25 シロツメクサ
散々歩き回って、街を散策した後、どういうわけかレオン様に案内された広場で休憩することになった。
いくつかの通りを抜けた先にぽっかりと空いた広場は、背の低い草が生えていて石畳の街並みからは少し切り離された空間のようにも感じる。
「こんなところもあったのね」
「この辺に住んでるガキは大体、ここで走り回って育ちますね」
「へぇ。じゃあ、レオンさんも走り回っていたんですか?」
「俺も普通のクソガキだったんで」
くすくすと笑ったウタが、ご機嫌な足取りで広場の中央まで進む。
それを見送ってレオン様が、どかりと草の上に腰を下ろした。
豪快ねぇ。別に悪いわけではないし、何なら前世の小さい頃は同じようなことをしていたのに、若干の抵抗があるのは今世で綺麗なお洋服を着ることに慣れてしまったせいかしら。
しばらくレオン様の様子を見た後、気合を入れるように息を吸ってスカートの裾を束ねる。できるだけ汚さないようにと気を付けて座り込めば、くしゃりと柔らかい音がして草が折れるのを感じた。
こういう風に地面に座り込むのは久しぶり過ぎてそわそわするわね。
座り込んでみたものの何をすればいいのかと視線を彷徨わせていると、何かを見つけたらしいウタがくるりと振り返った。
「四つ葉のクローバー探しましょう!」
きらきらした笑顔だ。きっとウタの視界に映る物は皆あんな風に輝いているに違いない。そんな風に思えるくらいには眩しくて、少しだけ目を細めた。
彼女の足元にはシロツメクサの群生があって、アレを見て四つ葉を探そうと思ったに違いない。
それにしても、シロツメクサか。懐かしいわね。
「その塊だけで六つあるわ」
「え!」
ウタの足元でこんもりと集まっているシロツメクサの塊を指差して言えば、パッと驚いた表情になってウタがその場にしゃがみ込んだ。
はは、いい反応するなぁ。でもまぁ初めてだとそういう反応にはなるのかも? 慌ててシロツメクサの中から四つ葉を探し始めたウタを眺めながら、自然と口元が緩むのを感じる。
「んなこともわかるんすか?」
「子供の頃やらされたスキルの訓練方法なのよ。庭に四つ葉のクローバーが何個あるか摘まずに数えるの」
数と位置の正確さを高める訓練、って認識でいいのかしら? 最初は遊び半分でできるけど、慣れてくると中々しんどくてね。
数えている内に余計なものまで引っかかってよく混乱したわ。おかげでしばらくクローバーが嫌いだった。
改めて広場を一望する。
びっくりするほど天気が良くて、空の青と草の緑が映える。青々とした爽やかな草の香りを楽しみつつ、歩き回った後の微かな疲労感を癒すのは中々悪くない過ごし方だと思う。
「ちゃんと、連れ出してくれる相手いたんすね」
レオン様が小さく呟いた。
どことなくいつもよりも低い気がする声に、何事かとそちらを見れば、顔をウタの方を向けているのに視線だけがこちらを向いていてドキリとした。
「え、ええと。ウタとはついこの間知り合ったのよ」
「ふーん。にしては懐き過ぎでは?」
「そう? 確かに人当たりの良い子よね。ちょっと無防備過ぎる気もするけど」
同郷にして同族という条件を抜いても、ウタはよく笑う子だし、愛嬌もある。基本的に人に好かれやすい子だと思うわ。だからこそ変な人に引っかからないかも心配よね。
今は教会の預かりなんだっけ? あまり教会に縁がないので何とも言い難いのだけど、しっかり守ってあげてほしいわ。
そんなことを考えていたら、隣の人に溜息を吐かれた。え、何?
「あんたは……」
「なによ」
「いや、いいっす」
え?
今なんで私、肩でぶつかられたの?
わけがわからずレオン様を見つめるも、スッと目線を逸らされてしまう。本当に何?
私今、何かおかしかった? 特に変なことは言ったつもりないのだけど。結局何も言ってくれないレオン様に諦めてウタの方を向けば丁度、目当てのものが見つかったのかこちらに向かって手を振っているところだった。
「やっと一個見つけました!」
ウタの元気な声が響く。
相変わらず眩しいくらいの笑顔の彼女がいて、その手には見つけたばかりらしき四つ葉のクローバーが握られている。
微笑ましい光景に手を振り返せば、隣から二度目のため息が聞こえ、レオン様が立ち上がった。
本当に何なの? レオン様今日様子がおかしい気がするんだけど。何かあった?
「あと五個っすよ」
「ひーん、手伝ってくださいよー」
ゆっくりとした足取りでウタの傍へ向かうレオン様を見送って、今度は私がため息を吐いた。
変な人。普通に暮らしているのかと思ったばかりなのに、結局よくわからない人のままなんだから。
なんとなく。ウタともそうなれたように、レオン様とももう少し仲良くなれたら、なんて思ったのになぁ。
楽しそうな悲鳴をあげるウタのすぐ傍にしゃがみ込んで一緒に四つ葉のクローバーを探す二人を眺める。
そこじゃなくてもっと足元に一つ、後今見たところの影に隠れてもう一つあるわよ。なんて、声をかけるのはさすがに無粋かしら。
どう声をかけて良いかもわからず、とりあえず澄み渡るような青空に視線を投げる。
天気が良すぎて欠伸が出そうになった。




