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12/25

12 再構築


 さて。

 久しぶりにゲームのシナリオについて思い出したから、レオン様に馬車で家まで送ってもらう道すがら、ちょっと情報を整理してみようと思う。


 全体の流れとしては世界に突如として現れた瘴気という謎物質を、プレイヤーが操る主人公ちゃんが「浄化」のスキルを使って解決していく、よくある救済ものだ。

 女性向けゲームということで、登場人物は様々なジャンルのイケメンが多かった。もちろん美女もいたが。


 惜しむらくは私がこちらの世界に来たのは四章中編が公開されたところで、後三日あれば後編のシナリオを読めたはずだった。

 細かいところは忘れている個所もあるだろうけど、そこだけははっきりと覚えているわ。なんたってこっちに来た当初、思いっきり嘆き苦しんだもの。


 ただまぁ、うん。覚えているって言ったって、もう十七年前の記憶だからねぇ。

 ハマっていたし、かなりの熱量を注いでいたけれど、かなりおぼろげなところも多い。むしろ目の前で馬車に揺られているレオン様のこともよく思い出せたわねと思う。


 一、二、三章と世界を周って各地で起こっている瘴気問題を解決して、四章の中編でこれは自然に発生したものではなく人が関わっている可能性が高いと判断された。

 そして後編で黒幕か、敵側の状態がようやく見え始める、みたいな感じになるはずだったんだけどなぁ。


「どうしました?」

「いえ、人生ってままならないものだなぁと思って」

「ふーん。なんでもかんでも上手くいく方がつまらなくないっすか?」

「そこは人それぞれでしょう」


 少なくともこの間までの私は、今生はずっと推し活を続けていくものだと思っていたし、それでいいとも思っていたわよ?

 ゲーム本編についても、プレイヤーキャラ改め主人公ちゃんが世界を救うだろうし。女性向けということで、プレイヤーキャラを意識するような描写も多少はあったけど、そこまではっきりとした表現はなかったからあまり関係ないと思っていた。


 でもどういうわけかこの一週間はミゲル様と没交渉中だし、目の前で頑張っている人を見て何かできないかなと思っちゃったりしているわけで。

 ……どうするのコレ。


「最初から全部、道筋がわかっている方がいいって人もいるわよ」

「自分からダメにしたのに、そういうこと言うんすね」

「それはそう」


 私はシナリオ読むのは好きだけど、ゲームの攻略部分は苦手で、人の攻略編成とか結構参考にするタイプだったし。実際の人生においても、ある程度道筋があった方がいいなぁとは思わなくもない。

 ほら、世界一売れてるサンドボックス系のゲームあるじゃない? 私アレ苦手なのよ。何をすればいいかわからないもの。


 だからまぁ、貴族令嬢に転生した時ちょっと安心したりもしたのよ。

 ある程度こう生きなさいよっていうのが示されているから。そこに沿っていれば、誰も不幸にはならないじゃない?

 それが本当にどうしてこうなったのかなぁ。特技は右に倣えだったはずなのに。


「あんたは、後悔してるんすか? パーティーでのこと」


 かたりと、馬車が揺れて止まった。

 窓の外では見慣れた門構えがあって、それをゆっくりと馬車が潜る。後、数十秒で屋敷の玄関に付く。

 このまま濁すこともできたけど、レオン様の問いに答えないまま馬車を降りるのはすこし違う気がした。


「まさか」


 短く答えて、ぐっと口角を持ち上げる。

 後悔は、していない。これで良かったと胸を張って言えるわけではないけれど。何かしらは、変わっていけるんじゃないかと。


「そっすか」

「ええ」


 素っ気ない返事の割にレオン様の口角は上がっている。どうやらこの返事でお気に召したようで。

 かたりと馬車が揺れて、再度停車した。今度こそ玄関前に付いたらしい。


 先に下車したレオン様の手を借りて馬車を降りる。さすがにこの間の山に言った時ほどではないが、同じ体勢でいたせいか少し疲れてしまった。部屋に戻ったら温かいものでも飲んでゆっくりしようかしら。

 ふっと息を吐いて、視線を上げる。そこにはよく見慣れた、誰よりもよく知っていると思っていた人が立っていた。


「ああ。丁度、返って来たか」

「……ミゲル様」


 どうしてここに、とか。そんな在り来たりな質問さえ問うことができない。

 少なくともまだ私たちの関係は婚約者のままで、その屋敷に伺うことに何の可笑しな点はない。


 けれど思わずにはいられない。忙しいのではないのか。この時期は確かアスティン家が管轄する領民である主人公ちゃんが「浄化」のスキルに目覚めたりと、やることが色々あったはず。

 ちゃんと休めているのだろうか。険しい目元には、以前よりもクマが濃くなっている気がする。疲れて、いるんだろうな。


「お久しぶりです、ミゲル様。その……差し出がましいようですが、きちんと休めていますか?」

「そんなことはどうだっていい。それよりも、話がある」


 これから何を言われるんだろうか。なんて、それがわからないほど愚鈍ではないはず。でも、心のどこかで違えばいいなと。糸みたいに細い願望に縋りつこうとしている。

 この一週間で、少しぐらい気持ちの整理が付いたと思ったのになぁ。



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