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Paradise Sixth ―楽園適性試験―   作者: 針々
第三章【銃士編Ⅱ】Waltz of the Black Cat

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18/19

Stage3-4 這いよる影。


世紀歴20×0年4月14日 午前8時30分。


昨晩、女王アンナの計らいによりフォルクシュタイン城へ泊まった僕たちは、

翌朝の朝食まで城でもてなしてもらえることになった。


城の食堂へ足を踏み入れると、すでに始業前の騎士や侍女、

料理人たちが思い思いの席で食事を楽しんでいる。

長いテーブルが何列にも並ぶ広い食堂には、

焼きたてのパンの香ばしい匂いと、温かなスープの湯気が立ち込めていた。


僕たちも料理を受け取るため、長机の間を抜けながら配膳台へ向かう。


「「「「「おおぉ~!!!!!」」」」」


朝食はビュッフェスタイル。


スクランブルエッグ、焼きたてのウィンナー、こんがり揚がったフライドポテト、

数種類のフランスパンに色鮮やかなサラダ。さらにスープや果物、デザートまで並んでいる。


久しぶりに見る豪華な朝食に、五人そろって思わず歓声を上げた。


(これ全部食べ放題!?よし、この城にある食料、全部空にするわ!!)


食べ放題に来た男子中学生みたいなことを考えながら、料理を物色する。


(朝はやっぱり卵料理だよね~)


まずはスクランブルエッグ。

置いてあったスプーンを手に取り、山盛りに取ろうとした、その瞬間――。

すぐ横から伸びてきた別のスプーンと、危うくぶつかりそうになった。


「あ、ごめん」


「お、わりぃな……」


聞き覚えのある声に、僕は声の主へ顔を向ける。

そこにいたのは――大柄なリーゼント男。


「桜木……」


「おぉ、一条のあんちゃんじゃねーか!」


「桜木も城に泊まったんだ」


先にどうぞ、とジェスチャーをしながら、桜木に声をかける。


「ありがとな!」

桜木は豪快に笑いながら、スクランブルエッグを皿へ盛り付けていく。

「ああ。昨日は解散が遅かったからな。

 無理して街まで戻る必要もねぇと思って、全員で泊まることにしたんだ」


(全員……桜木のパーティーメンバーのことか)


そういえば昨日、鳳にギルド名が決まっていないことを馬鹿にされたっけ。

ふと、他のパーティーはどうしているのか気になった。


「桜木のギルドってさ、名前決まってんの?」


別に、名前が決まっていなかったら馬鹿にしてやろうなんて、断じて思っていない。

……ほんのちょっとしか。


「ああ! 俺たちにピッタリのやつを考えたぜ!」


桜木は得意げに胸を張る。


「その名も――ギルド《祭囃子》だ!!」


(おぉ~!)


「なるほど。桜木の地元は祭りが有名だもんね。まさに、名は体を表すってやつだ」


僕がそう答えると、桜木はなぜか驚いたような顔をした。


(……どうした?)


視線でそう問いかけると、桜木は少し意外そうに口を開く。


「ああ、いや……。あんちゃんって、人にあんまり興味がねぇタイプだと思ってたからよ」


「……」


「俺の地元のことを覚えてたのが、ちょっと意外でな」


(やべっ……ばれてる)


普段から人の顔や言動を観察する癖はある。

けれど、それを自分から認めるのはなんとなく癪だった。


「ま、なんとなくね……」


「がははは! なんとなくか! なるほどな!」


桜木はそれ以上追及することもなく、豪快に笑った。

そして、皿いっぱいに料理を盛り付けながら、

「ま、朝飯食って、今日も元気に気張ってこーや!」


「そうだね」


そう答えながら、僕も自分の皿へ料理を盛っていく。

昨日までの出来事を思えば、今日も何が起こるか分からない。


だからこそ――


せめて、今くらいは。

目の前の朝食を、喰らいつくす!!


===============================


朝食をたらふく食べた僕たちは、一息つくため、泊まっている部屋へ戻ってきた。


「ふぅ~、食った食った。」


部屋へ戻るなり、樹はベッドへ倒れ込み、お腹をさすりながら幸せそうに息を吐く。


「女王付きの銃士になれれば、ダルタニャーは毎日このメシが食べられるんだろ?いいな~~。」


呑気な感想を投げかけると、同じく満腹でベッドに寝転がっていたダルタニャーが苦笑いを浮かべた。


「そうにゃれば嬉しいけど、女王付きの銃士になるには、それはもう、とんでもない手柄を立てなきゃいけないのにゃ。」


「そっか~。頑張れよ……。」


「ありがとにゃ!」


樹は返事を聞き終えるや否や、大きなあくびをひとつ。


「ふぁぁ……。」


朝起きたばかりのはずなのに、あれだけ食べれば眠くもなるのか、まぶたがゆっくりと閉じていく。


「……zzz」


樹が完全に寝息を立て始めた――その瞬間。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【女王の勅令Ⅰ】


