Stage3-10 黒猫のワルツ。
自分が罠に罠にはめられたことに気が付いたチェリー卿は、
驚いた表情でこちらを見つめている。
そして、その表情のまま、再び口を開く。
「貴様、私に何をした…」
(なるほど。焦った人間の演技は、ちゃんと学習済みらしい。)
「それ、さっき答えましたよ。同じことを2回も聞かないでください。」
僕は呆れ口調でチェリー卿の質問を返す。
「一体どうやって、従者に紛れ込んだ?」
(質問の多いNPCだ…)
「今回のボス戦で、2度、全員の注目が一点に集まるタイミングがありました。
その時に、貴方の従者を始末させて貰いました。」
(まあ、2人とも不意打ちしたんだけどね。)
僕のその回答を聞いたチェリー卿は、
何かを思い出したように急いでステータス画面を操作しようとする。
(そうはさせるか!)
勢いよくチェリー卿の前まで踏み出し、剣を振り下ろす。
チェリー卿は素早くサーベルを取り、僕の攻撃を間一髪で受け止める。
「せっかく同じパーティーになれたんです。もう少し仲良くしましょうよ。」
「貴様っ」
チェリー卿の顔から驚きの表情はすでに消えており、
少しずつ怒りの表情に変わっていくのが分かる。
膝をついているチェリー卿に上から剣を押し当てる。
見た目通り、チェリー卿はパワータイプではない、
この態勢を一気にひっくり返すほどの力はないらしい。
お互いの剣同士、鍔迫り合いをする。
(ダルタニャーを見て確信した。EDENのAIは、人間に限りなく近い。
行動も――慢心も。)
「優と九条さん、女王のガードをダルタニャー達と変わって!」
麻痺のデバフを受けていない2人に指示を出す。
「分かった!」
僕の指示の意図を理解した優がすぐに返事をし、九条さんとともに女王のもとに走り出す。
僕の一瞬の隙をみつけたチェリー卿は、押し返す力を強め、反撃に転じてきた。
こちらもその力に合わせて力を加える。
(ぐぬぬ…)
僕が上から押さえ込み、チェリー卿は膝をついたまま。
鍔迫り合いは、まだ僕が制している。
力を込めるたび、チェリー卿のサーベルがじりじりと押し下げられていく。
(……もうそろそろか?
早く使ってこい!)
その瞬間――
チェリー卿の左手が、胸元へ伸びた。
(きたっ!)
僕は剣から力を抜くと同時に、大きく後方へ跳ぶ。
次の瞬間、チェリー卿は左手に握った小さな玉を投げつけてきた。
(やっぱりそれか。)
(喰らうわけにはいかない。)
チェリー卿が追い詰められれば、
この切り札を使う。
そこまでは、もう読めている。
(こっちには壁が四つあるんだよな。)
飛来する玉より一瞬早く、僕は桜木の背後へ滑り込んだ。
「ごめん、桜木!盾よろしく!」
「な、なんや急に……ぶへっ!」
パシュッ!
玉が炸裂し、黄色い煙が桜木を包み込む。
「ゴホッ……ゴホッ!」
まともに煙を浴びた桜木は激しく咳き込む。
だが、すでに麻痺のデバフを受けているためか、
新たな異常は起きていないようだった。
(デバフは重ね掛けできないと、メモメモ)
「ちょ、一条のあんちゃん! 流石にひどいんとちゃうか!?」
「安心して。弾除けとしては一級品だったよ。」
驚きの表情を浮かべる桜木に笑顔でサムズアップをする。
「安心出来へんわ!!」
「ごめんごめん、
お礼はこのボス倒すってことで。」
「現金払いで頼むわ!」
束の間も軽口で思わず笑いそうになるのをこらえながら、僕はチェリー卿へ視線を戻した。
……動かない。
膝をついたまま、肩で荒く息をしているだけだ。
視界の端に表示されたHPバーへ目を向ける。
その横では、逆十字の紋章が静かに点灯していた。
「体、重いでしょ?」
うずくまっているチェリー卿に声を掛ける。
「これは…一体…」
「サポートアートの《威風堂々》ですよ。騎士道ある者は強化、卑怯者には弱体化っていう能力らしいです。
貴方は僕と同類だからね、かならずデバフ判定に引っかかると思ってました。」
(デバフの威力は、この身で味わった。
恐らく立ち上がるのもやっとだろう。)
「ぐっ……うおおおお!」
震える腕を地面につき、チェリー卿は歯を食いしばる。
鉛でもまとわりついたような身体を、それでも力任せに持ち上げようとしていた。
(おいおいまじか!)
