Stage3-2 白の野心。
その先、玉座に腰掛けていたのは――
僕たちと同じくらいの年齢にしか見えない、一人の少女だった。
(え……どう見ても高校生くらいの女の子なんだけど……この人が女王陛下!?)
凛とした佇まいと、王としての気品は確かに感じられる。
だが、それでも若すぎる。
想像していた女王の姿とのあまりの違いに、僕は思わず言葉を失った。
周囲のプレイヤーたちも同じだったのだろう。
広間は静まり返り、誰一人として身動きひとつしない。
その沈黙を無礼と受け取ったのか、玉座の傍らに控えていた、
豪奢な礼服をまとった太った男が一歩前へ出る。
「貴様ら! 女王陛下の御前であるぞ! 速やかに跪き、頭を垂れよ!」
その一喝を合図にしたかのように、プレイヤーたちが一斉に跪き、頭を垂れた。
僕もそれに倣い、片膝をついて頭を下げる。
「お客様に失礼ですよ、マンデンバーグ。
皆さん、大変失礼いたしました。顔を上げてください。」
気品あふれる言葉遣いと、鈴のように美しい声が、頭を撫でるように降りてくる。
女王アンナの言葉を受け、プレイヤーたちはぞろぞろと顔を上げ、次の言葉を待つ。
「皆様、この度は我が国の銃士入団試験における暗躍の防止と、
我が国に代々伝わる首飾りの奪還、誠にありがとうございました。」
(あ、そういえば優たちが首飾りを見つけたって言ってたな……。色々ありすぎて忘れてた……)
「本日の舞踏会は、今回の皆様の活躍への褒美として、
銃士への入団と賞金の授与式も兼ねております。
では早速、マンデンバーグ。授与式の準備を。」
女王の命令を受けたマンデンバーグは、部下達に指示を与え、授与式の準備を始めた。
せかせかと動き回る侍女たちの邪魔にならないよう、
プレイヤーたちは部屋の端へそれぞれ散らばっていく。
そんな中、目の前を通り過ぎた侍女が、何やら袋をたくさん抱えている。
(もしかして、マネーが入ってるんじゃないですかねぇ……(ニチャァ))
貰えるものは貰っておく。
それが影原家の家訓なのだ。
コインをくれるというのなら、絶対に固辞はしない!!
そう心に誓いながら、
おそらくコインがたんまり入っているであろう袋を目で追っていると、
ふと、大広間の反対側にいる一人のプレイヤーと目が合った。
ショートカットのよく似合う整った顔立ち。
すらりとした体型から、一見すると男子にも見える
美男子系女子――神宮寺つかさ。
彼女は僕に気づいたのか、ひらひらと手を振ってくる。
――あちらがこっちを認識した瞬間。
僕はあくびをするふりをして、自然に神宮寺から目を逸らした。
(ギリギリセーフ。大丈夫、まだ気づかれていない。)
彼女はあの軽い言動とは裏腹に、
なかなか鋭い観察力を持っている。
そのため、僕は彼女を警戒している。
視線を大広間中へ走らせ、ほとぼりが冷めた頃合いを見計い、
再び神宮寺のいる方向へ目を向ける。
先ほど一瞬だけ視界に入っていたため、薄々気づいてはいた。
神宮寺の右隣にいるのは――九条かぐやだ。
(あの二人、本当に友達だったんだ……)
フロア2にいた時、バラバラのタイミングで彼女たちと出会ったため、
正直、二人の関係性を少し疑っていた。どうやら僕の思い過ごしだったらしい。
じっと二人を観察していると彼女たちは、
近くにいる女子たちと楽しそうに会話をしている。
彼女達も九条の仲間なのだろうか?
おそらく九条のパーティーメンバーなのだろう女子たちの顔を、
思春期の男子特有の、ねっとりとした気持ち悪い視線で観察していると――
一人の獣人型NPCが目に入った。
トイプードルをモチーフにしたのであろうそのキャラクターは、
僕たちと同じように装備を身にまとっている。
(なるほど……あれが九条のパーティーのお助け兼マスコットNPCか!)