『国に這いよる影』


依頼主:マンデンバーグ


フォルクシュタイン城にいる、

女王の側近マンデンバーグに指示を仰げ。


▼Objective

・マンデンバーグと話す

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


楽しいひとときに終止符を打つように、新たなクエストが表示される。


「来たね…」


予想していたかのように、聡は小さくつぶやいた。


「じゃあ早速行こうか!」

眠りこけている樹を叩き起こしながら、優が支度を始める。

それに続き、僕達も手早く朝の準備を済ませ、部屋を後にした。


ダルタニャーの持つマップには、フォルクシュタイン城の内部まで詳細に載っており、

クエストを読み込ませることで、マンデンバーグの元へは容易にたどり着いた。

道すがら、銃士クエストを受けているプレイヤー達も次々と合流し始め、

僕達がその場所に着くまでには、50人の大所帯が完成していた。

そしてその中には、九条チーム、桜木チームそして――鳳率いる《白のカルミア》もいた。


プレイヤー達はマンデンバーグを中心に円をつくる。

プレイヤー達の準備が完了したタイミングを見計らい、マンデンバーグが口を開く。


「新米銃士諸君、ご足労感謝する。

 私は、姫さ…いや女王陛下の付き人であるマンデンバーグだ。

 以後、よろしく頼む。」


(姫様…?)


「さて、君たちに集まって貰ったのは他でもない。」


マンデンバーグはより一層真面目な顔になり言葉を続ける。


「今、この国でクーデターを企てているものがいる。」


「え?」


「クーデター!?」


周りを見渡すと、

クーデターという単語に反応したプレイヤー達はザワつきだす。

しかし、九条、桜木は黙って聞いている。

そして鳳はいつもの薄ら笑いを浮かべている。


「現在、この国は二つの勢力に分かれている。

 女王陛下に忠誠を誓う者たち。

 そして、クーデターを企てる反逆者どもだ。

 誰が味方で、誰が敵か――もはや我々にも判別がつかない。

 だからこそ、いずれの勢力にも属さぬ君たちに、この任務を託したい。

 クーデターを企てる者たちを探り、その正体を突き止めてほしい。」


マンデンバーグがそのセリフを言い終わるのと同時に、クエストのポップアップが開く。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【女王の勅令Ⅱ】


『反逆の足跡』


依頼主:マンデンバーグ


フォルクシュタイン城および

首都フォルクシュタインで情報を収集し、

クーデターの首謀者を突き止めよ。


▼Objective

・クーデターの容疑者を特定する。

・マンデンバーグへ報告する。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


マンデンバーグからの説明が終わり、次にやるべきことが決まると、

プレイヤーたちは次々と大広間を後にしようとする。


「皆、少し待ってくれ。」


その一言で、この場にいた全員の視線が、一人の白髪の少年へと集まった。


「私はギルド《白のカルミア》のリーダー、鳳 悠真だ。」


鳳は周囲をゆっくりと見渡し、落ち着いた口調で続ける。


「今回の任務は、調査範囲があまりにも広い。

それぞれが好き勝手に動けば、同じ場所を何度も調べることになるだろう。」


「だから提案がある。」


「ここにいる全パーティーで、得た情報を共有しようじゃないか。」


突然の提案に、大広間がざわめく。


「情報共有はいいけど、具体的にはどうやってやるんだ?」

そしてプレイヤーの中の一人が鳳に質問した。


その質問は予想していたのだろう。鳳は間髪入れずに答えた。


「EDENのメールシステムにはグループチャット機能が実装されている。

 各パーティーの代表者だけが参加するグループを作ろう。

 情報はそこで共有すればいい。」


「そんな機能あったのか……!」


「メールって一対一だけじゃないのか。」

EDENのシステムの知識、そしてそれを使いこなす技術を持つ鳳にプレイヤーの数人が驚きの声を上げる。


「そ、そういうことなら…」


大広間にいるほとんどのメンバーが納得し、

鳳は手際よく代表者たちをグループへ招待していく。

その際、鳳は僕たちに視線を向けることもなく、作業を進めていた。


「よし、では重要な情報が手に入ったらメールで共有しよう!

 解散!」


鳳の号令により今度こそ各自解散する。


次々と扉に向かうプレイヤー達に続き僕達も歩き出す。


(乗るしかねぇ、このビッグウェーブに!)


大広間を出て廊下に差し掛かった時、神宮寺に声をかけられる。


「ねぇねぇ、君たちは今からどこに情報収集に行くの?」


そう問われ、優や樹は顔を見合わせている。

しかし、僕はどこで聞き込みをするかを決めていたので即答する。


「ここ。」

僕は足元を指差した。


「へぇ~フォルクシュタイン城内で聞き込みするんだ!」


「どうせ、歩くのが面倒くさいからなんでしょ?」


いつの間にかに近くにいた九条が口を挟んでくる。


(正解…)


「まあいいけど、しっかり聞き込みしなさいよ。」


「任せてください!

