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Paradise Sixth ―楽園適性試験―   作者: 針々
第三章【銃士編Ⅱ】Waltz of the Black Cat

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Stage3-6 甘い罠。


⦅あいつは!!⦆


その男は―昨日、裏路地で怪しい取引をしていた二人組の一人だった。


⦅昨日裏路地で話していたのはこのことだったのか…

 よかった~、これで昨日の失敗をチャラにできた…))


(これからどうするの?ここであいつらを取り押さえる?)

目の前で取引が行われている現状、九条が小声で提案する。

取り押さえるなら、今が絶好のチャンスだ。


(いや、今回は、クーデターの首謀者を突き止めるのが任務だ。

 ここで下っ端を捕まえてもあまり意味がない…

 それどころか、こいつらを切って、そのまま雲隠れされる可能性がある。)

鳳は冷静に答え、次の指示を出す。


(あいつらに気づかれないように後退、

 ここから離れた場所にある箱の中身を確認しよう。


(((了解))))




侵入してきたときとは逆で、

今度は僕が先頭、鳳が殿で隊列を組む。

音を立てないように、静かに物陰を進み、

怪しい4人組がいた場所から距離をとった場所で立ち止まる。


(よし、箱の中身を確認してくれ!)


鳳の指示を受け、手分けして箱の中を開ける。


⦅う~ん、この箱の中は野菜か…外れだな…⦆


箱のふたを閉め、近くにある箱に手を伸ばす。

すると、九条が僕達を呼ぶ。


(皆、集まって!)


その声に集まり、九条が見ている箱の中をのぞいてみる。


⦅これは……⦆


箱の中に並べられていた白い袋。

見覚えのないものだったが、ただの商品ではないことは直感で分かった。


⦅もしかして薬物……?⦆


(麻薬だな……)

僕が言葉にするより先に、鳳が呟いた。


その一言で、先ほどまでただの怪しい取引だったものが、一気に現実味を帯びた。


(なるほど、これが黒幕の作戦か…)

クーデターの内容がなんとなくわかったのか、

鳳は察したように、箱の中に手を入れ、麻薬を手に取ろうとする。

しかし、麻薬をつかむことはできず、その手は空を切った。


(なぜだ!?)


箱の中には、赤い文字で《盗難防止オブジェクト》と表示されていた。

屋台に並んでいる料理や商品をプレイヤーが勝手に取れないように

ブロックをかけているシステムと同じだ…。


(くそっ、目の前に証拠があるのに…)

鳳は拳を握りしめる。

目の前に黒幕へ繋がる証拠がある。

それなのに、自分たちは指一本触れることすら許されない。


⦅証拠品を回収できない……。

つまり、このクエストは「見つける」だけでは意味がない。

必要なのは、達成するための条件を満たすことか……⦆


(どうする?あいつらのところに戻って、後を追うか!?)

目の前にある麻薬は証拠にならないことをいち早く理解した服部は、

代替案を僕達に提案する。


(そうだね、もしかしたらボスのところに帰ってくれるかも…)


服部の提案に3人とも賛成し、再び元居た場所に戻る。


音を立てないよう足早に戻ったが、

怪しい4人組の姿はもうそこには無かった。


(今日はこれ以上追うことは無理そうね…)

九条が呟く。


(仕方ない、退却だ。)

鳳の号令を受け、来た道を戻り、皆のまつ裏路地に向かう。


その最中、目の前を歩く服部に尋ねる。

(服部が確認した箱の中身はなんだった?)


僕が尋ねると、服部はすぐに答えた。

(俺が見たのは、果物、菓子、野菜だったな、

 あ、でもチョコレートだけ沢山入った箱があったな。)


⦅チョコレートだけ……?

 あの箱だけ、何か意味があるのか?⦆


ふと足を止めて、考え込んでしまう。

数秒考えたが、答えは出ず、

気付けば、3人はもう数メートル先まで進んでいた。


⦅やべやべ⦆


小走りで、3人の後を追う、

僕が追い付いた時には、もう倉庫の出口に差し掛かっていた。

壁に空いている隙間から、一人ずつ倉庫の外に出て、

裏通りまで走り抜ける。

裏通りには、出発前と変わらず、潜入組以外のメンバーが待機していた。


(どうだった、鳳?)


