閑話 それぞれの寮
「ノア・ベッティルデです!取り柄は元気、優しさ!特技は………。ムーチャス ボラ ディフェゴ。」
教室に片手で握れそうな大きさの火球がたくさん、指パッチンと起句と同時に現れる。本来は全て一律で赤々とした火の色なはずだが、その子のそれは色が違う。黄色、緑、赤、青。たくさんの色がついたそれは、単なる魔法じゃない。起句こそ同じなれど、あの子だけの魔法だ。もちろん、やろうと思えば他人にもできるけど。
色鮮やかなそれが弾けるように火花を残して消えると、ノアと言うらしい女の子はまた口を開く。
「短縮詠唱とイメージの構築です!これからよろしく!」
わっと拍手が湧く。こう言う演出があれば、きちんと楽しむクラスで、冷たいクラスじゃなくてホッとした。
「アツーファイ・ビェーン!魔法も好きだけど、体を動かすのも好きだ!よろしく!」
次があたしの番。元気な男の子だけど、問題児っていう感じだナ。
「ミャルラ・インフォルマンティ。ウチの名前は聞いたことかるかナ?あたしもお話大好きだから、たくさん話そうね。ちなみに最近ウチではくるくる頭の娘が特級学校に入ったって話で持ちきりなんだって!…ってそれあたし!……なんてね!よろしく!」
いくら陽気なインフォルマンティとはいえ、緊張するものはする。良かった、みんな笑ってくれて。これで滑ってたらあたしどうにかなってたかも。
次は男の子。
「どうも〜、ヤイスァニ・セグリダッドです〜。父様は魔法回復部隊隊長で〜す。僕も光と春が得意なので頑張りますね〜。」
どうにもほわほわした雰囲気を持つ子だ。けど全然目が笑ってない。さすがだナ。常に冷静。“冷たい回復部隊”と称される隊の家系に相応しいというべきか。
まだまだあと3人も残ってるけど、興味深い人はたくさんいたナ。
***ウェシア***
浮遊魔法を使ってここまで来たんだ。俺が一番についたはずだろう。あのユーリとか言うやつも口程にもない。得意って言ってても、所詮は平民って感じだ。
「おや、今年の一年は本当に早い。これで三人目だよ。」
「んなっ!!?」
三人目!?飛ばしてきたのに、三人目!?そんなはずはない!俺が一番じゃないはずが!
「ユーリくんとシーアくん、だったかな。最初は。」
ユーリ………。どこまでもムカつく。俺の一番を悉く奪っていきやがって。いつか痛い目を見ればいい。
いや、授業が始まれば実技もある。その時に見返してやろう。所詮お前は雑魚なんだ、と。俺の方がすごいんだ、と。きっと魔力量だけだ、あいつなんか。
「じゃあこの紙に……。」
差し出された紙を半ば奪い取る様にして受け取ると、字が汚いの構わず走り書きで書き終える。判別できないわけじゃないから、別にいいはずだ。
「じゃ、じゃあこれが鍵……。」
これもまた奪い取る様にして受け取ると鼻息だけをその場に残す様にして部屋へ向かった。後ろから「あのクソガキ……。」って聞こえたけど、気の所為だろう。この俺に誰もそんなことは言えないはずだ。王族や父上を除いて。
二番の部屋は粗末だった。二番なのにだ。部屋ごとに区別はつけていないのか?シャンデリアもなくただの魔法石の照明、家具も質素な木製ばかり。ふかふかのベッドすらない。
「なんなんだ、この学校。これがホントに特級かよ。」
そう悪態をつきながらもベッドに仰向けに寝転がる。こんなところでの生活を、五年も続けないといけないだなんて。全く今から嫌気がさしてきた。
俺のいるべき場所はもっと豪華でないといけないはずなのに。俺は公爵令息なのに!
