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第四章 『幸せな悪夢、あるいは恐ろしい眠り』

「ああああああああ!」男は恐怖で顔面蒼白になり、叫んだ。


 生存者は大きな木の枝の上で、弾かれたように目を覚ました。彼は手足で枝にしがみつき、歯を食いしばって樹皮に深く食い込ませながら、狂ったように叫び続けた。額には青筋が浮かび、爪は木肌をひっかき、筋肉は極限まで張り詰めていた。男の脳裏には、白昼夢のような光景が蘇っていた。黒い鱗と黄色い瞳を持つ巨大な爬虫類たちが、自分を生きたまま貪り食う姿だ。あの時、噛みつかれるたびに感じた激痛を鮮明に覚えており、その幻影のような悪夢が、一瞬にして今この瞬間に引き戻された。


 四肢が引きちぎられる痛み。内臓が食い荒らされる痛み。死の必然がもたらす痛み。それらすべてが生存者を忘却の淵から引きずり出し、後にはただ、耐え難い苦悶とパニックに近い恐怖、そして紛れもない現実の苦痛だけが残された。


「いつだ?! いつだったんだ、それは?!」記憶の濁流が次々と新たな幻影を脳裏に投げつける中、生存者は狂ったように巨木の枝へ 喰らいつき、 その木肌に向かって 絶叫した。


 男の脳裏に蘇るのは、無数の黄色い熱帯の蔓がその肉体を容赦なく締め上げ、粘着質な顎で鮮血を啜り尽くしていた光景。あるいは、巨蜥蜴との死闘の果てに、己の首骨が砕かれ果てたあの最期の瞬間だった。


(武器は……俺の長槍はどこだ?!)


 生存者は木肌への咀嚼を止め、荒い呼吸を繰り返しながら、焦燥に駆られて頭(かぶり)を激しく振った。視線を彷徨わせたその刹那、男は頭上――より細い枝葉の隙間に、頑強に隠されるように収まった得物を無事に発見した。


 徐々に落ち着きを取り戻し、荒い息を整えながら、生存者はまず自分の姿を確認した。それから、猛獣や蔦(つた)に噛まれた箇所が幻痛で熱く焼けるように感じられ、彼は焦燥に駆られた手つきで全身をまさぐり始めた。視界の届かない場所まで掌で丹念に探ってみたが、新たな傷は見当たらなかった。胸元には、治癒した貫通傷が醜く黒ずんで残り、背中や脚には小石による古い切り傷が刻まれている。前腕から手にかけては、赤黒い肉を覆うようにして、でこぼことした新しい皮膚が不格好に盛り上がり、硬い結び目となって組織を締め付けていた。


「どうやら……俺はまた回復したようだ。」


 ――蛮族の野営地から逃げ出し、その後、獣に届かないように木の上へと避難し、槍を脇に置いて夜を越したことは、はっきりと覚えている。巨大な蜥蜴に、吸血の蔓……いつ、そんな奴らと出会ったんだ?


 枝に腰掛け、両脚をぶら下げ、顔を手のひらで覆いながら、思考を整理しようとする。


 ――もしかすると、死ぬたびに記憶の一部を失っていて、傷はただ塞がるだけで、痕跡すら残らないのではないか。そうだ。おそらく、そういうことなんだろう。


 その考えが形を成すと同時に、腹の虫が激しく鳴った。続いて喉の渇きも主張を始め、男は羊皮紙のように乾いた唇を舐めた。生存者はバランスを取りながら慎重に枝の上で立ち上がり、隠しておいた槍を手に取った。周囲には相変わらず黄色い蔓(つる)が垂れ下がっている。恐ろしい幻視の中で得た経験を思い出し、男は武器の穂先を蔓の間に慎重に差し込んだ。柄の先に重みを感じ、引き寄せると、そこには獲物が張り付いていた。しかし、間近でその蔓を観察し、小さな顎があることに気づいた瞬間、寄生生物の忌まわしい味が幻のように蘇り、舌の先に一瞬、嫌悪感が走った。男は獲物を抱えたまま地上に降りると、槍から蔓を振り落とし、正確な一撃でその頭を切り落とした。その後、近くの茂みから大きな葉を数枚摘み取り、死んだ寄生生物の体と組み合わせて、初めての腰布を作り上げた。


 新しい装いに見惚れる間もなく、再び腹が鳴った。生存者が岸の方へ目を向けると、鋭い砂利の上を裸足で歩いた痛々しい記憶が蘇った。迷うことなく、男は槍を手に再び蔓を捕らえる技を繰り出したが、今回は寄生生物だけを選んだわけではなかった。普通の蔓は食肉性のものよりずっと細く脆いが、どこにでも生えている。そのため、何本も束ねて編み込み、より太く丈夫な縄を作る必要があった。さらに多くの葉を集め、丈夫な枝と硬い樹皮を骨組みと靴底に利用して、彼は初めての靴を完成させた。


 まるで目覚まし時計に合わせるかのように、海の方へ数歩踏み出した途端、腹の虫がまた鳴り出した。周囲には、足元で枝や草が折れる音、鳥のさえずり、そして蛇の這う音が響いている。ジャングルの喧騒は増していくばかりだったが、それは男の意識の中でのことだった。彼の目は、何かに怯えるようにせわしなく周囲を彷徨っている。歩調は次第に速まり、やがて駆け足へと変わった。呼吸は荒くなり、槍の柄を握る手には自然と力がこもる。海の水平線が見える開けた場所が近づくにつれ、視界は広がり、それと同時に男の被害妄想も膨れ上がっていった。