九条パーティーだけでなく、向こう側に見えるプレイヤー全体の様子を見る。
(そういうことか…)
他のパーティーの様子を観察して、ようやく今受注しているギルド結成クエストの本質が見えてきた。
(このクエスト、女王は一人なのに、首飾りは複数ある。
最初はどうやって辻褄を合わせているのか疑問だったけど……。
お助けNPCの銃士入団試験を手助けする形で、プレイヤーたちがそれぞれの物語に介入する。
そして最終的には、全員がこの舞踏会へ集まるシナリオになっていたんだ……。)
(つまり、このクエストの目的は、単なるギルド結成イベントじゃない。
それぞれ違うNPCと関わりながら、プレイヤー同士を繋げること……。
そう――プレイヤー同士の『団結』。)
そしてこのクエストを管理しているNOAの真意…
これから先に待ち受ける試練に向けての、プレイヤー全員への忠告なのか……。
それとも――。
「皆様、授与式の準備ができました。こちらにお並びください。」
女王アンナの声に我に返り、他のプレイヤーに続いて列に並ぶ。
授与式は、ギルドの代表プレイヤーが女王に首飾りを返還し、
褒めの言葉を賜ったのち、舞台袖へはけて侍女から報奨金を受け取るという流れだった。
今、玉座で授与を受けているのは、
プレイヤー5人+NPC1人構成の九条パーティー。
代表は九条かぐやだ。
「かぐや、つかさ、いろは、ひより、いちか、そしてポルティ。
よくぞこの国に蔓延る闇を払ってくれました。
この国を守る新たな剣として、あなたたちを新たに銃士に任命します。」
片膝をついた九条は首飾りを女王に返還し、代わりに一振りの両手剣を受け取る。
(あの両手剣、ステータスどれくらいだろ……あとで確認しよ。)
授与を終えた九条パーティーの六人は、舞台袖へとはけていく。
女性五人と女獣人NPC一人という珍しいパーティーは、
本人たちの凛とした雰囲気も相まって、このフォルクシュタイン城によく似合っていた。
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一組、また一組と授与式が終わり、いよいよ僕たち五人の番が来た。
五人横並びで階段を上り、女王アンナの待つ玉座へ向かう。
優がアンナの目の前まで歩み出ると、僕たち四人は数歩後ろで立ち止まった。
事前の打ち合わせの結果、圧倒的なルックスを誇る優が代表を務めたほうが、
パーティーの格も上がるだろうという結論になったのだ。
優が身を屈め、片膝をつく。
それに倣い、僕たちも同じように片膝をついた。
「女王陛下、こちらが首飾りになります。」
優が首飾りを両手のひらに乗せ、女王アンナへ差し出す。
「確かに、承りました。」
アンナは首飾りを受け取ると、優たちを見渡した。
「この度の活躍、誠に大儀でした。
優、樹、聡、それにダルタニャー。
この国を守る新たな剣として、あなたたちを新たに銃士に任命します。」
(ん?あれ?女王様?僕ちん呼ばれてないよ!?)
……今週に入り、二度目である。
「そして従者、玲。
従者としての責務を、これからも全うしなさい。」
(ははっ、かしこまりました、女王陛下……。
って、誰が従者だ!!)
女王にまで従者いじりをされるとは。
マジでどうなってんの、この国!?
