24 空に映える
珍しいものを見ている気がする。
「次はあっち行ってみましょう!」
「うっす」
嬉々として目に映る街の景色全てに興味を示すウタと、そちらを気にしつつも居心地悪そうに私を伺うレオン様。
もしかしなくても、レアな状況なのでは?
どーも。なんていつもの調子で現れたのも束の間、レオン様は応接室内にいたウタを見つけ、気まずそうな顔をした。
「あー。お一人じゃなかったんすね」
「まぁ、そういうこともあるわ」
こういうと失礼だけど、あなた気まずいって概念が一応あったのね。
割と初手から私に対しては不遜な態度だったから、てっきり。
「お知り合い、ですか?」
「ええ、よく一緒にお仕事をするレオン様よ」
そろそろと近付いてきたウタに応えれば、彼女が興味深そうにレオン様を見上げた。
レオン様はゲーム内に話題には上がっても、立ち絵がなかったしウタも知らないはず。
……でも、私がこちらに来てから更新されたストーリーに登場していてもおかしくはないのよね、レオン様。設定だけはありそうな感じだったし。
「初めまして、ウタ・レイナードです」
「ああ、アンタが。第五騎士連隊所属レオン・ハーシェルです」
「あの、もし大事な御用でしたら私、退散しましょうか?」
「そういうのじゃないんで」
なんだかレオン様はウタのことを知ってそうな感じねぇ。……まぁ、知っててもおかしくはないか。レオン様は騎士さんだし? ウタは「浄化」という稀少スキル持ちだから教会に保護されているわけだし?
相変わらず居心地の悪そうな顔で、軽装のレオン様が後頭部を掻く。
「その人、家に籠りがちみたいなんで、外、連れ出せたら、なんて」
え、私そんな風に思われていたの?
確かにインドア派よ? でも一応、お仕事の関係上外には出ているわよ? ドアツードアも多いけど。
悩むみたいな渋い顔をした後、ようやくレオン様が絞り出すみたいな声を出す。
「……出直します」
「だったら! 一緒に行きましょう! ね、いいですよね? ナタリア!」
「え、ええ」
そんなわけでなぜか三人で街に出ることになった。何がそんなわけなのかもわからない。多分、思い立ったが吉日とかそういう感じだと思うわ。
できる限り行動に移そうと色々頑張ってきたつもりだけど、本物の行動派はウタのようなタイプを言うのかも。
「あ、見て見てナタリア! 葵が咲いてる!」
「ええ、綺麗ね」
私の腕を引き、くっ付いてくるウタに答えつつ先日も歩いたばかりの石畳をゆっくりと進む。特に目的があるわけではないが、ウタが無邪気に笑っているのでよしとしよう。
青空に映える鮮やかな色の花は上へ上へと伸びているが、きっとウタの気分も同じくらい上昇しているのでしょうね。
ああ、ウタには先ほどこっそりと、レオン様は元々ここに居た人であると告げた。
レオン様は私たちの前世も事情も知らない。それにしっかりと頷いて、任せてくれとばかりにサムズアップされたけど、何をどう理解してくれたのかはちょっと不安だわ。
「レオンさんはよくナタリアと会うんですか?」
「仕事ではよくっすね。それ以外でも、まぁ」
「じゃあ仲良しさんだ! うふふふふ」
楽しそうねぇ。人見知りなタイプじゃなくてよかったわ。
ご機嫌さんだし、多少浮かれているのかもしれないけれど、こっちが本来のウタの性格なのかもしれない。
不意に、呼びかけるようにさっきから握られたままの腕をウタに引かれる。
「私、この街に来てまだそんなに経っていないんですよね。どこかお二人のおすすめの場所ってありますか?」
「わ、たしはその、あんまり街に出る方ではないから」
「そうなんです?」
とりあえず濁しておいた。だってさっき家に籠りがちなのをムリヤリ否定しようとしたばっかりだし。
私たちのやり取りをみていたレオン様が、お嬢さん方のお気に召すかはわかりませんが、なんて前置きをして口を開く。
「そこの本屋は古いけど品揃えがいいし、あっちの角を曲がった先にある食堂は安くてうまいっすね」
「わ! いいですね! 因みに美味しいパン屋さんとかってあります?」
「ならさっきの道を戻ったとこっすね。知り合いがやってるんすけど、クロワッサンが上手いっす」
ワイワイと話し始める二人にそっと息を吐く。ウタが三人で出かけようと言い出した時は驚いたけど、仲良くなってくれてよかった。
ウタが私の腕を掴んだままなので、レオンも自然と距離が近くなるのは少し変な感じがするけど。
なんとなく手持ち無沙汰で、私よりも頭一つ分背が高いレオン様をじっと見上げていたら空色の目と視線がぶつかった。
「あなた、普通に暮らしていたのね」
「なんだと思ってたんすか、俺のこと」
「いえ、なんだかどういう生活しているのか想像できなくて」
「普通っすよ、普通」
なんとなく無言で目を逸らすのも違う気がして、適当なことを口走ってしまったけど、実際問題レオン様のことってあまり知らないのよね。
不遜だし変な人ではあるけど、だからこそ私生活が全然想像できないというか。むしろオンオフってあるのかな。あんまり変わらない気もしてきた。
そんなことを考えていたらウタの楽しそうな声がして、また腕を引かれる。
何ともまぁ、穏やかな日常ですこと。
ウタの青空みたいな笑顔が眩しくて、ほんの少しだけ目を細めた。