《白のカルミア》のメンバーだろう、

確か昨日の舞踏会にいた男子生徒が、鳳に成果を尋ねる。


(ここでは情報共有するには不都合だ、我々が拠点としている宿屋に行こう。)


鳳のその言葉で、裏通りを抜け、宿屋へと向かう。


======================================


白のカルミアが拠点としている宿は、

僕たちや桜木達が泊まっている安宿とは異なり、

格式高いホテルのような建物だった。


(めっちゃ稼いどりますやん!)


しかし、いくらこれほどの宿といえど、

4ギルド合同で作戦会議出来るほどの大部屋があるようには見えない。


どうやって会議室を確保するのかと心配したが、

その心配は杞憂で、宿の奥へ案内されると、

そこには30人ほど入れそうなミーティングスペースが用意されていた。


鳳に続き、ミーティングスペースに入る面々、

しかし、聡だけはドアの外に立ち、部屋の中に入ることなく立ち尽くしている。


(なるほど…さすが聡、抜け目がない。)


その様子を見て意図を察した鳳は頷き、聡を残したままドアを閉める。


総以外のメンバーが部屋に入ったことを確認した鳳は口を開く。

「よし、《祭囃子》は一番向こうの席に、《Queen's Board》は我々の隣へ、

 後のメンバーは空いている席に座ってくれ。」


(僕らはおまけかいっ!!)


鳳の指示を受け、ギルドの面々は各自席に着く。

ここで流れを止めても意味はない。

少し癪ではあるが、鳳の指示に従い、僕達も席に着く。

それと同時に、外にいた聡が部屋の中に入ってきた。


「どうだった?部屋の声聞こえた?」


「ドアに耳を当てても中の声は聞こえなかった。

盗聴される心配はないと思う。」


僕の問いかけに、答えつつ空いている席につく聡。

その様子をみて鳳が声を掛けて来る。


「ご苦労だった。もちろん我々もこの部屋が盗聴されないかは事前にチェックしていたが、

 その用心深さは評価する。我々のギルドにも欲しい人材だ。」


(いちいち癪に障る奴だ…)


「………」

聡は鳳の方向を一瞥し、無言で席に座る。

こうして総勢22名が席に着き、各ギルドの自己紹介を兼ねた作戦会議が始まった。


「ではこれより、フォルクシュタイン王国におけるクーデターを防ぐための作戦会議を行う。

 その前に、初めて顔を合わせるものもいるだろう、一人ずつ軽く自己紹介していこう。

 まずは私から、ギルド《白のカルミア》のリーダー鳳 悠真だ、よろしく頼む。」


鳳が自己紹介を終え、鳳の右隣りに座っている、白のカルミアのメンバーが口を開く。


(彼は確か、舞踏会の時に鳳を呼びに来た男子生徒…)


「榊(さかき) 大我(たいが)《白のカルミア》の副リーダーだ、

 協力はするが慣れ合うつもりはない、くれぐれも俺たちの足を引っ張らないでくれ。」


(めっちゃ嫌な奴じゃん!)


榊と名乗った男は、短く刈り上げた髪に浅黒い肌、まさにスポーツマンといった雰囲気で、

その高慢な態度で、一言で僕の中のヘイトが上がった。


榊の隣に座っている男子生徒が万遍の笑みをたたえながら口を開く。


「皆さん、初めまして、夜城(やじょう) 零(れい)です。

 《白のカルミア》で分析担当をしています。

 今日は現時点での第一線で活躍されているギルドの皆さんとお会いできて光栄です。 

 今からの会議を有意義なものにしましょう。」


夜城は色白で、中性的な整った顔立ちをしていた。

黒髪は少し長めで、前髪の隙間から覗く瞳は暗い夜空のようだ。

人当たりも良く、敵を作りそうには見えない。


(おお~、僕と同じ"れい"か。)

