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18 初恋の終わり


 神妙な顔をした両親がいる。

 今日は特にお仕事もないので何をしようかと、部屋でぼんやりしていたところ、お父様に話があると呼び出されて食堂まで来たわけだけど。

 ……私、最近何かしたっけ?


 普段は最大四人までしか使わないのに、ムダに長いテーブルの上座には真一文字に口をつぐんだ父がいて、私の正面には心配そうに眉を寄せた母がいる。

 怒られが発生するのか、はたまた大事な話があるのかはわからないけど、とりあえず神妙な顔を作っておいた。


「それで、お父様。お話というのは何でしょう」

「ああ。お前と、ミゲル殿の話だ」


 あ、はい。そちらの件ですね。

 恐らく先日ミゲル様が屋敷を尋ねられて私と話をしたことは、お父様のお耳にも入っているのだろう。ですがね、あの場でも何も進展していないのですよ。

 一応どうするのかという話は出ましたが、結局私がどうしたいのかを上手く言葉にできず、現状維持となってしまった。


「きちんと話せたか?」

「……以前のように戻るのは難しいと。ただ、どうしたいかまでは、私の気持ちの整理が付かず話せませんでした」

「そうか」


 ため息とともにお父様が頷いた。

 まぁそうよね、婚約ってお家の繋がりだし。お父様が心配なさるのも最もだわ。まして、うちが子爵家なのに対しミゲル様のアスティン家は伯爵なわけだし。

 家格は向こうの方が上。ミゲル様の優しさでは大事にはなっていないけど、普通に圧力かけられたりしてもおかしくはない状況なのよね。


「ねぇあなた、やっぱりお医者様に来ていただいた方がいいんじゃない? だってナタリアがこんなことを言うなんて絶対おかしいわ。ミゲルさんから頂いたカードや手紙をショーケースに飾っていたのよ?」


 あの、その節はごめんなさいお母様。祭壇までは作っていないから許して。

 所謂メディアミックス舞台と言いますかそういう感じで楽しんでいたんです。公式グッズが出ないのでお手紙を飾るぐらいしかできなかったんです。頂いた贈り物はあるけどそれはなんかちょっとグッズというには毛色が違うし、供給はあるのにグッズだけが出ない中で何とかがんばっていたんです。


「落ち着きなさい、ケイト」

「でも」


 お母様の気持ちもわからなくはないのよ。だって今までの私って、本当にミゲル様に一直線って感じだったし。それが今は憑き物が落ちたみたいに、ミゲル様への気持ちがなりを潜めている。

 いえ、全く気持ちが無くなったわけではないけどね。それでも。


「ナタリアが賛成しているならと、ミゲル殿との婚約を受けたが。今は、その限りではないんだな?」

「はい」

「では、気持ちの整理は付きそうか?」

「……わかりません。ただ今まで私は、ミゲル様のことを見ていなかったのかもしれません」


 お母様が、不思議そうな顔をした。婚約者にベタ惚れだった娘がそんなことを言い出したら、首を傾げたくなるわよね。

 でもそういうしかないのよ。だって多分私は、この世界にいるミゲル様を通して、ずっと画面の向こうにいたミゲル様に恋していたんだもの。


「貴族の子女として生まれた以上、必ずしも望む相手と結ばれるとは限らないのは、お前もわかっているね?」

「わかっています。ですが私が未熟で、見えていないことが多すぎたのです」


 ミゲル様の婚約者になって、一度は伯爵夫人になるために相応の勉強や努力もした。

 でも、好きだったはずのミゲル様のあまり良くない部分も、積み重なって疲れてしまった。


 わかっていたはずなのよ、そういう人だって。でも実際にはちゃんと見えていなかった。

 本来ゲームには出てこない立ち位置で、婚約者候補になった時、悩みもした。だから割り切って推し活をしようと思っていた。


 ミゲル様のことは好きだった。

 でも多分それは。キャラにメロつきたいだけであって、キャラといちゃつきたいのではない。


「どうしちゃったのよ、ナタリア。確かにミゲルさんはお若いけれど、真面目で家柄も良い方だし、きっと今を乗り越えれば幸せになれるわよ? それとも本当に嫌いになってしまったの?」

「いいえ、お母様。私があの方を嫌いになるわけがありませんよ。本当に、ただ未熟だっただけなのです」


 私はこれからも、きっとミゲル様を嫌いにはなれない。

 それは前世の思い出、という意味もあるけれど。ただ本当に、あの人を好きでいる間はとても楽しかったの。


 楽しかった。好きだった。

 恋愛的な意味ではなかったのかもしれないけど。


「彼は苦労するだろうな。とにかく、今後のことは二人でよく話し合って決めなさい」


 お父様の言葉にしっかりと頷く。

 良くないとはわかりつつも、ずるずる引きずって来てしまった。ミゲル様は状況の立て直しを取り計らってくれたのに、私は現状維持を選んでしまった。

 自分でミゲル様を好きでいるのをやめると言ったのに、いい加減向き合わなくては。


 まだ少し気は重いけど、そんなことばかり言ってはいられない。まずはしっかり、私自身がそうしたいのかを考えよう。

 もう一度、ミゲル様と一から関係を作り直すのか。それとも婚約を破棄して、別々の道へ進むのか。


 どちらを選んでも後悔のないように。

 私だけじゃなく、ミゲル様も納得していただけるように。



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