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15 答えはどこに


 スキル「失せもの探し」を使った仕事は、何も国に依頼されるものばかりではない。

 確かに国からも重要な依頼を任されたりはするけれど、割と気軽に他の貴族にも仕事の依頼が来る。


 特にルース伯爵夫人は、我が家を懇意にしてくれていて、私も幼い頃からよく世話になったものだ。

 細々とした個人的な依頼を良くしてくれるが、基本的には半年に一度のペースで倉庫整理の手伝いに行っている。


 仕事内容は簡単。

 倉庫から虫干し中の美術品に紛失物がないかの確認を行い、手が空き次第夫人とお茶をするだけ。夫人曰く、お茶をするまでがお仕事なのだとか。

 いつも美味しいお茶菓子を用意してくれるし、何かと気にかけてくれる素敵なマダムだ。


「いつもありがとうね。今年も助かったわ」

「いえ、お力になれたなら何よりですわ」


 うちの屋敷とはまた違う華やかさのある伯爵家の応接間は、夫人の趣味も入っているのか上品ながらに所々可愛らしいデザインの調度品が飾られている。

 流行りの店の物だと言うみずみずしいフルーツのタルトも、テーブルの中央に飾られたピンクのバラも。きっと夫人が私を招くために選んでくれたのだと思うと嬉しくなった。


「ナタリアにお願い始めてからは、目録に狂いがなくてありがたいわ。旦那にも褒められるし、こうして若い子ともお話できるし。いいことばっかり! だからまたお茶に付き合ってね」

「ふふふ。私も夫人とお話するのを、いつも楽しみにしているんですよ」


 夫人は可愛らしい人だからね。

 貴族同士の政略結婚らしいが、初めて会った時からずっと夫人は伯爵のことが大好きだし、二人の話を聞くのは楽しい。

 それこそ、私もミゲル様と伯爵夫婦のような関係になれたらなんて婚約当初は夢見ていたぐらいには。


 あとお仕事とはいえ、借り受けた帳簿を片手にルース伯爵家が所蔵している美術品を巡るのも楽しいのよ。

 流石と言うべきか。年代物の有名画や彫刻などが数多くあって、美術館にいるみたいな気分になる。

 所蔵の確認が終わった後に、気になった美術品について夫人に話を振れば、伯爵との思い出エピソード付きで解説をしてくれるのもいいのよ。


「ああ、そういえば。最近、あなたとアスティン伯爵のことで色々噂が回っているけれど……困っていない?」


 ふと、思い出したように表情を曇らせて夫人が尋ねた。

 噂というのは、十中八九あのパーティーでのことだろう。あれから十日ほど経っている。十日もあれば色々できてしまう。

 個別にサロンを開いて、あの場にいなかった貴族にも面白おかしく広まっているのかもしれない。


 この間、ミゲル様が言っていた「お互いに面倒な思いをするだろう」というのはこういうことでしょうね。

 噂の的かぁ。けしていい気分ではないわね。私でこんな状態なのだから、きっと色々な場所に顔を出さないといけないところミゲル様はもっと気を重くしていることでしょう。


 それにしても、ルース夫人が心配するほど色々と言われているのだろうか。

 社交会にほとんど参加していないので実感は薄いけど、良くしてもらっている夫人に言われると途端に心配になってくる。


「もし必要なら私が間に立ちましょうか?」

「気持ちは有り難いですが、お互いに未熟だったのです。今はそっと、見守っていただけませんか?」

「そう? ナタリアがそういうなら……」


 正直、ミゲル様と話はしたが、まだ何も決まっていない。所謂現状維持の状態だ。

 よくはないけど、答えが出せなかった。決断はきっと早い方がいいのに、自分がどうしたいのかも上手く説明できない。

 中途半端になってしまったミゲル様への気持ちを、私はどうすればよかったのか。


「若い内は色々なことに気を取られるものだからね。あまり周りの言葉にばかり気にしてはダメよ? 噂をする人は皆面白がっているだけなんだから」


 きっと私の実感がないだけで余り良くない状況なんだろうな。

 貴族令嬢が大勢の前で騒ぎを起こしたというのは充分不祥事だし、醜聞と言っていいもの。普通の令嬢なら私みたいにふらふら仕事していられないと思う。

 メンタルが、って意味ではなく、お仕事が回って来なくてって意味で。


 そういう意味では地力の強いスキルなのよね「失せもの探し」って。だって普通騒ぎを起こした人にお仕事を頼んだりしないもの。

 以前から交流があって、とかなら応援の意味で頼むかもしれないけど、あえてそこを選ぶことをしない人の方が多いはず。何よりそういうことがあった上で、国からお仕事を振られるって時点で、そうそう潰れる心配もないというか。

 こういうところが、あまり現状に自覚がない原因でもあるのだけど。


「そうだわ! もしアスティン伯爵と婚約を破棄するなら、次のお相手はうちの息子なんてどうかしら? 年はすこし離れているけど、悪い子ではないのよ?」

「お気持ちだけで。ご子息様にはきっと、私よりも素敵な方がいらっしゃいますわ」


 良いことを思い付いたとでもいうように、パッと表情を明るくするルース夫人は相変わらず天真爛漫というか。

 この純粋さが魅力なのだけど、まだ婚約破棄になると決まったわけではないので。というか、巷ではそういう方向に話が言っているのね。


「そう? 悪くはないと思ったのだけど。気が変わったらいつでも言ってね」

「ありがとうございます」


 まぁ、拗れる前にすっぱり婚約を白紙にしてしまった方が踏ん切りがつくのかもしれないけど。

 ちゃんと、考えないといけないよなぁ。




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