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13 二人の関係は


 メアリーがそわそわとした面持ちで紅茶を私とミゲル様の前に置いた。

 頻繁に、というわけではないが、時々こうして我が家の応接間で、ミゲル様と二人話をした。幸せな時間だったと思う。

 お互いの関係は何も変わらないはずなのに、あの頃と同じように思えないのは、私の我儘なのだろうか。


 図書館での依頼から帰宅後、丁度我が家に来たミゲル様と合流した。

 パーティーでのやり取り以後、一切連絡もなかったのでこうして会うのも実に一週間ぶりとなる。


 まぁ、妥当よね。むしろ、私が仕事を熟して気持ちを切り替えようとしていたのに対し、忙しい中やるべきこともこなしてわざわざ時間を作ってくれたミゲル様の方がきちんと考えてくれたのかも。

 なんて思ったり、だったらもう少し早く考えてほしかったとも思わなくもなかったり。


「改めて聞くが、アレはどういうつもりだったんだ?」

「どういうつもりも何も、私は以前からお伝えしてきたつもりです」


 ミゲル様が忙しいのも、責任感が強いのも理解しているつもり。

 あなたの言葉で何があったのかを聞きたかった。伝えた言葉を、きちんと聞いてほしかった。少なくとも昔はできていたのだから。


 幼い頃の私たちはもっと素直で、いつも得意げに話すミゲル様の話を私もにこにこと笑いながら聞いていた。私が何か尋ねれば、それに対してミゲル様ももっと興奮したように色々なことを教えてくれた。

 多少の歪みはあったかもしれないが、少なくともコミュニケーションは取れていた。ミゲル様は自慢できてご満悦だったし、私も長年の推しの新しい一面を知れてにこにこだった。


 それが今はどうだろう。何もかもがすれ違っているように感じる。

 そっと、退室したメアリーが入れてくれた紅茶に手を付ける。揺れる琥珀色の水面には、何とも情けない顔をした私が映っている。

 二人で使うにはいささか広すぎる気のする応接間に、ミゲル様のため息が嫌に大きく響いた。


「君のおかげですっかり僕は時の人になってしまったよ。茶会でも大人気だ」

「……すみません」


 まぁ、王家主催のパーティーだったからね。たくさんの人が見ていたでしょう。私は余り横のつながりというか、貴族同士の茶会に参加しないからわからないけど、ミゲル様は、色々と口さがない者たちの話のネタにされてしまっているのだろう。

 それだけは申し訳なかった。もっとこう、場所や状況を考えるべきだったわ。


「勢い余って言ってしまった、ってところか。訂正は早い方がいい、近いうちに僕の屋敷でパーティーでも開こう。そうすればいずれは噂も収まる」


 呆れたようにミゲル様がソファの背もたれに体重をかけた。

 本当に? 元通りになる?


 確かにミゲル様のお屋敷でパーティーを開いて、二人寄り添っている姿を見せれば、あの一件はただのお騒がせな痴話喧嘩だったと、皆忘れていくだろう。

 じゃあそれで、私の気持ちは収まるの? 以前のような熱量で、ミゲル様の隣に立っていられる?

 ……いいえ、そうじゃない。


「ごめんなさい、ミゲル様。それはできません。私は、もう以前のようには振る舞えないです」


 クマの残る顔で、ミゲル様が私を見た。

 好きか嫌いかで問われれば、間違いなく私はまだミゲル様が好きだ。でもそれは、ずっと一緒にいたからこその好きで。


「君、僕に口答えできたんだな。じゃあどうしたいんだ? このまままたしばらく距離を置くか、それとも?」

「それは……」

「僕も悪いが、君も悪いぞ。そんな顔するぐらいなら、最初から言わなきゃいいんだ」


 そんな顔ってどんな顔よ。自分でも情けない顔していることぐらいはわかっているわ。指摘しないでちょうだい。

 ミゲル様の言う、呑み込むべきという考え方が理解できないわけではないの。けどキャパシティオーバーなのよ。色々のみ込んだ結果がこれなの。その先の、どうしたいかを考えていなかったのは認めるけど。


「婚約を破棄すれば、お互いに面倒なことになるのは理解しているな? よく考えてくれ」


 もっと、悪し様に言う人が増えるのでしょうね。私は余り社交界に参加しないから、まだ実感がわかないけど、面白おかしく話を広める人は少なくないでしょう。

 でもここで苦しかった気持ちを呑み込んでしまったら私はどうなる? 今まで通り、ミゲル様の隣で笑顔を浮かべていられる自信なんてない。

 じっと私を見ていたミゲル様がゆっくりと立ちあがり、話は終わりだとばかりに部屋を出ようと扉へ向かう。


「ああ、そういえば」


 ガチガチに固まった体を、ミゲル様を見送るためにムリヤリ立ち上がらせる。

 思い出したように、彼が振り返った。

 その顔はさっきまでの真剣な顔つきとは違い、どこか罰の悪そうな表情をしている。


「この件については謝らないが、先日母上が抗議を入れたらしいな。それは、悪かった。後で言い含めておく」


 そういうとこだぞ。

 なんで最後まで貫いてくれないのよ。強い態度で、私の気持ちなんてムシして言い含めてくれたら、最後に残ったこの気持ちも安心して手放せたのに。

 どうして最後で甘いところが出てしまうのかな。そういうところが好きだったんだよ。


 私は、ミゲル様が好き。

 でもそれは、前世からの推しとか、長く一緒にいた情だとか。そういうものに成り下がってしまった。

 婚約者としての好きではなくなったが、まだ嫌いにはなれないらしい。



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