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Paradise Sixth ―楽園適性試験―   作者: 針々
第四章

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28/28

Stage4-4 攻略の火種。


「この森の奥にリンゴの群生地があるわ、

 そこに行ってきて、採ってきて。」


白雪姫NPCが指さす先には、薄暗い闇が広がっている。


「あの~、リンゴを採りに行くのはいいんですけど、

 護衛はどうすればいいんですか?」


「それなら心配無用です。

 私は村に戻っているので。」


「………」

白雪姫からの突然の依頼に、思わず顔を見合わせる僕達。


「なるべく早めに頼みます。」

白雪姫は喋ってみると、存外高飛車だった。

丁寧な口調こそ崩していないが、その声音にはこちらを気遣う色があまりない。


(こいつの護衛、やめてやろうかな……)


彼女のプレイヤーを見下すようなその態度は、どこかの猫NPCを思い出させた。


「ふふっ」

懐かしい気分になり、少しだけ笑ってしまう。


「分かりました、今すぐ取ってきます。」

NPCの言いなりになるのは癪だが、

少しだけ懐かしい気分にさせてもらったので

今回は白雪姫のお願いを聞くことにした。


僕の返事を聞いた白雪姫は、マップを出すように言う。

その指示通り、アイテムボックスからマップを取り出し、

彼女に渡す。


彼女は何も言わずに受け取ると、マップに顔を近づけ、

そのまま血のように赤い唇で、軽く口づけをした。


(なんだか少しエッチだ…)


その姿に少し見とれていると、マップを白雪姫に返される。

すると、そこにはリンゴの群生地の場所が示されていた。


(ここから歩いて1㎞くらいか…)


「じゃあ、行きますか。」

僕の掛け声を合図に、《黒猫の宵》とその他付いてきたギルドの面々は森の奥に向かって歩き出す。

ふと、隊列の一番最後まで目を向けると、見知った顔を見つけた。


冷静な雰囲気の眼鏡をかけた青年…

(あれは確か、《ハルモニア》の西村君、一人で着いてきたのか?)


「………」


正直彼には良い印象はない、

僕達に付いてきたのも、ポジティブな理由ではないだろう。

彼の行動に一抹の不安がよぎる、

しかし、物理的被害はまだないため、警戒はしつつも、今のところは気にしないことにした。


リンゴの生えている場所へ向かうため、道なき道を草をかき分けながら歩く。

足元の草は腰下まで伸びており、マップの導きが無ければ、絶対に足を踏み入れない道だ。

道のりの途中、胞子を撒き散らすキノコ型モンスターや、

木々を飛び回るリス型モンスター。

この白雪姫のフロアらしいモンスターとエンカウントしたが、

こちらのレベルが高かったのもあり、どちらも問題なく対処できた。


「マップの情報だと、もう少しでつきそう。」

先頭を歩く僕が、後ろを歩く他のメンバーに話しかける。


「お、森が開けてきたぞ!」

樹のその声を聞き、僕も前方に視線を戻す。


森が開け、盆地になっている場所が見えた。

周囲の森よりも窪んでいるその場所の真ん中に

数十本のリンゴの樹が生えているのが見える。


「これは…」


「いかにもって感じだね…」

聡が僕の言いかけた言葉を引き継ぐ。


「ぜってー罠だろこれ!」

この地形の違和感を樹も感じたようだ。


「これはリンゴを手に取った瞬間にモンスターが出てきそうだね。」

優が緊張した面持ちで僕達に語り掛ける。


「とりあえず、窪みの外側を一周して、モンスターがいないか確認しよう。」

その言葉に、3人は無言で頷いた。


窪みの内側と外側、どちらからモンスターが襲ってきてもいいように、

僕と樹が内側、優と聡が外側に注意しつつ外周を歩く。

付いてきた他のギルドメンバーも、

僕達に倣って、窪みの中にはいきなり入らず、先ずは周囲を確認するみたいだ。


窪みの周辺を見回り、安全を確認した僕達は、慎重にリンゴの生える窪みの中へと滑り降りて行った。

窪みの傾斜は40°といったところだろうか、降りるのは簡単だが、登るとなると少し大変そうだ。


(嫌な感じがプンプンする…)


