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19 青々とした日々


 本来。私の仕事はものを探すだけで、その後の見つけたものをどうするかは依頼主の自由であり、私の関与するところではない。

 だから場所を探す系の仕事は、きちんと手に入ったかどうかはこうしたお礼の場で知らされるか、何なら全く報告がない場合だってある。

 まぁ、その辺りは依頼人によると言いますか。なのでレオン様が前回の騎士団からの、盗品捜索の結果を報告に来てくれたのだって律儀だなぁとしか思わなかった。


 最近は気候柄天気がいい日が続き、少しだけ日差しに疲弊する日を送っている。強い日差しを避けるためにレースのカーテンが引かれた応接室で、レオン様と向き合いながら座る。

 今日は急ぎの用事ではないらしいので、メイドのアニーにお茶を出してもらった。陶器のティーカップを持ち上げて一口。うん、美味しい。


「お陰様で国外に出る前に回収できました。その内公表されるでしょうけど、盗んだ貴族がどうなったか聞きたいっすか?」

「うーん。あんまり興味ないわね」

「そっすか」


 正直この二週間ほどは頻繁にお仕事をしていた。あえてそうしていたわけだし、現実逃避と言えば聞こえはいいけど、向き合わずにいたと言われるとちょっと無責任だったかもしれない。

 実際、パーティーの一件でミゲル様に「好きでいるのをやめる」と言って、そこで正式な手順も踏まず一方的に連絡を絶った状況だったし、不誠実ではあった。

 ふっと息を吐けば、持ち上げていたティーカップの中で琥珀色の液体が波打つ。


「何なら興味あるんすか?」


 興味、かぁ。色々考えなきゃいけないことはあるけど、そうするためのエネルギーというか、推進力となりそうな興味を惹かれるようなものに今のところ出会えていないのよねぇ。

 だからより一層、仕事に打ち込んでいるともいうのだけど。何か、新しいことでも始めるべき?


 前世をオタクとして生き抜いた身なので、誰がなぜ花を活けたのかや、美術品の作者についての予備知識は把握しておきたいけど、今は新しく推しを作る気もないと言いますか。

 一度それで失敗しているので現在は慎重になっているとも言う。


「うーん、なんだろう?」

「本は?」

「教養として読む程度かな。というか、あなた本を読むのね」

「伝記や英雄譚は好きっすよ」

「そういえば図書館での依頼の時詳しかったわね」


 本、本はねぇ。前世では様々な物語に触れる機会があったけど、こっちに来てからはほとんど読まなくなった。

 まあ、うん。本を読まなくなった理由なんて明白よ。他のことに最大限時間を使いたかったから。これに尽きるわ。


「趣味とかないんすか?」

「趣味……少し前まではあったわ」


 それこそ、これまでの十七年間すべてをかけた趣味だった。

 前世で好きだった物語を楽しむ時間を投げ打ってでも時間を注いだし、その趣味に勤しむための努力だって惜しまなかった。

 やめてしまったことには後悔はない。それがあったからこそ、今の私があるのだから。そう思える程度には、私の中の感情を整理できたのかしら?



「へぇ。なんでやめたんすか?」


 お父様とそのお話をしたのはつい数日前だけど、さっそく成果が出ているようで何よりだわ。

 だからこそ。レオン様のこの問いかけにも、私は何の迷いもなく答えることができる。

 レオン様が不思議そうに私を見た。大丈夫、特に気にしなくても自然と口角が上がっている。以前よりもずっと、胸の内に引っかかるものもない。


「ミゲル様なの」

「……あの人が原因?」

「いえ、趣味がミゲル様。あの人を好きでいるのが趣味だったのよ」


 実際楽しかったし、満ち足りていた。前世と比べて公式グッズが少ないところだけが不満だったけど、それもいい思い出ね。恋と言うにはいささか偏っていたけれど、それでも彼は今世における私の初恋で、青春のような日々だった。

 その日々が終わりを迎え、ようやく私はあの人を一人の人として見ることができる。ここまで随分とかかってしまった。


 これからミゲル様とどんな関係になろうと、きっとこれまでとは違う日々になるだろう。

 それは少し寂しい気もするけど、きっとこれでいいのだ。青春なんていずれ過ぎ去るもの。私は十七年も楽しんだ。なら、もう十分でしょう?


「他に、なんかないんすか?」

「特にないわね。面白味のない人間でしょ?」


 きっともう戻らない日々を思い返しながら答えれば、なんだかむすりとした表情のレオン様が声をかけてきた。あら、ご機嫌斜め?

 でも本当に今まで本当にミゲル様にしか興味がなかったんだからしょうがないじゃない。

 あの人の隣に立つために教養としてしか、この世界の物事を見てこなかったんだから。あなたの興味をそそるような面白い人間でなくてごめんなさいね。


「でもまぁこれからは、もうちょっと世界に興味を持つべきかしらね」

「……そうしてください」


 困ったように笑いかければ、レオン様が眉を片方上げた。

 きっとレオン様にとっては、世界は面白いもので満ちているんでしょうね。他人に興味を持てるってとてもいいことだと思うわ。

 私はこれまで意識して興味の対象を絞っていたけど。きっと、レオン様のような生き方をすれば、日々はもっと彩りに溢れるのでしょうね。


 彼の見ている世界はどんな色をしているんだろう。

 それが、少しだけ気になった。



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