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Paradise Sixth ―楽園適性試験―   作者: 針々
第三章【銃士編Ⅱ】Waltz of the Black Cat

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Stage3-5 揺らぐ王冠。


フォルクシュタイン城の中庭にて休憩中の僕達は、

木陰に寝転び、少し早いシエスタをしていた。


「ふふっ、昼寝には少し早いんじゃないでしょうか?」


聴き慣れぬ女性の声に目を開くと

そこにはーー


この国の女王、アンナの顔があった。


突然の女王陛下の登場と、昼寝を決め込んでいたところを見られたことで、

思わず口を開けたままフリーズしてしまう。

他の4人はどうだろうと周りを見渡すと、豆鉄砲を喰らった鳩が4羽そこにはいた。

(いや、僕も含めて5羽か…)


「じょ、女王陛下!!

 違うのにゃ、俺っちたちは決してサボっていた訳

 じゃなくて…」


ダルタニャーは今はほんの少しだけ休憩していただけなのだ、と必死にアンナに説明している。


「ふふ、そんなに慌てなくて大丈夫ですよ。

 物事には切り替えが大切です。

 休む時は思い切り休んで、動く時は全力を尽くすことが大切だと私は思います。」


「よ、よかったニャ……」

アンナ女王の寛大な御心に感謝するダルタニャーと僕たち。


それにしても、こんな場所に女王自ら何の用だろう。

そう思い辺りへ目を向けるが、女王を守る騎士の姿は見当たらない。

傍らに控えているのは、二人の侍女だけだった。


(女王なのに護衛つけてないんだ……)


ふと疑問に思い、口を開く。

「女王陛下。護衛の騎士をお連れにならず、どうされたんですか?」


「ああ、そのことですか……。

新しく銃士になった貴方方はまだ知らないでしょうが、

後々耳に入るでしょう。今、私の口からお話しします。」

そう言うとアンナ女王は、僕たちの輪の中へ腰を下ろした。

すぐに話し始めるのではなく、一度空を見上げ、小さく息をつく。


その横顔を見て、舞踏会での姿を思い出した。

遠くから見たアンナ女王は、気高く、近寄りがたい存在だった。

しかし、こうして間近で話してみると印象はまるで違う。

身なりや所作には確かに気品がある。

それでも、時折見せる柔らかな笑顔や穏やかな口調からは、年相応の少女らしさが垣間見えた。

「今日はいいお天気で、いい風ですね…」


「そうですね…」

女王の何気ない一言に相槌をうつ。


木々を揺らす風が、僕たちの間を静かに吹き抜けていく。


穏やかな時間だった。


「コホン」


アンナ女王が小さく咳払いをする。

その音を境に、僕たちも自然と聞く姿勢を取った。


「今、この国は二つに分かれています。

 もちろん、それは地理的な話ではなく、政治的な意味で……です。」


女王の表情から笑みが消える。

僕たちは自然と背筋を伸ばし、その言葉に耳を傾けた。


「そうなった理由、それは……」


一拍置き、アンナは静かに告げる。


「実は、私が先代国王の実の娘ではないからなのです。」


(((((!!))))))


