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魔法実技 ⒈

 昨日から、どうしてか俺は試験官なはずなのに教師を務めている。確かに試験官だけだと仕事は少ない。だが、俺は試験官では??


「ラッドウィン・エグザミナード。はよざいます。」


 かなりテキトーな挨拶ではあるが特に何も言われず、事前に指定されていた席につく。ここは教員控え室A。控え室にはA、B、Cがあるらしい。人手不足な割に部屋だけは多い。

 部屋には教師一人一人にそれぞれ一つずつの机や椅子、そして小さな書棚。場所は固定で、備品を持ち出そうものならお叱りを受けるだろう。


「教員会議を開始する。本日のスケジュールは事前に配布した予定表の通りだ。時間変更はなし。」


 たったのこれだけ。会議だなんて呼べるものではない。もう昨日から見ているので最初ほど驚きはしないが、もっとしっかりやれよと思う。

 俺も今日のスケジュールを確認する。三限目から新入生に実技か。眩しいガキンチョたちだろ。数日ぶりだが、元気だろうか。もう懐かしく思えるな。

 ともかく、このチビたちに何を教えるかを考えないとだな。他の学年は比較的簡単だ。どこまで習っているかの把握がしやすい。チビたちには……。このまだ始まったばかりの状態なら練変がいいか?集色や魔力操作の方がいいかもな。基礎をしっかりやらせるのが一番だ。俺の時の先生もそういう人だった。懐かしい。


「ラッドウィン・エグザミナードだろうか。」


「え?ええ、はい。おはようございます、学校長。」


 学校長が俺に何の用だ!何かしたか?何かあったか?いや、教師になったことについてだろう。俺は何もしていない。お叱りではない。断じて違うはずだ。……はず………だよな?


「一年生には練変、集色と魔力操作、魔力圧縮を軽く教えてある。実技をする時に役に立つ情報だと思ったんだが、必要なかったか?」


「大変参考になりました。助かります、学校長。」


 そう言うと目を細めてフン、と言って戻っていった。確かに情報は役に立ったけど、学校長まで授業に入らないといけないならいっそ俺が基礎もやればいいのでは?実技と基礎は切っても切れないんだから同じ教師がやればいいだろうに………。


 と思ったところで始業の音楽が鳴りそうだと気付き、俺は慌てて教師控え室を後にした。

 二限の体力増強訓練が終わり、教室に戻ってきた。魔術師にも体力は必須らしい。散々走らされて足が痛い。緩やかにハードルは上げるべきでは。

 体力訓練と縮められて呼ばれていたこれの先生はいわゆる体育会系、脳筋。そう言う言葉の似合う人だった。頭は短い。短気という意味ではなく、短髪という意味だ。まあ、途中何回かピキッと血管が浮くことがあったけど。けどそれは完全にわちゃわちゃしてた子達が悪い。名前なんだっけ。アツーファイ……ビェーン?って子と、フッデミール……………。リィベルタード!っていう子たち。

 違う違う、先生の話に戻ると、髪型はオールバック気味だが、短いとオールバックって難しいんだなあと思わせるツンツン振り。その下に焼けた豪快な笑みを終始浮かべているのだから恐怖すら抱いた。それがひょろひょろなら不気味だろうが、腕から足、胴体。全てが筋肉でミシミシなのだから、ヘマをしたら潰されそうだ。という方向の恐怖になる。しかもそれを見せつけるが如くサイズが足りていないだろう、今にもボタンが弾け飛びそうな服を着ていた。何がしたかったんだろう。

 先生のことばかり印象に残っていて授業の内容が右耳から入って左耳から抜けてた気分だ。けれど、これは覚えている。『体の一部に魔力を込める』、または『体全体に魔力を巡らせる』ことで、体の強化が可能なこと。《身体強化》というらしいこれを先生はいつもやっているそうだ。そのせいだろうか。僕たちがかわるがわる走っているところを一人でずっと走り続けられたのは。


「魔法って怖いなあ………。」


 次は三限、魔法実技らしい。魔法自体は得意な気がするけど、僕は全くと言っていいほど基礎を教わっていないので授業内容によってはついていけないかもしれない。そもそも攻撃魔法の一つもろくに教えられていないわけだけど。その分常識はずれな便利魔法を教わっている。いやいや、常識の方を優先して欲しかった。

 けど、きっと一年生のほとんどが基礎は教わってないだろう。そうと信じて、開始の音楽を迎えた。けれど先生が現れない。遅れているのだろうか?


