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Paradise Sixth ―楽園適性試験―   作者: 針々
第二章 【銃士編Ⅰ】Masquerade Kingdom 

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Stage2-7 配役の誤算。


世紀歴20×0年4月13日 2時13分 Floor 2  城の中庭




「レッグストロング、これはどういうこと?」




髭を蓄えた口元が不敵な笑みを浮かべる。

「くっく、どうやら気付かれてしまったようだな。」


レッグストロングはやれやれといった顔で話を続ける。

「そうだ。入団試験はウソだ。

 全ては俺様が功績を手にするために、描いた筋書きだったのさ。」



「やっぱり本当だったのかにゃ…」

ダルタニャーの顔を見ると悔しさからか唇を噛みしめているように見える。



「お前達は本当に優秀な受験者だ。

俺の作戦を全て台無しにしてしまうくらいに…


 これは配役を間違えてしまったな、はっは!」


「銃士のくせに、ずいぶん狡い手使ってくれるじゃん…」

樹が怒りを込めた声で唸る。




「銃士見習いの諸君に、一つ教訓を授けよう。


 『綺麗ごとだけで成り上がれる世界などこの世には存在しない!!』 」

樹の怒りを受けても、レッグストロングに詫びれる様子はない。


(おお、ただの熱血漢かと思ったら、なかなか的を射ること言うじゃん…)


しかし周りを見ると、敵からの突然の教訓に皆唖然としている。


「しかし、お前達には本当に驚かされた。刺客を差し向けたプランA。

 屋敷へ誘導し、盗人に仕立て上げるプランB。どちらも見事に潰してくれた。」


「これで、最後のプランCを使うしかなくなったじゃないか…」


レッグストロングは右手を上に挙げ指を鳴らす。


パチン――。


その乾いた音を合図に、城壁の上へ四つの影が音もなく降り立った。



そのシルエットには見覚えがある。

先日、僕たちを襲ったあの刺客たちだ。


瞬く間に包囲され、僕たちは自然と背中合わせの陣形を取る。

前回とは違う。

五対五。

誰か一人でも崩れれば、その瞬間に戦線は瓦解する。



「全員、一対一で相手を引き受けよう。レッグストロングは……ダルタニャー、いける?」


「……」

返事がない。


真実を知ってしまったダルタニャーは、俯いたまま拳を握り締めていた。

銃士団への憧れと、裏切られた現実。

その狭間で、まだ心が戦えていない。



「……僕が行くよ。」

静かに一歩前へ出たのは優だった。



「優が? でも……」

確かに、今の優は僕たちの中で一番強い。


だけど――。


HPがゼロになれば終わり。

プレイヤーである優を、恐らく一番の強敵であるレッグストロングにぶつけるのは、本来なら避けるべきだ。


NPCであるダルタニャーに任せるのが最善だった。


「玲、迷ってる時間はないよ。」



優の一言で覚悟が決まる。



「……分かった。無理はしないで。」


僕は全員を見渡した。


「みんな……行くよ!!」


「オウ!」

「「うん!!」」

「……」


それぞれが敵へ駆け出す。




僕も目の前のフードの男へ剣を構えた。


「君、この前はよくもやってくれたね……。


………簡単には殺さねぇぞ!!」


「……」


男の挑発には答えず、静かに剣を構える。


次の瞬間、男の左手がフードの中へ消えた。


(来る!)


ヒュッ――。

放たれたのは、釘のような細い飛び道具。

狙いは僕の顔面。

十分な距離があったおかげで、首を傾けるだけで回避する。


だが、顔を戻した時にはもう遅かった。

男は一気に懐へ飛び込んできていた。

青白く輝く片手剣が、大きく振り上げられる。


「スラァァッシュ!!」


ガキィン!!


ファストブレードで受け止める。

しかし――重い。

力負けした刀身が弾かれ、そのまま刃が肩をかすめた。


「ぐっ……!」

視界の端で、HPゲージが一割ほど削れていく。


(これがダメージか。)

痛みはない。

だが、HPが減るという事実だけで十分だった。

むしろ、頭が冴えていく。



男は追撃を狙い、下段から鋭く剣を振り上げる。


(来た――。)


その軌道に合わせ、静かにスキルを起動。


《クロス・リタレーション》


キンッ!!