話を聞きながら、僕は頭の中で内容を整理する。

先代国王には実子がおらず、さらに国内で流行した疫病によって、

王位継承権を持つ王族も次々と命を落とした。

王位を継ぐ者を失った王国が最後に選んだのは、

王家の遠縁にあたる少女――アンナだった。


「当時十五歳だった私は、マンデンバーグと共にこの城へ来て……気がつけば女王になっていました。」


アンナはどこか他人事のように微笑む。


しかし、その決定を快く思わない者も少なくなかったらしい。


さらに、つい先日の首飾り盗難事件。

もし首飾りが見つからなければ、アンナ女王への反発はさらに強まり、王位すら危うくなっていたという。


「その件については、あなた方に本当に感謝しています。」


アンナは深々と頭を下げる。


慌てて僕たちも頭を下げ返した。


「今、私が女王であることで、この国は不安定な状態です。」


そう言ってアンナは木々の隙間から見える青空を見上げる。


「私が護衛を付けないのは、この国の人々を信頼しているという意思表示なのです。」


木漏れ日がアンナの横顔を照らす。


「今の私にできることは……これくらいしかありませんから。」


 弱冠十五歳で女王となった少女。

その細い肩に背負わされたものは、僕の想像よりずっと重かった。


「マンデンバーグから無茶なお願いをされていると聞いています。

 無理をせず、自分の身を第一にしてください。」


そう言い終えると、女王アンナはゆっくりと腰を上げた。

そして、先ほどまで座っていた木陰を見渡し、小さく笑う。


「少し休めたようで何よりです。」


穏やかな笑みを残したまま、アンナはゆっくりと立ち上がる。

お尻についた草を軽く払うと、侍女を伴って歩き出した。


木漏れ日の中、その後ろ姿はどこまでも小さく見えた。





「立派な女王様だ…」

樹が女王の後ろ姿を見ながら呟く。


「健気だね…応援したくなった。」

いつも冷静な聡がNPCに感情移入している

珍しい…。


「絶対、絶対俺っちが守ってみせるにゃ」

忠誠を尽くせる主人の姿を見たことでダルタニャーはさらに気合が入っている。


「女王に忍びよる影、僕らが払わないとね!」

優の意思表示に皆んなが頷く。


(十五歳の少女を女王に据え、正統性を疑わせる。

 あとは頃合いを見て引きずり下ろすだけか。

 ……なかなか狡い手使うじゃん。)


自分と同じタイプの手法に思わず頬が緩む。


黒幕の目的は見えた。

あとは、その尻尾をどう掴むか――。


(ちょっと考えてみるか…)



ーーその時



優のグループチャットが鳴る。

その一音を皮切りに、次々と新しいメッセージが流れ始めた。


優が画面を見ているのを、僕たちも背中越しにのぞき込む。

どうやら、黒幕の情報は僕達がつかんだものと大体同じみたいだ。


「どうする?女王陛下から聞いた話に情報共有しておく?」

画面から目を離し、こちらを振り向いた優が皆んなに尋ねる。


「いいんじゃない?可哀想な女王様の身の上話をしておけばプレイヤーのカンフル剤になるだろうし、

クーデターにプレイヤーは関ってないと思うし。」


(クーデターの発生時期と、僕達がこの世界に来た時間にはズレがあるからね。

プレイヤーが黒幕側に関与している可能性は低い。)


「素直に女王様のこと、みんなにも知ってほしいって言えばいいのに…」

優は、都合よく僕の言葉を解釈して笑う。


「じゃ、そういうことにしといて!」


「適当すぎ…」

 

「このチャット…」

聡がグループチャットの一文に何やら注目している。


(なになに?)


『王都の裏通りで度々怪しい取引が行われている。

 クーデターに関係している可能性が高い』…か。


その文章を見て、

ふと、この王都に来てすぐの様子を思い出す。


(ああ、そういえば…)


「裏路地で怪しい取引か…僕も見たな…」


「「「「えぇ!?」」」」


「「なんで言わなかったんだ(ニャ)!」」


樹とダルタニャーに詰め寄られる。


「だ、だってクエストの大筋に関係無さそうだったし…」


2人の勢いに思わず後ずさる。


「今すぐその取引の元に向かうニャ!」


そういうわけで休憩は終わり!

フォルクシュタイン中心部に向かい、

情報収集をしているであろう他のプレイヤー達と合流する。



=======================


待ち合わせ場所の噴水前には、すでに15人ほどのプレイヤーが集まっていた。

もちろんその中にはギルド《白のカルミア》もいた。


噴水の台に立った鳳に集まったプレイヤー達の視線が集中する。

「皆んな!情報収集ご苦労だった!

 集めた情報を整理すると、裏路地で怪しい取引をしている目撃証言があった。

 手分けして裏路地を探して、その取引現場を探して欲しい。

 見つけた場合、我々に連絡してくれ!

 この事件の闇は深い。情報を持った者が単独で動けば、相手に警戒される可能性がある。

 くれぐれも1パーティーだけで解決しようとは考えないでくれ!」


そう言いながら鳳は最後にチラリと僕らの方を見る。


(なんで、君らにいちいち連絡しなきゃならないんだよ…)


鳳への悪態をつきつつも、表面上は彼の指示に従い、裏路地の捜索に入る。

僕たちはまず、先日僕が怪しい取引を見かけた場所に向かった。

人通りの多い大通りを抜け、裏路地へと足を踏み入れる。

大通りから裏路地に入った瞬間、相変わらず嫌な視線が肌にまとわりつく。


「確かこの前はこのあたりで…」


足を止め、周囲を見渡す。


「流石にもういないよな…」

分かってはいたが、このクエストはそんなに甘いものではないらしい。


その後も、しらみ潰しに裏路地を捜索したが、

それらしい取引現場を発見することはできなかった。


(くそ〜、あの時何かヒントを見つけておけば…)


