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Paradise Sixth ―楽園適性試験―   作者: 針々
第三章【銃士編Ⅱ】Waltz of the Black Cat

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Stage3-3 一と九の推理。


――ああ、お助けNPC?

 彼なら、もう倒したよ……――


その言葉を理解した瞬間、驚きと同時に、

これまで疑問に思っていたことの一つが解決した。



鳳が去ってから数分が経過し、神宮寺が口を開く。

「イベントクエストのNPCを倒すなんて馬鹿げてる…

 君もそう思うよね?黒猫君?」

驚きの表情を浮かべる神宮寺は、僕に賛同を求める。


「だから何なのその呼び方…


 お助けNPCを倒すか…

 確かに型破りだけど…理にはかなってるんだよね…」



「理にかなってるですって?どういう意味よ?」

お助けNPCを殺されたということに憤っている九条は、

少し攻撃的な声色で僕に質問してくる。



「彼ら、《白のカルミア》……だっけ?

 フロア2のボス攻略に参加していたんだよ。

 それも、開戦の瞬間からね……」


「!!」


「え? それの何がおかしいの?」


驚いた表情を浮かべる九条とは対照的に、神宮寺はまだピンと来ていないようだ。


(神宮寺つかさ。勘のいい人だと思ってたけど……僕の思い過ごしだったか?)


神宮寺にも分かるよう、僕は順を追って説明する。

「銃士入団試験の最終課題は、4月12日の午後10時から4月13日の午前3時まで。」


「うん。」


「問題は距離なんだ。ボスの発見報告が出たのは午前5時。

 そこから戦場までは、全力で走っても4時間近くかかる。」


神宮寺は指を折りながら時間を計算し始める。


「……あれ? じゃあ、開戦には間に合わなくない?」


その言葉を聞き、九条も同じ結論に辿り着いたのか、小さく息を呑んだ。


「そういうこと……。間に合うわけがないのよ。もし、開戦の瞬間からあの場にいたとしたら――」


「多分、あいつらは…」

九条はそこまで言って言葉を止める。

言いづらそうな彼女の言葉を、僕が引き継いだ。


「お助けNPCを倒すことで、イベントクエストをスキップしたんだ。」


「「!!」」


神宮寺とポルティが息を呑む。


「お助けNPCを倒すなんて……鬼畜ども……」

九条は唇を噛みしめ、怒りを滲ませる。

NPCといえども、フロア2からずっと旅を共にしてきた仲間だ。

怒るのも無理はない。


(間違いなく常軌を逸した方法だ……。

僕も含め、誰もそんな方法を思いつかなかった。

でも、結果としてボス攻略に間に合わせている。


正直、この方法を思いついた奴は――凄い……。)



衝撃の事実に、その場の誰も言葉を失っていた。



どこか遠くから、能天気な声が僕を呼んでいるのが聞こえてきた。



「おーい、玲?そっちにまだメシある?」

呑気な声を上げながら、樹がこちらへ歩いてくる。

その後ろには優、聡、ダルタニャーもいる。


「今ちょっとそれどころじゃないんだよ…あのね…」

さっきあった出来事を話そうとする。

しかしそれは樹の声によってかき消された。


「って、ええ!?か、かぐやさん!?

 ひ、久しぶりですね。」


「どうも…」

先ほどの話の後だ、九条のテンションが低い。


「あれ、この子は九条さんたちの助っ人NPC?

 初めまして、日向 優です。」

ポルティの姿を見た優が挨拶をする。


「こちらこそ初めましてだわん。

 ポルティだわん!」


その声に気が付き、ポルティの姿を一目見たダルタニャーが、

彼女の前に滑り立つ。


「お、お、俺っちはダルタニャー!

 将来の夢は女王付きの銃士になることにゃ!」


「よろしくだわん、ダルタニャー!」


樹、ダルタニャーはお互い九条とポルティに向き合い、

互いに意を決したように口を開く。


「あの、かぐやさん!」


「ポルティちゃん!」


(え、え、まさかここで!?)


