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Paradise Sixth ―楽園適性試験―   作者: 針々
第二章 【銃士編Ⅰ】Masquerade Kingdom 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/19

Stage2-8 群衆は英雄を求める。



((皆大変だ!今日の朝、第2フロアのボスの居場所が見つかって、プレイヤーがボス討伐に出発したらしい!!))



優の声が、寝起きでぼんやりしていた頭に少しずつ染み込んでいく。


(討伐隊が、もう出発した……?)


ようやく状況を理解した。


(なんてこった……僕達が寝ている間に……。)


(でも、優はどうしてその情報を知ってるんだ?)


「ねぇ、なん――」


「どこでその情報を知ったの?」


僕が口を開くのと同時に、聡が尋ねる。


「実は朝ごはんを買いに街へ出たら、こんなものが配られていたんだ……。」


優はそう言って、一枚の紙を僕達の前へ差し出した。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

楽園タイムズ VOL.1

 世紀歴20×0年4月13日 5:00発行

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


EDENの最新情報をお届けする公式情報誌

『楽園タイムズ』本日創刊!


【速報】


第2Floor「Masquerade Kingdom」の

フロアボスを発見!


今朝未明、郊外の屋敷跡にて

大型モンスター


【Cardinal Cerberus】


の存在が確認された。


現在、有志プレイヤーによる討伐隊が結成され、

現地へ向かっている。


腕に覚えのあるプレイヤーは、

至急、下記の地点へ集結せよ!


【MAP】

  ↓

  ……


【編集部ひとこと】


今回のボスは三つ首との噂!

一人で挑むのはおすすめしません☆


制作:『楽園タイムズ編集部』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


この情報誌はプレイヤー有志によって

制作・配布されています。


情報提供者募集中!


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


それは、驚いたことに、試験開始以来初めて発行された情報誌だった。


(なんか、すごいポップだな…)


「凄いな……ついにプレイヤー同士で情報を共有する文化ができ始めたんだ。」

聡が感心したようにつぶやく。


「どうする?俺達もすぐ追いかけるか!?」




「うーん、行ったことない場所だし、まずは様子を見ながら向かおう。

 追いつけたら、そのままボス戦に参加すればいい。」

樹の質問に答える。でも正直、昨日の今日で早速バトルする気にはなれない。


「よし!身支度を整えて出発するニャ!!」


ダルタニャーは元気いっぱいに言うが…

(え、NPCもフロアボス攻略に参加できるの…?)


この世界のNPCの役割に疑問を抱きつつ、

装備やアイテムの準備が一通り完了したところで宿を出て、郊外へ向かう。


フロア2に入った時は、街中にゲートが設置されていたため、

街の外に出るのはこれが初めてだ…。


一歩街の外へ出ると、地平線の彼方まで草原が続いていた。

青空の下、風に揺れる草原が波のようにうねる、

天気は良く晴れていて、頬を撫でるそよ風が気持ちいい…。


(こんな日はモンスターと戦うんじゃなくてのんびり日向ぼっこしたいな…なんて)


そんな僕の思いとは裏腹に、皆はさくさくと歩き始める。


足元に広がる草原は、現実と見分けがつかないほど精巧だった。

草を踏みしめる感触も、頬を撫でる風も、本物と何ひとつ変わらない。


(改めて……ここがシステムの中だなんて思えない。)


非現実の中で現実を味わっていると、不意にモンスターのポップアップエフェクトが走る。


―――その瞬間。


条件反射のように、全員が武器を抜き、戦闘態勢へ移行した。


そして、僕達の前に現れたのは――


《Grass-Fed Beef》


(……これって、もしかして。)


「この牛、めちゃくちゃ美味い串肉を落とすやつじゃね?」


「そうにゃ! 確かこんな名前だったニャ!」


このプログラムが始まって以来、初めて食料になりそうなモンスターだ。

樹とダルタニャーの目は、完全にハンターのそれになっていた。


ー戦闘開始ーー!


