Stage1-? 名前を失う日。
今回の話は、メインストーリーとは少し離れた、一条玲の過去を描くエピソードです。
実は僕自身、過去編を書くのはあまり得意ではなく、「本編のテンポを止めてしまうのでは」と少し迷いもありました。
それでも、玲という主人公をより深く知っていただくために、必要な物語だと思い筆を取りました。
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。
よろしければ、玲の過去にも少しだけお付き合いいただけると嬉しいです。
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時はEDENプログラムが始まる半年前に遡る。
9月に入り、そろそろ夏も終わろうという頃、
東京駅の改札前。
一人の少年が、家族のような人たちに見送られていた。
高校一年生の僕、影原玲は日向家のみんなに見送られていた。
「玲ちゃん、行っちゃ嫌だ……」
腕にしがみつく少女。
日向 遥
幼い頃から妹のように接してきた女の子だ。
遥の隣には優が立っていた。
小さい頃からずっと一緒だった親友。
その様子を見守っている、ハルちゃんと優の両親である日向夫妻。
「ハル…玲が困ってるよ。」
優がハルちゃんを優しく諭す。
「…」
ハルちゃんは動かないままだ。
「二度と会えなくなるわけじゃ無い、すぐまた会えるよ…。」
僕の言葉を聞きハルちゃんが顔を上げる。
「本当に、本当にまた会えるよね!?」
泣きじゃくりながらの問いに僕は無言で頷く。
その頷きを見て、彼女の腕から僕は解放された。
「じゃあ、そろそろ新幹線の時間だから…」
駅の時計を確認しつつ日向夫妻に語りかける。
「辛くなったらいつでもウチにおいで。」
「玲ちゃんは家族みたいなものなんだから…」
優とハルちゃんの父親である博樹さん、母親である和美さんが口々に言う。
その言葉に会釈しつつ、優に話しかける。
「次に会うのは――楽園かな。」
「そうなるのかな……」
「なんか変な感じだ。明日から玲がいないなんてさ。」
「そうだね……」
それ以上、言葉が続かなかった。
優も、僕も。
今この瞬間が終わってしまうことを分かっていたから。
「じゃあ、もう行くね。」
僕の言葉を聞き、ハルちゃんの泣き声が大きくなる…
「健康に気をつけるんだよ」
「いつでも帰ってきなさい…」
「風邪ひかないように…」
「バイバイ……」
振り返ると、
ハルちゃんは泣きながら小さく手を振っていた。
日向家からの別れの言葉を背に、改札を抜ける。
長く過ごした土地を離れ、1人親戚の待つ京都へ…
一人になった車内で、
僕は窓に映る自分の顔を見る。
京都での新しい生活。
半年後に始まるという『楽園』。
そして、その先に待つ未来。
その時の僕はまだ知らなかった。
この別れが、
すべての始まりだったことを。
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新幹線を降り、京都駅の改札口を出ると、
事前に伝えられてていた通り、
駅のロータリーへ向かう。
すると執事という言葉がぴったりの、いかにも品の良さそうなお爺さんが僕を待っていた。
「お待ちしておりました、玲おぼっちゃま。」
深くお辞儀をしながら、お爺さんが言う。
「おぼっちゃまはやめて下さい。僕はただの高校生です。」
お辞儀しているお爺さんを冷めた目で見ながら、僕は答えた。
「大奥様がお待ちです、ご自宅へ向かいましょう。」
黒くていかにも高級そうな車(こういうのをリムジンっていうのか?)の後部座席の扉を開け、僕が乗り込むように促す。
「ありがとう、ございます…」
なんとも言えない居心地の悪さの中、新しい我が家へ向かう車に乗り込む。
なぜ今、僕がこんな状況にいるのか。
その全ては、半年前に母が亡くなったことから始まった。
僕が幼い頃、父は病気でこの世を去った。
母はそれからずっと、一人で僕を育ててくれた。
だが半年前、その母も交通事故で帰らぬ人となった。
そして、身寄りのない僕に声をかけてきたのが、母の実家である一条家だった。
一条家にはすでに二人の孫がいる。だが、どちらも女の子。
男系思想の強い祖母が目を付けたのが、身寄りを失った僕だった。
「おぼっちゃま、到着しました。」