二人の次の言葉を耳をかっぽじって待つ。


「「ご趣味はなんですか(ニャ)?」」


(お前ら…)


「こんなデスゲームの最中に合コンしてんじゃねー!!」

急なアオハル展開に思わず大声でツッコんでしまった。

僕の大声に驚いた周りのプレイヤーやNPCが一斉に僕を見る。


(は、恥ずかしい…)


「え~いいじゃん、合コンしようぜ~~!

 黒猫君の趣味はなにかなぁ~~?」

さっきまであんなにショックを受けていたのに、

もうケロっとしている神宮寺…この人も樹と同じタイプか?


「そのくだりはさっきやったからもうツッコまないよ!

 それより、さっきあったことを説明するね…」


================================


僕は、優達に鳳との会話の内容と、

その内容から推測したことをかいつまんで話した。



「まじかよ、絶対に許せねぇ!!」


「騎士道の片隅にもおけにゃいにゃ!!」


「イベントをスキップする為だけに仲間を…最低だ」


樹、ダルタニャー、優の反応は概ね予想通り、

相変わらず皆やさしくて安心した…。


(3人はこんな風に怒っている、これが普通だよな…

 じゃあ僕は?僕はどうなんだ?)


同じ話を聞いても、三人や九条たちとは違う感情を抱いている自分に疑問が生じる。

うーんと悩んでいると、聡が僕だけに聞こえる声でポツリとつぶやいた。


「ここまで割り切れる人間がいるのか……凄いな。」


(よかった…同族がいた…)


そんなことで安心する自分はきっと最低なのだろう…。

(それでも――)

誰にも言えないまま、その感情に蓋をする。


=====================================


舞踏会最後の一曲が終わると、楽団は静かに演奏を止めた。

先ほどまで響いていた笑い声や談笑も次第に途切れ、大広間は不思議なほど静まり返る。

その静寂を待っていたかのように、付き人を従えた女王アンナが玉座の間から姿を現す。

プレイヤーもNPCも自然と会話を止め、その姿を見守る。


女王はゆっくりと大広間の中央へ歩み出ると、穏やかな微笑みを浮かべながら口を開いた。


「皆様、本日の舞踏会はこれにて閉幕となります。


 プレイヤーの皆様のお部屋は、当城にご用意しております。

 このままお泊まりいただいても、お帰りいただいても構いません。


 本日はご参加いただき、誠にありがとうございました。」


女王アンナの閉会の挨拶を皮切りに、プレイヤーたちは次々と大広間を後にしていく。

時計を見ると、時刻はすでに午後十一時。今から街へ戻るには遅すぎる時間だ。

幸い、女王がプレイヤー全員分の部屋を用意してくれているらしいので、

僕たちも今日は城で一晩過ごすことにした。



「私たちも今日はここに泊まることにするわ。おやすみなさい。」


(さすが九条。そこまで親しい間柄じゃない僕たちにも、きちんと夜の挨拶をする。)


「黒猫君たち~、同じ屋根の下だからって、女子部屋をのぞきに来ちゃだめだぞ~。

 ではでは、グンナーイ♬」


(さすが神宮寺。期待を裏切らない適当さだ……。)


「おやすみなさいだワン! 良い夢を!」


(ポルティちゃん……君だけがこの世界の癒やしだ……。)





九条たちを見送ったあと、僕たちも用意してもらった部屋へ向かう。


女王が用意してくれた部屋は、

いつも利用している宿屋の部屋とは比べものにならないほど広かった。

五人で泊まっても十分すぎるほどの広さがあり、部屋の中央には大きなテーブルと椅子が並べられている。

壁際には立派なクローゼットが備え付けられ、天井には豪華なシャンデリアまで吊るされていた。

窓からは夜の王都を一望することができ、遠くには先ほどまでいた大広間の明かりも見える。


(これが王城の客室ってやつか……。

 いつも泊まってる宿屋とは、別世界だ。)


部屋の中を一通り見回してから、思わず感嘆する。


(これがスイートルームってやつか……。毎日ここがいい~。)