散々頭の中で悪口を言っていると、いつの間にか眠りに落ちていたらしく、目が覚めたら朝になっていた。
***ルクシー***
二脚の椅子と一台の円形の机。その上に本を二冊取り出して片方の椅子に座ると、背もたれを使って大きく伸びをする。まだ自己紹介をしただけだけど、何日も学校で授業を受けてきたかの様な疲労感に項垂れながらその程度で根を上げようとしている自分を叱咤した。
ソリド家の人間として、常に冷静で的確でないといけない。だから周囲を気にしすぎるのだろう、普通の人よりも疲れは多い。これを五年間。体が保たないかもしれない。
けど、まだ始まったばかりで緊張しているせいもあるだろう。慣れたらきっとマシにはなるはずだ。
「はあ、ほんとに疲れた。」
本当は本を読むつもりでいたけど、もはやそれも億劫な程睡魔が頭を襲い始めた。まだ陥落させるわけにはいかない。睡魔と戦いながら立ち上がり、軽く「ボラ ディアグエ」を唱えて顔をつける。滴る水滴も滴るままにさせておき、冷えた水によって睡魔の七割ほどが退散した頭で考える。
「俺は、この学校でうまくできるだろうか。ソリドと、友達、か………。」
ソリドとして求められる教養、社交界に出る一貴族令息としてのマナー。家系の多忙もあれば友達や平和的な友好関係を築く、将来の社交問題もせまってきている。入学早々、こんな不安いっぱいでいいものか。
たくさんの人と交流を持つためには。やはりクラス委員になるべきだろう。教師、クラスメイト、先輩。あらゆる立場の人と関わる機会が多い。なんとしても、その座は貰い受ける。
「はあ、今日は本、やっぱりいいや。」
机に本は置いたまま、席を立って洗面室を覗き、鏡に映る自分を見る。規則で定まっているわけでも無いのにきっかりと目と眉の間で切られた前髪。髪色と同じ赤茶けた瞳。それを縁取る少し釣り気味の濃茶の睫毛。さして高くもない鼻。薄い唇に普通の口。極々平凡。平々凡々。何一つ取り柄のない。そんな中、魔法だけは人並みよりは扱えるのだからと勉強させられ、そして入学させられた特級魔法学校〈ファグルウェー〉。ここではなんとしても成績上位と点数稼ぎをしなければ。父様や母様を失望させないように。兄様や姉様に負けないように。そして優秀な妹に負けないように。
「はは、周りは敵だらけ、かあ。俺も努力してるんだけどな。」
まあ仕方のないことと言えば仕方のない。後継争いからは早々に離脱したいものだ。とうせ兄様がなるのだろうし。
***ノア***
乙女の朝は忙しいっ!
「ラズ、ラゼ!」
あれ、こない。ああ、そうだそうだ。いかに使用人とは言え校内にはついて来ないんだった。従者のいる朝が日常のわたしはついつい呼んでしまう。誰もいないが軽く赤面しつつ新品の制服に袖を通して姿見の前で一回転。
「よしよし、おかしなところは何もなし……ってあっ、寝癖!!」
騒がしく動き始めたわたしの朝はここにきて一日足らずとは思わせぬ程順調…。順、調……。
「チョーカーがなあい!!」
お父様がお守りの魔石をつけてあるものをくださったのに!大変だ。持って来た革製のトランクケースをひっくり返す様にして漁る。服に本、筆に上着。これじゃない、これじゃない。結界がままならない私へのお守り!
「あっ、あった!」
なーんだ。昨日、洗面台に置いたのを忘れてただけだった。
「もう、勝手に一人で騒いでただけじゃない。人騒がせなわたし。」
今度こそ完璧完璧!首元に青い宝石を煌めかせて笑顔の練習練習。頰を引っ張って〜伸ばして〜持ち上げて〜にこっ!今日も大丈夫!
「ノアちゃんはいっつも元気ですっ!ぶい!」
えへへ、すんんんごく恥ずかしいから二度とやめておこう(超絶真顔)。
「にしても、時間余ったなあ。予習でもしておこうかなあ。」
とりあえず今日の授業は多分簡単な魔法打つだけだろうから、窓の外に火球……は危険だからだめ。風球でも打っておくか!そうと決まれば行動行動。
カーテンを開いて朝日に目を細めつつ窓を開放!ああなんて涼しい風……、風…………がない。
「立地悪っ!風通し悪っ!」
わたしの実家を見習え!窓を開ければ爽やかな風が吹き込み、息を吸えば肺いっぱいにフローラルな香りが突き抜ける。あのっ素晴らしさをっ!少しは見習えっ!