 生存者がついにその「窓」を抜け、砂利浜に足を踏み入れた瞬間、水面の眩い反射光が彼を襲った。次の瞬間、あたりには耳をつんざくような静寂が訪れた。その静けさを破るのは、足元の石が擦れる微かな音だけだった。男は慣れない足取りで、慎重に海へと歩を進める。落ち着きを取り戻す前に、彼は岩場の両側を注意深く見渡した。巨大な岩の影に誰もいないことを確認すると、彼は再び前へと歩き出した。


 海辺へと足を進め、男は身をかがめ、水をすくおうと両手を盥のように重ねた。


(何を期待していたんだ……この呪われた地に、慈悲などありはしない。こんなにも多くの水が目の前にあるというのに、そのすべてが吐き気を催す毒へと変わっている。)


 水は変わらず塩辛く、舌や口蓋をはっきりと焼いた。咳をしながら、男は地平の彼方へと続く果てしない暗緑色の海を、困惑したように見つめた。その光景を言葉にする術を、彼の思考は見つけられなかった。

 海の苦い味が、一瞬にして彼を地獄の循環へと引き戻した。息苦しいほどの繭の闇。目を蝕む塩と、剥がれ落ちる青白い皮膚。肺の痙攣、そして届かぬ岸辺での、またひとつの死。


 ――うーん…ここでは何も獲れないな。と猟師は思ったが、濁った水底には一匹の魚も見当たらなかった。


 彼は陸へ上がろうと身を翻したが、一歩踏み出したその瞬間、足元から猛烈な攻撃を受けた。鋭い痛みが瞬時に暗い記憶を霧散させ、戦士の意識は現実へと引き戻された。最初の一口で喉の渇きを癒やすことに失敗した生存者は、ただ小石の下に潜んでいた蟹を踏みつけてしまっただけだった。その怪物は、強力な鋏で踵の腱に食らいつき、決して離そうとはしなかった。


 膝まで水に浸かったまま、男は槍を海底に突き立てた。両手を自由にし、身を屈めると、反射的に、何も考える間もなく、その節足動物の鋏をこじ開けようとした。敵は大型だったが、膝より下の水中に隠れていた。泥のような灰色をしたその体は周囲の石に完璧に溶け込んでおり、深緑色の海がその存在をさらに隠蔽していた。


 ――なんでだよ?! こんなに運が悪いのかよ! 生存者は歯を食いしばり、憤慨した。


 数秒もあれば、そんな生き物の拘束を素手でねじ伏せられないことが分かった。


 ――馬鹿だな……最初から槍を使うべきだった!


 冷静さを失わない男は、再び両手で武器を握り直し、敵に向かって激しく上段から攻撃を繰り出した。しかし、相手の甲羅はあまりに硬く、数度の打撃もほとんど効果をなさなかった。カニはさらに力を込め、男の腱を切り裂いた。そのせいで男はバランスを崩し始める。生存者は高まる痛みを無視し、槍の柄を杖代わりにして岸へと退却を始めた。敵は無数の脚で海底を深く掘り起こしながら、その動きに力強く抵抗する。


 水深が浅くなり、視界が開けた瞬間、男は再び槍を振り上げた。――今度こそ!


 最初の一突きで、生存者はカニのハサミと胴体の間にある前脚を真っ二つにへし折った。カニの締め付けが緩む。獲物が逃げようとしたその時、狩人は負傷した足で鋭く踏み込み、自らの体重をかけてそれを砂利に押さえつけた。


「痛かったぞ……クソ野郎。」


 生存者は槍を海底に突き立て、穂先を天に向けた。そして、必死に逃げようともがく獲物へと身を乗り出した。両手で獲物を掴み上げると、腕を伸ばして目の前に掲げる。自由になった足に体重をかけようとしたが、以前のようにしっかりと踏ん張ることはもはや不可能だった。負った傷のせいで、わずかな圧力にも激痛が走り、開いた傷口に海水が染みて焼けつくような痛みが襲う。血は赤い筋となって、周囲の海に広がっていった。


 自身の置かれた脆弱な状況を悟った戦士は、静かに視線を下から上へと移した。傷ついた踵から槍の柄を辿り、ゆっくりと獲物を見つめる。彼は慎重にカニを頭上高く掲げると、そのまま槍の穂先めがけて力任せに叩きつけた。硬い甲羅とは対照的に、怪物の腹部は柔らかく無防備だった。刃は容易く肉を貫く。串刺しにされたカニは甲高い音を立てて痙攣した。男はさらに力を込めて押し付け、刃がより深く肉を裂くようにと、槍をねじり回した。だが、その命の抵抗もわずか数秒のことだった。


 海の怪物が動かなくなると、生存者は安堵の息を漏らした。傷ついた踵の刺すような痛みに顔をしかめながら、彼は獲物の刺さった槍を海底から引き抜いた。そして、槍を杖代わりにして、岸辺へと歩みを進めた。


「見事な獲物だ。初めてにしては、上出来じゃないか?」岩陰から、そんなお世辞めいた声が響いた。「俺は正しいか?」

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