周辺の調査が終わったため、傾斜を下り窪みの中に入る。

降りた場所からリンゴ林まではおよそ50m、見た限りモンスターはいない。


注意しつつ歩いていくと、リンゴ林の入り口に到着した。

近くで見上げると、リンゴの樹々の葉が空を覆い隠し、まるで森に天井ができたようだった。


「じゃあ、リンゴとるか…」

意を決した樹が、リンゴに手を伸ばそうとする。


「う、と、届かない…」

データの身体を活かしてジャンプを繰り返す樹、

それでもわずかにリンゴには届かなかった。


「しゃーない、玲、肩車するから乗れ。」

樹が体を屈め、上に乗れと僕に指示する。


「えーなんで僕?聡もそんな体格変わんないじゃん!」


「じゃあ、聡、乗れ!」


「絶対やだ。」

樹の提案を一刀両断する聡。


「な?はやく」


「やれやれ」


しぶしぶ樹の肩に座る。

僕が座ったことを確認した樹は勢いよく立ち上がる。


「うほー、流石アバターの身体、軽い軽い」

自分の筋力に喜び、僕を担ぎながら走り回る樹。


「ちょ、あんまり動かないで!怖いから!」


「おっと悪い。」

僕の声に急ブレーキをかける樹、

そのせいで僕は樹の肩から投げ飛ばされた。


「………」

樹の肩から勢いよく落とされ、地面と仲良しになっている僕。

痛みこそないが、恐怖は感じた。


「わりぃわりぃ。」

悪びれもせず平謝りする樹。


「………」

(いつか絶対訴えてやる…)


気を取り直し、樹の肩に乗りなおす僕。

樹はリンゴがなっている下まで歩き、身を屈める。


「いくぞ、玲!」


「いつでもどうぞ」


僕の返事を聞いた樹は、思い切り膝をのばし、大きくジャンプした。

その跳躍に合わせて、僕も思い切り手を伸ばす。

僕の右手が赤いリンゴを掴み、そのまま引きちぎる。


(よかった。《盗難防止オブジェクト》は設定されていないらしい。)


リンゴを手に取った瞬間、罠が発動しないか直ぐに警戒に入る僕達。

しかし…


「なにも起こらないんかい!」

肩透かしの展開に、樹が突っ込む。


「これで白雪姫のお使いはクリアだね!」

見事リンゴを採った僕に、優からお褒めの言葉を賜る。


「うーん、リンゴは採ったけど、これ半身じゃないんだよね~」


「まじだ、ってか半身のリンゴってなんだよ…

 ……玲、それ割ってみろ。」

樹がいつも通り直感に任せた指示を出す。

でも、僕も正直、半身っていったらそれしか思いつかない…。


「やってみるか…」


採ったばかりのリンゴを地面に置き、腰の鞘からサーベルを抜く。


「きれいに半分だよ。」

今から繊細な作業をする僕に、聡がプレッシャーを掛けて来る。


サーベルを両手に握り、スイカ割りの要領で両腕を振り上げる。


(一刀入魂!!)


振り上げた腕を、思い切り振り下げる、

サーベルは、真っすぐ振り下ろされ、リンゴの真ん中を捉える。



サクッ。



真っ二つに割れたリンゴは、一瞬その形を保ち――

次の瞬間、光の粒子となって霧散した。


「あ、あれ…?」


「耐久値が0になって消えた…」

いつもクールな聡が珍しく目を丸くしている。


(半身ってこういうことじゃないの!?)


リンゴがあったはずの地面を、四人で見つめる。


「どうするよ?」

樹が肩をすくめる。


「もう一個採って、かじってみるとか?」


「それでも耐久値が減るなら、白雪姫のところまで持っていけないよ。」

聡が即座に否定する。


「……加工じゃなくて、最初から"半身のリンゴ"があるってことかな。」

優も腕を組み、小さく首をかしげた。


(プレイヤーが加工するんじゃない。

"最初から半身になっているリンゴ"を探せってこと?

……いや、この林にある見える範囲のリンゴは全部普通だ。

何か条件があるのか?)




「なんか面倒くさそうなクエストだな…」


「それな、どうする?村に戻るか?」




考え込む僕らをよそに、

後ろで様子を見ていたプレイヤーたちは、

しびれを切らしたのか、帰り支度を始めていた。


徐々に、プレイヤーの間の会話が大きくなり、

リンゴ林が賑やかになってきた。

――その時。



ガサッ……


ガサッ、ガサッ。



何かが葉の上を擦るような音が響く。


(……風?じゃない。)


ただ事ではない気配に、プレイヤー全員が息を呑み、

ゆっくりと頭上を見上げた。


すると、さっきまで緑の天井にしか見えなかった葉が、

波打つようにうねり始める。



(何かが動いてる……!?)


