第59話(累計 第232話) エピローグ1:ダムガール、幸せな未来を夢見る。
「アミータさま。この度は面会を許可頂き、ありがとうございます! ナイト798、貴女さまのご厚意で我が命は永らえる事が出来たと聞いております」
「いえ、そこは偶然というか、思惑とは違う方向になったというか。でも、貴方さまと戦う事にならなくて良かったですわ」
魔王戦から一月後。
コンビットスの公館に、多次元商社「デミウルゴス」のエージェント、ナイト798が来訪してきた。
「私どもの組織としましても、助かったというのが本音です。実は、あの後。本部から酷くお叱りを受けたんですよ。資産や技術を支援するまでは良い。だが、武力の直接介入はやり過ぎだと。我らはあくまで部外者。世界が勝手に自爆するまでは良いが、我らが破壊するのは違うと……。赤字を垂れ流す様な行為をするなとも。更には、一部オーディエンスから批判もありまして」
ヨハナちゃんは怖い笑みをしながら、ナイトに茶を継ぐ。
彼がわたし達に酷い事をしてきた。
そして、わたしの命を狙ってきたのを、ヨハナちゃんは恨んでいるのだ。
……ヨハナちゃん、視線が怖いよぉぉ!
「そのお考え、少々傲慢とは思いますが今は辛抱しますわ、ナイトさま。多くの世界は、皆。一生懸命生きています。誰もが幸せを望み、新たなる幸せを求めて足掻きます。そこに争いが起きてしまうのは悲しい事ですが」
「ああ、そのお答え。本来の身体を失い、精神体になり無限の命を得た我らには活力。生きていくための欲望や渇望が失われて久しいのです。命の輝きの眩しさ、そこに憧れてしまうのです」
目をキラキラさせて、ぐいとわたしに顔を近づけるナイト798。
その狂気じみた視線に、わたしは少々怖くなる。
「と、毎回訴えてくるのだ。これでは誰が主か奴隷か、よくわからん。オレも正直困っておる」
「ああん、魔王さま。良いでは無いですか、貴方さまとの血の契約は一切破っておりません。アミータさまのご勇姿は我が商社の配信でも大人気ですので」
わたしの困惑を見てくださったのか、魔王。
イヴァンさまは、ナイト氏の襟首をつまんで後ろに引き戻してくれる。
それでも、ナイト798はわたしに向かって狂信じみた好意いっぱいの視線を向けてくるのは、実に怖いのだ。
……どこで、わたしへの思いが狂信に変わったのかしら? 確かに、以前お会いした時からわたしへの好意は感じられていたけど。
「魔王さまに血を吸われて下僕になる瞬間、私の心は命の大事さをようやく理解できたのです。これまで不老不死に胡坐をかき、目の前で失われていく命が駒、ゲーム上でのアイコンにしか見えなかったのです。しかし、自ら命を失う直前になり、我らが奪ってきた命も同じものだったと気が付きました。なので、この機会を与えてくださったアミータさまに感謝しています!」
……なんか、違わないかなぁ? まあ、異世界の人も同じ人間だと気が付いてくれたのなら幸いだね。
「はぁ。魔王陛下がお困りでは、ボクらではどうにもなりませんですね。ですが、まあ命のやり取りをするでもなく、陛下や商社とも言葉で語り合える関係になったのは幸いだと思います」
「それはオレも実感したところだな。命を奪わなかったから、こんな面白い状況になったともいえるからな。ふははは!」
ティオさまと魔王さまが苦笑しあって見合う姿。
その様子に、わたしは思わずにんまりと笑みを浮かべてしまった。
「そう、その笑顔! 生き生きとした表情を我らは見たいのです。こんど、独占インタビューを放送させていただけませんでしょうか、アミータさま!」
「えー!! 恥ずかしいですぅぅ」
わたしの叫びが、公館内に大きく響いた。
◆ ◇ ◆ ◇
「うわぁぁ。わたくしがしばし居ない間に、こんな事をしていたんですか、ドゥーナちゃん、リナちゃん!」
「アミータ姫さまがお喜びになると思いましたので」
「うふふですわ、アミータお姉さま」
また季節は過ぎ、夏を迎えた頃。
わたしはナイショだと言われて、目隠しをされて遠くまで連れてこられた。
そして、目かくしを外すと、そこには想像もしなかったものが存在した。
「ふははは! アミータ。我ら魔族も、このような事が出来るのだぞ!」
「イヴァンさま、貴方は何もしていなかったでしょ? 俺たちやリナが、どんだけ苦労したと思うんですか? はぁ、アミータどの」
自慢げな魔王さまの背後。
そこには豊かな緑と黒い大地。
多くの魔族が働く農地があった。
「こんなに早く魔族国内に大規模農地が出来たんですね。良かったですわ」
わたしが望んでいた光景。
荒れ果てていた荒野が広がっていた魔族国。
そんな場所に、こんなステキな農地が生まれた。
そして、多くの魔族たちが額に汗を流し、真面目に働いている。
「アミお姉さんにお喜び頂き、ナイショにしていたボクも嬉しいです」
わたしの横に発つティオさま。
来年には、この世界での成人、十六歳になる育ちざかり。
すっかりわたしの背丈を越え、まだまだ伸びそう。
手足もしっかりと筋肉がつき、幼かった顔も精悍さが増してきた。
「うふふ。ありがとう存じます。来年、ティオさまが成人になられるときが楽しみですわ!」
わたしはティオさまの腕に抱きつき、大きくもない胸を彼に押し付ける。
「あ、アミお姉さん。あまりお身体を押し付けて出さるのは……」
「うふん。ワザと押し付けているんですもん! いいんじゃないですか」
耳まで真っ赤にしたティオさまがとっても可愛くて、わたしは更に抱きついた。
「おほん! アミちゃん姫さま、公然の場でイチャコラは危険でございますよ」
毎度ながらヨハナちゃんから突っ込まれるわたしであった、まる。




