第七章 『走るか、今死ぬか、後で死ぬか』
「そんなはずはない……ありえない……なぜだ……? なぜ俺はこんなものを見ているんだ……なぜなんだよ!」
苦痛に耐えかね、彼はその場に膝から崩れ落ちた。
「いやだ……いやだ……どうして……? 俺が何をしたっていうんだ!」
絶望に歪んだ顔は、やがて激しい怒りへと変わり、瞳が涙で熱く滲んだ。
「お前たちのせいだ……」
モルテムは唸り声を上げ、赤く充血した目で、海に広がる血の帯を睨みつけた。そこでは、まだ小さな捕食者たちの影が渦を巻いていた。
(殺してやる……全員、皆殺しにしてやる……だが、今の俺には何もできない。ただ生きたまま食われるだけだ。今度こそ、骨の髄までな)
荒い息を吐きながら、彼は思考を巡らせた。
(ただ……退くしかないのか。逃げるのか……?)
戦士は、崖から海岸へと続く血塗られた道の中央で、膝をついていた。首を巡らせると、そこにはプリム・クィスの姿があった。槍を杖代わりにし、モルテムは最初の一歩を踏み出した。歩踏み出すたびに走る激痛をねじ伏せ、鋭利な礫で両の踵を肉塊へと変えながらも、男はただひたすらに前だけを見据え、歩みを進め続けた。
(俺が逃げるのは、生き延びるためじゃない。遅かれ早かれ……いや、遠くないうちに、俺はここで死ぬだろう。俺が逃げるのは、今ここで死なないためだ。俺の死が、ただの餌になるよりも価値のあるものになる時まで。お前のように……プリム・クィス)
モルテムは、腹と首をカニに食い荒らされている足のない死体に近づきながら、そう考えた。
「ふぅ……雑魚どもが少しと、食い扶持が少し、か……」
荒い息を整え、痛みに顔を歪めながら、モルテムはゆっくりとカニに手を伸ばした。彼は一匹ずつ、カニを槍の穂先に突き刺していった。三匹すべてが、甲高い鳴き声を上げ、抵抗しながらも、一本の槍の柄に収まった。
「獲物が劇的に増えたわけじゃないが、悪くはないな」モルテムは両手の汚れを払い、意識を失ったプリム・クィスに視線を落とした。
(費やした労力を考えれば、収穫は少ない。だが、食われる側になる代わりに、共に食事を分け合える相手に出会えた。戦士はそう考えた)戦士はそう考えた。獲物を突き刺した槍を杖代わりにし、空いた手でプリム・クィスのぐったりとした体を抱え上げると、足を引きずりながら岸辺を離れ、ジャングルの奥へと向かった。
「悪いな、プリム・クィス。お前を引きずって歩くのは御免だ。足がボロボロになるからな。クソッ、お前はどっちを指差してたんだ?」モルテムは、道連れの沈黙に頓着することなく、そいつが指先で指し示していた方角を脳裏に呼び起こしながら、ひたすら言葉を掛け続けた。
空は暗い赤色に染まり始めていた。白い陽光は、依然としてジャングルの梢の向こうで鈍く光っている。プリム・クィスはモルテムの肩に担がれ、時折木の枝にぶつかっていた。骨盤の断面からの出血は止まり、肉は極めてゆっくりではあるが、再生を続けていた。
「どんどん暗くなっていくな……。お前を運ぶのも、このカニを運ぶのも、もうくたびれたよ」モルテムは周囲を見回し、野営地を探した。枝ぶりの良い木や、茂みや蟻塚のない地面を探して目を凝らす。「いや、ここじゃない……。……ここならいいか」
モルテムは、未だ息を吹き返さないプリム・クィスの体を木の根元に横たえると、その傍らに自分の槍を突き立て、カニたちに「見張り」を命じた。手が空くと、彼は辺りに落ちている乾いた枝や石、木の皮、垂れ下がった蔓を集め始めた。作業を終えると、彼は木の皮の内側を上にして置き、槍の穂先でくぼみを作った。そのくぼみに、あらかじめ石の破片で尖らせておいた太めの棒を差し込んだ。
(これで、弓を使って火を起こさなければ……)
モルテムは蔓と枝で即席の弓を作り、不安げにそう考えた。
彼は火起こしに取り掛かった。片足で木の皮を地面に押さえつけ、空いた方の手で平らな石を使い、垂直に立てた棒を上から押し付ける。そしてもう一方の手で、蔓を弦のように張った弓をリズミカルに回転させた。数秒後、煙が立ち上ったが、炎の代わりに現れたのは黒く燻る木屑だけだった。彼は何度も最初からやり直した。煙は増していくが、火花は一向に散らない。
「頼む。頼む。もっと速く……」
モルテムの手はすでに震えていた。彼は何度も空を見上げた。夜の訪れが迫っていることを告げる空だった。
やがて、燻りが始まった。モルテムは慎重に、黒い木屑と小さな炭の粒を、あらかじめ用意しておいた火口へと移した。彼は火種を大切に吹き続け、ついに炎が燃え上がった。火が安定すると、戦士はまず小さな木片を、続いてより大きな枝をくべていった。