「全くもう、これじゃあ魔法も打てないじゃない。」
仕方なく布団の上で寝転がりながら時の経過をまった。
そして無事遅刻寸前になった。まあ、いつも通りだからいいのよっ!
***シャリフ***
魔力過剰吸収体質。ドゥアリダード家における呪いとも祝福とも言える体質。元の魔力総量が多くない人には祝福、元の魔力総量が多い人には呪い。その呪いが祟ってわたしは本物の二面性になった。
「エスダ、出て来ないでくださいね。」
わたしの中に作られたもう一つの人格、エスダ。シャリフ・エスダ・ドゥアリダード。二つ目の人格を模る名前をミドルネームに与えられ、それを他人に名乗ることはない。それでももう一つの人格も実質的には一人の人間がだからと名を与えられる。
本来、条件を満たさないと二つ目の人格は出てこない。そのはずがどう言うわけか頻繁にでてくるエスダ。一度メガネを外せば再びつけるまで暴れ続ける。実に迷惑だ。そして日に日に力が強くなる。いっそ土人形でもいいから中から取り出して移し替えてやりたいくらいだ。
「エスダは、どうして戦いばかりするの?わたしは、怖いよ。」
好戦的すぎるエスダは、おそらく相手を殺すことに抵抗はないだろう。どこからこんな人格が生まれたのやら。
やっぱり、エスダからの返事はない。逆に、あっても困るだけだけど。
「エスダがもっと優しかったら、もっと仲良くなれたかな。」
わたしがこの学校に来たのは、一つに魔力量。一つに学習意欲。一つに…エスダ。ここなら、特級なら、エスダに簡単にはやられてくれないだろう。もちろん危険なことは重々承知だから、メガネを外すつもりはないけど、不慮の事故で外れてしまった時にも対処してくれるはず、と言う信頼。わたしは誰かに、止めて欲しい。
「エスダ、学校に行くよ。どうか、暴れないでね。」
わたしの中のエスダ。わたしもエスダ。エスダもわたし。シャリフ・エスダ・ドゥアリダードは、わたしとエスダが揃ってこそ。
「やっぱり、どこにも行かないで。強いわたし。弱いわたしをひとりにしないで。」
わたしの強さはエスダだから。エスダはきっとわたしの追うべき背中。そう思えたのは、つい最近になってから。エスダはきっと悪い子じゃない。
「一緒にいようね、エスダ。」
「サルカスモ伯爵家長男、カッドリオ・サルカスモ。魔法で遊びたい。だからここに来た。よろしくな!」
よろしくな!にかっ!じゃないよ!全く、何をしにきてるの。勉強でしょ!このわたしでさえ、大はしゃぎしちゃうこのわたしでさえ勉強に来てるのに!ノアお嬢様、お勉強頑張っていらしてください。なんて言われたから頑張るしかないのに!
むーっと膨れ面をしながら軽く睨んでいると「あれっ、?」と焦った顔のカッドリオ君とやらと目が合った。ふん、と目を逸らして見せると何かやったかなあ、と頭を掻くのが横目に見えたので思わず声に出さずに笑う。
「テリーンヒ・ディベルティルスィー。ディベルティルスィー男爵四男だから、後継は諦めてる。だからたくさん遊びたいっ!みんなも遊ぼうぜ!」
もっと学びに来てない人がいた!うぅー、正直狡い!わたしはベッティルデの一人娘だから跡を継ぐしかないのに!ちょっと羨望の眼差しを送ってたら謎にドヤ顔でこちらを見てきた。何、その顔は。
鼻高そうに座るとチラチラこちらを見てくる。ベッティルデに着け入りたいのだろうか。そんなことはさせない!そんな、学校に遊びにくると言うか、学校に来たのに学ぶ気のない人にベッティルデは大きすぎる。そもそも、男爵家四男が伯爵家長女につけ入ったら身分知らずだけど。
「フッデミール・リィベルタード。リィベルタード公爵の孫第一号。良ければ仲良くして欲しいな。よろしくね。」
前の二人とは打って変わって健気っぽい雰囲気!守りたくなる弟感が溢れ…………て………………。
放課
「テリーンヒって思ったよりたいしたことねえな!」
前言撤回!全然守りたくない!!問題児ばっかりだこのクラス!!