 この城にいる人全員に聞いて回ります!」

九条の声を聞きつけてやってきた樹が、僕の前に立ち宣言する。


「え、えぇ……、頑張りましょう」

九条は昨日あった嫌な出来事をもう引きずっていないのか、穏やかな笑顔で樹に答える。


「う……。」

九条の柔らかな笑顔を真正面から浴びた樹は、その場で固まってしまった。


「じゃ、僕たちは行くよ。」

優と一緒に樹を引っ張りながら、その場を離れた。


==========================================


とりあえず中庭へ移動した僕たちは、誰に聞き込みをするか話し合っていた。


「やっぱ、メイドさんたちがこの城について一番詳しいんじゃないか~?」


「確かに。メイドさんたちの噂話を辿っていくのもありだね。」


「俺っちも賛成にゃ!」


樹、聡、ダルタニャーが次々と意見を出していく。


(何もしなくても方針が決まっていく……実に楽だ。)


「玲はどう思う?」


油断していたところへ、優が話を振ってきた。


「そうだなぁ……今回はパーティー同士で情報共有することになったでしょ?」


「うん。」


「つまり、僕たちが聞き込みをしなくても、誰かが代わりに調べてくれるってことだよね?」


「というわけで――」


「中庭で昼寝することを提案します。」


「「「「却下!」」」」


(ワオ!息ぴったり。)


「ほら、さっさと行くよ。」


次の目的地は食堂に決まった。


(昼寝案、結構いいと思ったんだけど……。)


優たちが歩き出す。

僕はその後ろを、トボトボとついて行った。



中庭から食堂までは目と鼻の先だった。

五分も経たないうちに、目的の聞き込み場所へ到着する。

食堂では、五人に分かれてNPCへの聞き込みを始めた。


(さて、僕は誰に話を聞こうかな……)


食堂にいる面々へ視線を巡らせる。

メイドたちは昼食の準備に追われ、慌ただしく動き回っている。

一方で、少し早めの昼食を取っている人物が一人。


(あれは……)


「マンデンバーグさん、ですよね?」


「いかにも。君は?」


「食事中に失礼します。このたび銃士に任命されました――」


(……されてないけど。)


「一条です。」


「そうか一条君、聞き込みの調子はどうかね?」


「いえ、特にまだ進捗はありません、

 その前に、依頼主であるあなたからもう少し話を聞いておこうと思いまして。」


「ほう。それはなぜだね?」


「僕たちに『黒幕を探せ』と命じたということは、

 あなた方にもある程度の目星はついているはずです。

 手当たり次第に調べろという依頼ではありませんから。」


「そして、その黒幕は――」


「チェリー卿」


その名称を聞いた瞬間、マンデンバーグの表情に明らかに驚きが見えた。

そして、重々しく口を開く。


「確かに疑ってはいる…

 なぜそう思った?」


「銃士入団試験の中で少し話が出たので、言ってみただけです。」


「そうか…君も薄々感じている通り、

 チェリー卿は先代国王の頃からこの国に仕える重鎮だ、前々から裏の政治に精通してこの国を影から支えていた、ところが先代国王がなくなり、アンナ様に代替わりしてから怪しい動きが増えてきた。それが、今回の依頼につながっている。」


「お話いただきありがとうございます。

 僕達もできる限りのことをさせてもらいます。」


「うむ、新米の君達にこのような重役を押し付けるのは苦しいが、今は君達に頼る他ない。期待しているぞ」


マンデンバーグの言葉に頷き、席を離れる。

僕が話を聞き終わるタイミングで他の皆も聴き終わったみたいだ。


再び中庭に戻り得た情報を整理する。

どうやらメイドさん達に話を聞いたみんなも、

チェリー卿の黒い噂を聞いたらしい。

どうやら目標は決まったみたいだ。


「優、グループチャットはどんな感じ?」


「え?ああ、ちょっと確認するね。

 うーん、まだ誰も書き込んでないね…」


「誰かが書き込んだら僕達も書き込もう。

 それまでちょっと休憩!!」


1時間ほど聞き込みをしたため、少し疲れた。

無理やり皆んなを納得させ、

中庭にある木陰に腰を下ろし、ごろんと寝転ぶ。

目を閉じると、そよ風の音や木の葉が擦れ合う音、小鳥のさえずりが心地いい。


(ふぁーあ、ちょっと休んでお昼ご飯かな…)


「ふふっ、昼寝にはまだ早いのではないでしょうか?」

ふと、目を開けると、逆さまに見える女性の顔…



「「「「「アンナ女王!?」」」」」


女王陛下の突然の登場に、5人全員が驚きの声を上げた。



第5話に続く…















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