ドジっ子だったかあ
「リンベイツルー子爵家次男、シーア・リンベイツルー。これから五年、ぜひ仲良くしてね。」
四番目の自己紹介が終わった。三番目はセツィア・エルシエロという女の子。おとなしそうで、おっとりした印象だが、このクラスの中で実力は三番目でもある。人は見かけによらない。実力と言っても、魔力量のことだけど。
「次の子。」
「はい。」
今度はしっかりしていそうな男の子。前髪はきちんと目の上で切られていて、几帳面を思わせる。眉もキリッとしていて、きっと頼もしいのだろう。
「ルクシー・ソリド。ソリド家三男。よろしくお願いします。」
そして次はわたしの番。正直、魔力量はこんなに上位に入れても、きっと実力はもっと低いだろう。
「次の子。」
「……はい。」
夏の山のような深緑の髪を揺らして立つ。と言っても、大胆に揺れるほど長くない。うなじも露出するくらいだ。
「ヌドェーラ・ドルミエンデ。伯爵家長女。最近欲しいものはメンスルヴィアーム様の加護です。」
苦笑の音がした。私の目元の隈を見れば、近頃よく眠れていないことがわかるだろう。
ドルミエンデ家の子供の中では年長のわたしは学校でもこの家に見合うだけの実力が求められるために、夜な夜な予習を進めているせいだ。それが習慣化してきて魔法をかけなければ寝付けない日々が続いている。
将来家を継ぐのは三つ下の弟なのに。
「じゃあ次。」
「……。」
愛想の悪い人。わたしも返事したのに。
「ラキシンタ・エスペクタドール。」
そして座った。一番の子も呆けた顔をしている。担当教師も額を抑えている。
エスペクタドール家は政治的にも中立を示していて、ほぼ領地で独立している印象がお父様にはあるらしい。まさか学校でも誰とも関わらないつもりなのだろうか。この自己紹介はおそらくそう言うものだろう。
わたしは、友達の1人くらい作らないと。他の家との交流を、深めなければ。お父様が言っていたから。
寮の部屋に入ってまず驚いたこと。壁に照明の代わりとしてついているこの石。そして取っ手を回すと水の出る銀色の管。しまいには覗くと人が映る窓。しかも全く僕と同じ動きをする。なんだこれらは。
「ねえ、どうしよう。」
「びひゃあぁあぁぁああ!!!!しゃべったあああああああ!!!」
窓の外の人が喋っ……。え?ミリシアがいる?
「ミリシア!!?どうしてそっちにいるんですか!僕は入れないですけど!」
「ユーリ、後ろ。」
後ろ?何が?何が?怖い何が見えてるの……?
「あとそれ、ユーリ。」
「え?」
窓から目をはなして後ろを見る。ミリシアがいる。また窓を見る。ミリシアがいる。そして僕と同じ動きをする人を見る。情けない顔をしていた。頬を引っ張る。痛くてつい顔を顰める。決めポーズをとってみる。ダサかった。そして一連の流れを綺麗に真似してのけた窓の人。これが……僕?
「それ鏡。全部写す。」
確かに、水に映る人とにている。つまり、水にもこれにも、今まで映っていたあの人は全て、僕だったわけだ。
「な、なんか拍子抜け……。」
あれ、そういえばミリシアが何か言いかけてなかったか。「ねえ、どうしよう」って言って。ミリシアにしてはよく喋るなあ、冷静になって考えれば。
「そういえば、何を言おうとしてたんですか?」
「本体いない。」
ほ ん た い っ て な ん だ。
「妾がいない。」
今更だけど、ミリシアの妾って一人称、見栄を張る子供みたいな印象を受ける。
✴︎↑八話を読まれることを推奨します。✴︎
「ここにいるじゃないですか。」
「これ分身体。」
え、分身体で指輪から聖霊力が溢れるくらい強いの?僕じゃあ不相応じゃない?
「ミリシアって、すごく強いんですね。」
「どうして?」
どうしてって。そう、聖霊王と言われてる時点でどうして気づけなかったんだろう。それが不思議だ。
「だって指輪から聖霊力溢れてたって言われましたよ。」
たっぷり数秒ほど自分の手と僕の指輪を見比べて、身を捩ったりして体を確かめる。そして閉じたその目から混乱が溢れ出ているように思えた。
「………きちゃった。」
「え?」
珍しく頭を抱えて感情表現をオーバーにしつつ発したその言葉の意味が、初めは理解できなかった。
「分身体のつもりが本体でついてきちゃった。わたし分身体作った意味ないし!!」
ミリシアってこんな人だったっけ……。あれ、こんなに豊かな人だっけ。あれ?え?あれ?おかしいな?あと今わたしって言った?妾じゃなく?本当に見栄だったの?
