第7話 二次試験が始まったんだが
「なあに、試験を全問正解したルディアスくんに簡単な質問をいくつかさせてもらうだけの話しさ。すぐに終わるよ」
「はぁ、そうですか……」
なぜか勝手に二次試験が始まったんだけど……てか、絶対すぐ終わらんだろこれ。
俺以外にも、いくらでも全問正解者なんて居そうな気はするけど何でよりによって俺なんだよ。
それにさっき「全問正解で合格した」って言ってたよな?
俺の理解がおかしくなってないなら、合否はもう出てるはずなんだが。
それなのに、なぜか今から新しい試験が始まる。
おかしいのは俺の耳か、俺の頭か、それとも王城の時間の流れ方か。
だがこんな重役の人たちに対して「話が違いますよね? 喧嘩売ってんすか?」と噛みつく度胸はない。
ベマスダの無茶振りで鍛えた愛想笑い筋肉が、無駄に仕事をしてくれる。
無精髭を撫でている騎士団長ランスロットが、腕を組んで問題を切り出してきた。
「では聞こう。騎士団の第一部隊が山岳地帯で孤立し、負傷者が三割いる。さらに三日分の食糧しかない状況だ。そこに魔獣の群れが接近中とする。ルディアス、君ならどう部隊を動かすかね?」
騎士団の戦術や兵站に関する知識を問う問題か。
こういった問題の場合、詳しい数や状況を聞きたくなるが問題以上の情報は無しというのが常識だ。
ならば、教科書通りの無難な答えになるんだろうか。
「負傷者の傷の深さにもよりますが、まずは山岳地帯の地形を利用して狭所に陣を敷きます。負傷者のうち軽傷者には罠の設置と弓の準備を任せ、重傷者は少数の護衛をつけて後方へ。魔獣の習性を利用して、火と大きな音で牽制しながら本隊の救援を待つのが妥当かと」
「即答か……ふむ、なるほど」
答え終えた瞬間、応接間の空気がピシリと固まった。
……あれ? 静かになったな。俺、なんかまずいこと言ったか? 常識の範囲で答えただけなんだが。
静まり返った部屋の中で、テーブルの上に丸まっているフェリスの寝息だけがスースーと聞こえてくる。
「では次に、わしからの質問じゃ」
沈黙を破って立ち上がったのは、幼女の姿をした賢者エルンだった。
杖の先で床をコツンと鳴らす。
「このアーウィンド王国の北の森で魔獣暴走が発生したとしよう。それに対し、冒険者、騎士団、魔法使いの部隊を同時に投入したとする。その際、魔法部隊が炎の広範囲殲滅魔法を放つ最適な瞬間はいつか。それと、事後の魔力汚染に対する領地浄化の費用はどう工面するかね?」
騎士団も魔法使いも冒険者も内政も、全部乗せの問題だ。
ふとベマスダにやらされていた政務を思い出す。
俺は毎年これより状況が悪い「予算は出さんが結果だけ出せ」を国から投げつけられてきた男だぞ。予算がある分、まだこっちの方が良心的まである。
「北の森から魔獣暴走が発生するとなると、目の前の村を通った後に谷を通りますよね。では広範囲殲滅魔法は、軽装の冒険者が魔獣を谷底へ誘導し終えた直後に放ちます。重装備の騎士団は魔法の射線から外れた高台で遊撃と残党狩りを担当。事後の魔力汚染浄化ですが、殲滅魔法の属性を炎から風に変更すれば、汚染度を三割減らせます。炎だと魔獣が炭化してしまいが、風魔法なら魔獣から素材を剥いで売る事ができます。浮いた浄化予算と資材の売却によって得た原資は、領地浄化と命を賭けて誘導した冒険者への特別報酬、それに被災した村の復興に回せば、領民の不満も抑えられるはずです。そもそも、この問題は魔法部隊の魔力消費量に対する経費が計上されていません。前提条件が甘すぎるかと」
ついでに減点対象の穴も潰しておいた。
ベマスダの無茶振りで行なっていた政務において、大抵こういう詰めの甘さが問題になっていたから見つけると勝手に口が動く。悪い癖だ。
言い終えると、部屋にはさっきより一段深い沈黙が降りていた。
誰も口を開かないけど……俺は何か間違えたのだろうか。
なあ、誰でもいいから何か喋ってくれよ……
すると、賢者エルンが杖をコツンと鳴らして口を開いた。
「ふ、ふふ……ふふふ! やりよるのう、これは本物じゃ! 横断した知識を持つとは貴重じゃな! こいつはわしの魔導教会が引き取ろう!」
「勝手に決めるな! あーしが引き取る! 冒険者ギルドはいつも手一杯なんだ! お前らだって知ってんだろ!」
「おいおい、少し落ち着け二人とも。ここは国のため、民のため最前線で働く騎士団こそ、一番の優先権があるに決まっているだろう」
エルン、ヴェイン、ランスロットの三人が一斉に立ち上がった。
俺を指差し、大声を上げながら言い合いを始める。
……なんなんだ、この状況は。
——バタンッ!
突然、今まで黙っていたクレア王女が、両手でテーブルを叩いた。
その拍子にテーブルに乗っていた紅茶のカップが飛び上がり、カチャリと鳴る。
「皆さん何を言ってますの! ここは国の中枢機関である『王家参謀庁』が引き取るに決まっていますわ!」
その言葉を合図に、「私が!」「俺が!」「わしが!」「あーしが!」と、今度は四人がかりの言い争いに発展してしまったんだが……




