第58話(累計 第231話) ダムガール、皆で食事を囲み一安心する。
「ふぅ。今日も旨かったぞ、アミータよ」
「お粗末様でした、イヴァンさま」
今日は、夕食会に皆を呼んでいる。
もちろん、その場には魔王陛下、イヴァンさまもいる。
これまでの事と、これからの事を打ち合わせる報告会だ。
「イヴァンどの。この度は、我らとの休戦に応じて頂き、感謝します」
「ん、若き公爵よ。オレはもう王ではない。ただのイヴァン。オレ個人は、もう戦う必要が無くなっただけ。国なぞ面倒くさいから、魔族国と王国の戦争は知らんぞ」
ヨハナちゃんから給仕された茶を飲みながら、くつろぐイヴァンさま。
もう、すっかり以前の殺気も感じない。
「それで、魔族国を全部ぶん投げられたら、残された者はたまらんぞ、陛下。今も、魔族国内では混乱をしているのだが……」
「ん、グリシュよ。オマエは先にオレを裏切って、こんな旨い飯を喰っているのだ。そのくらいの仕事はやれ。第一今さら、オレのいう事なぞ、誰も聞いてくれんのだからな」
……魔王陛下が討たれたという情報。わたしは秘密にしていたかったんだけど、いつのまにか魔族国の王都まで流れてしまったの。すっかりパニックになって、旧魔王派と反魔王派に別れて争いが勃発してしまったわ。
今や魔族国の代表になってしまったグリシュさま。
ダイロンさまたちと組んで、反魔王派をとりまとめ。
わたしの軍力を背景に、一月程度でなんとか落ち着かせることに成功した。
……今は、リナちゃんが向こうで魔族を取りまとめているの。凄いよね。
かつて魔王であったイヴァンさまに文句を言うのだが、知らんぷり。
それどころか、グリシュさまが先にわたしの元で御馳走を食べたのを怒られてしまう。
……というか、わたしも含めて殺し合っていた人と、文句や冗談を言い合って一緒にご飯を食べているだけでも不思議な感じよね。
「イヴァンさま、流石に理不尽でございますよ。貴方さまが放り投げてしまった魔族国の維持管理を、グリシュさまやリナちゃんがなさろうとしているのですから」
「だが、オレがやっても上手くいかんのは、既に結果が出ているだろう、アミータ? なら、違う者が統治しても良いだろう。可憐なリナなら人気だろうな。第一、これだけ旨い食事をオレに黙ってグリシュらが食べていたのが許せん」
イヴァンさま、すっかり王として懲りたのもあるが、元より「喰らう」というスキル。
亡くなった友人が料理家だったというのもあり、彼を泣く泣く喰らったために、それ以降は酷い渇きと飢えに見舞われ、味がしないと言っていた。
「すっかり、食いしん坊になっちゃいましたね、イヴァンさま」
「悪いか!? オレがこれまで望んできた。渇望していた物。旨い飯は、ここにあった。なら、それを求めて何が悪い。奪わずに、労働の対価として頂くのなら、何の問題はないだろう」
わたしが彼を助けた後に食事を与えたのだが、それが切っ掛けで彼の胃袋を捕まえてしまった。
そして、彼は休戦と協力の条件として、以下の事を要求してきた。
「そうだな。オレが望むときに飯を。旨い飯を出せ。そうすれば、休戦だろうが、願いだろうが魔王が叶えてやろう。そして、この飯を、オマエの英知を分け隔てなく、全ての魔族にも与えよ!」
◆ ◇ ◆ ◇
「では、イヴァンさま。敵、多次元商社『デミウルゴス』について分かった事を詳しく教えて頂けますか?」
「うむ。アイツらは、愚かなものたちであったわ。あ奴らの拠点を制圧。アミータの望み通り、誰も殺さなかったぞ」
デミウルゴスのエージェント、ナイト798がわたし達を脅す様に提案をしてきた後。
彼が帰る際に魔王、イヴァンさまに隠れて尾行してもらった。
……いくらステルスヘリでも、魔法で姿を完全に消した魔王が張り付いたら、分からないよね。
「その拠点は、何処にあるのですか?」
「オレは地図が読めぬ。ただ、飛んだ方角と周囲の景色は覚えておるし、目印になる魔力も残してきた。後で、飛行機に載せろ。案内してやる。確か、王国の南側だった」
魔王陛下によって敵商社の拠点が分かった。
王国の南部、法王国との国境近くにあった廃村。
そこを開発し、一大拠点としていたのだ。
「あと、ナイトとやらの血を吸って魂まで呪詛を掛けた。こちらの世界に一切手を出すなとな」
「吸血鬼みたいな器用な真似が出来たんですね、イヴァン陛下。でも、どうして今まで、そのお力を使わなかったのですか?」
「昔、吸血鬼を喰らった事があってな。だが、血は不味かったぞ、アイツ。あの身体は作り物だったそうだがな。それとな、言いなりの傀儡など全く使えぬし、適度な反逆は娯楽でもあったからな」
……そういえば、グリシュさまやダイロンさまも話していたけど、魔王さまは挑戦はいくらでも受ける人だったわ。納得なの。
敵の現地指揮官であったエージェント、ナイト798。
彼を魔王陛下は支配した。
今後は、彼がわたし達に手を出す危険性は無くなったらしい。
……イヴァンさまが裏切っていない限りね。
「ん? いらん事を考えるなよ、アミータ。オレは良き飯が出る限り、オマエらを裏切らんわい。だが、配信とやらだけは続けさせてやるからな」
「しょうがないですよねぇ。ナイトが、この世界の管理者で居てもらうためには、そのくらいは代価になるのでしょう。いきなり左遷されて、別の人が来ても困りますから」
魔王は、ナイト798を己の奴隷にした。
だが彼は魔王に対し、配信だけは続けさせてほしいと訴えたそうだ。
今や、わたしの物語は高視聴率の人気番組。
多くの視聴者から評価が沢山でているらしく、それだけで商社としては多くの収入を得ているとの事だ。
「視聴率がどーのとかは分からんのだが、オレやアミータが人気ならしょうがあるまい。覗き見されるのは少々しゃくに触るが、見られるだけの方が空から撃たれるよりマシだからな。もう、アミータやアイツらから討たれるのはこりごりだ。」
「俺たちの足掻く姿を見て、楽しいのですかねぇ、魔王陛下? アミータ嬢に撃たれたくないのは同意ですが」
魔王陛下とグリシュさまが苦笑して顔を見合わせているのも、中々に面白い光景だった。




