08 帰宅
帰りも特に問題が起きず、すんなり下山できた。
もう五年ほど水源の探索の依頼を受けている。その間、大きなトラブルもなくこなせているのは良いことね。実際この辺りには魔物もいるらしいけど、今のところ遠目に見たぐらいで直接遭遇したことがないから運がいいのかも。
待機していた騎士さんたちと合流して、アレク様に挨拶をする。仕事中は邪魔になっちゃいけないと思ってあまり雑談はしないようにしているんだけど、相変わらず何かと気にかけてくれていい人なのよね。
馬車の準備が整い次第、アレク様と別れ、行きと同じようにレオン様に馬車で家まで送ってもらう。
今日の感想、山道を歩いたせいで足が痛い。帰ったらメアリーにマッサージでもしてもらおうかしら。
カタカタと揺れる馬車の窓から見える風景が、ぼんやりとしている内に移り変わっていく。
人の手がほぼ入っていない木々の並んだ山道から、長閑な街。次第に道が舗装され、見知った建物が並ぶ王都、そして自宅へ。
やっぱり行きよりも帰りの方が、下り坂が多いのもあって早いわね。一時間半ぐらいかしら。あっという間に帰ってきちゃった。
レオン様の手を借りて馬車を降りる。改めて自分の生家を見上げてみる。多分それなりにちゃんとしたお屋敷、だと思う。
正直、王家のお城とミゲル様のお家ぐらいしかまじまじ見上げたことがないので、平均的な子爵家のお屋敷がどんなものかっていうのがよくわからないわ。
でも、家族で暮らすにはちょっと広すぎるお屋敷に、使用人も充分いてお庭もあるのだから大きい方? なのかしら?
頻繁にスキルを使ったお仕事の依頼が舞い込んでくるし、使用人を露頭に迷わせなければそれでいいか。
「ありがとね。今日の護衛と、……パーティーの時に連れ出してくれたことも」
今日の仕事の締めとばかりにレオン様にお礼をすれば、きょとんとした顔を向けられた。え、そんなに驚く? こういうのをちゃんと言っておいた方が、今後も何かあった時も上手くいくと思っているんだけど。
パーティーの件はこの人、仕事と称して野次馬しに来たんだっけ? それでも、アレのおかげで私個人はすっきりしたわけだし、お礼を言っておいて間違いはないと思う。
「じゃ、なんかあったら呼んでください。様子見に来るんで」
「そこは助けてくれるとかじゃないんだ?」
「一通り見た後で良ければ、助けますよ」
変な人ね、本当。騎士らしくないし、野次馬精神を隠すつもりもないし。まぁ気を遣わなくていいのは楽でいい、ということにしようかしら。
それじゃあ。と、レオン様と別れようとしたところで、若いメイドが慌てたように屋敷を飛び出して来た。
「よかった、入れ違いになったんですね」
「どうしたの? メアリー」
走りまわっていたのか、息も切れ切れになっているこのメイドは、最近家にきた子でよく世話を焼いてくれる。
それは有り難いんだけど、何があったのよ。家にはお父様もいるし慌てて私に報告をするようなことはそうないはずよ?
「つい先ほどまでアスティン家の使者という方が抗議に来ていまして、この間のパーティーの件について旦那様とその、時間をかけてお話し合いをされていましたので」
ごめん。それは私のせいね。間違いなく。
アスティン家の使者、ミゲル様のお家からの抗議、か。まぁ王家のパーティーで騒いだのだし、噂の的になっていても仕方がないわよね。多分、その件についての説明を求められているのだと思う。
ただ、うん。これ、あれよねぇ。その使者って多分、ミゲル様ではなく、ミゲル様のお母様が手配した人なのよねぇ、きっと。
「やり返します?」
横からひょこりと首を出したレオン様が煽り立てるように言う。ちょっと楽しそうに笑っているのは、自分で言っていた通りの野次馬根性なの?
でも残念でした。求められれば文面での状況説明ぐらいはするけど、その煽りには乗らないわよ? メアリーが不安そうな顔しているので、今からかうのはやめてちょうだい。
「この子たちがいるし、やめておくわ」
私一人なら別に何を言われようとどうでもいいのよ。でもさすがにメアリーたちを巻き込んだら可哀想じゃない? 折角、仕えてくれているのだし、お家騒動で就職先が無くなるなんて事態にはさせたくないもの。
つまらなそうに肩を落とすレオン様に、飽きれつつもため息を吐く。
「何だってこんなことに」
「まぁ、あまり不安がらなくても大丈夫よ。多分ね」
メアリーは最近来たのでよく知らないだろうけど、ミゲル様のお母様は、なんというか、非常にご自身の感情に素直な方なのよ。昔からこういう抗議はよくあった。
あまり酷い場合はミゲル様にも報告していたけれど、ある意味誰にも止められない方だし、アスティン家の方針には私が口を出す権利もないから、気にしないようにしている。
実際、抗議の使者が来たり、直接色々言われるだけで手を出されるわけじゃないしね。
それにしても、意外と遅かったわね。ミゲル様は何も言わなかったのかしら? あの方のことだから翌日にでも何かしらのアクションがあると思っていたのに。いえ、無い方がよかったのだけど。
ともあれ。結局、あの方とはきちんとお話することもできなかったなぁ。
「私、ミゲル様のお母様に嫌われているのよ」
うん。
自分で言っておいてなんだけど、理由なく嫌われるのって、やっぱり気が重いわね。