振り上げられた片手剣を、ファストブレードで真正面から受け止める。

刃と刃が噛み合った瞬間――

ファストブレードの刀身に黄色い光が走った。



次の瞬間、蓄えられた衝撃が解き放たれる。


ザンッ!!


交差するような一閃が、男の胴を斜めに切り裂いた。


「ぐあぁぁっ!!」


完全にカウンターを受けた男の身体が大きく吹き飛び、三メートルほど先の石畳へ叩きつけられる。




「くそっ、こんなガキに!!」

男は怒りを露わにするが、先ほどの一撃を警戒してか不用意には踏み込んでこない。

やがて相手の片手剣が黄色い光を帯びる。


(この距離でカウンター狙い?)

(……使い方が下手だ。)



僕はあえて全身の力を抜き、腕をだらりと下げる。

ファストブレードは男から見えないよう背中へ回した。


僕の隙を見た男は、スキルを解除すると一直線に突っ込んでくる。


(掛かった。)


背中へ回したまま、ファストブレードのスキルを起動する。



《クロス・リタレーション》



(このスキルは感度が異常に高い。)

(実験ではデコピン程度の衝撃でも反応した。)


(つまり――。)



右足の踵で刀身を軽く蹴る。

その衝撃だけで、反撃機構は十分に作動した。



ギィン――。



刀身が唸り、僕の右腕が弓のように大きくしなる。



男も異変には気付いた。

だが、突進を始めた身体はもう止まらない。



「しまっ――」


(もう遅い。)


ザンッ!!


振り抜かれたファストブレードが、男の右肩から右太腿まで一直線に斬り裂いた。


「うあああああああ!」


(大げさだな、最初の衝撃が小さいから薄皮一枚切れただけだろうに…)



しかし、男が動揺しているチャンスを狙い再びスキルを発動

狙いは前回の戦いで学習した、男NPCの急所。


トレース・エッジの派生スキル――

《トレース・ショット》


一撃目。


正確無比な突きが男の急所(股間)を貫く。


「ああああああ!」


クリティカル。


二撃目は、もう決まっている。


「ま、待ってくれ!死にたく――」



(いや、もう遅い。)


「ごめん。このスキルはキャンセルできないんだ。」



《トレース・ショット》がそのまま発動する。

クリティカル確定再現の二度目の突きが命中し、

男のHPは0になる。

そしてフードの男は跡形もなく消え去った。



リワードを確認する暇もなく、僕は戦況へ視線を走らせた。


樹と聡はまだ交戦中。

だが、二人とも押されてはいない。


優は――


(!!)


思わず目を見開く。


レッグストロングを、一人で圧倒していた。

あの巨体が、一度も優を捉えられていない。


両手斧を振るうレッグストロングは、優の圧倒的な機動力を捉えられない。

一撃を振るうたび、その懐へ潜り込まれ、逆に斬撃を浴びている。


「凄い……。」


(想像以上だ。)


最後にダルタニャーへ視線を向ける。


(まずい!!)


剣を弾き飛ばされたダルタニャーへ、フードの男が剣を振り下ろそうとしていた。


急いで足元に転がっていた飛び道具を拾い上げる。

ダーツを投げるような要領で、男へ向かって投げ放つ。


ヒュッ――。


「ぐっ!」


飛び道具は男の肩に突き刺さった。男の動きが一瞬止まる。

その隙を逃さず、僕はダルタニャーと男の間へ滑り込んだ。


剣を構え、男を牽制する。

これで、ひとまず体勢は立て直せた。


僕の後ろにいるダルタニャーの様子を確認する。

地面を虚ろな目で見つめたまま動かない…


(早く他の3人のフォローに行きたいんだけど…)


ずっと憧れていた銃士に裏切られ、何を信じればいいのか分からなくなっている。

正直、僕にはそいういう経験がないからダルタニャーの気持ちを理解することはできない。

でも、今の状況を突破するには彼の力が必要だ。

本心ではない、でも今彼が必要としている言葉を準備することが僕には出来る。


―――そう、それがたとえ心からの言葉ではなくても―――


「ダルタニャー。君には今、二つしか選択肢がない。」

 夢を諦めるか。銃士になって、この腐った組織を変えるか。」


ダルタニャーは何も答えない。


「もし諦めれば、この組織は何も変わらない。

 レッグストロングのような人間はまた必ず現れる。そして、また同じことを繰り返す。

 