(でかっ……)
車から降り、門をくぐった先には、旅館どころか寺院と見間違えそうな木造の屋敷が広がっていた。
その大きさに圧倒されていると、建物の中から出て来たメイドさん(こういう建物の場合でもメイドさんでいいんだっけ?)に声をかけられた。
「おかえりなさいませ、玲おぼっちゃま。
今日からお世話をさせていただく、松林と申します。」
(増えた……)
京都に来てから二人目だ。
声の主は四十代ほどの女性だった。
落ち着いた物腰と隙のない立ち居振る舞いから、長年この家に仕えているのだろうと分かる。
「初めまして、影原 玲です。よろしくお願いします。」
僕が挨拶を返す。
「…」
「まぁまぁ、とても可愛らしい男の子ですこと。
さあ中へお入りください。大奥様がお待ちですよ。」
松林さんに案内され、屋敷の奥へ進む。
大奥様――そう呼ばれる僕の祖母とは、一度も会ったことがなかった。
母と祖母は仲が悪く、母が家を出てから影原家と一条家の関係は途絶えていたからだ。
「つきましたよ。大奥様の部屋です。」
松林さんに促され、着いたのはいかにもという感じの大きな扉の前。
ひと呼吸おいて、ノックを3回する。
「どうぞ」
部屋の中からの許可の声を聞き、扉を開ける。
部屋の中央に、一人の女性が座っていた。
白髪交じりの髪を綺麗にまとめた和装の女性。
ただ座っているだけなのに、部屋の空気そのものを支配しているような威圧感があった。
(この人がかの一条グループの代表、一条栄か……)
声をかけるだけなのに妙な緊張感があった。
「初めまして、影原玲です」
僕の挨拶を聞いた後、頭の先からつま先まで僕を一瞥した後、栄さんが口を開いた。
「初めまして、ようこそお越しくださいました。
一条 栄です。今日から私達は家族になります。よろしくお願いします。」
「それと、一つ訂正があります。今日からあなたは一条家の人間です。なのであなたはもう影原ではありません。」
突然告げられた言葉に、僕は唖然とした。
16年名乗っていた苗字を突然名乗れなくなる。
この事実に少なからずショックを受けたからだ。
「…」
僕が黙り込んでいると
「急に苗字を変えろと言われても困るでしょう。
しかし、あなたは一条家の跡取りとなるのです。少しずつでもいいから慣れなさい。」
「…」
「ところで、あなたは高校1年生でしたね。
来年はEDENプログラムの受験者になるのでしたら、一条家の人間として好成績を納めなければなりません。
これから日替わりで家庭教師を付けます、心技体全て鍛えた状態でプログラムを受講しなさい。」
その日から様々な家庭教師が付き、翌日から僕の生活は一変した。
朝は武道。昼は学校。夜は家庭教師。
勉強だけではない。格闘技、心理学、帝王学。
一条家の跡取りとして必要だと判断されたものは、容赦なく僕に叩き込まれた。
身体的・精神的に辛かったが、なんとか喰らいつくことができた。
東京でのみんなとの思い出だけが、僕の支えだった。
それに、試験を受ける前に知識を蓄えておくことは僕自身にとっても無駄ではなかった。
そして半年後。
全ての指導を乗り越えた僕は、楽園への挑戦に臨んだ。
その先に待つものが、希望か絶望かも知らないまま。
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辛い夜にはよく夢で見る…
僕の遠い過去の記憶…
「初めまして、ぼく、かげはら れい、きみの名前をおしえて!」
「よろしくお願いします。レイ、私の名前はアリア」
この話をもちまして、第一章 「Alice in EDEN」編 は完結となります。
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。
次章からはいよいよ第二章。玲たちのEDEN攻略も本格的に始まり、物語はさらに大きく動いていきます。
この先も『Paradise Eclipse 』を楽しんでいただけるよう、一話一話心を込めて執筆していきますので、これからもお付き合いいただけると嬉しいです。
また、よろしければブックマークや評価、コメントなどをいただけますと今後の執筆の大きな励みになります。
引き続き、『Paradise Eclipse』をよろしくお願いいたします。




