かっこいい武器はロマンだよね
ノアはまだ試験を解き終わっていない。四分の三ほど言ったあたりで試験官から声がかかって誰かが退室して行く。きっとユーリくんだ。わたしの見立て通り、かなり頭が良いようだ。世間知らずな面も多いけど。まるで箱入り娘だったかのように。彼は男の子だから箱入り息子か。
なんて雑事を考えながら解いていると、最後の問題になった。
『あなたは魔法をどのように捉えていますか。繕わないありのままの心を答えよ。』
なんだ、この問題は。こう言うアドリブっぽいものは対策していない。これは試験だ。こっちもアドリブで対抗するしかないだろう。
【魔法は、リンベトルシイェーン様が与えてくださった知識の結晶です。その力は国を豊かにするものだとわたしは考えています。】
これでいいだろうか。不安だ。ユーリくんはどんなことを書いたんだろう。
そう考えていると、紙がひとりでに浮いて、発光しながら飛んでいく。もしかして、答えが見えないようにしているのだろうか。だとしたらすごいと思う、そんなところまで考えているだなんて。
「試験を終えたものは退室だ。入ってきた扉とは反対側に奥へ続く扉がある。」
ユーリくんの時と言葉が違う。今は変わらないのに。定型文とかないのかな。
奥へ進んでいくと、そこには闘技場のようなところがあった。闘技場がどんなかわからないけど。魔術師訓練室って言うから、てっきり室内だと思っていたのに。とりあえず、ここが実技の会場なのだろう。今日中に二つともやるとは思っていなかったけど、問題はない。
「へえ、早いネ。けど、ボクは補佐官だから試験官じゃないんだよネ。試験は全員揃うまで待っててもらえるカナ?」
どこからともなく声がした。その場所を探るように視線を彷徨わせていると、観客席のようなところの一角に屋根のついたところがあるのをみつけた。まるで偉い人をそこに通したり、実況者が座るような親切な屋根を持つ区画。
僕は今闘技場の舞台の真ん中まで進んできている。ここから大体100ネータ程だろうか。顔までははっきりと見えないけど、声はしっかりと響いた。魔道具でも使っているのだろうか。その声で女性なのだと言うことはわかった。吹けば消えてしまいそうな雰囲気を残しつつ、はっきりとものを言うその声は、さらに続ける。
「待つ間、暇だろうカラ魔法の練習をしていていいヨ。ボクが見ていてあげるカラ。教えはしないけどネ。そもそも必要ないデショ?」
大いに必要である。攻撃手段を教えてほしい。
現在僕が使用できる攻撃、または護身手段。それは、父さんに教えてもらったショートソードと火球水球くらいだ。まともに使えるのは。
槍や風球は?と思うかもしれないが、詠唱がわかるから使えるのではなく、詠唱が分かった上でイメージをしないといけない。詠唱はあくまでイメージの構築の補助だから、イメージができなければ何も魔法は使えないのだ。
それならイメージを一から構築すれば良いのだれけど。そう言う試行錯誤は時間と余裕があるときにしなければ。
あれ、今時間も余裕もあるのでは?そうとわかれば実験だ!
『世界を浄化し変化を齎す春の女神レミアヴィノーフが眷属雷の女神レーナスワイハに告ぐ。天を裂き地を穿つ燦然たる豪雷を我が手に御授け願う。我が祈りを御身に捧ぐ。彼の祈りを御身に捧ぐ。祈りが耳に届いたならば、我等の求む魔法とならん。
ランツァ ディトレノ。』
少し早口になってしまった。気が昂っているのだから仕方がない。
僕がいま出した雷槍は、矢印のような形になっている。イメージがしやすかったからだ。だが不格好。イメージしやすい代わりにパッとしない見た目になった。今度は装飾に凝ってみるのはどうだろう。例えば、本物の槍のような質感を持つ攻撃主体の本体と、その周りを迸るように巡る静電気のような微弱な雷を持つ格好いい武器。
格好いい武器は男の夢だ。僕はいまここで成し遂げる!
