Stage3-8 交わる虚実。
明日 9/12(土)
Stage3-9 従者の切り札。配信します!!
「楽園タイムズ…VOL.2!?」
隣で、情報誌の内容を読み上げた樹が大きな声を出す。
急な大声だったせいで、少しだけ僕の耳がキーンとなっている。
「なんや、ボスの居所分かってるやないか!!」
いつの間にかに僕の後ろから覗き込んでいた桜木も情報誌の内容に反応する。
桜木の大声により、情報誌の内容をまだ見ていないにも内容の一端が伝わる。
それにより、プレイヤー間でざわめきが広がりだす。
「おい、ボスの場所分かったってよ…」
「まじかよ、さっそく向かおうぜ。」
「だな、この前のやつの情報も正しかったからな…」
プレイヤーの多数は、情報誌の内容を素直に受け入れ、ボスの居場所をMAPに読み込ませようとしている。
対照的に、鳳、九条の表情は晴れない。
しばらく考え込んでいた鳳は、考えがまとまったようで口を開く。
「…………妙だな…」
鳳は見た目は子供、頭脳は大人の名探偵が言いそうなセリフの後に言葉を続ける。
「タイミングが良すぎる。」
その言葉に九条も頷く。
「確かに、あまりにも情報が伝わるのが早い…
どこから情報を知ったのかしら…」
鳳と九条が疑問を抱くのももっともだ、
かくいう僕も今回の情報誌には違和感を持たずにはいられなかった。
(でも、具体的にどこがおかしいのか言えないのがもどかしい…
何かが違う……でも思い出せない。)
うーんとうなっていると、先ほどの銃士の突入のまま開かれた扉から、
また誰かが勢いよく入ってきた。
「マンデンバーグ卿、容疑者への尋問が終わりました。
また、それによりクーデターの首謀者の潜伏先も吐きました。」
先ほどの銃士とは異なるベテランの雰囲気をまとった髭を蓄えた銃士は、
堂々とそう言ってのけた。
「よし、私も向かう、君たち新人銃士はしばらくここで待機してくれたまえ。」
マンデンバーグはそう言い残し、部屋を後にした。
残されたのは、僕達プレイヤーとマンデンバーグが残した楽園タイムズVOL.2。
その一枚の紙切れに、プレイヤー達がごった返す。
⦅おい、さっさとボスの場所行こうぜ!⦆
⦅だな、先越されないように⦆
四方八方から内緒話が聞こえてくる。
どうやら、ほとんどのプレイヤーはこの情報を信じるらしい。
(うーん、この違和感をはっきりさせないと、この情報の真偽を確認できない…)
プレイヤー達の説得の材料を見つけ出せず、行動に移せないでいると、
優が僕に何かを差し出してくる。
「これって…」
「楽園タイムズ創刊号、念のため取っておいたんだ!」
「優えもん(涙)」
できる幼馴染をもった感動で、むせび泣きそうになるのをこらえ
優がくれた創刊号と今回のVOL2を見比べる、
(やっぱり…)
かなと漢字の使い方、文章のノリ
そして何より、創刊号はプレイヤー達に注意喚起をしているのに比べ、
こちらは、意図的に焦らそうとしてる。
(少なくとも前回の編集部の文体じゃない。)
これを全員に説明しなくては…そう思い、プレイヤーの前に歩き出そうとした…
そんな僕の側を通り抜けて、鳳がプレイヤー全員の前に立つ。
「皆、少し私の話を聞いてほしい。
知っての通り「楽園タイムズ」は信頼のおける情報源だ、
しかし、今回に限ってはあまりにも情報が早すぎる。
ここは一旦我々に確認させてもらえないだろうか?」
「そんなこと言って、手柄を全どりするつもりじゃないのか!?
大体、どうやって確認するんだよ。」
背の高いひょろっとした男性プレイヤーが鳳に向かって意見する。
「もしこの情報が本物だったら、その確認してる間にボス倒されるぞ!」
(確かに、その可能性もあるよね。)
一人のプレイヤーが意見を述べたことで、それに追随して批判が鳳に浴びせられる。
「そうだそうだ!!」
しかし鳳は、表情を崩すことなく冷静に口を開く。
「もっともな意見だ。だが聞いてほしい、
実は我々は、フロア2の時に楽園タイムズ編集部に情報を提供している。
その時のパイプを使って、編集部に確認を取る。
そう長くは時間はかからない、我々に時間をくれないか。」
プレイヤー達からの質問に、鳳は堂々と、そして自信をもってそう答えた。
(フロア2のボス攻略は鳳達が中心となってやっていたからな、
ボスの情報を広めたのも鳳達だったのか…)
鳳の提案にプレイヤー達の3割ほどは納得していた、
しかし、前回の潜入クエストで明確な成果を出せなかったことを持ち出し、
不平不満をこぼすものも中にはいる。
この部屋にいるギルドは一枚岩と呼ぶには程遠い状態だった。
鳳はメニューを閉じ、皆へ向き直る。
「今、楽園タイムズ編集部に確認をとった!
