指輪やっぱ不便かなあ
初めに宣言します。長いです。
そう、シーアくんだ。子爵家の。リンベイツルーだったか。シーア・リンベイツルー。師匠が銀髪なのに対し、真っ白な雪みたいな髪の毛だから、ちょっと似ていると思ってしまった。けど、顔や雰囲気どころか髪の艶や透明感も段違いに違うから師匠と同じだとは思えない。それに、シーアくんの目には空みたいな淡い蒼色がついている。
「先に入寮手続きしませんか?人が来る前に。」
そういえば、僕は浮遊魔法でここまできたけど、シーアくんも浮遊魔法が使えるのだろうか。後で聞いてみよう。
「そうだね、その方が僕も嬉しいな。」
一人称が僕だ。僕と同じだ。僕と言う人はなかなかいないから妙に親近感を覚える。僕っ子同盟を勝手に結成しておこう。
「びっくりするなあ、今年の新入生は寮までたどり着くのが早くないか?これじゃあサボりがバレる……サボりって言っちゃった!」
誰だこの騒がしい人は。口ぶりから考えて先輩だろうか。
「僕は何も見てないし聞いてないので入寮手続きをします。」
こう言う面倒くさそうな人は無視に限る。まあ、そう言う偉そうなことを言えるほど社会経験はないのだけれど。
「僕も早く話がしたいし、入寮手続きだけ済ませるよ。」
二人して寮内へ入り事務室のようなところに通されると、寮長と名乗る若い男性が挨拶をする。まあ、ハーフエルフっぽいから若いかわからないのだけれど。
いつかミリシアが言っていた、エルフとハーフエルフの違いが気になって師匠に尋ねてみたことがあって、その時に教えてもらった知識だが、エルフに寿命の際限はないがハーフエルフにはあるらしい。確か3,000年だっただろうか。十分に長い。見分け方は、耳だ。エルフは長い。とても。けど、ハーフエルフはその半分ほどの長さらしい。ハーフエルフっていうのも、耳の長さがハーフだからなんじゃないかと師匠は言っていた。半分と言っても、人間よりは長いけど。
「しかし、早いねぇ、ここまで来るの。そう近いわけでもなかっただろう?遠いわけでもないんだけどさ。」
「ええ、まあ。早く済ませないと混雑しそうだったので。」
種族は似たようなものだけど、ミリシアやテグスタさん、クィーツァイさんどころか師匠とも似ていない。
寮長さんをじっと見すぎたのだろう、苦笑いをしながら耳をいじる。
「君はエルフを見たことがあるのかな?耳を見ていたけど。」
「はい、師匠がエルフで、お世話になった人の中にせいr………!なんでもありません。」
口を滑らせるところだった。「聖霊に会ったことがある!?」「あの新入生何者なんだ!」って目立って、退学処分にでもなったら……。そんなの絶対に嫌だ。
「お師匠様がエルフ…ねぇ。そりゃ珍しい。その指輪はお師匠様からもらったのかい?」
指輪!!?ただのアクセサリィに見えるこの指輪にどうして着目したのか。ミリシアの存在がバレたらそれこそ大事だ。
「え、ええ。まあはい。」
「ユーリくんの指輪がどうかしたんですか?」
シーアくんの目が獲物を捉えた狼みたいだよ!そう言う狼がどんな感じかわからないけど。とりあえずもの凄い好奇の目で見てくる。
「……いや、気のせいかもしれないな。まあともかく、入寮手続きだろ。これに名前と年齢、その他諸々、書いて。」
「はい。」
危なかった。気づかれたかと思って警戒してしまった。まあ、この人にとっては王と言える人なのに、どうして警戒したのだったか忘れたけど。ああ、そうそう。学校に生徒じゃない人を連れてきてるからだ。今中にいるのかわからないけど。
「聖霊力が溢れてる、気をつけた方がいいよ。」
思わず顔を上げる。そこには1ナーチも表情を変えていない寮長の顔があった。聖霊の末裔には、聖霊力を感じ取る力でもあるのだろうか。
気をつけた方が良いと言われたところで、気をつけ方はわからないのだけど。
「書き終わりました。」
早い、シーアくん!僕も急いで書かなければ。名前と、実家と、年齢と、いろいろ書かないとだけど、ぱぱぱっと書き上げていく。文字を書くのは案外簡単だ。初めの頃はそれこそペンの一つも持てなかったけど、師匠が座学をしなさすぎて自主勉強をしてるうちに身についてしまった。
「はい、僕も終わりました!」
「不備はなさそうだ。入寮手続きは完了。部屋の鍵はこれね。魔力を登録しないと使えないから。」
魔力の登録?トウロク?とうろく?って……何?どうやってやるの?