とりあえず今作った雷槍は地面に突き刺しておこう。あとでまとめて投げるとして。それか勝手に地面に雷が吸われちゃってもいいよ。どうせ消すんだし。
そう言う軽い感じで目の前にそれを突き立てる。案の定、すぐには消えない。でも別にわざわざ今消そうとは思わないので放りながら新しく槍を作りだす。
今度は艶のある純金で作られたかのような柄に雄々しい凶暴そうな刃。まるでフォークのように3本にわかれている。
それを、やはりイメージでくるくると回しながら、先ほどの槍と見比べる。格好良さは断然こっち、簡便性はあっち。そんな感じで悪いところ良いところを考え、なるべくそれを組み合わせてより良い雷槍を作る。
「ごめんくださーい、誰かいま……ユーリくん!?いや、やっぱりいるよね……。」
「あれ?ノアさん!みんなどうでしたか?」
しょぼい方の槍とかっこいい方の槍をそれぞれ両手に持って見比べているところ、ノアさんが筆記試験を終えてやってきた。そのまま挨拶をするため振り返ると、半ば放心状態の彼女が目に映る。
「ちょっとキミ!なんで雷槍を二つ持ってるノ!?」
あ。人がいるんだった。師匠に見せた時も微妙な反応をしていたから、あんまり人前ではやらないようにしてたんだけど。と言うか、“飛びながら”の時点で同時詠唱なんだけどね。
「ごめんなさい!同時詠唱です!すぐ消します!」
「消さなくていいヨ!!と言うかすごいネ!そんな歳でできるなんテ!!」
興奮しているのか声が大きい。そのままこっちに降りてきて、僕の前まで来て槍を見始める。途中ボソボソと何か言っているけど、よく聞き取れない。
「ユーリくん、新入生だなんて思えないね……。」
どうやら相当すごいことだったらしい。近くまで来たノアがボソッと呟いたのが聞こえた。コツコツ練習すれば誰でもできるのに、大袈裟だ。
九歳であるハズの新入生候補が、同時詠唱を始めタ。もっとも、魔力量だけは新入生じゃナイ。まあ、まだ未熟なトコロもあるケド。きっと、初めの奴はそのうち消えるんだろうナ。
『ランツァ ディトレノ。』
至って普通の詠唱。ケド、まだ消えない一つ目。そしてその二つを観察し始める新入生。なんだコイツ。どんな師匠がいたんダ。師匠無しでコレはあり得ナイ。
「ごめんくださーい、誰かいま……ユーリくん!?いや、やっぱいるよね……。」
新たな新入生がコチラに入ってきタ。さあその男の子を見てみロ。どんな反応をすル?
「あれ?ノアさん!みんなどうでしたか?」
突っ込まナイ!?いや、呆気に取られてるの方が近いカナ。やっぱりそう言う反応にナルよネ。ココはボクが言ってあげヨウ!
「ちょっとキミ!なんで雷槍を二つ持ってるノ!?」
今思い出した、と言わんばかりにコッチを振り向いたユーリと呼ばれた少年は謝ル。謝るナ。悪いコトじゃナイんだカラ。
「消さなくていいヨ!!と言うかすごいネ!そんな歳でできるなんテ!!」
ついつい興奮が勝つノは仕方の無いコト。もう抑えられナイ。滅多に見ないカラ、同時詠唱なんテ。まして、雷槍のデザインマデ考えてるなんテ。規格外だケド、スゴイ!
「魔力の供給が絶たれていナイ。ケド魔力量の減りは少ないナ。」
やっぱり総魔力量がケタ違いなんダ。どんな訓練をしてきたんダ。
「魔力も省エネ化されていル。スゴイ。」
興奮は止められないけど、少年に迷惑がかかってしまうナ。コノ状態で他の新入生が来ると面倒ダ。
「アリガトウ、消していいヨ。」
「は、はい。」
実に素晴らしいかっタ。帰ったらボクもやってみヨウ。




