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04 ないものねだり


 かたかたと馬車が揺れ規則正しい馬の足音がする。

 蹄鉄が石畳を叩く音ではなく、背の低い草と土を踏みしめる音なのが、余計に耳心地がいい。

 馬車の外から聞こえてくる音は最高にチルいのに、私の前に座っている騎士のせいで、全然リラックスできないのだけど、どうしてくれようか。


「なんすか? もしかして酔いました?」

「いえ、そういうわけではないわ」

「ならよかった」


 別になんてことない顔で座っているレオンと名乗った騎士は、今回の依頼に同行する騎士たちの中で、一番位が高いらしい。十人二十人の部隊とはいえ、若いのにすごいのね。

 まぁ、お口は相変わらず不躾だけど。


「王室の馬車なんて初めて乗ったすけど、意外と揺れるんすね」

「まぁタイヤが木と鉄の輪だからね、段差や砂利道だとどうしても揺れるのよ。早くゴムタイヤが広がってほしいわ」

「ゴムっすか?」

「弾力と伸縮性のある樹脂、みたいな? とにかくそういうのがあるのよ」

「へぇ」


 ゴムって樹脂、でいいんだっけ? 木を傷付けて出てくるんだし、広義では樹脂でいいのよね?

 とはいえちょっと前までよりかなり快適になった方なのよ? 馬車の構造についてはよく知らないわよ? でもバネが導入される前はいつも石畳の凹凸のせいでお尻が痛くなってたんだもの。この調子でどんどん近代化していってほしいわ。


「それより、あなた。最初からわかっていて関わって来たのでしょう?」


 じっとりと睨み上げれば、やれやれと言ったようにレオンが肩を落とす。いささかその態度がわざとらしい気もするけど、まぁ態度だけは許しましょう。

 大事なのは事実よ。実際のところはどうなの?


「心外っすね。アンタがナタリア嬢だと認識したのは騒ぎが起こる直前でしたよ」

「本当に?」

「本当に。翌日挨拶に行くために、遠目でいいから顔を覚えておけって上司に連れられて行ったらあの騒ぎ」


 結局最初からってことじゃない。あれっきりだと思っていたから、ちょっとはしたないことも言ったのに。

 からかわないでくれているのは有り難い。でも別にそれは善意でそうしているわけではなさそうだし。むしろ、隙を見せたらこの男、もっとやれって煽ってくるタイプじゃない。


「ファーストインプレッション最悪じゃない」

「むしろ最高でしたが? ご令嬢が大衆の面前で三行半叩きつけるのなんてそうそう見られるものじゃねぇし」

「本当、最悪」


 ため息吐いて窓の外を見る。いつの間にか街を抜け、木々の多いところまで来ていた。何なら少しずつ傾斜を登り始めている気がする。

 一応、馬車で行けるところまで行って、水質の調査を請け負ってくれる王室お抱えの「水使い」、アレク様と合流した後は徒歩で山道を進むことになる。

 毎年毎年、アレク様も山道登らされて大変よね。私もヒールではなく革靴を履いてきたけど、歩きにくいことには変わりないし。切実に近代化の波が早く来てほしい。


「あとどれくらいで着きそう?」

「予定通りなら半刻ほどですね」

「そう」


 それなら、もうしばらくの辛抱ね。歩かなくていいのは有り難い。でも、やっぱり揺れることには違いないし、何より閉鎖的な空間だし同じ体勢でいるのは疲れるわね。

 少し伸びをしたい。ただ、何をしても目の前の男に面白がられそうだし、どうしたものかしら。

 あまり害はなさそうではあるんだけど、こう観察されていると思うと少し気になるのよね。


「依頼の説明は必要で?」

「いらない。向こうに着いたら私が水源を探して、後はアレク様にバトンタッチ。それだけでしょう?」

「いいっすね、そういう説明。単純で、わかりやすい」


 何がそんなに興味をそそるのか、向けられる視線は私から外れる気配を見せない。

 別に面白いこともないでしょうに。この依頼だって毎年、年一回行われているし、我が家は騎士団からの依頼も受けているし話に聞いたことぐらいあるでしょう? 物を探しには便利なスキル持ちの家系だって。


 この水質調査も毎年のことだし、おおよそ場所の辺りを付けた上で、地平の変化を考慮して私がどうこうしているに過ぎない。

 まぁ確かに、ゼロから水源を探すのが大変なのはわかるよ? そこは私のスキル『失せもの探し』があれば、そう苦労なく地下水脈のある場所までたどり着ける。

 ……いえ、スキルがあっても山道が大変なのは変わらないわね。ついでに言うなら、もうちょっと華やかさというか派手さをさぁ。


 毎年恒例の仕事で、見ているけどアレク様のスキルもすごいのよ。

 地面から球体状の水が湧き上がって来て、確かに一見して派手さは無くとも見ただけでその水の成分を分析とかできてさぁ。目に見えて何かすごいことが起きているってわかるじゃない?

 やっぱり目に見える何かを召喚できるのって羨ましい。


「山道を歩くのは慣れていて?」

「いいえ。だからできる限り最短の道で行くわ。その方が、騎士さんたちも楽でしょう?」


 いくらスキルで余計な手間を省けるとはいえ、結局歩かないといけないし。

 体力がないわけではないけど、誰だって面倒な手間を省きたいものでしょう? だから我が家のスキルを当てにした依頼が度々入るわけで。


 まぁそれはそれとして、これから山道歩くのか。

 ロープウェイとか欲しいなぁ。



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