ヒトの街へ ⑧
「ここ数年は食い詰めた冒険者がなあ・・・」
「西の方じゃ内戦が起こってると聞くしなあ・・・」
村人のオッサンたちが表情を曇らせる。
内戦? マジかよ・・・。
「へえ。それ、大丈夫なのか?」
「東部は安心さ」
「南部は”王国の盾”が守ってるしな」
よろしくない情報に懸念を示すと、オッサンたちはヘラヘラと笑う。
この国は結構デカいから、「西部」地域からは1000キロメテル? ぐらい離れてるらしい。
メテルって何だよ。
こっちの基礎知識だったら無知を怪しまれそうだから訊けねえ。
「旅人」なのに距離の単位も知らねえとは言えねえだろ。
最寄りの隣国との「南部」国境線には、「王国の盾」とか言う、クッソ強え貴族の領地が有るそうだ。
そっちの国境線とこのエンツェンス子爵領は400キロメテルぐらい離れてるらしい。
だから、戦乱とは縁が無いとオッサンたちはヘラヘラしている。
そんなもんか? 内戦が起こってる時点で色々と波及してきそうなもんだが。
「そりゃあ良かった」
ここの王国は労働力の確保で非戸籍流入者の冒険者を多く受け入れているせいで、食い詰めた一部の冒険者が盗賊化するなど、近年の国全体としての治安状況は、若干、悪いらしい。
はあ。最近は、特に治安が悪化してきてるって?
それ、やっぱり内戦の影響が有るんじゃね?
正確には、内戦に至るような国内情勢って意味で。
オッサンどもと揉める気はねえから、口には出さねえけどな。
気の良いオッサンどもだが、情報源としては信頼性が低いと判断するしか無さそうだ。
ほうほう。ふむふむ。なんて、ケイナを肩車したままリュックを背負い、聞き役に徹した価値は有ったようで、面白い情報が聞けたと思う。
この国、冒険者ギルドと商業ギルドさえ抑えてしまえば、国家権力への対抗力は問題なく確保できそうだな。
信憑性の問題は残るにしても、俺みたいに性格がひん曲がった国民性では無いと感じる。
どうにも話を聞いている限り、この国の人間には亜人種差別の風習も無さそうなんだけどな。
その辺の村にも獣人族が住んでるらしいし。
聞いていた亜人種族差別っていうのは、他国から流入してきた冒険者の方がやらかしてるのか?
国家としては、思っていたよりも善良なんじゃないだろうか。
いかんせん気になるのは、想像以上に国家そのものの国力が低そうなことか。
カルト教団のサイコな干渉を撥ね除けるには、国が弱い気がする。
だとしたら、国力を上げさせて王家に恩を売るところまで、俺たちの手札を考える必要があるかもだなあ。
そんな話を聞いているうちに、“領都”という名の小さな町へ到着する。
城門と呼ぶには貧相な検問所で流れの冒険者を名乗った俺たちは、現役であることが心配になる老境の兵士たちに盗賊のオッサンどもを引き渡す。
「流れの」だからな。
村で「旅人」を名乗ったのは嘘にならない。
どっちか、つーと、今、嘘を吐いている。
嘘を吐いた理由は、いくらかヘビか犬っコロを売って現金を作りたかったからだ。
戦える職業ということにしておかないと魔獣の素材をゴロゴロ持ってるのはおかしくね? って理屈だ。
事件の状況と村に犠牲者が2人出た報告と、俺たちが盗賊を張り倒して捕まえたことの証言は村のオッサンどもがしてくれた。
割り増し料金上乗せで金貨5枚分ほどの報奨金を銀貨と大銀貨で貰い、約束通り折半で山分けして村人たちと別れる。
「んじゃ、また、どっかでなー」
「おー。近くに来たら村へ寄ってけよー」
ご機嫌で引き返していくオッサンどもと手を振り合ってから振り向くと、兵士の爺さんと目が有った。
「なんじゃ? 領都に入るんかい」
「そのつもりだが?」
爺さんの質問に答えると、頭の天辺から爪先までジロジロと見られた。
お? これは検問されるか?
俺の服装は、元々の格好にポンチョっぽいフード付きの外套を羽織っただけだからな。
怪しいと言えば、怪しいか。
「身元を明かすものは持っとるか?」
「無いんだわ」
服装については何も言われなかったので、ホッとしながら正直に答える。
整合性の取れない俺に答えに爺さんが首を傾げる。
「お前さん、冒険者じゃろ? ギルド証は?」
「失くしたんだよ。コイツと戦ってるときに」
平然と答えて、片方のベルトから腕を抜いたリュックの口から蛇革を引っ張り出す。
疚しいときこそ堂々と。
これが疑いを持たれないためのコツだ。
ヒトの街へ⑧です。
悪い人のコツ?
次回、ヒトの町!