内心で怒り狂いながら、優が両手剣を受け取るのを見守る。
横目で見ると、優以外の三人は肩を震わせて笑っている。
(こいつら……あとで泣かすわ。)
こうして、僕たちの授与式は無事に終わった。
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授与式が終了すると、舞踏会は華々しく幕を開けた。
玉座の間から移動した大広間の中央では、
色とりどりのドレスに身を包んだNPCたちが、思い思いにダンスを踊っている。
優、樹、聡、ダルタニャーは、その様子を近くで見ようとどこかへ行ってしまった。
かくいう僕は――。
パーティーに並べられた豪華な料理を、やけ食いしていた。
「んったく……なんだって僕が従者なんだよ……」
口いっぱいにパエリアのような米料理を詰め込みながら、自分の扱いを嘆く。
それにしても、この料理美味しいな。
タッパーに入れて持って帰ろうかな……。
次は何をやけ食いしようかと料理を吟味していると、誰かに肩を叩かれる…
全人類の期待と尊敬を一身に背負う僕の高尚な肩を叩くとは、
いったいどこのどいつだ。そう思いながら振り返る。
――その瞬間。
肩を叩いた指が、あらかじめ狙いを定めていたかのように、僕の頬を優しく突いた。
「ひっかかった(笑)」
すごいデジャブ感…
こんなことをするのは、この世界でただ一人。
振り返った先には、けらけらと笑う神宮寺つかさがいた。
……これもまた、今週に入り二度目。
しかし今回は、僕の口の中には大量の米が入っている。
「ブッ!」
頬を突かれた衝撃で、少しだけ吹き出してしまった。
「うわっ!」
「汚い……」
神宮寺の隣にいた九条かぐやが、ドン引きしたように呟く。
(君たちが仕掛けてきたのに、それはちょっと酷くない?(泣))
口の中に残っているパエリアを水で流し込み、ジト目で二人を見つめる。
「なんか用?」
「相変わらずつれないな~。
女王陛下に従者認定されて落ち込んでないか、心配してきてあげたんじゃないか~」
(く、やっぱり見られていたか……)
「っていうか、なんであなただけ従者として認識されているのよ?
おかしいじゃない!」
(まじ、それな)
九条がもっともな疑問を僕に投げかける。
なるほど、このことを聞きに来たわけね。
「う~ん、そんなこと言われてもな~。
正直、僕にも思い当たることないんだよね。」
「ま、そんなことだろうとは思ったけど……」
(なら聞いてくるな。相変わらず嫌な女だ……)
九条を見ていると、ふと一つ聞きたいことがあったのを思い出した。
「ねぇ、九条さん。
君、フロア1のボスを最後に倒したよね?
何か二つ名ってもらわなかった?」
僕がゲーム開始後のチュートリアルでモンスターを倒したとき、二つ名を獲得した。
この二つ名が何を意味しているのか、ずっと気になっている…
フロア1のボスを倒した九条にも、何か二つ名が与えられているのではないか?
そう思って、聞いてみたのだ。
僕が質問をしたことにより、
優位に立った九条は、
意地の悪い笑顔を見せてこう言った。
「あら?その情報をあなたに言う必要ってあるかしら、山田マイケル君?」
(か、かわいくねーーーーー!!)
いけ好かない女だとは思っていたが、もう許せん!
僕のパエリアアタックを、もう一度食らわせてやる!
そう意気込んで、再び弾丸補充に向かおうとした、その時――。
「かぐやちゃん、そんな意地悪な言い方しちゃだめワン」
そのなんとも可愛らしい声に振り向くと、
九条パーティーのお助けNPC――ポルティだったっけ?――が立っていた。
「ごめんね、玲君。
かぐやちゃんは、ちょっと素直じゃないところがあって……。
許してあげてワン!」
トイプードル風の愛らしい見た目に、優しい言葉遣い。
うちの劣化猫型ロボットNPCとは大違いだ。
「僕もこっちのお助けキャラが良かったーーー!!」
思わず心の声が口から漏れてしまった。
……でも、しょうがないよね。
だって、みんな僕にイジワルしてくるんだもん!
荒んだ心に、ポルティの優しさが沁みる……。
日頃の不遇な扱いを思い出し、ちょっと泣きそうになっていると、
さすがにその様子を見て不憫に思ったのか、九条が口を開く。
「はぁ、もう分かったわよ。
私がフロア1のボスを倒して得た二つ名は、《女王のプライド》よ。
今のところ、まだ何もないけど……」
(ばかめ……僕の演技に騙されたな(笑))
「そっか! ありがとう、じゃ!」
聞きたいことは聞けた。
すたこらサッサとこの場を去ろうとした、その時――。
「やぁ、諸君。
なにやら楽しそうだね。私も混ぜてもらっていいかな?」
その声の方向へ振り向く。
そこにいたのは――
――白髪の男子生徒!!