牛型モンスターは雄叫びを上げると、一直線に僕達へ突進してきた。

素早さはないが、身体が大きいため当たったら吹き飛ばされそうだ…


全員、突進をさらりとかわし、横っ腹目掛けて剣をふるう。


<モォ!!>


モンスターは短く鳴き声を上げ、再び突進のポーズをとる。

しかし、今度も同じ攻撃…正直言って


「……弱い。」


食料用モンスターだからだろうか、

攻撃は単調で、動きも鈍い。

正直、フロア1の猫モンスターの方がよほど厄介だった。


ポップアップした牛モンスターを難なく倒す。

すると、もはやお馴染みとなったリワード画面が開いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーー

Reward


・牧草牛の生肉 ×4

・牧草牛の乳 ×2

・牧草牛の革 ×3

・コイン ×300

ーーーーーーーーーーーーーーーー


(いや、生肉渡されても困るんですけど……。)


樹とダルタニャーは恨めしそうにリワード画面を見ている。

さすがの食いしん達も、生肉をそのままかじる勇気はなかったらしい。


リワード画面を閉じようとした時、ふと思い出した。


(そういえば…)


「ねぇ、昨日レッグストロング達と闘った後の報酬で、

経験値の他にスキルポイントっていうのが入ってなかった?」


隣を歩いていた優が反応する。

「あった!あった!あのポイントってなんなんだろ?

 説明には、スキル用の経験値って書いてあったけど…」



「昨日寝る前にチェックしたんだけど、どうやら

 スキルアタックに経験値を振れて、攻撃力アップとかスキル硬直を短くできるらしいね。」


(おぉ、さすが聡。昨日のうちにもう検証してたのか。)


「この先、実力が拮抗する相手と戦うとなった時、スキルポイントの振り方が勝敗を左右しそうだね。」


ダルタニャー以外の3人が僕の言葉に頷く。




しばらく道なりに歩いていると、周りの風景は草原から舗装された道へと変化していき、

ちらほらとプレイヤーの姿を見かける。


やがて、小さな村へと到着した。


すると…


「うおおおおおお!いけええええええ!」


「一斉攻撃をしかけろ!!!」


どこからともなく叫び声が聞こえる。

どうやらすでにボス攻略は始まっているようだ…。


5人で目くばせをし、声のする方向へ向かう。

小さい村のため、目的の場所へはマップを観ずともすぐに辿り着いた。


目の前には鉄格子に囲まれた広い土地が見える。

そして、鉄格子の外では数百人ものプレイヤーが身を乗り出すように観戦していた。


「いけ!そこだ!!」


「なにやってんだよ~~今チャンスだっただろ!!」


「がんばれ~~あと少しだよ~!!」


そして鉄格子の中では――。

ケルベロス型ボスモンスター《Cardinal Cerberus》と、

1000人ほどのプレイヤーが激戦を繰り広げていた。


挿絵(By みてみん)


体高はおよそ三メートル。

漆黒の毛並みに覆われた三つの頭は、それぞれが獰猛な牙をむき出しにし、獲物を探すように周囲を睨みつけている。

その場に立っているだけで、まるで空気そのものが重くなったような圧迫感を覚えた。


――まさに、地獄の番犬。



(これが、フロア2のボス……。)


どうやら、外にいるプレイヤーは中のプレイヤーを応援しているようだ。


その光景には、強い違和感を覚えた。


(2日前に、あれだけのことがあったというのに……。

 どうして誰も怯えていないんだ?負けるのが怖くないのか…?)


異様な光景だった。

命懸けのはずのボス戦は、まるでイベント会場のような熱気に包まれていた。




「とりあえず、中に入ってみるか…」


そう言った樹が、鉄格子の入り口の門に手をかけようとする。

すると、横から男子プレイヤーがその手を制止した。


「おい、チョト待てよ!」



(なんか、昔のドラマで聞いたようなセリフだな…)




「なんだよ…」



「今俺たちは順番待ちしてるんだよ!」



「は?どういうことだよ?」


「だ~か~ら~!!このボスの敷地には一度に入れる人数が決まってるの!

 戦闘に参加できるのかは早いもの順なんだよ!!」


「ああ、そうだったのか、ごめんな。」


「分かればいいんだよ、最後列はあっちな」


男子生徒が指をさした方向には、長い行列ができていた。


(順番待ち?まるで遊園地のアトラクション気分だな…)


「樹!とりあえず鉄格子の外からボスの様子を見てみよう。」


僕の声に反応した樹は、男子生徒との会話を切り上げてこちらを向く。


「いったいどうなってんだ…」


樹のつぶやきももっともだ、この状況は不可解すぎる…


鉄格子沿いに歩き、人だかりの少ない場所まで来る。そこは屋敷の裏手にあたるようだった。

格子越しに屋敷の敷地内を見る。中ではプレイヤーが一心不乱にボスと戦っている。


(こうして外側から見ると、なんだか他人ごとに見えるな…)