「悪い、!」


 おや?聞き覚えのあるような…ないような……。つい最近どこかで聞いた?


「少し遅れたな、教室を探してたんだ。…授業を始める!」


 ラッドウィンさんだ!髪の毛切ってる!まだまだ長いけど!


 授業が始まり、場所を移動しなかったことから派手な魔法は使わないらしいことに密かにがっかりする。


「それにしても、ラッドウインさんは試験官だったのに、まさか教師でもあったなんて。」


「ファグルウェーも人手不足らしくてな。学校長まで授業やるし、試験官だけでは食ってけない俺が例年通りアルバイトを始める前に学校からオファーがあって教師にまでなっちまった。久しぶりだな。」


 なるほど、つまり副業ってことですね?だとしても、ラッドウィンさんが教師って、なんだか嬉しいな。知っている大人が一人でもいると安心する。

 というか、耳よすぎ!なんで聞こえたの?結構小声だったと思うんだけどなあ。


「それじゃあ早速始めるが、魔法基礎で初歩は色々習ったらしいな。今日は難しいのはやめといて魔力操作と集色をやる。机の上は何もいらないぞ。」


 残念だ。せっかく師匠がくれた指南書の出番かと思ったのに。嘆きのため息をつきながらこっそり《空間収納(ストレージ)》に入れる。僕は昨日の出来事で学んだのだ。


「こら、遊ぶな!テリーンヒ・ディベルティルスィー。」


「ちぇっ、はーい。」


 ちぇってなんだ。勝手に一人で風球出して遊んでておいて!遊んでいいなら僕も遊ぶよ!遊びたいよ!


「ウズウズし出したやつがいるので先に進む。できる範囲でいい、魔力を左腕、左足、右足、右腕、最後に目。この順番で動かしてみろ。都度集色までやるように。」


 バレたことよりも最後の目の方が気になる。目?目が光るとか。あり得る。楽しそうだな…。いや、もしかしたら身体強化判定で目が良くなるとか!流石にそれはないか。あったらもう眼鏡なんていらないもんね。……あれ?学校の先生で眼鏡かけてる人見たことないぞ?

 とりあえず、やってみればわかることだ。


「指先に集めたら指で壁貫けるようになりませんかね。折れるか。」


「やろうと思えばできるんじゃないか?多分折れるからやるなよ。」


 折れるのかできるのかどっちなんですか。

 ………えっ、ラッドウィンさん!?


「いつから僕の真横にいたんですか!」


「んー、さっきからだ。お前が早そうだと思って。」


 僕をなんだと思ってるんですかって突っ込みたい。僕はそんな、確かに常識はずれっぽくはあるけど、天才ではない。ただ使う魔法がみんなと違うだけの普通の子なのだから。


「最初から目じゃダメなんですか?」


「目は難しいぞ。血管がクソほど細いからな。」


 お口が悪うございますよ、ラッドウィンさん。


「だから筋肉とかがあって血管が多い、かつ太い血管も通ってはいる四肢が先がいいんだ。」


 うーん、それ慣れてきてから目をやるべきじゃない?四肢ができたとてでしょ。


「ほら、早く始めろ。出遅れてるぞ。」


 左手……。肘から下全部光らせたら強そうな手袋に見えないかな。


「面白い試みだな。なんでそんな中途半端なところから光らせてんだ?」


 僕が早そうっていう理由だけじゃなくて僕のことを面白がってるな、この人。絶対私欲のためだ。楽しそうだけでこっちについてる。


「長手袋みたいじゃないですか?」


2,000を大幅オーバーしてるので二つに分けます。次回までお待ちください。

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