「燃えろ、燃えろ、消えるなよ」
漆黒の闇が広がる中、モルテムは焚き火を絶やさぬよう囁きながら、火をくべ続けた。
唯一の光源がより確かになると、モルテムはプリム・クィスのもとへ近づいた三匹のカニを自分の手元へ回収し、それからその身体の不自由な男を火のそばへと引き寄せた。その後、戦士は獲物の内臓を取り出し、肉片を枝に突き刺し、炎で焼き始めた。
「どうやら……お前は手足のことで嘘は言っていなかったようだな」 モルテムは静かに呟き、言葉の合間に串刺しの肉を火の上でひっくり返した。「おそらく、この世界では誰もが肉体を再生できるのだろう」
彼は、プリム・クィスの癒えた傷跡――カニに食い荒らされた跡と、ゆっくりと生え戻りつつある手足の切断面――をじっと見つめていた。
「だが、お前の体が全部元に戻ったら、また野蛮人や獣、そして……悪魔たちの餌になるだけだ。奴らに食われるより、お前が奴らを食うために生き延びたほうがいいんじゃないか?」
(その方がいい)
モルテムは自分自身にそう答え、焼けた蟹の肉を頬張った。周囲には墓場のような静寂が広がり、時折、焚き火が枝を爆ぜさせる音だけが響いていた。炎を見つめれば見つめるほど、その揺らめきの中に、自身の記憶が鮮明に浮かび上がってくる。あの二人の野蛮人が、自分を生きたまま焼こうとしていた光景が。
「彼らも同じことをした。そのほうが彼らにとっても良いことだろう。彼らは食べたいと思って、獲物を捕まえて、食事をした。彼らには具体的な欲求があり、それを満たした。人間は私たちと同じだ…」モルテムは数秒その思索を巡らせ、それから胸中で続けた。「ならば、俺がまさに奴らを食べたいと思う時、奴らも俺を理解できるはずだ。もし理解できないのなら、獲物を責めても始まらない」
焚き火からプリム・クィスへと視線を転じたその瞬間、彼の身体に長大な蛇が巻き付き、その首筋に牙を突き立てるのが見えた。
「ったく、一体何だってんだ……」
モーテムは疲れたように、そして気だるそうに言い、手に槍を持って立ち上がった。
プリム・クイスから蛇を引き剥がすと、モーテムは的確な動きで蛇を攻撃し、その頭部に傷を負わせた。周囲を見渡すと、木の根元から灰色とオレンジ色が混ざった粘液が這い出し、ゆっくりと焚き火の方へ近づいてくるのが見えた。戦士はその光景に驚き、槍を構えたまま、ゆっくりとした足取りでその正体へと歩み寄った。
「お前は……一体何者だ?」 困惑を隠せぬまま、彼はその不定形の怪異に問いかけた。
問いに応じることなく、それはすでに焚き火の傍らまで迫っていた。モルテムはそれを突き刺したが、その肉体は穂先をすり抜けて瞬時に復元していく。ついには火の中に侵入したものの、熱を苦にする様子は一切なく、燃え盛る火力を貪り喰ってその身を膨張させていった。その内側から文字通り光が溢れ出し、戦士が再び武器を突き立てた時には、その鋭利な穂先はすでに微かに焼け焦げていた。
「生きている! 炎の! 水だ! 俺はこれ(彼女)をどうすればいい!?こいつは火を食べた、もしかしたら消火できるか?いや……違う、こいつは水からできている……掬うんだ、何かで掬い取るんだ……掬うものがない――」モルテムは粘液に槍を向けながら、プリム・クィスの方へ背中で下がっていく間、そのように分析していた。「木の上にプリム・クィスは登ることができない……」
以前は灰色の水溜まりだったものが橙色になり、すでに大きさは膝より少し上になってモルテムに近づいていた。後者は再びモンスターを槍で突き刺すことにしたが、今回は穂先ではなく、柄の基部で突き刺した。数秒の後、生存者は自分の武器を抜いたが、それは松明のように燃えていた。
「お前、火が好きなんだろ?」 モルテムは燃える柄を振るい、周囲の這い蔓や草むらに次々と火を放ち始めた。
ゆっくりと、周囲の植生が燃え始め、それと同時に、さまざまな木の樹皮から、さらに多くの灰橙色のスライムたちが這い出てきた。それらは一様に、新しく生まれた光源へと引き寄せられていく。モルテムは、モンスターたちが皆気を取られたのを見て、プリム・クィスを拾い上げ、燃える槍に寄りかかりながら、彼を背中に背負って連れ去った。
「長い夜になりそうだ……」 草木に燃え移る炎を貪り喰う個体と、なおも二つの獲物を執拗に追い続ける個体――そんなかつての仇敵たちを背後に残し、モルテムは暗闇の深淵へと消えていった。
「願わくば……お前が自分の指で指し示したのが、偶然の場所でないことを。俺たちの出会いが、たった三匹のカニだけの価値で終わらないことを。願わくば……俺が遠くまで逃げ切れることを」




