11 広くて狭い世界
「ありがとうございます! わかりやすく栞まで入れてくださって、助かります!」
「本来のお仕事以外に時間を取られるのは大変でしょう?」
はい、お仕事終わりました。
表の本棚から、裏に仕舞ってある本まで。過去の天気について書かれている本を集めるために、図書館内をぐるぐる回ってレオン様には何度カートを交換してもらったか。
「でも本当にすごいですね、正確にページまでわかるなんて」
「いえいえ、スキルのおかげですよ」
学者さんと話しつつ、一旦私のお仕事は終わり。後は専門職の人たちで情報の正誤と編纂のターンになるだろう。
正直、本を集めて回りながらちょっと嫌なことを思い出した。直接関わることがなさそうだからあんまり気にしてなかったんだけど、ゲームの中で、各地で不可解な現象が起こっているのでその原因を調べることになるのよね。その中の一つに異常気象もあったはず。
「因みに、どうして過去の降雨量のデータが必要になったんです?」
「それが、各地で水源が枯れるなどの異常が起きているようでして。過去にも何かしら異常気象が起こった形跡がないか洗い直そうということになったんです」
「なるほど」
……餅は餅屋っていうけどさぁ。
一応、現実がゲームと同じように進んでいるっていうのなら、きっとゲームのヒロインが現れて事態が好転していくんだろうけどさぁ。
目の前に、頑張っている人がいるんだよね。
ゲームのシナリオの中には描かれなかった人がいる。
書かれていなくても、できることを精一杯やろうとしている人がいる。
応援、したいなぁ。
「何かあればまた声をかけてください。探し物なら手伝えますので」
「いいんですか! その時はぜひお願いします!」
とはいえ、表立って私にできることはない。実際問題、ちょっと便利なスキルを持っているだけの非戦闘員の貴族の娘でしかないもの。
確か各地で瘴気と呼ばれるものが発生していて、それが原因で異常気象が起こっているとゲーム内では語られていたはず。ただ、その瘴気というものが何で、誰か人が関わっているかも、というようなところでこっちに来ちゃったから結末を知らないのよね。
ハッピーエンド。で、あってほしい。でもゲームとこっちじゃ色々勝手が違うからなぁ。
瘴気やその原因を探そうにも、私の「失せもの探し」では曖昧過ぎてノイズが多すぎるし。その瘴気特有の成分的なものを理解したり、関わっている人がわかれば見つけることも可能だけど、現状はそうではない。
肝心なところで、何にもできないのよねぇ。
「アンタ疲れねぇの?」
疲れる、とは。
せっせと集めた本の内容をまとめるために仕事に戻った学者さんを見送っていると、後ろからレオン様がそんなことを言った。見上げてみれば何とも、険しい視線を向けられている気がする。
「また山に登らされるならいざ知らず、書物を探すだけなら大した労力でもないし」
「……お人好し」
だってこの世界ウェブ検索できないのよ? 学者さんだったらお仕事の関係上、過去の論文とか見直したいでしょ? そういうのを探す手間を私のスキルで無くそうって話よ。
前世の便利システムに散々甘やかされてきた現代っ子ですからね。不便さへの不満は人一倍理解できるの。
「楽できるところは楽をしたいものでしょ?」
「そりゃあまぁ……」
あなただって、洗い物が面倒な時「氷塊」のスキルを使ってお皿代わりにしたりするって言っていたじゃない。
私はどうしても前世の記憶があって、ファンタジーな世界だという先入観があるから見た目の派手なスキルに憧れてしまうけど、普通に生活する上では日常生活に役立つスキルの方が重宝されるものよね。
……氷を、お皿に。
なんで忘れていたのかしら。いえ、むしろよく思い出したわ、私。
「あなた、第五騎士連隊でしたっけ?」
「そうっすけど。それが何か?」
「いえ、何でもないわ」
この人、ゲームに出ているわ。正確にはゲーム内に登場したわけではないけど。
レオン様の上司、第五騎士連隊の隊長さんはサブキャラとして度々出て来るのよね。彼の話に出て来る野営に連れていくと便利な部下って、絶対レオン様でしょ。
野営の話以外にも、悪ガキみたいな奴だって話していたし。立ち絵どころか名前すらシナリオ内に出ていなかったけど、設定だけはありそうな気配がしていたのよね。長年のオタクとしての勘がそう言っている。
まぁ、私の前世の知識などレオン様にとっては知ったことではないので、わざわざ話すわけではないのだけど。
「とにかく、今日もありがとね。カートを押すのなんて、本来の仕事ではないでしょうに」
「別に、そういうのも仕事の内なんで」
送っていきます。なんて、それこそ仕事でもないだろうに私を先導するように歩き出したレオン様の背中を追う。
背の高い本棚が並ぶ図書館を抜けて外に出れば、数時間ぶりに見た空は良く晴れていて眩しかった。
この空が瘴気によって侵されるのを、私は防ぐことはできないだろう。
それでも。その期間が少しでも短くなるお手伝いができれば、なんて。大した取り柄もない癖に思っちゃったりしたわけだ。