もうしばらくだけ待って欲しい。」
鳳の提案により、広場の雑踏は少しだけ収まった。
だが、それも広間の扉が再び開けられるまでの一瞬の間だけだった。
「チェリー卿の潜伏している場所がわかったぞ!
フォルクシュタイン北西部にあるチェリー卿の宮殿、パリ・ロイヤルだ!!」
マンデンバーグより先に来た、ベテランと思われる銃士が述べたその場所は、
奇しくも楽園タイムズVOL2に記載されたマップの位置と同じだった。
「ほら見ろ!!」
「銃士団の情報と一致してるじゃねぇか!!」
「まだ疑う気か!?」
「もう待ってられるか!」
「お前ら!フロアボスはパリ・ロイヤル宮殿だ、俺に続け!!」
「よっしゃああ!!」
「急げ!!」
「先越されるぞ!!」
「MAP読み込め!!」
「「「「うおおおおおおおお!!!」」」
こうなってしまうともう遅い、雪崩が起きたようにプレイヤー達は我先にと部屋から飛び出る。
その流れは鳳や桜木、九条の力をもってしても、止めることは出来なかった。
大量の熱気を持ったプレイヤーの流出により、静けさを取り戻した大広間。
残ったのは《Queen's Board》《祭囃子》《白のカルミア》、僕達5人、そして少数ギルトが数個の
およそ40人ほどのみ。
何者かからの情報によって、僕達はまんまと戦力を分断されてしまった。
静まり返った大広間、
もう遅いが、さっき気が付いたことを全員に共有するため口を開く。
「皆、今回のVOL.2と創刊号を見比べて気が付いたことなんだけど…」
僕が見つけた、二つの情報誌の違いに残っているメンバーは納得してくれた。
「う~ん、まいっちゃったね~、戦力半減だよ~。」
本当に困っているのか困っていないのか、よくわからない口調で神宮寺がつぶやく。
「参ったわね、この情報誌が街で配られていたら、他のプレイヤーも宮殿に向かうでしょうね…」
九条の口調は神宮寺とは異なり、本当に深刻さを帯びている。
「今しがた編集部から返信が来た。
『VOL.2は現在作成中。
今日、このような情報誌は一枚も配布していない』そうだ。」
鳳からの確認の結果が共有されたことで、疑惑が確信となった。
「起こってしまったことを悔やんでも仕方がない、
私はグループチャットでこの情報を送り、プレイヤーが戻ってくるように連絡する。」
(敵の狙いが戦力の分断だけじゃないとしたら──。次に何を仕掛けてくる?)
「そういえばマンデンバーグ遅くね?」
樹は、いつも通りのマイペースな声で皆に尋ねる。
「確かに、出て行ってからもう30分は経ってる。」
ステータス画面のデジタルクロックを見ながら聡が返す。
「それに、さっきから外がなんか騒がしくない?」
神宮寺の言葉を聞き、耳を澄ませてみると、なるほど確かに城の中が騒がしい。
部屋から出て、広い廊下に出る。
ちょうど近くを通りかかった、銃士を呼び止め何があったのかを尋ねた。
「容疑者の尋問により、反乱首謀者の潜伏先が分かった。
マンデンバーグ卿の指揮により、城の銃士団が討伐隊を組んで
そこに向かっている。」
「なんだと!」
「おいおい、そりゃヤバイんとちゃうか!!」
「まさか!」
僕の後ろにいた、鳳、桜木、そしていつも冷静な聡ですらも、銃士の回答に驚いている。
そして内心焦っていたのは僕も同じこと。
プレイヤーだけではなく、この城の戦力までもが分断されていた…
(やばい、これ僕がやったことが結果的に裏目になってる…)
(二つとも、最初から敵が用意した同じ嘘だった…
偽楽園タイムズだけだったらまだプレイヤーや銃士達は留まったかもしれない…
でも容疑者の証言が重なったことで、二つの情報がお互いを裏付けてしまった。
本当なら別々に真偽を確かめるべきだったのに――。
なのに僕達は、一人の証言をそのまま信じ、
その内容が情報誌と一致したことで『真実だ』と思い込んでしまった。
その最初のきっかけを作ったのは――僕だ。)
「敵に、まんまと乗せられたっ、くそっ…」
EDENに来てからの初めての明確な大失敗、
その事実を理解した瞬間、背筋を冷たいものが走った。
(目の前の最適解を選び続ければ、
多少の詰めの甘さは、結果が覆い隠してくれる――。
そんな無自覚な楽観が、今この状況を作った……。)
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プレイヤー達の動きも、銃士団の出陣も止めることもできなかった僕たちは、静かな大広間で立ち尽くしていた。
すると、大広間の扉が開けられ、何やら誇らしげな顔をしたマンデンバーグが入ってきた。
「お前たち、まだこんなところにいたのか?