「なんだなんだ?」

慌てだすプレイヤー達。


「キャー!」

その叫び声と同時に、不穏な雰囲気を感じ取った女性プレイヤーが、

窪みから抜け出そうと突然、走り出した。


「動いちゃだめだ!」

優が女性プレイヤーを制止しようとする。

しかし、その忠告は届かない。


リンゴ林を走り抜け、続いて傾斜を駆け上がろうとする女性プレイヤーに、

突如リンゴの樹から蔓が伸びる。

蔓は彼女の足首へ絡みつき、

そのまま傾斜から引きずり落とした。


みるみる内に、女性プレイヤーに巻き付く蔓。

リンゴの樹から集まったその蔓はやがて一つに集まり、

ある動物の形を成していく。


それは、禁断の果実へ人を誘う、

童話よりも古い存在。


「蛇だ……」



女性プレイヤーを絡め取ったまま、

形を成した巨大な蛇はゆっくりとこちらを見下ろした。


頭上に示されたモンスター名は…

==========

《The Orchard Tyrant》

==========



挿絵(By みてみん)


(果樹園の…暴君…)


体を蔓で包み込み、ところどころにリンゴの果実がついているその蛇は、

赤く光る眼光で僕達を睨みつけている。


その迫力に、誰も動くことができない。

僕達がたじろいでいる間にも、

蔓で締め付けられている女性プレイヤーのHPはどんどん削られている。


「た、たすけ…」


体を蛇に巻き付かれ、身動きどころか声を出すのも辛そうだ。


「今行く!」

優が双剣《エグゼキューター 》を握りなおし、駆け出す準備をする。

その時、今にも走り出しそうな優の肩を掴んだ。


(やっぱ助けようとするよね…)


「ちょい待ち」



「何?急いでるんだけど?」

女性プレイヤーの危機により、焦りを見せる優、

そんな彼に落ち着きを取り戻してもらおうと

手短に、言葉を選びつつ語り掛ける。


「僕が激しく動き回って、蛇のターゲットになる。

 そのうちに、3人で彼女を助けるんだ。」


「う、うん。」

僕の言葉を聞き、冷静さを取り戻したのか、

一瞬落ち着きを見せる優。


「よし、行くよ。」


3人にそう言い残し、蛇の前に躍り出る僕。

蛇モンスターは舌を出し入れしながら、僕に目標を定める。


(まさか毒とか持ってないよな…解毒剤準備してないけど…)


反復横跳びの要領でステップを踏みつつ、大蛇の前でうろちょろする。

蛇の首元の蔓が収縮し、飛びかかる前兆を見せる。



シャァー!



蛇が噛みつきをしてきたタイミングで、大きく後ろにジャンプ!