「わたしのバカ!何してるのぉ……。」
頭を押さえながら首をふるその姿はあまりに普通の子供に見えてしまう。そして言葉も多く、声に含まれる感情も強くなる。無感情な様だった僕の知るミリシアはどこへ?
「はああああ、恥ずかしいっ!自分で気づけなかった!!」
今、僕が見ているのは誰ですか。誰か教えてくださいこの人は誰ですか。
ハッとするよにこっちに首を向けたミリシアはやってしまったという声が聞こえそうなほど口をパクパクさせている。
「いや、ちが、これは、その………。」
何が違うんですか教えてください。どこからどう見てもミリシアなあなたがミリシアじゃないわけないじゃないですか。
「わ、妾、の、はや…とち…り………。」
何度か瞬きを繰り返し、ミリシアを見る。
「僕は何も聞いてませんし見てません。」
つい先程にも似た様なことを言った覚えがあるが頭から削除しておく。ついでにこの一連のやり取りも……。
「そんな気遣う目で見ないでよ!」
やっぱりこの子誰なんだ。もしかして素のミリシアってこうなの?もしかしなくてもこうでしょ。なに、聖霊王になったから威厳出さなきゃってことですか。(※正解)
「いいよ別に!そう!昔はこんなだったのよわたしも!」
開き直った。そして拗ねた。なんだ、何が悪い?何か悪いことを言ってしまっただろうか。
「と言うか、ミリシアってもしかしなくてもドジですよね?」
「〜っ!!」
図星だ。僕は、澄ました顔してカタコトのミリシアより、こっちの明るいミリシアの方が好きだと思ってしまう。
「ば、っっか!」
なんでさらに拗ねるんですか。あっ、もしかして僕の心読んだのだろうか。それはずるい。平等じゃない。僕にも読めれば!
「ざ、残念!そんなことできたらユーリ人間じゃない!」
「い、いや、僕は人間ですよ!ほら、どこからどう見ても!!」
なんか、このミリシア面白い。もしかして、僕を見てた師匠はこんな気持ちだったのだろうか?つまり、ミリシアは弟子?そんなまさか。寧ろ教えてもらった。
「じゃあ、ミリシアってなんなんですかね。」
「急に何!?」
えっと〜?たしか、クラスメイトたちの名前は、ユーリ、ウェシア、セツィア、シーア、ルクシー、ヌドェーラ、ラキシンタ、シャリフ、ノア、アツーファイ、ヤイスァニ、カッドリオ、テリーンヒ、フッデミール、だったかナ。番号もこの順番なはず。
あたしが十一番だから、アツーファイとヤイスァニの間。
あたしミャルラ・インフォルマンティは、お風呂上がりに早速寮内でクラスメイトの名前と番号のメモをしていた。まだ水気を多く含む髪の毛にタオルを被せながらそこまで書き終えると、一気に頭をわしゃわしゃとする。
水気を吸ったタオルをどかして髪に風を吹かせて乾かす。けど、効率は良くない。
洗濯の箱に入れるのもめんどくさくタオルの重みを肩に感じながら頬杖をつく。
「ナハハ、面白いクラスになりそうだナ。特に一番と二番の争い。どっちが勝つんだろうねえ。」
九歳とは思えないとよく言われる持ち前のこの態度。まるで飄々とした情報屋。我が家は社交界に於ける噂話(裏の話)や流行を多くに提供しているのだから、一人前意識を埋め込みたいのだろう。そうすることで情報を得られるとでも思っているのだろうか。
幼少から情報に触れてきたあたしは、簡単に靡きはしない。ああ言うのは将来我が家に肖りたいと考えている者たち。あたしに媚びても無駄なのに。だって家を継ぐのもわたしじゃなく兄様だから。兄様たちがわたしに甘いとでも?
「そんなことより、あたしもお友達くらいつくんないとナ。」
濡れていてもくるくるしている明るい茶色の髪の毛を指先で弄びながら思いを馳せるのは自己紹介。事故った紹介で事故紹介である。あたしはちょっと黒歴史になりそうかナ。あれ。
「八番。」
「は、はひ。」
緊張かナ?随分可愛らしい子もいる。顔もそうだが、性格も。ここにいるのは貴族ばかりで、離れした人が多いから。一番は平民みたいだけど。
「えっと、シャリフ、シャリフ・ドゥアリダードです。眼鏡は、外せません。外さないでください。」
鈴の様な、柔らかな響きの声。しかし眼鏡は外せない、か。何か事情があるのかナ。外す必要もないし、問いただすも何も不要だろう。しかし気にはなる。いつか聞こう、と密かに脳裏にメモをして閉じる。
「呼ぶの面倒になってきたから、どんどん進めていいよ…。」
十五回も同じ言葉を言うのは流石にあたしも嫌だ。教師の気持ちもよくわかる。
さて、次は誰かナ。