 ……次に銃士へ憧れる誰かも、今日の君と同じ目に遭う。」


「つまり君がここで戦わないという選択は、未来の被害者を見捨てる選択でもある。」


僕はダルタニャーを真っ直ぐ見つめる。


「それは本当に君の騎士道?」


ダルタニャーの目が大きく開かれる。


(あともう一押し…)


そして僕は声を上げる。

「戦って勝て!勝たなきゃ何も変えられないぞ!!」


その言葉は間違いなくダルタニャーへの言葉だった――

だが、自分自身へ言い聞かせているようにも聞こえた。


ダルタニャーの震えていた右手が、ゆっくりと剣の柄を握る。

片膝を立て、ゆっくりと起き上がる。


「俺っちの騎士道…勝って、勝ち続けて、証明するニャ!」


(……戻った。)


ダルタニャーの瞳には、あの日と同じ輝きが宿っていた。


「俺っちはダルタニャー!」


「この国を守る銃士になる男にゃ!」


ダルタニャーがフードの男に対して名乗りを上げる。


「獣人に名乗る名前などない…死ね!」

男は剣を振りかざし、ダルタニャーに向かう。


「ならば、名もなき愚か者として葬ってやるにゃ!」

ダルタニャーも負けじと剣を構えて突撃する。


(キンッ!!)


ダルタニャーと男の剣が交差し、火花が散る。

瞬間…。


ダルタニャーは右手一本で男の剣を受け止めている。

空いた左手が一閃。

鋭い爪が男の顔を切り裂いた。

「いてぇ!!」

男が悲鳴を上げる。



男が怯んだすきを見て、今度は右手に持った剣で追撃を与える。


青白い光が刀身を包む。


一閃。


二閃。


三閃。


三本の突きが、一点の狂いもなく心臓を穿つ。


(なんだあのスキル…)


無防備となった胸元に、正確無慈悲な3連撃を受けたことで、

フードの男のHPはほとんど満タンであったのにも関わらず一瞬で0となる。


(これが……本来のダルタニャー。)


番犬との戦いでは、本気を出す場面すらなかったのだろう。

対人戦での強さは僕が戦慄するほど圧倒的だった。

もし、ダルタニャーと出会ったときに戦っていたら恐らく負けていただろう…。


「次!!」

ダルタニャーは身をひるがえし、近くで戦闘を行っていた樹のフォローに入る。


「樹、敵の剣をはじくニャ!」


ダルタニャーからの指示を受け、樹はフードの男の剣をはじき上げる。

その隙をつき、獣人ならではのしなやかな動きで男の前に滑り込み先ほど使用した3連撃をお見舞いする。

しかし、相手の男が3回目の攻撃を受ける際、身体の向きを少しずらしたため、HPがほんの少し残る。


「この獣人がぁ!!!」

怒り狂った男は目の前のダルタニャーに剣を振りかぶる。


(あのモーションはパワースラッシュ!、直撃したらただでは済まない!!)