(鳳の仲間にもちゃんとした人間がいるんだな。

 やっぱり「れい」という名前の人間は常識があって人間ができているな(ウンウン))


僕が他人を褒めて自分の株も上げるムーブをしている間に、

自己紹介はどんどん進んでいく。

僕は例にもれず山田マイケルの偽名で自己紹介を流し、

会議はいよいよ本題に入った。


「今回の潜入で、我々は、麻薬の取引とみられる現場を確認した。

 取引を行っていたものは、位の高そうな男性NPCと盗賊らしき男女プレイヤーの3人だ。」


「麻薬だって……」


「これが黒幕の目的!?」


鳳から出た麻薬という単語を聞き、潜入していないメンバーが少しざわつく。


「今後、我々は麻薬の取引から黒幕へつながる情報をたどることにする。

 とりあえず、明日マンデンバーグ氏にこのことを報告、他プレイヤーへの周知をしよう。」


その後は、九条、服部、そして僕がそれぞれ確認した積み荷の内容を共有し、

フロア1・フロア2で得た情報を持ち寄った。

さらに、黒幕と思われるチェリー卿について知る限りの情報を出し合い、その日の会議はお開きとなった。


=========================================


鳳が宿泊している宿から出て、自分たちの宿への道を急ぐ。

歩きながら隣を歩く優が口を開いた。


「ねぇ、《白のカルミア》の夜城君ってさ……」


優が少し考えるように言葉を止める。


「なんか、少し玲に似てない?」


「あ、なんかそれ分かるわ!」

優の突拍子もない疑問に、樹が乗っかる。


(何を言っているのかこのボーイズは…)


「確かに…雰囲気は少し似ている…」

(聡まで?そんなに似てたかな…)


「そうかにゃ?俺っちはよくわからなかったにゃ」


「あのさぁ~君たち、僕みたいなプリティーな男子高校生がこの世に二人といるわけないじゃん!」



「いや、顔の話はしてないけど…」

優がしらっとした顔で冷静なツッコミをいれてくる。


(似てるかなぁ?確かに同じ名前だし親近感はあるけど…)


仲間たちからの言葉に納得できず、消化不良を起こしていると

自分たちの宿に到着した。


(ま、今日はここまでだな。)


今日も頑張った自分を労わりつつ、

素早く寝る準備を行い、ベッドに滑り込む。

毛布に包まりながら、皆のたわいもない会話を聞いていると、いつの間にか眠ってしまっていた…


==============================================


世紀歴20×0年4月15日 午前9時17分。


ベッドから起き、手早く身支度を済ませた僕達は、

マンデンバーグへクエストの進捗を伝えるため、フォルクシュタイン城へと向かっていた。


「いちいち歩いて行くのダルすぎ~!」

フォルクシュタイン城へ向かうのはこれで2度目、

街の中心部からどれほど離れているか理解している状態のため

思わず不満が口から出る。


「文句言わない、ちゃっちゃと歩く! 

 他のギルドも向かってるんだから!」

優がみんな頑張ってるんだからアンタも頑張りなさいと、お母さんみたいなことを言う。


その言葉を受け、しぶしぶ歩く。

道順を覚えていたため、一度目よりも短い時間で目的地にたどり着くことができた。


早速、マンデンバーグの待つ広間へと向かう。

広間の扉を開けた瞬間、昨日の夜会議を行った3ギルド、

そして、その他のパーティーもぞくぞくと集結していた。


(九条パーティーに桜木達、それに《白のカルミア》にその他大勢か…

 まさにオールスター集合……って、大激闘スマッシュシスターズかな?)


プレイヤーの集合が完了したタイミングを見計らい、

鳳が今回入手した情報を、マンデンバーグに報告する。


「マンデンバーグ卿、昨晩我々はフォルクシュタイン中心部の倉庫街で、

 怪しい取引をしている者たちを目撃しました。

 そしてその者たちが取引していた品は…恐らく麻薬です。」


(え、麻薬?)


(これ試験だよな?)