声で自分に喝を入れたチェリー卿は、デバフに対抗し立ち上がろうとしている。
(おお~凄いな、流石フロアボス…って関心してる場合じゃないな…)
僕がチェリー卿のガッツに驚いていた
丁度その時
「お待たせニャ!」
「玲君、どんな状況わん?」
「疾風怒濤、ここに参上させし我!」
優達と女王の護衛を交代したダルタニャー達が
やっと到着した。
(ダルタニャー達お助けNPCを初めにボス戦から遠ざけることで、
彼らのHPを温存できた。これで全ての条件はクリア、
あとはチェリー卿を倒すだけだ。)
「チェリー卿は今《威風堂々》のデバフを受けてる、
今のうちに決着つけるよ!」
「ニャ!」
「ワン!」
「グルル!」
3人は掛け声とともに、一斉にチェリー卿に向かう。
突進してくる3人に反応したチェリー卿はサーベルを構えるが、
デバフのせいでその動きは通常よりも遅い。
「ぐあっ」
ポルティの細剣、そしてアトシシのランス(槍)の突きを両肩に受けたチェリー卿は小さく悲鳴を上げる。
短い悲鳴とともに、チェリー卿がサーベルを手から落とす。
カラン……
「拾うニャ」
ダルタニャーの声が玉座の間に響く。
チェリー卿は歯を食いしばりながら震える右手を伸ばす。
鉛のように重い腕。
それでもなお、サーベルを握る。
「くそ、私がこんな新米どもに…」
悔しさをにじませながらチェリー卿は吐き捨てた、
しかしその瞳にはまだ闘志が宿っているのが見える。
鉛のように重い体を引きずり、サーベルを握り直すチェリー卿、
そして再び立ち上がる。
(さすがフロアボス、ただの小悪党とは違うね。)
チェリー卿の諦めない姿に感化され、心の中で思わず賞賛する。
「うおおおおおおお!」
チェリー卿は、らしからぬ雄たけびと共にスキルアタックを発動する。
鈍い色を放つサーベルが、構えと共に深紅の輝きを放ち始める。
その攻撃を迎え撃つために、
ダルタニャー、ポルティ、アトシシの3人もスキルアタックを発動する。
「いくにゃぁぁぁぁぁぁ!」
ダルタニャーの雄たけびと共に、四人の剣技が激突する。
赤と青、三つの光が玉座の間を切り裂き、轟音が石壁を震わせた。
チェリー卿の渾身の一撃を、アトシシのランスが真正面から受け止める。
火花が散り、鈍い衝撃音が玉座の間へ響く。
がら空きとなったチェリー卿の身体に、
ダルタニャーとポルティの連撃が加えられる。
一閃。
ダルタニャーの剣が胸を裂く。
返す刃でもう一閃。
ポルティの細剣が脇腹を深く切り裂いた。
回復を封じられたチェリー卿は、銃士達の連撃を受けるたびに確実にHPを削られていく。
これまで何度も全快していたHPバーは、もう戻らない。
一撃。
HPバーが削れる。
また一撃。
残り二割。
さらに一撃。
黒緑色のゲージは、もう指先ほどしか残っていない。
そして――
そして、ダルタニャーの一撃により、最後の一目盛りが消えた。
「こんなところで…私の野望…が…。」
チェリー卿の身体は無数の光の粒となって崩れ始める。
「残念だったね、卑怯という分野において
僕に勝てる奴なんていないよ。」
僕は、今にも消えそうなチェリー卿に、一声かける。
「フッ、生意気なガキだ…。
だが、これで勝ったと思うなよ…。」
(?…負け惜しみ?)