チェリー卿討伐隊はもう潜伏場所にむかったぞ?」
少し上機嫌に僕達に話しかけるマンデンバーグ。
どうやらこのお馬鹿さんは状況の悪さを理解していないらしい。
しかし馬鹿は、敵の作戦のアシストをした僕も同じ、口を開く気にはなれなかった…
「マンデンバーグさん、実は…」
鳳が現在入手した情報を、要点をまとめてマンデンバーグに伝える。
すると、みるみるうちにマンデンバーグの顔が青くなる。
「な、なんてことだ…姫様!!!」
そういうやいなや、部屋を飛び出す。
その姿はまるで脱兎のようだった。
「まあ、城から戦力を分断させたんだ…狙いはやっぱり女王になるよね、玲?」
聡が僕に同意を求める。
「うん…このチャンスを見逃すチェリー卿じゃない。
絶対に今日、女王の命を取りに来る。
そして、仕掛けてくるとしたら準備万端になったってことだ、
戦力を分断されたことによって、僕らは大分厳しい戦いを強いられる…。」
僕のその言葉を聞いたプレイヤーは神妙な面持ちで頷く。
(チェリー卿、頭のいいやつだ…こっちも何か手を打つ必要があるな…)
「もうすぐ夕暮れだ、黒幕が現れるまでもう時間はないだろう。
兵力は少ないが、出来る限りの準備をして挑もう。
緊急作戦会議だ。」
動揺しながらも、指揮を執る鳳、その姿は初めて会った時とは違う印象を覚えた。
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作戦会議は難航と化した。
理由は、フロアボス討伐を第一優先とするべきだという《白のカルミア》と、
女王の護衛を第一にするという意見の《Queen's Board》《祭囃子》の意見の対立だ。
「大事なのは姫さんを守り切ることやろ?
敵の大将を倒したかて、姫さんを守り切れなかったら本末転倒や!」
熱い意見を述べるのは《祭囃子》のリーダー、桜木。
「女王を守り切っても、フロアボスを倒せなければこのフロアは終わらない。
時間が経てばプレイヤー全員が危険に晒される。」
それに反論するのは《白のカルミア》鳳。
「なんや?自分らが良ければそれでいいって言うんか?」
「そうだ!そもそも俺らはNPCと仲良しごっこをしに来たわけじゃない、ボス優先して何が悪いんだよ?」
《白のカルミア》榊が桜木の意見に噛みつく。
「なんやと?」
「んだよ?やんのか?」
お互いにヒートアップし、一触即発の雰囲気…
「まあまあ、二人とも落ち着いてよ…」
間に入るのは、夜城君。
(ナイスガッツだぜ、現代のガンディー)
「二人とも落ち着け、そうじゃない、
護衛はNPCに任せればいい、その間に我々でフロアボスを倒すということだ。」
「兵力の差があるのでしょう?それでは女王を守り切れるという確証がないわ。」
《Queen's Board》の九条も議論に加わる。
3つのギルドの本音をぶつけ合う会議、
(会議は踊る、されど進まず…か。)
視線を移すとこちらも頭を抱えている猫型NPCが。
「ぐぬぬ、女王を守るか、黒幕を倒すか銃士の俺っちはどうすればいいのにゃぁぁ…」
悩んでいる人を見ると、なぜだか自分の心が落ち着く。
そのおかげで、情報戦で後れを取ったという事実を受け入れ、
いつもの思考が回るようになってきた。
(このギルド結成クエストでの最大のテーマは『団結』、
それぞれの正義がぶつかり合うこの会議で、ただ一つ正解を導き出すのは無理だ。
となれば…)
「皆、ちょっといい?」
僕が会議の外から声をかけたことで、
熱い議論をしていたプレイヤー達の視線が一斉に集まる。
真剣な視線、怒りの視線様々な視線が僕を刺す。
(そ、そんな怖い顔で見ないでよ…)
「女王の護衛優先も、ボスの討伐を優先とするのもどちらも正しいと思う。
ならここは、あえて一つに絞らず、両方同時にするのはどうかな?」
「ちょっと待ってくれ、今兵力が足りないから、