(闇が深くなってきたぜ…)


鳳の言葉を聞き、

昨日の潜入クエストに参加していない、

プレイヤーたちがざわつきだす。


「そうか、この国にそのようなものが持ち込まれていたのか…」

マンデンバーグはある程度予想していたのか、

驚いている様子はない。


「はい、システムの構造上、証拠品を持って帰ることが出来ず、

 怪しい者たちも取り逃がしてしまいました。

 私の不徳の致すところです。」


(はぁ~逃がしたの!?)


(偉そうなこと言って、なんも成果上げてないじゃん!)


鳳の報告を聞いたプレイヤー達の身勝手なこそこそ声が聞こえる。


(自分達は何もしてないのに評価者気取りですか…いいご身分だな。)


鳳のことを庇うつもりはないが、僕にも責任の一端はある。

プレイヤー達に言い返そうと口を開いた、その瞬間――


「ちょっと待って。昨日の潜入作戦、鳳君の指示は的確だった。

 結果を出せなかったのは申し訳ないけど、

 彼だけを責めるのは見当違いよ。」


その一言だけで、広間の空気が変わる。


視線の先にいたのは、黒く長い髪をなびかせた九条かぐや。

黄金比と見紛うほど整った容姿に、思わず息を呑むプレイヤーも少なくなかった。


その圧倒的な存在感に、先ほどまで鳳を責めていた者たちは言葉を失う。


「そうや! こいつらは俺らの代わりに危険を冒して潜入してくれたんやで?

 感謝こそすれど、批判する奴なんているわけないよな?」


九条の一言に続き、桜木まで口を開いたことで、

さっきまで好き勝手言っていたプレイヤー達は、気まずそうに目を逸らした。


「……」


誰も返事はしない。

それが、この場の答えだった。


「うむ、その二人の言う通り、結果をどうこう言っても仕方がない。

 それに、荷積みの内容を確認できただけでも十分な成果だ。

 鳳、それにプレイヤー諸君ご苦労だった。」


マンデンバーグはこの回答に納得したようだが、

クエストの進捗画面は出てこない。


(やっぱり黒幕を暴かなきゃダメか…)


鳳もわずかな期待を込めて報告しに来たようで、

若干表情が曇っているように見える。


「我々は引き続き、麻薬の出どころを追います。」


「うむ、健闘を祈る。」


マンデンバーグからの言葉で、今日の報告会は一旦終了となった。


少し聞いておきたいことがあったため、

プレイヤー達が次々と広間から出て行く波に逆らい、

僕達はマンデンバーグの近くに向かう。

マンデンバーグの近くには鳳達《白のカルミア》、《Queen's Board》、《祭囃子》

その他情報交換を望む数名のプレイヤー達が残っていた。


彼らを素通りして、マンデンバーグに話しかける。


「おはようございます。

 今日はアンナ…じゃなく、女王陛下は城におられるのですか?」


(昨日の潜入イベントがあって、話が進んでいないわけがない。

 きっと何かが起ころうとしている…

 となると一番危険なのは…)


「ああ君か、うむ、女王陛下は本日孤児院の子供たちに食料を持って行く公務につかれている。」

 僕の突拍子の無い問いかけにマンデンバーグは怪しむ事無く答える。


「孤児院の子供たちに会いに行ってるちゅーのか!立派な姫さんやで!!」

近くで僕達の会話を聞いていた桜木は素直に感心の声を漏らす。


「ちなみに、その食料というのはどのようなものでしょうか?」


「なぜ、そんなことを?

 まあいいだろう、そうだな今日の献立は、シチューに大麦のパン、野菜のサラダ。

 それと…デザートにチョコレートだと聞いている。」


「「「「チョコレート!?」」」」

昨日の会議に出席していたメンバー達の驚きの声が重なる。




(嫌な予感が的中した。クーデターは、もう始まっているのか……!)




第7話へ続く。



















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VRゲームあるあるのアイテム盗難問題に対してのアンサーとして、取れないオブジェクトは凄くいいと思います。
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