Stage1-5 楽園の反転。
Floor 1 Area Name : Alice in…のボスを撃破した僕たちは、
ボス部屋で座り込んで、頭上に響き渡るクリアのファンファーレを聴いていた。
時刻は4月10日23時53分
「なんとか勝てたね…」
優が心底ほっとした声でつぶやく。
「細川君の一回目の叫びが通じなかったときは、もうだめかと思った。」
聡が目を閉じながらボス戦を振り返る。
「これがあと11回あんのか?やべーな(笑)」
樹はこの先に待ち受けるボスをイメージして言うが、こころなしか楽しそうである。
「今回は合田君を助けるために、最速でボス部屋を目指したけど――」
(……待てよ)
(今、僕なんて言った?)
「「「「合田君!」」」」
4人全員で声を上げる。
「やっべー忘れてた!」樹が大声を出す。
「この部屋にいた?探さないと!」と僕
「ていうか細川君もいない?!」
優が周囲を見渡しながら言う。
「みなさ~~ん!」
嬉しそうな声が聞こえ、振り返ると細川君がこちらに向かって走ってきている。
そしてその後ろには…
「「「「合田君!!!!」」」」
「合田君!無事でよかった!」優が合田君に駆け寄る。
「細川から話は聞いた、手間かけさせたな、みんなすまねぇ。」
合田君の第一声は深い謝罪だった。
「いや、無事でよかったよ」と樹
「うむ、第一声が深い謝罪ならヨシ!」ぼくがうんうん言いながら答える。
「玲は本当に素直じゃないな(笑)」
優に笑われてしまった。
合田君から話を聞くと、例のごとく武器を奪われてボスから逃げ回っていたところ
僕らが扉を開けたため、その瞬間にボス部屋の外に飛び出したそうだ。
合田君の話を一通り聞き終えたのち、ずっと疑問に思っていたことを聞いてみる。
「そういえば、合田君に猫の情報を教えてきた人ってどんな人物だった?」
「あんまりよく覚えてねぇんだが…
騙された俺が言うのもなんだが、すげー爽やかな奴だった。
話し方も落ち着いててな。今思うと、初対面の俺を一瞬で信頼させるくらいに口もうまかった。」
「合田が流されやすいだけなんじゃね?」
樹が横から口をはさむ。
「いや、本当に面目無い。今回のことで理解した、俺このプログラム向いてないわ…これからは身の丈に合った攻略をする。」
合田君は今回の件で深く反省したようだ。
「細川君はこれからどうするの?」
細川君のこれからの動向が気になったのか、優が尋ねる。
「僕も、合田君と一緒に自分のペースでこの試験を進めて行こうと思います…」
「そっか」
優が笑顔で答える。
合田君も無事だった。
これでようやく、本当に第一フロア攻略が終わった気がした。
「おう、兄ちゃん達!やったな!」
桜木に肩をたたかれた。
「桜木、よく戦線を維持してくれた、あれがなかったら全滅してたよ…」
「なーに、気にすんなって!それよかお前一条 玲って名前なんだってな?」
(やっべーーー、偽名使ってたの忘れてた!どうやって誤魔化そう…)
「まあ、あんな大人数の前で名前を尋ねた俺もわりぃ!今回はお互い水に流そうや!」
桜木、昭和のヤンキーみたいな見た目をしてるけど、気持ちのいいやつだな…。
「ごめんね、ありがとう。」
桜木の態度に、なぜか僕も素直に謝ることができた。
「そや、兄ちゃん達!今回のボス撃破の報酬見たか?がっぽり入ってるで!」
そういえばまだ確認してなかった。
確かにこれだけ頑張ったんだ、ご褒美ちょうだいよ~~っと
システム画面を開こうとしたその時、不穏なアラームが鳴り響く
「なんのアラームだ?」
「な、なんや急に?」
突然の警報に、ボス部屋にいる全員がざわつきだした。
そして目の前に開かれるNOTICE画面
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■ SYSTEM NOTICE
プレイヤーの皆様へ
Floor 1 の攻略、お疲れ様でした。
これをもって、EDENプログラムは
管理者権限の再定義を実行します。
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■ NEW ADMINISTRATOR
:NOA
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管理権限の移譲に伴い、
プログラムは再構築されます。
旧名称:
Enlightenment and Development for a New Era
新名称:
Education for the Descent of Evolving Nihility
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階層構造は再編されます。
旧構造:12 floors
新構造:40 floors
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※注意事項
・これより先の脱落は、現実世界における「自己同一性の消失」を意味します。
・本試験中の行動は全て受験者本人の責任となります
・受験者同士の戦闘行為は制限されていません
・試験中に発生した損害について、運営は責任を負いません
以降の行動は慎重に選択してください。
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(受験者同士の戦闘行為は制限されていません……?)