フロア2のボス攻略戦で、プレイヤーたちを奮起させ、勝利へと導いた少年。
人の心理を操る術を持つ、要注意人物…
そんな彼のほうから、僕たちに接触してきた。
「初めまして、美しいお嬢さん方。
よろしければ、お名前を教えていただけないかな?
授与式では六人全員の名前を読み上げられたから、
誰が誰だか分からなくてね。」
(はぁ?何、その喋り方!?鳥肌立ってきたんだけど?)
白髪の男子生徒に名前を尋ねられた九条たちは、三人で顔を見合わせる。
何やら、互いに確認しているようだ。
「名前を名乗れというなら、まず自分から名乗るのが筋じゃなくて?」
三人を代表して、九条がもっともな返事をする。
(いいぞ九条!もっとやれ!ぼこぼこにしろ!)
更なる嫌な奴の登場により、
先ほどまで敵とみなしていた九条を全力で応援する。
僕の百八の特技の一つ、手のひら返しだ。
「ああ、これは失礼した。
私は鳳 悠真。
ギルド《白のカルミア》のリーダーをしています。
以後、よろしく……」
(カルミアだって!?)
そんな僕の驚きは知る由もなく、お互いの自己紹介が始まる。
「私は神宮寺つかさだよ!よろしく!」
「ポルティだワン!」
「私は九条かぐや。
で、そっちにいる人は……
そう、確か……山田マイケル君だったかしら?」
九条の自己紹介の流れに乗り、僕も名乗る。
「山田マイケル。よろしく」
「九条君、神宮寺君にポルティ君ね。よろしく……。
で、山田君だっけ? 君、ギルドには入っているのかい?」
ナチュラルに僕をハブった鳳は、僕を品定めするような目で質問してくる。
「入ってるよ」
「ふーん。ギルド名は……?」
「名前は、まだ無い。」
「名前もまだ決めてないのにギルドを組んでいるのかい?
君たちのレベルが透けて見えるね!」
鳳は何も知らないくせに、馬鹿にしたような口ぶりで僕たちを貶す。
(僕のことを馬鹿にするのはいい。
でも、他の四人を貶すことは許さない。)
「チームの名前が決まっていることと、
そのチームの力量には、なんの因果関係もないと思うけど。
それって、なんかソースあんの?」
「チームの団結力が足りないって言ってるんだよ……。
そんなことも分からないのかい?」
「君が言う君のチームの団結力も、あくまで主観でしょ(笑)?」
「クッ……生意気な奴だ……」
怒りを露わにし、鳳が次の言葉を口にしようとした、その時――。
「おい! 鳳!」
いつの間にか僕たちの近くまで来ていた男子生徒三人が、鳳の名を呼ぶ。
「どこで油売ってるんだ。もう行くぞ!」
その言葉に鳳は頷き、冷静さを取り戻したような表情で、もう一度僕の顔を見る。
「まぁいい。
我々のギルドがどれだけ優れているのか、
このクエストが終われば、おのずと答えは出る。
この先、生き残りたかったら、あんまり私を怒らせない方がいいよ……」
そう言い放ち、仲間たちのもとへ向かおうとする。
だが、その光景を見て、妙な違和感を覚えた。
(あれ……?)
違和感を心の中だけにしまっておくことが出来ず、
思わず鳳の背中に声をかける。
「ちょ、ちょっと待って。
君たち、お助けNPCは?」
僕の言葉に、鳳が足を止める。
――そして一言。
「ああ、お助けNPC?
彼なら、もう倒したよ……」
「…………」
(一瞬、意味が分からなかった。)
(イベントクエストのお助けNPCを……)
(倒した!!?)
僕が言葉を失っていると、鳳は薄っぺらい笑顔を浮かべ、九条たちへ視線を向ける。
「では、美しいお嬢さん方。
ごきげんよう、よい舞踏会を……」
そう言い残し、鳳は仲間たちとともに人混みの中へ消えていった。
その背中を見送りながら、僕はただ立ち尽くしていた。
第3話に続く!!




