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間違えて王国の最難関の選抜試験を受けたら合格してしまったんだが   作者: 水乃ろか


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第8話 争いあってるんだが



「皆さん何を言ってますの! ここは国の中枢機関である『王家参謀庁』が引き取るに決まっていますわ!」


 その言葉を合図に、「私が!」「俺が!」「わしが!」「あーしが!」と、今度は四人がかりの言い争いに発展した。

 誰か助けてくれ。もしくは代わりに結論を出してくれ。

 俺はただ、静かな図書館で本に囲まれながら、フェリスを養うためのお金を稼ぎたいだけなのだ。

 

 俺は言い争っている様子を見ながら、すやすやと眠るフェリスの背中を撫でていた。

 毛並みが温かくて柔らかい。無性に癒やされる。

 

 フェリスのおかげで冷静になりつつ、就職について考えていた。


 騎士団やら、魔法使いやら、王家やら、どんな職場なんだろうか。


 って……あれ? ちょっと待ってくれよ。

 騎士団だとか王家だとか、それを仕事にするにはそもそも重荷すぎないだろうか。

 前の職場で散々苦労したのだ。もう理不尽な過労はごめんだよ。


 ここは黙って待ってても埒(らち)が明かないな。無理やりにでも話を本題に戻すしかない。


「あのー、ちょっといいですか?」


 俺が手を上げて声をかけると、四人の視線が一斉にこちらを向いた。

 視線だけで殺されるんじゃないかと思えるくらいの鬼気迫る視線だ。


「俺、図書館の司書の仕事がしたくてここに来たんですが、それは可能でしょうか。第一志望はそちらでして」


 言ってしまった。言い合いの真っ最中に、堂々と俺の希望を差し込んでやった。

 空気を読んでいない自覚は多少ある。だがもう今更だ。

 

 俺の言葉を聞き、四人は冷静さを取り戻したのか、それぞれの席に座り直した。

 

「……司書と言ったな? お主は何ゆえ司書を志すのじゃ?」

「そういえば、ルディアス様は司書がどうのと仰っていましたね。でしたら、なぜアーウィンド王国の合同選抜試験を受けたのですか?」


 賢者エルンの疑問に続いて、クレア王女が首を傾げながら聞いてくる。


 もう隠しようがないな。ここは開き直っていくか。


「いやその……実は、司書の採用試験だと勘違いして受けてしまいまして……申し訳ありません」


 俺は素直に白状した。

 この人たち相手に取り繕っても、すぐ見抜かれるだろうしな。

 

「勘違いで……受けたじゃと……? それで満点を叩き出したと? 冗談じゃよな?!」

「いえその……本当です。すみません……」


 賢者エルンが目を丸くして身を乗り出してくる。

 

 ……そこまで驚くことか、これ。

 俺からすれば、間違えて受けた試験でも解ける問題は解けるって、ただそれだけの話なんだが。

 

 なんだか、うっかり試験を間違えて受けただけで大事になっている気がする。

 四人とも表情が硬い。これはあれか、国家試験を間違って受けた不届き者として説教される流れか。まさか罪になるとかは無いよな……?


 覚悟していると、クレア王女が椅子を蹴るようにガタンと立ち上がった。


「ええ、よろしくてよ! 古代図書館は我が『王家参謀庁』の管轄下! ルディアス様に図書館での勤務を特別に許可いたしますわ! それと同時に、『王家参謀庁』へも所属していただきます!」

「あっ! ずりいぞ! 二重所属は禁止のはずじゃねえか!」


 ギルドマスターのヴェインがクレア王女に抗議する。

 だがクレア王女は人差し指を立てると「ちっちっちっ」と指を横に振った。

 

「ルディアス様に限っては、その規則を変更いたしますわ! 複数所属も問題なし、と! 規則を変えられるのも『王家参謀庁』の特権ですのよ! これで、私の勝ちですわね!」


 クレア王女がヴェインに向かって勝ち誇った顔を向け、高らかに勝利を宣言した。


 経緯はよく分からないが、どうやら俺はねんがんの図書館に勤務できるらしいぞ? まさかの思わぬ形で達成だ。

 

 だが他の三人の様子がおかしい。

 クレア王女の勝ち誇った様子を見て、エルン、ヴェイン、ランスロットの三人がニヤリと笑っている。


 ……その笑い方、すごく嫌な予感しかしないんだが。


「じゃあ、それで決まりだな!」

「うむ、わしも異存は無いぞ」

「なるほど、そういう手があったか!」


「なに? なんですの? そんなに『王家参謀庁』の私が引き取ったのが嬉しいんですの?」


 困惑するクレア王女に、賢者エルンが杖をくるりと回して笑い声を上げた。

 

「ぬはははは! 違うじゃろう。クレアよ。お主はたった今『複数に所属しても問題なし』と自分で言うたな? つまり、そこのルディアスは我らの組織にも所属しても、なーんにも問題がない、ということじゃ!」

「し、しまったりましたわぁ! お墓穴(ぼけつ)を掘りまくってしまうとは……! ちっ! こうなれば仕方ありませんわね!」


 ふーっと息を吐いたクレア王女がツカツカと歩いてきて、俺の前に仁王立ちした。

 そしてビシィ!っと俺に指を突きつけてくる。

 

「当初の予定とは違う形になりましたが……そういう事で、今後ともよろしくお願い致しますわ! ルディアス様!」


 四人からそろって爽やかな笑顔を向けられ、俺は愛想笑(あいそわら)いを返すしかなかった。

 

 ……あれ、俺、図書館の仕事がしたかっただけなんだけどな。

 なぜか、『不死鳥騎士団』、『冒険者ギルド本部』、『魔法帝魔導協会』、『王家参謀庁』のすべてに所属する事になってしまったらしい。


 求人一件に応募したつもりが、いつの間にか別の四社と契約を結ばされてる感覚、分かる奴いるか? 多分いないと思う。俺にも分からん。

 

 まあ……いいか。

 なにせ俺は、古代図書館での勤務を勝ち取ったのだから!


 これでアーウィンド王国の巨大な古代図書館で、俺が求める『禁書』が読み放題になるんだ!

 あんな本も、こんな本も……うへへ!


 

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