「なんで皆、こんなに楽しそうなんだ……。

 負けたら、自分を失うんだよ?」

優が僕が考えていることと同じ感想を漏らす。


「確かに気になるね、ボス戦を最初から見ていた人がいないか、ちょっと聞いてみよう…」


聡の提案に皆賛成して、

手分けして、近くにいたプレイヤーに話を聞いて回る。


集めた情報を整理すると、どうやらこういうことらしい。


情報誌を見たプレイヤー達は、ボスの居場所にはすぐ辿り着けたらしい。

でも、誰も最初の一歩を踏み出せなかった。

まあ、それも当然だ。


今のEDENで負けるということは、自分自身を失うということなんだから。


ところが、その重苦しい空気をぶち壊したプレイヤーが一人だけいた。

その人物は群衆の前に立つと、怖気づくプレイヤー達へ向けて演説を始めたらしい。

詳しい内容までは分からなかったけど、その言葉は見事に皆の心を動かした。

恐怖は闘志へ変わり、気がつけば誰もがボス討伐へ向かっていた。

そして今では、この命懸けのボス戦は、まるでスポーツの試合を観戦しているかのような熱気に包まれている――。


「一人でこの熱気を作ったのか!そいつ本当に高2か!?」


「素晴らしい騎士道にゃ!仲間にスカウトするニャ!」


樹とダルタニャーはリーダーシップを取った謎の人物を素直に称賛している。


一方、聡は少し難しい顔をしている。


「正義感で動いているなら、味方として心強いプレイヤーだ、

 本当に正義感だけで動いているならね……。」


「は?どういう意味だよ?」

純粋に褒めていたところに水を差された樹は、少し不機嫌に聡に尋ねる。


「一人で大勢のプレイヤーを動かしたってことは、

良くも悪くも人を先導できる人間ってことでしょ。」


(確かに……。人を導く力は、使い方一つで英雄にも独裁者にもなる。

 それに、言葉だけで数百人を動かすなんて、普通の高校生にできる芸当じゃない。)




その謎の人物のことは気になったが、僕は再び鉄格子の向こうで繰り広げられるボス戦へ視線を戻した。


最初は、プレイヤー側が押しているように見えた。

しかし、徐々に何人かのプレイヤーがボスの攻撃を受け、床にたたきつけられる。


「あと少しだ!」


「いけぇぇぇ!!」


ボスに負けじと、周りの歓声も大きくなる。しかし、

――その歓声は、一人の悲鳴によってかき消された。


「う、うあああああああああああああああ!!」


その瞬間、一つの頭がプレイヤーの身体を丸ごと咥えた。

鋭い牙がプレイヤーに追撃を加える。


(あ、あの人死にそう)


「あの人やばい!!死んじゃうよ!!」


周りのプレイヤー達は、加えられた人物を助けようと奮闘するが、

その攻撃を受け流しながら、ボスはさらに噛む力を強める…


「う、うあああああああああああああああ、

 た、助けてくれ!!!!!!!」


この世界では痛みこそ感じない。

その分、HPゲージが削られていく恐怖だけが、容赦なく心を締めつける。


次の瞬間――


プレイヤー達の奮闘も、叫びも届かず、

そのプレイヤーはまばゆい光となって弾け…その光もやがて風の中に消え去った。


(死んだ。)


「見ているだけしか、できなかった…」

プレイヤーの死を目の当たりにした優が隣で呆然としている。


(別に優が気に病むことじゃないと思うけど…)


一人のプレイヤーの凄惨な死を受けて、プレイヤーの全体に動揺が走る。

先ほどまでの勢いや歓声は息をひそめ、ボス攻略にも陰りが見えてきた…


ーーーその時、


「全員、顔を上げろ!!犠牲は覚悟の上だったはずだ!


倒れた仲間の分まで私たちが前へ出る!


我々に続け!!」


その瞬間、人混みが左右へ割れた。そして、真ん中から一人の青年が現れる。


(あの時の……。)


それは、銃士入団試験を受ける際、城ですれ違った白髪の男子生徒だった。


彼は、自分のパーティーメンバーであろう数人の男子生徒を引き連れ、

ボスの前に立つ。


ボスの鋭い眼光が、白髪の男子生徒を睨みつける。

――――瞬間、三つの首が一斉に牙を剥き、白髪の少年へ襲い掛かった。


それに合わせて、取り巻きのプレイヤー二人が、盾を持ちつつ前に出て、二頭の牙から彼を守る。

そして残りの一頭の攻撃にあわせて、白髪の男子生徒が両手剣をふるう。


ズシャ!!