今更そんなことを考えても後の祭り、

でも未練がましく考えちゃうよね〜。

……と、自分に言い訳をしながら。

今日はもう遅いということで、

フォルクシュタイン都市部にある宿屋に泊まることにした。


=========================================


その宿には大衆浴場が併設されており、

疲れを癒すため、僕たちはそこで一日の疲れを流していた。


「はぁー、結局収穫無しか…」


「今日は南側を探したから、明日は北側に行こうか…」


樹と優が今日の振り返りと明日の予定を、大きな風呂に入りながら話し合う。

すると湯気で顔がはっきり見えなかった隣の男が話しかけて来る。


「なんや、兄ちゃん達も収穫なかったんかいな?」


「おお!桜木!!」


「樹!元気そうやないか!」


「お前もな!」


ガハハと笑いながらお互いに肩を叩き合っている。


(いつのまにかめっちゃ仲良くなってる…)


「いやーそれにしても、兄ちゃん達が教えてくれた姫さんの話、泣かせてくれるやないか!!

 女王様っちゅうても、俺らと同い年くらいのまだ十代の女の子やろ?」


「だよな!響いたよな!」


「ああ!漢、桜木龍二、姫さんを守らなければ一生の恥!必ず黒幕を暴いたるで!」


女王様の苦労話は、桜木に効果抜群だったようだ…


(単純な男だと思っていたけど……)

(いや、単純だからこそ、人の想いに真っ直ぐなのかもしれない。)


『ピコン!!』


優と桜木のチャットの音が鳴り、

ポップアップが開かれる。


「なんや?おお!鳳からや!」


鳳という単語に反応し、耳を傾ける。


「なになに、『先ほど、怪しい取引をしている2人組を発見した。

現在、ギルド《Queen's Board》と共に追跡中。

応援に来られるプレイヤーは以下のマップのところまで集合せよ』だってよ!、

やるじゃねぇか!《白の()()()()》!!」


「カルミアね、そんな牛乳と合いそうな名前じゃないから…」


桜木のとんでもない言い間違いに思わず突っ込んでしまった。


(でもいいねその言い間違い、

 今度、本人の前で使ってやろう。)


「よっしゃ!俺ら《祭囃子》も参戦するで!

 まっとけや、《白の()()()()》!」


(もう突っ込まないぞ…)


「兄ちゃんらはどうするんや?」


桜木が僕たちを見つめ、質問して来る。


「もちろん行くぜ。」


その問いに樹は迷いなく答える。


(じゃ、行きますか…)


風呂から上がり、手早く準備を済ませた僕たちは

宿屋の外で待つ桜木以外の《祭囃子》のメンバーと合流した。

すると、桜木と同じくらいの身長の男子生徒が声をかけてきた。


「遅いぞ、龍二!

 お、そっちにいるのはチーム山田やね?

 フロア1では世話になったな!」


(ああ、フロア1のボス戦の時桜木の近くにいた)


「俺は服部(はっとり) 勇吾(ゆうご)

 よろしゅうな!」


服部の自己紹介が終わりこちらも挨拶をしようかと口を開くと、服部の後ろから獣人NPCが顔を出す。


「我が名はアトシシ!

この国に仕える牙である!

仲間を守るためならば、我は何度でも突き進む!」


(暑苦しいやつきた〜。)


どうやら桜木達のお助けNPCはこの猪をモチーフとした獣人らしい。

桜木達にピッタリだな。


「俺っちはダルタニャー、夢は女王付きの銃士になることニャ!」


お互いのマスコットが自己紹介をしている間に、

桜木、服部以外の《祭囃子》のメンバーと会釈する。

僕はこう見えても挨拶や目上の人への態度などはちゃんとしているタイプなのだ。





顔合わせを軽く済ませ、《白のカルミア》と《Queen's Board》の待つ場所へと向かう。


(さっきは軽く流しちゃったけど、クイーンズボードって誰のギルドだろ?

 まあ、行けば分かるか…)


裏路地を抜け、鳳との集合場所へ向かう。

夜の裏路地は全く人けがなく、月の光も差し込まない完全な暗闇の世界だった。


ギルド《祭囃子》のメンバーと、僕達5人固まりながら暗い裏路地を歩く。

しばらく歩き、MAPの合流地点付近まで来ると、プレイヤー達が集まっているのを見つけた。


(オウ、鳳のあんちゃん、怪しい連中を見つけたんやってな。)

追跡中のため、大声は出せない。

そのことを理解している桜木は小声で鳳に話しかける。


(ああ、あの倉庫に怪しい二人組が入っていくのを見た。

 今からメンバーを選定してあの中に潜入する。)


(わかった、メンバーはどうやって選ぶんや?)