先ほどまで横の動きをしていた僕が、突然後ろに飛んだため、

蛇は僕を噛み損ね、その牙は空を切る。


蛇の牙を間一髪かわしつつ、3人がプレイヤーを助けるまでの時間を稼ぐ。

動きは素早いが、突進の前に攻撃の前動作があるため、

躱すだけならなんとかなりそうだ。


攻撃を


躱す、躱す、躱す


しかし、どの攻撃も全て紙一重で躱している状況、

こちらが反撃し、もし蛇がその攻撃にひるまなければ

あっという間にカウンターを受けてしまうだろう。

その時――



ギャァス



蛇が突然悲鳴を上げた。


振り返る。


蛇の尾にダメージエフェクトが走り、

巻き付かれていた女性プレイヤーの姿はもうない。

どうやら3人が上手くやったようだ。


蛇が怯んだ隙に、近くのリンゴの樹へ飛び込む。


木陰には、優たち三人と助けた女性プレイヤーが身を寄せ合っていた。

四人でいっぱいだった場所に無理やり飛び込む。


「ナイス囮!」

樹が歯を見せながら、サムズアップしている。


「あんまり嬉しくないな、その褒められ方…」

小声でつぶやきつつ、助けられたばかりの女性プレイヤーに視線を移す。

彼女は蛇に捕食されかけた恐怖から、まだ震えていた。

本当なら声を掛けるべきなのだろう。

でも、今はそんな余裕がない。

僕は木陰に身を隠しながら、蛇の動きを観察する。



蛇は僕達を見失ったようで、キョロキョロとあたりを見渡している。

ちなみに、少し可愛い感じに蛇の動向を説明したが、

実際は巨大な爬虫類が獲物を捜しているだけのため、全く可愛くない。


「このままじゃ見つかっちまうんじゃね?」

樹が声を潜め、皆に語りかける。


「多分大丈夫。

 蛇は人間よりも視力が悪くて、特に動いてない物には反応しずらいんだ、

 それを補うためにヤコブソン器官っていう嗅覚器で獲物を捜してるんだけど、

 幸運なことに、ここはリンゴ林、その匂いに邪魔をされて僕達の居場所を

 上手く把握できてないみたい。」

聡が蛇を観察しつつ、説明する。


「物知りすぎるだろ…ばあちゃんの知恵袋かよ…」

驚きのあまり意味不明なツッコミをする樹。


(いや、おばあちゃんもそこまで蛇に詳しくないと思うけど…)


「まあこれはあくまで現実の蛇の話、

 EDENのモンスターはそんな生物の行動は無視してくるかもしれないけど。」


「「だめじゃんか!!」」

自ら与えた希望を自らから一瞬で打ち砕いた聡に、

僕と優が同時に突っこむ。


「まあ、餌(プレイヤー)は沢山いるから大丈夫。

 よほど運が悪くない限り一発目にみつからないよ…」

聡は他の木陰に隠れるプレイヤー達を指さしそう言う。


(餌ってあんた…)


どうやら先ほど僕達が女性プレイヤーを助けている際、

どさくさに紛れて林に逃げ込んでいたようだ。


(さっき近づいたとき、あの蛇、身体の至るところにリンゴがなっていた…)

(それに、跳躍した瞬間に見えた蛇の瞳……妙に赤く、果実みたいな艶があった。)



(…もしかして)



「半身のリンゴの場所、分かっちゃったかも!」

僕の急なカミングアウトに女性プレイヤー以外の3人がこちらを振り向く。


「ほんとに?どこにあるの?」

優が真剣な表情で尋ねて来る。

その質問に、僕は意地悪な笑顔を浮かべ、逆に質問する。


「その前に、なんでこの蛇はこのリンゴ林にいると思う?」


「は?急になんだよ?」

樹が怪訝な表情で聞いてくる。


「リンゴを採りに来た生物を狩るためにここに潜んでたってこと?」

優が半信半疑の様子で聞いてくる。


「そう!つまりこのリンゴ林に住むことは蛇にとってメリットがあるってことだ。」


「なるほど、それで?」

聡が僕の次の言葉を待つ。


「じゃあ、逆にリンゴ林にとってのメリットって何だと思う?」


「それは、リンゴを他の生物から守ってもらうため?」

樹が、自信なさげに答える。


「ううん、果樹が身をつけるのは基本的に、

 果実の中の種を他の生物に別の場所に運んでもらうためなんだ。」


「じゃあ、リンゴ林にとってはデメリットしかねーじゃねーか」

樹が納得いっていないような声色で言う。


「そうでもない、なぜなら種の運び手はもういるから。」


「楽園の暴君…蔓のような見た目

 リンゴとの共生…あっ。」

どうやら、聡は閃いたようだ。

「種の運び手はもういる、それは…あの蛇だ!」

すっきりした表情で聡が僕の求めていた答えを言う。


「このリンゴ林は、あの蛇を種を運ばせる器にしているんだ。

 その証拠に蛇の身体にもリンゴが成っている。」


「リンゴ林に半身のリンゴは無かった。なら、半身のリンゴを持っているのは――あの蛇しかいない。」


「おお!」

「「なるほど!」」

3人とも膝をうったように納得している。


(皆、素直だな。)


「で、どうやってリンゴを採るんだよ?

 やっぱ倒さなきゃいけないのか?」

一つ疑問が解消されれば、新しい疑問が出る。

樹がさらに質問をしてきた。


「うーん、そのことなんだけど、

 あの蛇からリンゴを採るにあたってもう一つ問題がある。」


「問題って?」

優が問いかけて来る。


「うん、さっき彼女を一番初めに狙った動きからして、

 恐らくあの蛇はヤコブソン器官を持っている。

 となると、赤外線を感知するピット器官も持っている可能性が高い。

 近づくとなると、人間の体温以上の熱を発することが出来る囮が必要なんだよね。」


「火を起こせるアイテムは…誰も持ってないよね…」

僕達のギルドはストレージを共有しているため、

お互いが所持しているアイテムを確認するまでもない。


「一応聞くけど、君は持ってないよね?」

ダメ元で、依然としてうずくまっている女性プレイヤーに尋ねてみる。


「あ、野営用に買った、火打ち石っていうアイテムなら持っています…」


「「「「え!」」」」


「なんで持ってるの?」

あまりの都合の良さについつい質問してしまう。


「ライココット村のクエストを受けた時に、

 森探索用に全員買わされた初心者アイテムです」


(僕達の知らないクエストだ…

 やっぱりクエストはちゃんと受けておいたほうがいいのか?)


