ヒトの街へ ⑪
ケイナの耳の問題も有るから、先に何か衣服類を漁っておくか。
外套のフードだけじゃあ心許ないからな。
万が一にも亜人種に敵対的な思想を持つ連中に遭遇しちまったら面倒だ。
幸いにも、ケイナは耳を隠しちまえばヒト族の子供と見分けが付かねえ。
だとしたら、真っ先に探すべきは帽子の類いだな。
「ヨシ。服屋を探そうぜ」
「ふくや・・・。衣類を扱う商店のようなものですか?」
「おう。こういう目抜き通りに面した建物は商店が多いはずだからな。それっぽい店を見つけたら言ってくれ」
「わ、分かりました」
緊張気味にケイナが両手の拳をグッと握る。
おっと。そう言えば、郷には「商店」や「店舗」のような概念が無かったから、ケイナは初めての経験になるんだったな。
「気負わなくて良いから、目に付いたら教えてくれ」
「はいっ」
ポンポンと頭を撫でると、パァッと表情をお軽くしたケイナは元気よく頷いた。
そうそう。子供は、こうでなきゃいけねえ。
子供の不安を払い退けて笑っていられるようにするのは大人の仕事だ。
危険物センサーに引っ掛かるようなモンは今のところ無いが、念のため、ケイナの小さな手を握って目抜き通りの端を歩く。
全部の建物じゃねえけど、板葺き屋根の上に看板が乗っかってる建物や、L字金具に木の板の看板がブラ下がってる建物も有るんだよな。
芽が出たばかりのモヤシみたいな文字は、俺にはサッパリ読めねえが、大昔から有る”大陸統一文字”ってヤツらしくて、ケイナには読める。
問題は、「〇〇商店」みたいな看板は有るらしいんだが、どの店が何の店かが、まるで分からねえことだ。
「こりゃあ、地元民に訊いた方が早いか」
「そうですね・・・」
ケイナの顔を見下ろすと、ケイナも困ったように眉尻が下がっていた。
こういうときに限って通行人が居ねえんだよ。
通りに面した窓から建物の中を覘いて適当な店を探す。
ヤッベえ。屋内にカウンターらしきものが有る建物も有るが、本気で何を置いている店か分かんねえ。
「あっ。テツさん」
「どした?」
「あの看板、武器や防具の商店かも知れません」
「なるほど。あれか」
ケイナが指したのは、通り向かいの平屋だ。
書いてある文字は相変わらずサッパリだが、板葺き屋根に乗っている看板の形状が西洋剣っぽい。
「行ってみようぜ」
「はいっ」
ケイナに手を引っ張られて、馬車も通り掛からない通りを横切って平屋に近付く。
通りに面した窓から店内を覘くと、確かに剣やら鎧っぽいものやらが並んでいるのが見えた。
鎧? 鎧かあ。
頭部用の防具も有りそうだよな。
耳を隠すだけなら帽子に限ったもんじゃねえ。
「良さそうだ。入ってみよう」
「はい・・・」
ケイナの声に緊張の色が混じったのを感じる。
ポンと頭に手を置く。
「ケイナ。喋らなくて良いからな? 欲しいもんや気になるもんが有ったら俺に知らせろよ」
「はいっ」
俺を見上げたケイナがニコッと笑う。
ヨシヨシ。もしも店主がケイナの耳に気付くようなことが有ったら、ブン殴ってでも記憶を無くさせてやるからな。
窓の並びに目を遣れば、壁に木製のドアが貼り付いている。
窓から離れてドアの前に立ち、取って付けたようなドアハンドルに手を掛けた。
お? グッとドアを押しても開かない。
なんだ。外開きか。
鍵でも掛かっているのかと思ったドアは、手前に引くとギッと軋みを立てて難なく開いた。
何だよ。俺、ガラにも無く緊張してんのか?
ヒトの街へ⑪です。
初めての買い物!
次回、突入!?