「ユーリくん、ほら、行くよ。」
「あ、ごめん!すぐ行きます!ってそれより、魔力のトウロクってなんですか!?」
鍵を両手に包んでシーアくんを追いかける。トウロクしてないからどうなってしまうかわからないし、万全を期して。
「え?登録は登録だよ。魔力を流し込むんだ。そしたら自分のものになるよ。」
魔力を、流す?それだけで僕のものになる?どういうことだろう……。実用的な魔法より、実用的な知識を教えて欲しかったなあ、師匠。帰ったら不満の一つでも言わないと。
あ、いや。師匠はもう巨岩にはいないかもしれない。どこにいるんだろうな。また会えるだろうか。師匠……。
「これでいいんですか?」
「そう、それでいい。ほら、ここが僕たちのお部屋だって。何番?」
番号?あっ、鍵に書いてある。どれどれ、1。1かあ。一番だからって何かやってねとか言われないだろうか。平気か。
「一番です。」
「僕は四番。どうやら、試験の実力順みたいだね。」
なるほど、そう言うことか。今の席も実力順らしいし、いろいろあるんだなあ。と言うか、戦ったわけでもないのに実力って、何をみて言ってるんだろう。魔力量?いやあ、でもそれだったら僕より多い人とかいるんじゃない?わからないけど。
「そういえば、シーアくんはここまで浮遊魔法できたんですか?」
「さて、どうだと思う?実は天使族の末裔だったり………はしないけどね。けど、純粋な人間でないことも事実だよ。いつか当ててみてね。」
そう言って部屋の中に入ってしまった。僕も早く入ろう。今日は色々あったから、早く眠ろうか。いや、移動手段が浮遊魔法なだけあって、運動不足になりやすいから、今日も筋力トーレニングだ。と言っても、腿上げしたりとか足踏みしたりとか、その程度だけど。
それより、結局シーアくんの話ってなんだったの?
試験の日から、シーアはユーリくんには驚かされてばかりだ。今日だって、いきなりすごいことを言い出すものだから驚いた。
「浮遊魔法は移動手段、魔法は生活手段。ねえ。」
古い考えだ。もちろん、貶しているわけじゃない。いい意味で古い考えだ。昔はそう言う人の方が多かったと言うし。僕も、その時代に生まれていれば。今よりはたくさん魔法を覚えられただろうか。
今では魔法は出世するためのもの。社会を賢く生きるためのもの。その使い方が間違いとは言わないけど、なんとつまらない使い方になってしまったのだろう。魔法がかわいそうまである。
「純粋な人間でない、かあ。」
自分の口から言っておいて、なんて言う皮肉のこもった言葉。氷雪花の妖精である祖母。それと人間のハーフである母。つまり、僕は氷雪花の妖精のクォーターと言うことだ。
だからと言って妖精のように幻術が使えるわけでもなく、氷雪花だからと言って氷魔法が得意なわけじゃない。どちらかと言うと風魔法の方が得意だ。秋と冬の属性が強いとは言われたけど。
「それにしても、ユーリくんかあ。あの指輪、何かある気がするんだよね。何かを感じると言うか。」
エルフのお師匠様にもらったみたいだし、聖霊に関わるものなのかな?ほら、妖精も元は聖霊な訳だから、僕にも聖霊を感じる力があったりして。あったらいいけどね。
「僕のお友達候補くん、これからもよろしくね。」
壁の向こうにいるであろうユーリくんに一人そうつぶやいて、笑って見せる。天使のようだと言われる僕の笑み。君にはどう見えるだろうか。
そう言えば、何を話そうとしてたのか忘れちゃったな………。




