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10 書架を巡る


「で。なんでまた、あなたがいるのよ」


 思い立ったが吉日と、さっそくお父様に仕事を割り振ってもらったはいいものの、どういうわけかここ数日頻繁に会う男が目の前でふふんと機嫌よさげに笑っている。

 えぇ? 本当に、何? 


「仕事っすよ。アンタと同じで」

「今日の仕事は王立図書館で資料を探すって聞いているんだけど」

「奇遇すっね。俺はそのフォローです」


 どういう偶然よ。これまでも国や行政機関の仕事を受ける機会はあったけど、同じ人が続けて護衛だのなんだのに入ることはなかった。

 何かしらの介入を疑っているんだけど、レオン様、本当に何もしていない? 私の反応見るために、面白がっていたりしない?


「ま、そう深く考えずに。ちゃちゃっとやっちゃいましょう」


 またそんなに簡単に言って。人によっては、スキルを使い過ぎると倒れる人もいるらしいのよ? 私はそんなことないからよくわからないけど。

 そういうことを考えるとゲームのMPゲージやクールタイムって、現実に置き換えた時、安全に能力を使うための措置でもあったのね。


 と、まぁ。考えたところで実際には、便利なゲージは見えないので、大人しくレオン様に誘導されつつ図書館内に入る。

 作業のために閉鎖しているとはいえ、玄関前で屯していたのは悪かったわね。今日の依頼主は既に中にいるのかしら。


 すでにお父様に説明を受けているけど、今日の仕事は王立図書館での資料の捜索。

 なんでも気象学関係の専門家が、降雨量の資料になる文献を片っ端からピックアップしてほしいのだとか。専門の知識はないけれど、探すだけなら問題ないわね。


 すでにいつかの資料を読みながらメモに抜粋している学者さんたちに軽く挨拶をして、私も作業に参加する。

 ちらりと見まわした図書館内には学者さんたちと、レオン様の他にも数人騎士さんたちがいる。この間みたいに街の外に出るわけではないし、皆アーマーを付けてはいない。今回は、人手ということで集められたのかしら?


 一先ずふらふらと図書館内を歩き回り、指定された年月以前の天気について書かれている本を次々とレオン様に押してもらっているカートのなかに入れていく。

 適当に一冊手に取り、ぱらぱらと本を捲り、紙を入れる。多分ここ。で、カートへ。


 この本の、ここね。次の本を探そうと紙を挟んだ本をレオン様に渡せば、レオン様は栞の挟まれているページを開いて視線を通し、「うわぁ」と若干引いたような笑いを見せた。

 まぁ、わからなくもない。実際私も、スキル「失せもの探し」の正確さに引く時があるもの。


「水質調査の時もそうでしたけど、迷いなく見つけるんすね」

「うん? ほとんど感みたいなものよ。なんとなくここにあるんだろうな、みたいな直感が働く感じ」

「ふーん」


 栞代わりに必要だろうと、大量に切った紙を持ってきておいて正解だったわ。この図書館の蔵書がいくつあるかは知らないけど、表に出ている以外にも書架があるのでしょう? 

 家に来たチラシを切ってくれたメアリーとアニーには後でお礼を言っておかなくちゃ。


「間違えたりしねぇの?」

「場合によっては間違えるわよ? 今回は天気について書かれている本ってことだから、気を付けないとフィクションの本も引っかかっちゃうし」


 なので最初から物語系の本棚は無視して、郷土史や伝記、手記などの本棚だけ探しているわけだし。全くの万能ってわけでもないのよね。

 最初に何を探すかを正確に把握して、やっとちゃんとした成果が出せる。何事も下準備が大事ってことね。


「負担とか、ねぇんすか?」

「小さい頃は使い過ぎると知恵熱みたいなのが出たわよ? 今は全然だけど」


 お父様もお母様も割と寛容な人だけど、スパルタだったのよね。スキルの訓練に関しては。

 宝探しだのなんだのと、遊びと称して無限にスキルを使わされた。お陰様で効率の良い使い方というか、最初に情報の正誤を確かめる癖をつけたわけだし。後スキルを使うための体力的なのも付いたかな。


「あれ取って」

「これ?」

「その隣」


 ズラリと並んだ本棚の中からまた一冊、少し高い位置に置いてある本をレオン様に取ってもらう。

 申し訳ないけど、助かるわね。高いところの本を取ってもらったり、カートを押してもらったり。一人だとどうしても踏み台を移動させたりの時間がかかってしまうし。


 ちらりと盗み見たレオン様はカートの中の本を手に取ってしげしげと表紙を見ている。どこの誰の本かはわからない。でも伝記コーナーにあるのだし、その方面では有名な人の本だと思うわよ。

 本って、そういえば転生してからはあんまり読んでないなぁ。有名な詩とか舞台原作は教養として読んだ。でもそれだってもうずっと前だし。

 多分、推し活に全力を注いでいたのが本を読んでいなかった理由ね。


「次そっちね」

「はいはい」


 手にしていた本をカートに戻したレオン様を誘導するために、通路横に置かれた特設コーナーの棚を避けて次の本棚に移る。流行り物の物語が並んだその棚はフィクションで、学者さんが探しているものはそこにはないだろう。

 ただ、たまには新規ジャンルを開拓してもいいかなぁなんて思ったり。

 うん、ちょっと集中出来てない証拠ね。



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