その言葉を僕に言い放った後、
やがて眩い閃光だけを残し、チェリー卿は玉座の間から完全に消え去った。
チェリー卿の消滅と共に消え去る黒銃士、
混沌と化していた玉座の間は、一瞬の静寂に包まれた。
誰も一言も喋らず、数秒が経過した。
そして、
ボス討伐のファンファーレが鳴り響く…
その音楽を聴いたと同時に、部屋のあちこちから歓声が上がる。
「よっしゃああ!」
「フロア3攻略!!」
「我々の勝利だ!」
「アンナ女王陛下に栄光あれ!!」
緊張から解き放たれ、歓喜に湧くプレイヤーと銃士達。
その様子を見て、僕の肩の荷も少しだけ降りた気がする。
「ピコン」
ステータス画面がポップアップする。
どうやらチェリー卿討伐の報酬が配布されたらしい。
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REWARD
・サーベル・オブ・カーディナル × 1
・1,500,000コイン
・紅衣卿の徽章× 2
・カーディナルクロス × 1
・カーディナルコア × 1
・上質なマント× 2
・赤い肩章× 2
・金糸の刺繍布× 2
・豪華な装飾品× 2
・金細工の飾り× 2
・銀のバックル × 1
・
・
・
・
・中級回復ポーション×5
・低級回復ポーション×5
・称号
『枢機卿を討ちし者』
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リワード画面が開いた瞬間、アイテムが滝のような勢いでボックスへ流れ込んでいく。
(ニヤリ…)
口元が自然と緩む。
その様子を見ていた優、樹、聡が、人混みを避けるようにこちらへ寄ってきた。
(樹と聡、いつの間にか麻痺が治ってる…時間が経てば治るのか…)
⦅おい、これ流石におかしくねぇか?⦆
⦅玲、一体どういうこと?⦆
樹、聡が他のプレイヤーに聞こえないように小声で質問してくる。
⦅ギルド共有ストレージ…⦆
その質問にぼそっと小声で返す。
「!?」
そのひと単語だけでどうやら聡は気が付いたようだ。
驚きの表情を浮かべている。
⦅おい、いったいどういうことだよ、もったいぶらずに教えてくれよ。⦆
答えがまちきれない樹が再度質問してくる。
⦅今回玲は、ボスの回復を封じるために、チェリー卿を僕達のパーティーに入れたよね?
パーティーのメンバーが死んだときアイテムはどうなると思う?⦆
樹の質問に、すでに今回のカラクリを理解した聡が答えた。
⦅まさか、ギルドのストレージに収納されるの?⦆
優は小声ながら驚きの声を上げる。
⦅まさか、ここまで考えて作戦を立ててたの?⦆
聡がこちらを振り向き、再度僕に質問をする。
⦅モチのロン!ボスも攻略出来て、僕達のふところは潤う、まさに一石二鳥の作戦よ!!⦆
「すごいけど、せこいな。」
「うん、すごいけどずる賢い。」
樹、優がジト目で僕を見つめながら口々に言ってくる。
「最高の誉め言葉をありがとう。」
その視線を受けながらも胸を張って自慢げに答える。
「それはいいけどさ、ボスのアイテム聡取りしたら
他のプレイヤーが怪しむんじゃない?」
冷静な聡がもっともな意見を投げかけて来る。
「だいじょーぶ、だいじょーぶ、見た感じ、
他のプレイヤーにはちゃんと報酬行ってるっぽいし、
僕らの財政状況なんて分かんないって。」
(何の確証もないけど、たぶん大丈夫でしょ)
「でも、バレたらやばいんじゃない?」
常識人の優は僕の無根拠な提案には納得できないようだ。
ならばこの言葉を授けよう。
「日向君、この世界には古来からこんな言葉がある。
『バレなきゃ犯罪じゃないんですよ』
あ~はっは!」
「「「さ、最低だ…」」」
先ほどのジト目よりさらに冷たい3つの視線が僕を刺した…
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歓喜に湧く玉座、その中心はもちろんアンナ女王だ。
アンナ女王はプレイヤーや銃士に囲まれ、笑顔を見せている。
4人で目くばせをし、女王の元に向かう、
女王の近くまで歩いてくると、
僕達4人に気が付いたダルタニャーがこちらに近づいてきた。
「おみゃーら、無事でよかったのにゃ!」
「ダルタニャーも無事でよかったよ。」
優がいつもの優しい笑顔でダルタニャーに笑いかける。
「当然ニャ、俺っちはこの国の銃士にゃ!」
えっへんと胸を張るその姿は、いつか見たような光景で、懐かしさを感じた。
ダルタニャーを加えた僕達5人は、
アンナ女王の元に向かい、お言葉を頂戴する。
「玲、優、樹、聡。そしてダルタニャー。
この国を救ってくださり、本当にありがとうございました。」
(ほんとほんと、今回は滅茶苦茶がんばったよ!!