(つまりPK可能ってこと?)
(この先はプレイヤー同士のトラブルも増えるだろうな)
(それよりも――)
(自己同一性の消失?)
(なんだその表現……)
体中の熱が引いていくのが分かる。
あの日――ログインした直後、指先が冷たくなったのと同じ感覚だった。
あの時は「考えすぎだ」と、自分に言い聞かせられた。
でも今は――そう思い込むことすら、できない…。
「は?いきなりなんだよ?ふざけてんのか?」
樹が叫ぶ。
その声に我を取り戻し、大声で叫ぶ。
「全員、ログアウト!急いで!」
部屋中に届くようにそう叫び、自分のウィンドウを確認する。
(ログアウトボタンが無くなってる…)
「ログアウトできない…」
ログアウトボタンが無いことに気が付いた聡がつぶやく。
「嘘、冗談だよね?」
優がつぶやく。
そして事態を把握したプレイヤー達が、一斉に騒ぎ出す。
「おい、今の見たかよ!?」
「ログアウトできないってどういうことだよ!」
「冗談だろ、これゲームだろ!?」
声は重なり、広がり、ぶつかり合う。だが誰の言葉も、誰かに届いていない。
まるで会話という形を保ったまま、ただ恐怖だけが増幅していくようだった。
「外に出ろ!外に!」と叫ぶ声に、
誰かが「どこにだよ!」と返す。
その瞬間にはもう、返答した相手の顔が見失われている。
ただ、焦りだけが連鎖していく。
システムウィンドーを凝視すると日付が変わり4月11日になった。
その時だった。まるで今日という魔法が溶けたように、残酷な現実を突きつける更なるアラーム…
そして、新たなポップアップが開いた。
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SYSTEM NOTICE
受験者総数
215,389
有効受験者数
191,534
不適合者数
23855
ーーーーーーーーーー
(不適合者だって!?)
そのウィンドウに記載されている数字が、
さっきのポップアップが冗談ではないことを証明していた……。
『新時代のための啓蒙と成長』だったEDENは、
『進化する虚無へ堕ちるための教育』へと書き換えられていた。
まるで――楽園そのものが、裏返ったように。
ボス部屋にいた、どこの誰かも分からないプレイヤーが叫ぶ。
「俺、俺知ってる!!
俺の一個上の兄貴が適性試験から帰ってきた時、人が変わったように優しくなったんだ!!
親も先生もそのことを喜んでたけど、今なら分かる。
兄貴は性格を矯正されてたんだ!
俺は、俺は嫌だぞ……消えたくない……!」
(もしその話が本当なら……HPが0になった瞬間、自分が消える…
死ぬんじゃない。"自分"が、書き換えられる!!)
叫び声は一人で終わらなかった。
「帰してくれ!」
「誰か助けて!」
「こんなの試験じゃない!」
あちこちで怒号が飛び交う。
泣き崩れる者。
呆然と立ち尽くす者。
仲間の肩を必死に揺さぶる者。
恐怖は伝染する。
一人の悲鳴が二人になり、
二人が十人になり、
気づけばボス部屋全体が絶望に飲み込まれていた。
「……最初から教育プログラムなんかじゃなかったんだ。」
聡が、言葉を落とすようにつぶやく。
「40層だって?
遠すぎる……無理だろ、これ。
まじ意味わかんねぇ……!」
樹の声からは、いつもの軽さは消えていた。
その言葉に、誰も返事をしない。
そして優が、少し遅れて視線を落とす。
「……楽園なんて初めから無かったんだ…」
第2章へ続く…




