会って以来初めて、朱莉は完全な沈黙に包まれた。
柔らかい笑い声も、気の利いたコメントもなかった。
まるで未知の存在でも見つけようとするかのように、彼女は僕の顔の輪郭一つひとつをじっと分析するように見つめていた。
「本当に変わったね……」僕というより、自分自身に向けて呟くように、彼女はごく低い声で言った。
「ただ時間を無駄にするのをやめただけだ」僕は立ち上がり、ズボンのホコリを払いながら言い返した。「もうすぐ予鈴が鳴る。降りよう」
朱莉はゆっくりとお弁当箱を閉じ、立ち上がった。
その表情は、数分前の悪戯好きな少女のものではなくなっていた。今の彼女は、遥かに真剣で、どこか分析的な好奇心を宿して僕を見つめていた。
「分かった」彼女はバッグに全てを仕舞いながら同意した。「これからは謎解きなしね」
僕たちはどこか違う沈黙を抱えて、教室へと戻った。
それは朝のような気まずい緊張感ではなく、ある種の暗黙の休戦協定だった。
教室のドアをくぐると、ナツキが自分の席から大惨事の兆候を探るように僕を見たが、僕たちが驚くほど穏やかに入ってきたのを見て混乱していた。
席に着き、背もたれに体を預けると、胸の中に不思議な軽さを感じた。
長い時間の中で初めて、単に他人の行動に振り回されるのではなく、自分自身の体感速度で一日を刻んでいるような気がしていた。
午後の授業はあっという間に過ぎ去った。
久しく感じていなかった胸の窮屈さも、一秒一秒を計測しなければならない焦燥感もなかった。
放課後のベルが鳴ると、教室は大急ぎでノートを片付けるいつもの喧騒に包まれた。
「なぁ、政司」ナツキがリュックを背負いながら僕の机に近づいてきた。「屋上で何をしたのかマジで分からないけど、朱莉ちゃん午後ずっとお前から目を離さなかったぞ」
横目で見やると、朱莉は穏やかに荷物をまとめていた。これ以上謎掛けはしないという約束を守っているようだったが、その口元のカーブは、物語がここで終わらないことを物語っていた。
「何もしてないよ」リュックを肩に担ぎながら答えた。「ただ、筋を通しただけだ」
「へいへい、その手くだがうまくいったってわけだ。とにかく、俺は今日まっすぐ帰るわ。また明日な」ナツキは手を振って去っていった。
落ち着いた足取りで教室を出た。中央廊下を渡り出口へ向かうと、夕暮れの心地よい風が再び校庭で僕を迎えてくれた。
だが門をくぐった途端、側壁に背をもたれかけさせている人影を見て、足止めを喰らった。
蓮だった。
彼女は腕を組み、まるで相当な時間待っていたかのように視線を床に落としていた。僕の足音を聞きつけると、顔を上げて僕の目をまっすぐに見つめた。
「遅かったわね」いつもの冷たい声で言った。
「待っててくれてるなんて知らなかったよ」彼女から二メートルほど手前で立ち止まって答えた。
蓮は壁から体を離し、僕を頭から足の先まで品定めた。その鋭い瞳が僕の姿勢を巡り、ここ数日見せていた動揺や疲労を探ろうとしていた。だが、そんなものは一切見つからなかった。
「昨日の惨めな顔はしてないわね」蓮は目を細めてコメントした。「逃げ出そうともしていない」
「昨日は長い一日だったんだ。今日は違う」僕は事もなげに言い、二、三歩前へ進んだ。「一緒に歩くのか? それともただ僕の様子を見に来ただけか?」
蓮は僕のあまりのなめらかな返答に驚き、一瞬沈黙した。それから、目立たないほどの溜息を漏らし、僕の隣に並んだ。
「歩きなさい。あんたのせいで家に帰るのが遅くなるのは嫌よ」
道中は不思議なほど静かだった。蓮は根掘り葉掘り質問してこなかったし、僕も言い訳で沈黙を埋める必要性を感じなかった。
僕の通りの角に着くと、足を止めて別れを告げた。
「じゃあね、蓮先輩」
彼女は向きを変える前に、僕をじっと見つめた。
「調子に乗らないことね、政司。また明日」
彼女が歩道を遠ざかり、角に消えていくのを見送った。クリアになった頭で我が家の門に向き直し、鍵を取り出した。
はるみと話し合い、今日という一日を今度こそ締めくくる時だった。




