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05 山道


 さて、馬車が入れるところまでは着いてしまった。

 これから歩いて山道を進まないといけないことを考えると、非常に憂鬱でしかない。


「ありがとう」

「いえ」


 いやだいやだと思いながらも、差し出されたレオン様の手を借りて馬車から降りれば土と草の匂いが胸いっぱいに広がった。しばらくはこの匂いを堪能することになりそうね。

 ふと、辺りを見回せば同行した騎士たちの他に数人の人だかりがあって、その中の長髪の男が私を見て軽く手を上げた。


「やぁ、久しぶりだね。ナタリア嬢」

「ええ、今日はよろしくお願いしますね。アレク様」

「こちらこそ。行き帰りの案内、お願いします」


 相変わらず、爽やかな人ねぇ。アレク様は所謂、前世でやっていたソシャゲのメインキャラで、一言で言うならものすごくいい人。

 皆の調整役に徹することも多かったけど、同年代のキャラとは冗談を言い合う程度にはノリもよかった。あと、仕事で何度も会っているが、落ち着いた人で話しやすい。


「道中大変だっただろう。少し休んでから向かうかい?」

「お気遣いありがとうございます。でも大丈夫ですわ」


 本当に、気遣いもできる皆のお兄さんって感じの人なのよね。

 ゲームのシナリオ内でも、よくミゲル様の発言で生じた皆の誤解を解いてくれる人でもあったし。いつもお世話になっていました。

 彼周りのストーリーを全て追っていないので、そこまで詳しいわけではないが魅力的なキャラではあったのよ。


 まぁ、うん。ミゲル様じゃなくて、こういう人が婚約者であればもっと穏やかな関係になれたのにという思いがないわけではないのよ?

 でもね、単純に私の癖がミゲル様みたいな面倒臭い性格の人だったというか。ああいう自信家で調子に乗りやすいけど、その裏では必死に虚勢を張って舐められないように偉ぶっているキャラって可愛くない?

 え? 趣味が悪いって? それはそう。


 好きか嫌いかで聞かれたら、私はまだミゲル様のことが好きなんだと思う。けれど、全く数日前までの気持ちと変わらないかと言われると、そうではないだけで。

 そうこうしているうちに騎士さんたちの点呼と確認が終わったらしく、騎士さんたちが声をかけてくれる。

 お仕事するかぁ、切り替えよ。


「それでは。ナタリア嬢」

「ええ。ついて来て下さいね」


 馬車の傍に待機する数名を除き、ぞろぞろとアレク様たち水質調査の書記係りの人と、レオン様をはじめとした護衛の騎士さんたちを引き連れて山道を行く。

 場所は前と変わらないはず。ただ普段人の分け入らないところだろうから、草木がどう変化しているかの違いね。

 極力歩かなくてよくて、十数人でぞろぞろ連れ歩いても問題なさそうな道だといいなぁ。


 取りあえず、失せもの探しのスキルを使いつつ、特に迷うことなく先頭を歩き進める。

 この辺りはまだ道がある。山を抜ける人が使っているせいか、土が踏み固められている道はまだ歩きやすい。この後草木を分け入っていかなきゃいけないのが面倒だけど。

 それにしても、本当にこのスキルって便利だけど地味なのよねぇ。


 私の中には、「ああこっちだな」とか、「ここにあるな」っていうのが確信としてあって、でもその過程で目に見えるものが一切ないから、傍からは何をやっているのかわかりにくい。

 例えばさぁ、目に見える何かしら小さい使い魔みたいなのを召喚して、それに付いて行くとかならもうちょっと他人に対する説得力があったと思わない?


「ここから少し道を外れるので、気を付けて付いてきてくださいね」


 ここから獣道かぁ、なんて不満に思いながらも、後ろを振り返るとレオン様と目が合った。山道が憂鬱で気が付いていなかったけど、ずっと私のすぐ後ろを歩いていたらしい。

 興味深そうに私を見ているけど、そんなに見てもこのスキルについては、よくわからないと思うわよ? 私だってこのスキルについてよくわかってないんだし。

 取りあえずそういう物として受け入れてちょうだい。


 膝丈まである草を跨ぎ、少し傾斜になっている山道を登る。

 時折変な方向に伸びている木の枝が邪魔だけど、まぁ、そこまで酷い獣道ではないだけましか。


 しばらく歩いていると、妙にぽっかりと開いて見える場所にたどり着いた。

 然程開けた場所ではない。どちらかというと、木の根が食いあわない程度にしか開いていない数メートル程度の空間。ここだ。


「着きました」


 目の前の空間を指さしながら、もう一度後ろを振り返る。わかっていた通り反応はまちまちだ。

 不思議そうにしている人もいれば、訝しんでいる人もいる。さすがに何度か一緒に仕事をしているアレク様たちは変わらず微笑んでいるけど、まあそういう反応になるわよね。


 だって目の前の地面は何の変哲もない土と所々背の低い草が生えているだけの傾斜だ。でも間違いなくこの地下に水脈がある。

 不思議そうに私を見返すレオン様を他所に、アレク様と彼の連れてきたもう一人が前に出た。


「ありがとう、ナタリア嬢。次は私の出番だね」


 にこにこと笑いながらアレク様が言う。

 一旦私の仕事はここまで。残りは帰りの案内だけね。


 それにしても、今年もあの地面から湧いてくる水の球を見られるのか。

 ……やっぱり目に見えるスキルっていいなぁ。




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