今後の攻略方針を見つめなおしつつ、

女性プレイヤーに向き直って、お願いをしてみる。

「それ、貰える?」


「はい、もちろんです…助けて貰ったので…」


(親切が自分に帰ってきた…人助けもたまにはしてみるもんだな…)



彼女から火打石を受け取った僕達は、

蛇の動きに注意しつつ、枯れ枝と枯れ葉を集め始めた。

その不審な動きに、他のギルドのプレイヤー達はこれから一体何をするのかを尋ねて来る。


その問いかけに僕と聡は答えなかったが、

優と樹は一から丁寧に説明していた。

その結果、二人の集めた枯れ枝は僕達の半分以下だった。


「よし、じゃあまずは僕と優が蛇の前に躍り出て、ターゲットを取る。」


「そのうちに俺らが火を熾すんだな?」

樹が最終確認をしてくる。


「うん、じゃあ行くよ!」


僕と優は勢いよくリンゴ樹の木陰から飛び出した。

その動きに瞬時に気が付いた蛇が僕達を追って這ってくる。

追いつかれないように、蛇の右側に遠ざかるように走る僕達。

木陰は蛇から見て左手、僕と優は右へ、樹と聡は左へ分かれ、蛇を挟んで焚き火を熾す形だ。



シュルルルル……ッ!



鳴き声を上げながら、僕達を追う蛇モンスター、

その反対側では、樹と聡がそそくさと火を熾す準備をしている。


(なるはやでお願い!!)


そう心で願いつつ、蛇から全力で逃げる僕達。

本来であれば俊敏のステータスの差で、優が僕より素早いはずだが、

流石心優しい優、僕に走るスピードを合わせてくれている。


「火がついたぞ!」

ゲームだからなのか、火を熾す過程は簡略されているようで、

キャンプ初心者の二人でも、問題なく火を熾すことが出来たようだ。


(よし、これであっちにいくはず…)

後ろを振り向き、蛇の動向を確認する。

すると蛇はもうすぐそこまで迫っていた!


「ってない!?」

驚くべきことに蛇は火には目もくれず、

僕達を執拗なまでに追ってくる。


「やばいやばい!」


「どういうこと?玲?どうする?」


「分かんない!とりあえず逃げるよ!」


僕と優は方向転換をし、樹と聡が待つ焚き火の場所まで最後の力を振り絞って走り抜ける。

するとどうだろう、焚き火に近づくたびに蛇の追跡速度が下がるではないか。

そしてついに、焚き火の近くにたどり着いた僕達、しかし蛇は一定の距離を保ったままだ。


(こいつ、もしかしてピット器官は持っていないのか?

 それに、火を怖がっている?)


自分の仮説を確認するため、僕は焚き火から、火のついた枝を一本抜き取った。


「危ないって!」

背後で優が止める。聞こえないふりをして、

左手の枝を前に突き出したまま、蛇へ一歩踏み出した。


蛇が、退いた。


這うように身を引き、その距離を保つ。もう一歩進む。蛇もまた、一歩ぶん下がる。


(僕が進めば、蛇も退く!)


火の先を左へ振る。蛇の頭が、その軌道から逃げるようにずれた。右へ振る。同じだ。

熱じゃない。さっき囮にした焚き火には目もくれなかったのに、火を持った僕の手だけは避ける。

僕は足を止め、枝を少し下げてみた。


蛇の動きが止まる。赤い眼がこちらを探り、じり、と半身ぶん前に出る。

枝を、また掲げる。


蛇が、退いた。


「……なるほどね」


小さくつぶやくと、口元が勝手にゆるんだ。



(聡が言った通り、EDENの蛇モンスターは現実の蛇と同じじゃない。一部の生態だけ借りている)

(それに、植物と融合しているなら、火を恐れるのは当然か…)


あまりに単純な要因を見逃していたことに気が付き、僕は笑った。



――攻略法を見つけた。






























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