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06 スキル「失せもの探し」の令嬢

レオン視点。


 奇妙な女がいる。

 騎士という職業上、自分を前にすると下心や後ろ暗いことがなくとも居住まいを正す人間を多く見てきた。もちろん、最初からこちらを警戒して感情をむき出しにする連中も少なくはなかったが。


 けれど今、目の前を歩くナタリア・フォスターという子爵令嬢はそのどちらでもなかった。

 騎士連隊の礼服に身を包んだ自分を前にしても、取り繕うこともせず。彼女が最悪だと言ったファーストインプレッションでも、どこか気だるげで投げやりな態度を一貫していた。

 まぁあれは、婚約者との言い合いの直後で、気疲れしていたのもあるのだろうが。


 それでも、先程までの馬車内で見せた自分をじっとりと睨みつけるような目を含めて奇妙で面白い女だと思う。

 普通は女、特に貴族のご令嬢っていうのはもっと色々取り繕うものだろう? もしくは良くも悪くもめちゃくちゃ感情的か。


 今だって山道を歩くのが嫌だというのを隠しもしない表情の癖に、ひょいひょいと草木や木の根を避けて先頭を突き進んでいる。

 然程強くはないとはいえ、魔物や野生動物もいる山道をよく器用に、それも何の迷いもなくさくさく進んでいけるな。


「相変わらず、よく何の目印もなく山道を歩いて行けるものだ」

「っと、どうも」

「やあ。君は彼女のスキルを見るのは初めてかな?」


 ちょっと面白いぐらいに、振り返ったり周囲を確認したりもせずに歩いているナタリア嬢の後ろを付いていると、今回の同行者である「水使い」の学者先生に話しかけられた。

 学者先生っていうのは、皆机に向かっているものかと思っていたんだが、この人はどうやら健脚の部類で、一つにまとめた長い髪を後ろに流して爽やかに笑っている。


「初めてですね。いつもこんな感じで?」

「そうだよ。で、彼女についていけば、必ず探し物にたどり着く。失せもの探しとはよく言ったものだね」


 ちらりと、アレク殿がナタリア嬢へ視線を向けながら言った。その視線はどこか難しい色をしていて。

 つられてナタリア嬢の方を見れば、特に迷うでもなく木々の隙間を進んでいるところだった。


「便利なスキルっすね」

「あぁ。かつて彼女の家系は、あのスキルで金鉱脈を探し当てたこともあるらしい」

「そりゃすげぇや」


 色々と話してくれているところ悪いが、正直言ってあの人のスキル自体にはあまり興味が湧かない。

 こうして水質調査への同行も任されるくらいだから国からの信頼も厚いのだろうし、便利なスキルだなとも思うが。それだけだ。


「一度どういった原理なのか聞いてみたこともあるのだが、使用している本人にも理屈がわかっていないようでね。本当に、彼女には何が見えているやら」

「はぁ」


 つい気のない返事を返してしまい、アレク殿に苦笑される。

 興味が湧かないのだから仕方がないだろう。ああ、一つだけスキルについて気になると言えば、国からの依頼も頻繁に受けているにしては、与えられている家格があまり高くない気もする。

 まぁその辺りは色々と俺の計り知れない何かがあるのだろう。興味はわかないが。


「ここから少し道を外れるので、気を付けて付いてきてくださいね」


 ナタリア嬢が振り返る。

 相変わらずその顔には、歩き難い山道への不満が滲み出ているのを、本人は気が付いているのだろうか。

 正直、何が見えているのかもわからないスキルよりも、あの表情の方がずっと興味がそそられる。


 人間は好きだ。見ていて面白い。

 わけのわからない言動をする奴は、頭の中がどうなっているのか見て見たいとも思う。突いてみて、嫌そうな反応をされるならそれはそれでよし。さらに面白い反応が来るのなら儲けものだ。

 ナタリア嬢も嫌そうな反応を返してくるが、その後も感情を取り繕おうとしないところがいい。普通の人は、大抵良く見せようと取り繕うからな。


 然程派手ではないが貴族令嬢らしい品の良いワンピースに、革のブーツでよく傾斜の中を突き進めるものだ。山道は慣れていないと言っていたのに。

 それともこの道が、馬車の中で言っていた「できる限り最短の道」というやつなんだろうか。


 明確な目印もないまましばらく歩いていると、不意にナタリア嬢が立ち止まる。

 特に何の変哲もない空間だ。背の高い木があって、草が生えているだけの傾斜。まさかとは思うが、ここが? いや、別に疑っているわけではないし、そもそも地下水脈なんて地上から確認できるものでもないんだが。


「着きました」

「ありがとう、ナタリア嬢。次は私の出番だね」


 マジか。思わず瞬きをするが、ナタリア嬢の顔は真剣そのもので。

 ナタリア嬢と入れ替わりに、木々の隙間へと足を踏み入れたアレク殿の背を見ながら周辺の警戒をするように部下に声をかける。


 こっそりと盗み見たナタリア嬢は、手のひらを握ったり開いたりを繰り返した後、その手を見てため息を吐いた。

 一体何を考えているのやら。若干眉間にシワが寄っている辺り、何かしらが不満のようだ。


 幸いにして魔物や野生動物が出てくる気配はない。ならば。

 今突いたら、スキル『失せもの探し』の令嬢は、どんな表情が出てくるんだろうか。




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