ヒトの街へ ⑩
「入市税、一人銀貨1枚だ」
爺さんが手のひらを差し出してきた。
入試税? 入市税か。入場料だな。
盗賊のオッサンどもの売却代金の中から、出来の悪い百円玉みたいな硬貨を3枚取り出して、爺さんの手のひらに置く。
「んじゃ、俺と娘の分な」
「1枚多いぞ」
律儀に1枚返そうとする爺さんの手を、そっと押し返す。
少しだけ爺さんに顔を近付けて声を潜める。
「良い情報をくれた礼だよ」
「そうか。なら、”小麦の穂”という宿を探せ。あそこが一番、メシが美味くて安い」
ニヤッと笑った爺さんが、素直に1枚を腰の皮ポーチに隠し入れた。
これで少しは俺たちのことに関して爺さんの口が固くなるだろう。
迂闊なことを喋ったり、おかしな欲をかけば、爺さんが賄賂を受け取ったことをバラすからな。
「色々、あんがとな。駐屯所でヘビを売ったら探してみるわ」
「うむ。気を付けてな」
「おー」
検問所で兵士をしている爺さんと片手を挙げ合って別れた俺たちは、こうして初めての「ヒト族の町」へ入り込んだ。
「町・・・。ではあるんだが、ショボくね?」
「しょぼ? 何ですか?」
すぐに近く見知らぬ他人が居なくなって、ようやくケイナが口を開いた。
人目を気にするように声を潜めて見上げてくるケイナを見下ろす。
まったく。警戒心が強いんだか緩いんだか。
人慣れしていない小猫のような警戒心を発揮するかと思えば、衝動的に赤の他人を助けに入ろうとする危うさも有る。
心根の真っ直ぐな良い子ってことなんだが、しっかり見ておかなきゃな。
ケイナの視線を誘導するように「領都」内の景色へと目を向ける。
「んー。見窄らしい、とか、そういう意味だな」
「そう・・・、なのですかね?」
俺と同じように景色を見回したケイナは首を傾げる。
俺の感覚のベースになっているのは日本の風景で、ケイナの感覚のベースになっているのは郷の風景だ。
この辺りの感覚の違いは、共に過ごす時間が解決していくもんだろう。
「田舎町―――、いや。ちょっとだけ大きい村、かな? まあ、王都とやらに着いてみれば分かるって」
「そうなのですね?」
噛みしめるようにフムフムとケイナは頷いている。
まだ郷の外に馴染んでねえからな。
色んなものを見て聞いて、見識を広げれば、そのうち分かってくれるはずだ。
俺たちは、ケイナの歩幅に合わせて町の目抜き通りらしい未舗装道路をのんびり歩いてるんだが、目に映る建物は木造の2階建てと平屋ばかりだ。
さらには瓦も乗っていない板葺き屋根で、風で屋根が飛ばされないようにか重石の石っコロまで乗っかっているもんだから、俺の目には掘っ立て小屋に見えて仕方がねえんだよ。
郷の建物も似たようなもん―――、もうちょっと掘っ立て小屋感が強かったか、そんな感じだったからケイナに違和感が無さそうなのは仕方ないか。
郷の建物は大木の根で補強されていたから、この町の建物よりも遙かに頑丈だったけどな。
この町並みは、降水量が少ない気候だから瓦屋根に発達しなかったのか、それとも単に貧しいだけなのか。
日本昔話に出てくる漁村の建物っぽいというか、洋風建築なんだから西部開拓時代のアメリカっぽいというか、そんな建物の玄関先にはウッドデッキ的な軒下が付いていて、馬を繋ぐためらしい丸木の柵と馬用らしい水桶が据え付けられている。
西部開拓時代っぽいイメージの原因は、この柵と水桶だろうな。
疎らに目抜き通りを通っているのは荷馬車と徒歩の人間ぐらいか。
人の身なりを見れば、さっき別れたばかりの村人のオッサンたちよりかは、いくらか身ぎれいに見えるだけで、衣服のタイプや素材に違いは無いように見える。
生成り色を中心に、草木染めって言うんだっけな? 茶系の色の生地で作られた衣服ばかりだ。
そして、恐らくボタンが高価なんだろうと思うが、上着の襟首は広く開いているか、丸首で頭を通すための切り込みが胸元側に入っている。
周囲に溶け込むには、俺も衣服を現地風に改めるべきか。
さて、どうする?
軍の駐屯所へ行く前に着替えるか、そのまま行くか、軽く勝負どころだな。
ヒトの街へ⑩です。
観察中!
次回、調査!?