(今いる4パーティーから一人ずつ選抜しよう。)


(ちょっと待って。即席の四人より、

普段から連携している一パーティーを送り込んだ方が、潜入成功率は高いんじゃない?)

僕が鳳の提案に待ったをかける。


(それも一理ある…が、この潜入ミッションは難易度が高い。

 各パーティーの手練れが向かった方が良いだろう。

 それに、もし潜入が失敗しても、一つのギルドだけの責任にはならない。

 

 失敗をチクチク攻めてきそうなパーティーもいるしね。)

鳳は肩をすくめ、小さく笑う。



はて?誰のことを言っているのかな鳳君?

……まあ、他のパーティーが失敗したら、僕だったらお小言の一つや二つは言うと思うけど。



僕たち5人で相談した結果、潜入役は僕が務めることになった。

ギルド《祭囃子》からは服部、

《白のカルミア》からは鳳、

そして、《Queen's Board》からは…九条が参加することになった。


(《Queen's Board》って九条さんたちのギルドだったんだね。)

もはや顔なじみと言っていいだろう関係性の九条 かぐやに声をかける。


(そうよ、まあ私が考えたんじゃないけど…)


("Queen's Board"……女王の盤、チェスのことだね、かっこいいじゃん。)


(ありがと、さあ、集中していくわよ。)


集中に入った九条に続き、僕も気を引き締める。


(よし、行くぞ!)


鳳の号令に続き、僕達4人は裏路地から飛び出した。


===================================================


近くで見た倉庫は大きいが、とても古びており、

所々人ひとりが通れるほどの隙間が開いていたため、

潜入すること自体は難しくなかった。


倉庫の中は空気の通りが悪いのか少し埃っぽく、

喉に絡みつく埃の感覚が、データの世界とは思えないほど不快だ…。



(皆!こっちだ!)

鳳が先頭に立って歩く。

隊列は、鳳、九条、服部、そして僕の順だった。


周りを警戒しつつも、ついて行くだけで良い楽ちんな任務だったため、

服部の背中をみて考え事をする。


⦅服部か……。

名前のイメージだけなら潜入のプロだ、

忍術とか使えそうだし…⦆


どうでもいいことを考えながら歩いていると、不意に前が止まった。

気付いた時には、服部の背中へ軽くぶつかっていた。


(ごめん!)


(ええって!気にすんな!)


なぜ急に先頭が止まったのか、

物陰に隠れながら、様子を見ていると

なるほど、怪しい4人組がなにやら箱の中を見て話し合っている。


「うむ、確かにこれは質がいいものだな…」

倉庫内は暗いため、顔は良く見えない、だが口調からして

なかなか身分の高そうな男が喋っている。


⦅あれ?なんかこの声聞き覚えがあるな…⦆


「ああ…ここまで持ってくるのに苦労したぜ…」

こちらはいかにもって感じの男の声だ


「これならばあの方も満足されるだろう…」


「アタイ達の取り分も期待できるんでしょうね?」

口調が乱暴な女の声も聞こえる。


⦅こんな人けのない場所で、怪しい取引、

 そして密輸…おそらくあの箱の中身は…⦆


箱の中身に見当がついた、その時だった。

ボロ倉庫の所々開いている壁の隙間から隙間風が流れ込み、

僕たちが隠れている、荷箱の上に置かれていた缶詰が、運悪く落ちてきてしまった。


「カラン…」


缶は空だったらしく、静かな倉庫に子気味良い音が鳴り響く…


「誰だ!!」

身分の高そうな男がこちらに向かって歩いてくる。


⦅あわわわ…⦆


どうする?どうする?と4人で顔を見合わせていると、

他の3人の目線が僕に集中する。


⦅なんでだよ!!⦆

⦅でもなんとかしなきゃ…⦆


こうなれば仕方ない、僕の百八の特技の一つ…

小さく咳払いをして喉を整える。


⦅いくぞ!⦆


「みゃぁ……」


(やばい、ちょっと裏返っちゃった。)


ドキドキしながら男の反応を待つ…


「なんだ、猫か…」

身分の高い男は納得したのか、踵を返し、元の位置に戻ろうとする。


⦅これ上手くいくことあるんだ…ってあれ?⦆


その時、月明かりが、一瞬だけ男の横顔を浮かび上がらせた。


⦅あいつは!!⦆


その男は――昨日、裏路地で怪しい取引をしていた二人組の一人だった。




第6話に続く!


























 

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