マネーぷりーずミー!)
「いえいえ、皆の頑張りのおかげです。」
口では綺麗ごとをいいつつ、心の中ではご褒美を期待している僕。
「そう言っていただけると、助かります。
今回このようなクーデターが発生し、王国は不安定となっています。
今こそ国の長として威厳を示さなければなりません。
大変心苦しいのですが、ねぎらいを兼ねたパーティーなどの催しは行うことはできません。」
「そうですよね、それは仕方ありませんね。」
女王の言葉に常識人の優が優しい返答をする。
(パーティーは別にいいから、マネーマネー)
「形としてあなた方にお渡しすることは出来ませんが、
あなた方の勇気は、この国の歴史に永遠に刻まれるでしょう。」
(うんうん、それでマネーは?)
「この国を必ず立て直してみせます。
その時、あなた方が救ってくださった今日という日を、決して忘れません。」
アンナ女王はそう言い、深くお辞儀をする。
(………)
「本当にありがとうございました。
あなた方は最高の銃士です。」
満面の笑みを浮かべたまま、手をひらひらと振る女王。
その様子を見て、流石の僕もお金をせびることは出来なかった…。
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マネーを貰えなかったことに呆然としていると、
背中から突然名前を呼ばれた。
「山田いや一条君…。」
少しだけ戸惑いを感じさせるその声の主は…
「……鳳…何?」
初めて名前を呼ばれたことに驚き、少しだけ攻撃的な口調になってしまう。
「あ、いや、まずはボス攻略お疲れ様。
フロア4へのゲートはすでに開かれた、
我々はもう行こうと思う。」
「その前に、君に一つだけ尋ねたい。」
その鳳の前振りに、無言で頷く。
「今回の攻略、いつから考えていた?