「俺、このベッド~~!」


樹が窓際のベッドへ真っ先に飛び込む。


「あっ、樹ずるいニャ! 俺っちも窓際がよかったニャ!」


同じく窓際のベッドを狙っていたのだろう。ダルタニャーが不満そうな声を上げる。


「悪いな、ダルタニャー。このベッドは一人用なんだ……」


どこかで聞いたような台詞でダルタニャーをあしらう樹。

もちろん納得するはずもなく、次の瞬間には二人の枕投げが始まっていた。


「やれやれ、本当にガキだな……」


呆れたように肩をすくめ、聡が二人を眺める。


「それな。枕投げをするなら、もっと戦略を立ててやるべきだよね……」


「いや、枕投げの戦略の話じゃないんだけど……」

聡は冷ややかな目で僕を見る。


(やだなぁ、冗談に決まってるじゃないですか……。)


(……まあ、半分だけど。)


心の中でそう呟くと同時に、


「それっ!」


手元にあった枕を聡の顔へ放り投げた。


「ぶふっ!」

枕をまともに受けた聡は、情けない声を上げながらベッドへ倒れ込む。


「いっひっひ~、油断は隙を生み、隙は破滅を導くのだよ、佐々木君。」


ドヤ顔で勝利宣言をした――その瞬間。


「うおっ!?」


背中に衝撃が走る。

振り向くと、枕を構えた優が、にやりと笑っていた。


「玲。先制攻撃は禁止だよ。」


「面白い……決着をつける時が来たようだな。」


「玲、お命頂戴する!」


「れ~い~。さっきはよくも~!」


気づけば樹とダルタニャーの戦場へ、僕と聡、そして優まで加わっていた。

五人の枕が大広間ならぬ客室を飛び交う。


こうして――


《大枕投げバトル in 王城の客室》の火蓋が切って落とされた。


===========================--


フロア2からフロア3への移動、女王への謁見。

そして華やかな舞踏会。

一日の締めくくりには、修学旅行のように枕を投げ合って騒ぎ回った。


盛りだくさんだった一日も終わりを迎え、部屋には静けさが戻ってくる。

さっきまで響いていた笑い声は消え、

暗くなった部屋のあちらこちらからは規則正しい寝息だけが聞こえていた。


窓の外では、王都の明かりが夜空を淡く照らしている。


(みんな、もう寝たか……)


枕に頭を預け、ぼんやりと天井を見上げていると──

視界の端にあるシステム時刻が24時を指した。


その瞬間。


視界の中央に、もはや日課となった無機質なポップアップが表示される。

ーーーーーーーーーー

SYSTEM NOTICE



受験者総数

215,389



有効受験者数

190,344

(前日比 −1,115)



不適合者数

25,045

ーーーーーーーーーー


日付が切り替わると同時に表示される、いつものポップアップ。

そこに記された数字を、僕はぼんやりと眺める。


今日の脱落者――1,115人。


(……1,115人、か。)


数字だけを見れば、ただの結果にしか見えない。


けれど、その一人ひとりに、この世界へ来る前の生活があったはずだ。


家族がいて、友達がいて、学校があって。

明日も当たり前のように続くと思っていた日常があった。


そのうちの1,115人が、今日この世界から消えた。



華々しいボス攻略の裏で、今日もまた千人を超える受験者が、この世界から姿を消している。


(……この世界は、やっぱりゲームなんかじゃない。)


そう思い知らされるような数字だった。



その人数を見た後、今日一日の振り返りをする。


今日出会った《白のカルミア》。

イベントNPCを殺して最短ルートを進む発想。

あの決断力も、実行力も、正直すごいと思った。

一歩間違えればイベントそのものを破綻させかねない危険な賭け。


それでも彼らは迷わなかった。


(いや……AIや人の心を操るという点で見れば、僕も白のカルミアも大差ない。)

(目的のためなら、手段を選ばないところも似ている。)

(……同じ穴の狢だ。)



それで他のプレイヤーたちから白い目で見られるとしても――


皆を守れるのなら、それでいい。




第4話に続く。


【告知】明日8/15(土)も新エピソードUPします!



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