09 停滞は性に合わない
ぐらぐら。ゆらゆら。
自室のソファにいるはずなのに、馬車に乗っているみたいに不安定な感じがする。
何がどうしてそうなったのか、って言われると、ミゲル様について考えていたら自然とそうなってしまったわけなんだけど。さて、これはどうしましょうね。
確かに好きだったのよ。なのに、今はその気持ちがすっかり萎んでしまっている。
私は恵まれた方だったとは思うわ。だって前世から好きだった人と婚約者になれたんだもの。
私だって今までただミゲル様にメロついていたわけじゃない。貴族社会の結婚は基本、親同士が決めるもので、恋愛結婚ができるわけではないことぐらい知っている。
たまたま前世の推しと婚約者になったので、私は特に何も考えず頷いた。いえ、これから毎日推し活できる。ぐらいにしか、考えていなかったと言った方が正しいわね。
なので、お父様と、今は亡きミゲル様のお父上の間でどんなやり取りがあったのかは知らないし、今となっては余り興味もない。
ただまぁ、我が家が代々受け継ぐスキル「失せもの探し」は便利だしねぇ。国からの依頼も頻繁にあるし、そういうのもあって伯爵家への上昇婚を望まれたのかもしれない。
私はそんな理由とか関係なく、ミゲル様の隣で浮かれていたけど。
私のスキル「失せもの探し」は所謂、探索や採掘に適した能力だ。
ゲーム内では、クエストをクリアすればアイテムや強化素材を取得できたけど、現実では我が家のスキルや特定の物のみを見つけるスキルを使ってアイテム等を探すことが多い。
一応スキル無しでも探すだけは可能だが、時間がかかったり純度や希少価値は高いものを見付けにくいので、結局効率を考えるとスキル頼みになるのだとか。
だから、まぁ。うん。言ってしまえば絶対職を失わないスキルで、且つ国からの仕事も受けているし、そういう繋がりが欲しかった。とか?
とにかく私の婚約を決めたのはお父様たちで、そこに政治的な何かがあったかもしれないのも私は納得済み。
でもミゲル様のお母様は、そうではなかったのよ。
どこまであの方の意見が反映されたのかはわからないけど、彼のお母様は、元々私との婚約に反対だったらしい。
そういうわけで、婚約が決まった当初から厳しく言われてきた。その通りだなと思うことも、そうではないことも。
何がどういう理由で嫌われているのかはついぞ聞く機会を与えられなかった。今となってはそういうのも、気持ちが萎えてしまう一端ではあったのかもしれない。
……ミゲル様も私との婚約には納得されていた。と、思う。婚約や、私の態度にミゲル様が苦言を呈されたことはなかったし。あんまり自信はないけど。
でも、今の彼の気持ちはどうなのだろう。
あのパーティーの晩より数日。ミゲル様からのアクションは、ない。
ミゲル様のお父様が亡くなられてまだ三ヶ月ほど。それに今年はソシャゲのシナリオが始まる年で、ゲーム内の主人公が生まれ育ったのもミゲル様の管轄する領地でもあった。
引継ぎもなくアスティン伯爵家の当主になり、問題や片付けなければならない案件にも追われ、きっと今もお忙しくしているのだろう。
なら、私のことが後回しになるのは、いつものこと。
寂しくはある。それに心配も。
けれど、まだ好きかと言われるとちょっと怪しい。
ミゲル様は私にとって前世から推しで、今世でもそう。
親同士が決めた婚約者なのだから、元々好きだった私はともかく、ミゲル様にまで情を求めるつもりはなかった。
「……なかったんだけどなぁ」
何も返って来ないのが、ちょっとしんどくなっちゃった。
我が家の家業もそうだけど、伯爵夫人になるためにそれ相応の勉強や努力もしてきたつもりなのに、何やっているんだろう。
溜息を吐いて伸びをする。ぐっと伸ばした両手とお腹の奥に何か重いものが溜まったような感覚が嫌になる。
「ダメね、暇をしているからこうしてうじうじ考えるんだわ」
重要なのは諦めと割り切りだ。最初にこの世界に転生した時もそうだったじゃないか。
向こうの世界に残してきたものを諦めて、折角貴族令嬢になったのだからと。ミゲル様の婚約者になった時もそう。ミゲル様のお母様のことや花嫁修業も、前世の推しの隣に並び立つためにそれ相応の努力が必要だと。
幸い仕事はある。婚約がダメになったところで、何もかもが立ち行かなくなることはない。
なら忙しくしよう。
国お抱えの探索屋とでも言えばいいのだろうか。もちろん国以外からのお仕事だって回ってくる。やろうと思えばいくらだって暇をなくせるわ。
「よし。何かお仕事がないかお父様に確認しましょう」
前世でも他ジャンルの推しが死んだときは、盛大に悲しんだ後、仕事に打ち込んで何もかもを振り切ったものだ。
すっかり根が生えそうになっていたソファから立ち上がり、気分を変えるためにもひとまず締め切っていた自室の窓を開け放つ。
思い立ったが吉日。
こういうのは踏み込みが肝心。アクセルは全開がマスト。悩む暇なんて与えないのが一番いいんだわ。
早速何か始めようと、お父様のスケジュールを確認するために、部屋に置いてあるベルを揺らして使用人を呼んだ。