君は、いつからそこまで読んでいた?」
鳳は真剣な面持ちで尋ねてくる。
(この前質問されたときは端折っちゃったし、今回は丁寧に答えてあげるか…)
「フロア2、フロア3のテーマはギルド結成だからね、
ギルドがテーマなら、ギルド関連のシステムは全部疑ってかかった。
それを一つずつ繋げていっただけ。」
鳳は黙ったまま僕の話を聞いている。
「NPCであるダルタニャーをパーティーに入れられたこと、
サポートアート《威風堂々》、
そして、君がお助けNPCを倒したことも攻略の鍵になったよ。」
「!?………そうか…」
僕の回答に納得したかは不明だが、鳳は短く返事をして俯く。
表情は髪に隠れて見えず、今何を考えているか読み取ることはできない。
「どうやら俺は、君を…いや、君たちを侮っていたようだ…
すまない…」
鳳の喉から絞り出すような謝罪に、軽い衝撃を受ける。
「い、いや、別に大丈夫…
むしろ低く見積もられた方が動きやすいっていうか…」
鳳からの突然の謝罪についどぎまぎしてしまい、
余計なことまで口走ってしまった。
「いや、それでも、良く知りもせず評価を下した、これは恥ずべきことだ…。」
「ま、まあ僕達まだ高校生なんだし、そのくらいは…」
「そうだぞ、バチバチやるのは日常茶飯事だろ。」
側で僕達の会話を聞いていた優、樹もフォローに入る。
「ありがとう。君たちは本当に良いチームだな…」
「我々は先に行くよ、フロア4で会おう。」
踵を返し、ゲートへと向かう鳳。
鳳を呼び止めるNPCは一人もいなかった。
助けたはずなのに。
ゲートの中へと消えるその背中は、
……少しだけ、寂しく見えた。
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勝利への熱も少しずつ冷め、玉座の間には穏やかな空気が流れ始める。
(ボスを倒したということは…)
その時、玉座の間の中心に、フロアとフロアを繋ぐゲートが現れた。
(このフロアでのやるべきことが終わったという事…そしてそれは)
「うわあああああん!!」
女王の近くにいた女性プレイヤーが突然大声で泣き始める。
あれは確か、《Queen's Board》のいろはさん…。
《Queen's Board》のお助けNPCであるポルティと抱き合い、大粒の涙を流している。
その周りを九条や神宮寺、他のメンバーが囲い悲しみを分け合っている。
(そして、それは僕達も同じ…)
「優、樹、聡それに玲。」
僕達を呼ぶ声の主はダルタニャー。
「ダルタニャー、もう、お別れ…かな。」
少しだけ涙ぐんだ声で、
優がダルタニャーに語り掛ける。
「そうにゃ、お別れの時間ニャ。」
ダルタニャーは優しく、しかし、きっぱりとした声で答える。
「優、おみゃーの剣技は見事だにゃ、俺っちが認めるニャ、
でもそれ以上に素晴らしいのはその優しさにゃ。
その優しさでこの先も沢山の人を救うニャ、俺っちはそう信じてるニャ。」
その言葉を聞いた優の頬に、一筋の涙が流れる。
そしてその涙は地面に落ち、小さな光となって消えた。
続いて、ダルタニャーは樹に向き合う。
「樹、おみゃーの強さは底抜けに明るいことにゃ、
俺っちもその明るさに何度も救われた…
その明るさで、優達だけじゃなく、全ての人を照らすニャ。
お前なら出来るニャ。」
ダルタニャーの言葉を受けた樹は、たまらずダルタニャーに抱き着く。
やさしく樹をハグしたまま、次は聡に語り掛ける。
「聡、いつも冷静に状況を把握して、仲間より一歩後ろにいるおみゃーだけど、
本当は誰よりも仲間思いなのを俺っちは知ってるニャ、
おみゃーがいれば、このチームは大丈夫。
俺っちはそう確信してるにゃ。」
ダルタニャーの言葉に、穏やかな微笑みで返す聡、
おもむろに右手を差し出しダルタニャーと握手を交わす。
そして、最後、ダルタニャーは僕に向き合う。
「玲、おみゃーとは初めて会った時からやりあってたにゃ、
でもそれは、嫌いだったからじゃないにゃ、
兄弟のようにじゃれあいたかったからにゃ。」
(ダルタニャー…)
「おみゃーは銃士としては最低だったけど、
俺っちにとって最高の従者だったにゃ!」
「フフッ、だから従者じゃないっつーの!」
口ではそう照れ隠しをしつつ、
ダルタニャーにいまだ抱き着いている樹の上からさらにハグをする。
その様子を見た、優と聡もハグをする。