パワースラッシュが振り下ろされる。


だが、その刃が届くことはなかった。


ダルタニャーの左手が閃く、そして、五本の爪が男の胸を引き裂いた。

男のHPはゼロとなり、身体は光となって砕け散る。





気が付けば、ダルタニャーの剣技に見とれてしまっていた。

しかし、本来の目的を思い出し、聡の戦況を確認する。

すると、聡はすでに相手を倒しており、優の戦いのフォローに回っていた。


レッグストロングは優と聡の二人を相手にしないといけない状況に加え、

手下のフードの男達が全員倒されたことに気が付づいた。

これまで余裕を浮かべていた笑みは消え、視線だけが忙しなく逃げ道を探している。


その乱戦にダルタニャー、樹も加わる。


僕も加勢しようとしたが、余計に飛び込めば、かえって連携を乱す。

僕は周囲を警戒しながら戦況を見守る。


優一人でもてこずっていたレッグストロングはさらに3人が加わったことで圧倒的に不利となった。

優とダルタニャーがレッグストロングの両手斧を受け、聡と樹が隙をついてスキルを打ち込む。

レッグストロングの圧倒的な武力も、四人の連携の前では意味を成さない。

レッグストロングの命もあともう少し…となった時。


「ま、待った!!ちょっと待ってくれ!!」


レッグストロングの声に4人が攻撃の手を弱める。


「は?今更なんだよ…?」

 樹が訝しげに睨みつける。


「違う!今回の件は俺が考えた計画じゃない!」

「俺は命令されただけだ!」

「本当の黒幕は別にいる!」


「今更そんなこと言って僕らが納得すると思う?」


「そうにゃ、お前は俺っちの騎士道を汚したニャ、絶対にゆるせないにゃ!」


「騙したことは本当に済まなかった、だが、俺が今回の作戦を遂行させなければ、

 人質にされている俺の家族の身が危ないんだ。」

レッグストロングの突然の命乞いに、4人の動きが鈍る。


4人へ必死に両手を向けながら叫ぶ。

「頼む!頼むから話を――」

その視線は目の前の4人だけに向いていた。


戦況を見守りつつレッグストロングの背後に回っていた僕は、


彼の懇願を無視し、

後頭部へアタックスキル


《スラッシュ》


を振り下ろす。

その一撃で、レッグストロングのHPは完全にゼロとなった。


レッグストロングは目を大きく見開き、後ろにいる僕の方を見る。


「な、ぜだ…」


その疑問に僕は満面の笑みで答える。


「この世界には――」


「アンタより狡くて、せこい奴がいるってことさ。」




「勉強になったね。」




「ひ、卑怯者…」




(アンタが言うな…)




その言葉を最後に、偽りの銃士団長は砕け散った。



===============================


戦闘が終わり、辺りは再び夜の静けさを取り戻した。

皆の方向を見ると、驚愕の表情を浮かべている。


「おまえ…」


「玲、やっぱり卑怯なやつにゃ!!」


「さすがに容赦なさすぎじゃない…?」


僕のレッグストロングへのとどめを見た

樹、ダルタニャー、そして優までもが、ドン引きしていた。



「い、いやでもね?あそこからあいつが反撃してくる可能性もあったわけで…」



(((ジーーーーーーー)))


三人は何も言わず、じっと僕を見つめてくる。


(……視線が痛いです。)



「と、とりあえずもう夜も遅いし、宿に帰って休もうよ!!」


「そうだな…さすがに眠い」

大あくびをしながら樹が答える。

良かった、どうやら話を逸らせたみたいだ…。


城から伸びる坂道を5人で下る。

昼間はプレイヤーやNPCでにぎわっている通りだが、

さすがにこの時間はNPC一人おらず、少し不気味だ。


僕より前を歩く、優、樹、ダルタニャーは疲れているのか少し足取りが重い。

かくいう僕も今日はイベントてんこ盛りだったため、かなり疲れが来ている。

あと何分で宿につくかな~~と前の3人を見ながら考えていると、

聡が僕の隣に並ぶ。


「レッグストロングにとどめを刺した判断、僕は良かったと思う。

 あの場で情に流される方が危険だった。

 僕は、玲の判断は間違ってないと思う。」


そう言ったきり、聡は黙ってしまう。


返事はしなかった。

それでも、一人だけでも理解してくれる人がいた。

それだけで、胸の奥の重さが少しだけ軽くなった。


街灯を頼りに、あるいていると宿の灯りが見える。


宿の部屋に入り、ベッドへ身体を投げ出す。

次の瞬間には、意識は深い眠りへ沈んでいた。


=============================================


世紀歴20×0年4月13日 12時50分 Floor 2  旅の宿



ふと目を覚まして時計を見る。時刻は昼の12時50分。

昨日(というより今日?)、アラームをかけずに眠ってしまったため、

大爆睡してしまったらしい。

ベッドから起き上がり、ボーっとした頭で窓から外を見る。

空を見上げると太陽はもう高く昇っていた。


(((ザワザワ)))


下のほうから何やら声が聞こえる。

視線を通りに移すと、プレイヤーが騒いでいるようだ。


(ここからだと何を話しているかよくわからないな…)


窓を開けるか、でも面倒くさいな…と迷っていると

勢いよく部屋のドアが開いた。


そこには、息を切らした優が立っていた。


「皆大変だ!今日の朝、第2フロアのボスの居場所が見つかって、

 プレイヤーがボス討伐に出発したらしい!!」


あまりに突然の知らせに、優が何を言っているのか理解できなかった。



第8話へ続く…

 











































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