どちらか一方に絞ろうと会議しているのだろ?」
僕の提案に鳳がもっともな疑問を投げかける。
「確かに、兵力という数だけ見るとそうだ。
でも実際、個々の能力というものがある。これは数字だけでは表せない。」
「なるほど、それで具体的には?」
(人数では劣っていても、
適材適所なら同時に二つの戦場を支えられるはず。)
「プレイヤー全員でボスの攻略を行う、これは今までのボス戦と変わらない。
そして、各ギルドで最も戦闘に優れるお助けNPC、彼らに女王の護衛を頼もう。」
鳳からダルタニャーに視線を移し、言葉を続ける。
「彼らなら、きっと僕達の期待に応えてくれる。」
「俺っちに任せるニャ!!」
ダルタニャーは深く頷き、元気よく返事をする。
「なるほど、それはアリやな。
よっしゃ!アトシシ、もちろんいけるな?」
桜木が体育会系らしく、アトシシの背中をドンドンと叩く。
「粉骨砕身、彫心鏤骨!!必ず役目を果たして見せる!」
相変わらず暑苦しい、だが気合十分にアトシシは声を上げる。
「ポルティ…いける?」
神宮寺が、彼女の意思を確認するように問う。
「任せて欲しいワン!
必ず女王陛下を守って見せるワン!」
はっきりとした意思表示を見せたポルティを囲み、頭を撫でている《Queen's Board》の面々。
そのひと風景だけで、NPCとプレイヤーに確かな絆があることが分かる。
(彼らはこの国を誰より守りたいと思っている。
この場で女王を任せるなら、彼ら以上の適任はいない。
正直、不安要素は多い、だが、一緒に過ごした時間がその不安以上に期待させる。)
「どうかな?」
鳳に最終確認を行う。
「……認めよう。
この場において、これ以上の作戦はない。
君の案でいこう。」
短い沈黙の後、鳳は頷き、今回の作戦を呑んだ。
「ありがとう、それとは別にもう一ついいかな?」
僕のその一言で、再び視線の中心となる。
そしてその視線は『やっと上手くまとまったのに、なんなんだよ~』という目線が大半だった…(泣)
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世紀歴20×0年4月15日 17時55分 フォルクシュタイン城 玉座の間
日向 優:Side
「もうそろそろかな…」
フロア2から続いた、銃士のクエスト。
その最終ボスがもうすぐ現れるという緊張から、水は飲みたくないのにのどが渇く。
周りを見渡すと、プレイヤー約40人、女王の護衛を担当するダルタニャー達とマンデンバーグ
そして城に残っていた銃士団約50人が女王を守るように配置についている。
「来る、絶対に…」
静かに、だが確かに自信のこもった声でそう呟く聡。
玲もそうだが、彼らのこういう場面での鋭さは折り紙付きだ。
「玲は別行動か…」
樹の言う通り、今回のボス戦では女王陛下の護衛を務めるダルタニャーと共に、玲だけが別行動を取っている。
ダルタニャーはすでに女王陛下の側に張り付いており、それは僕らのいる部屋の真ん中からも見える。
だが、玲の姿はどこにもない。
チームがバラバラになるのは不安だ…でも…
「大丈夫、玲はいつだって僕達の切り札だ、必ず決めてくれる。」
僕のその言葉に、樹と聡は無言で頷いた。
デジタルクロックが18時となった。
その瞬間--一瞬冷たい風が吹き抜け、
それまで城内を明るく照らしていた、蝋燭の炎が一瞬にして消える。
「な、なんや急に!?」
「総員、戦闘態勢!!」
桜木君の動揺、鳳君の指示が玉座の間に響く。
それと同時に、城の鐘が時間を知らす。
《ゴーン、ゴーン》
鐘が鳴りやんだ一瞬の静寂…
その静寂とともに、その黒い影は僕達の前に現れた。
「おや?思ったよりも残っているな、
君たちは新人銃士達かな?」
とてもAIとは思えない、流暢な言葉…
窓から差し込む月光が、その影を照らし、ついに全貌を表した。
第9話に続く…。