タイミングよく振り下ろされた、剣がボスの右目を斬り裂いた。。


<ガアアアアアアアアア!>


ダメージを受けたボスは怯み、うめき声を出す。


「今だ!総員突撃!!」


彼のパーティーメンバーだけでなく、

その声に鼓舞された周囲のプレイヤーも再び熱気を取り戻し、

ボスを包囲して攻撃をし始めた。


連携を取り戻した攻略組は、一気に攻勢へ転じた。

少しずつ、だが確実にボスのHPを減らしていき、


<ウォオオオオオオオオン!>


負けた悔しさか、それとも

主を守れなかった悔しさか――。

どちらともとれる断末魔をあげ、

フロア2のボス《Cardinal Cerberus》は爆散した…。


「うをおおおおおおおおお!!」


「やったーーーーーーー!」


「勝った、勝ったぞ!!」


ボスと戦っていたプレイヤーも、外から応援していたプレイヤーも、一丸となって勝利を喜んでいた。

優、樹、ダルタニャーも応援していたメンバーとハイタッチしたり拍手をしたりしている。


(ボス戦を途中で立て直したのは凄かった…)


(ボス戦の前に全員を鼓舞した人ってもしかして…)


隣で騒いでいたプレイヤーが優に何かを説明している。


「そうだそうだ!あいつだよ、あの白髪の!

 演説の内容が良すぎで見た目を忘れてたよ(笑)

 あんな派手な見た目してるのにな!」


(やっぱり…)


どうやら彼がこの勝利の立役者のようだ…

少なくとも、この場にいた誰もが彼を楽園の救世主だと思っただろう。


====================================


ボス攻略の興奮が冷めやらぬまま、

ボスが陣取っていた屋敷跡に次のフロアへのゲートが開かれる。

そのゲートの出現もさらにプレイヤーを熱狂させた。


我先にとゲートへ駆け出すプレイヤーたち。

その姿を横目に見ながらこれからのことを皆と話す。


「今回は乗り遅れちまったな~~」


「まあ、今回は銃士入団試験クエストに時間を使い過ぎたね。」

樹の言葉に返答して、ある一つの疑問が生まれた。


(あれ……。あの白髪の男子生徒も銃士入団試験を受けていたはずだ。

 僕たちと同じ条件だったのなら、ボス戦に間に合うはずがない。)


(なのに、なんで……?)



「~い…」


「お~~~い、玲?」


会話を途中で切り、考え込んでしまっていたため

樹の声に気が付かなかった。


「あ、ごめんごめん、ちょっとぼーっとしてた(笑)」


「おいおい、しっかりしてくれよ…

 で、これからどうするよ?」


「もうこのフロアでやることもないし、フロア3に行こう!」


「賛成。」

僕の意見に短く聡が賛同してくれる。


優はどう?と聞こうとすると、彼の顔は暗い。


「?、どうした?」


「ああ、えっと、フロア3に行くってことはさ、

 ダルタニャーともお別れってことでしょ、ちょっと寂しくてさ…」


(なるほど、そういうことか…)


確かに、賑やかし要員が一人減ると思うと少しさびしいな…

意外と5人パーティーのほうがしっくりくるのか?


当人はどう考えているのか、ダルタニャーの方を見る。


「おみゃ~たち、何してるニャ、さっさと行くニャ!」


ダルタニャー、僕達が悲しまないように

わざとあっさりした態度をとっているのか…


僕は、ダルタニャーというNPCへの評価を改める必要があったようだ…

そんなことを思っていると、眼鏡をかけたドジな少年と自分が重なり思わず声が出る。


「ダ、ダルえもん…(泣)」


「ほらほら、ゲートにいくにゃ」


ダルタニャーは優と樹の手を引き、ゲートへと向かう…


彼はゲートの前まで来ても、その足を止めない。

そして、そのまま…


「ちょ、ちょっとダルタニャー?

 もうすぐゲート通っちゃうけど!?」


僕の声など聞こえていないかのように、ダルタニャーはそのまま歩き続ける。


そして…


「通った!!」


びっくりした僕は、同じくびっくりしている聡と目を合わせる。

あわてて3人の後を追って、ゲートを潜る。


ゲートを潜った先には、フロア2と同様の中世ヨーロッパ風の街並み…。

しかしフロア2と比べ物にならないほど、煌びやかで活気のある街だった。


先にゲートを通っていた、ダルタニャーがこちらを向き、声を上げる。



「ここが女王のいる『王都』、フォルクシュタインにゃ!!」




(君、ゲート通れるんかい…)




賑やかでおしゃべりな猫型NPCとの冒険はもう少し続く… 




次回 第三章!!







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― 新着の感想 ―
良くも悪くも影響力のあるプレイヤーですね 根っこでは性悪か、それとも本当に覚悟ガンギマリなのか
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