1分以上のハグ、データの身体でありながら、確かなぬくもりがそこにはあった。
「そうだ!最後に写真とろーぜ!」
「「「「撮ろう(にゃ)!!」」」」
突然の、樹の提案に全員が乗っかる。
そして僕達は玉座の間を後にし、
フォルクシュタイン城前で最後の記念撮影をした。
「ちゃんと笑うニャ!」
「樹!変顔するな!」
「聡も笑って!」
「僕は笑ってる。」
「全然笑ってないにゃ!」
記念撮影の後、フォルクシュタイン城中庭に戻ってきた僕達は、
中庭にも現れていた、フロア4へ繋がるゲートの前に立つ。
(いよいよ、お別れの時間か…)
ふとそう意識すると、データのはずなのに目頭が熱くなってくる感覚がある。
「最後に、俺っちからおみゃーらにプレゼントがあるにゃ!」
「プレゼント?」
いつの間に用意していたのだろう、驚きでつい声を上げる。
「そうにゃ、俺っち達のギルド名がまだ決まってにゃいにゃ。」
「そういえば、桜木達はもう決まってるもんな。」
ダルタニャーからの突然の意見に、樹が納得する。
「そうにゃ、プレゼントは俺っち達のギルド名にゃ!」
「それは…最高のプレゼントだ。」
ダルタニャーの提案に優が笑顔で答える。
「俺っち達のギルド名それは………」
ダルタニャーは満面の笑みを浮かべた。
そして、ゆっくりとその名前を口にする。
ダルタニャーから最後のプレゼントを受け取った僕たちは、
ダルタニャーやアンナ女王、その他NPCに見送られながらゲートへ足を踏み入れた。
遠ざかっていくフォルクシュタイン城。
最後に聞いたその名前に、僕たちは思わず顔を見合わせる。
「……いい名前だ。」
優が嬉しそうに笑う。
「ああ、俺も大好きだ。」
樹が大きく頷き、
「ダルタニャーらしいね。」
聡も静かに微笑んだ。
(まったく……)
(最後まで、ダルタニャーらしいな。)
光はさらに強くなり、城も、銃士達の姿も、白の中へ溶けていく。
ダルタニャーが最後に何か叫んでいた気がする。
けれど、その声は光にかき消され、
僕にはもう聞き取れなかった。
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世紀歴20×0年4月16日 8時25分 フォルクシュタイン城 中庭
NPC ダルタニャー:side
4人はゲートを潜り、フロア4へと行ってしまったにゃ。
気分はとても爽やかなのに、なぜか心にぽっかりと穴が開いたみたいニャ。
(もしかして、これが寂しいって気持ちなのかニャ?)
(…………)
でも、もしそうだとしたら、
そんな気持ちを感じることが出来たのは、とても嬉しいことなのニャ。
「優、樹、聡、玲、おみゃー達に会えて、本当に良かったニャ。」
爽やかな晴天の下、俺っちは空を見上げる。
「どこへ行っても、
どんなに遠く離れても……
俺っち達は、ずっと仲間にゃ。」
(へへっ、なんだか照れくさいニャ。)
「俺っち達、五人のチーム――
『黒猫の宵』にゃ!」
爽やかな風が頬を撫でる。
もう姿は見えない四人へ向かって、俺っちは大きく手を振った…
これにて銃士編は一旦完結です!
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。
本当であれば各章をもっと短くまとめる予定だったのですが、
あれもこれもと詰め込んでいくうちに、
第2章は8エピソード、第3章は10エピソードという長さになってしまいました。
ですが、その分、第2章から張っていた伏線を第3章のラストへ繋げることができ、
現在とても満足しています!
今回の第3章では、三銃士を題材に、玲たちが初めて「NPC」と深く関わる物語を書きました。
特にダルタニャーとの出会いから別れ、そして最後に決まったギルド名「黒猫の宵」は、
自分でも思い入れの強い部分になりました。
※ちなみに「宵」という単語を選んだのは昼(人間の世界)と夜(未知の世界)の間。
現実とVRの間、人間とAIの間、NPCと仲間の間、そんな曖昧なものを表現したいと思い採用しました。
さて、次回の舞台となるフロア4は「白雪姫」を題材にした物語にしようと思っています。
「不思議の国のアリス」
「三銃士」
と続いてきたEDENの童話世界。
白雪姫の世界で、玲たち「黒猫の宵」を待ち受けるものとは一体何なのか。
そして彼らは、次のフロアを無事攻略することができるのか。
次回も楽しみにお待ちいただけると嬉しいです!




