ヒトの街へ ⑥
「んで。アレ、どうすんの?」
「町の詰所に突き出すのさ」
「ほほう」
村人に聞くと“盗賊の捕縛は生死を問わず”で、官憲を務める兵士か冒険者ギルドへと引き渡せば、懸賞金、あるいは、報奨金が出るらしい。
生きていて犯罪者として労役要員の価値が残る犯人は、割り増し金あり、だと。
良いねえ。手加減しておいて良かった。
しかし、確認しておく必要が有るな。
「労役ってことは、奴隷か?」
「なに言ってんだ。リテルダニア王国に奴隷制度は無いよ」
「へえ?」
良かった。爺さんが言っていた国は、まだ滅ぼされずに残っていたようだ。
奴隷制度でも有るのかと、この「労役要員」について深掘りしてみれば、この国には奴隷制度が無くて、他国から奴隷を国内に連れ込んだだけで違法なのだそうだ。
刑罰としての「労役要員」か。
田舎なだけに、未開地の開墾や道路建設など、過酷な肉体労働の公共事業は山ほど有って、僅かな食料で過労死させても罪に問われない労働力を地方行政府が買い取っているわけだ。
奴隷との違いは曖昧に思うが、これも”必要悪”だな。
犯罪者の刑罰としてなら道理は通るのだろう。
現代地球人の倫理観に照らしても、違和感、というほど倫理観が乖離しているわけでは無さそうだ。
もちろん、命の値段は地球に較べれば激安の投げ売り価格だけどな。
「アンタ、そんなことも知らないのかい?」
「旅の途中でな。見掛けねえ、とは思ってたんだが、奴隷になんて縁が無いからな」
「旅人じゃあ、そうかも知れないね」
驚いたことに、この国に持ち込まれた奴隷は国に没収されて解放され、奴隷の所有者の方が処罰されるんだと。
だから、他国で奴隷を所有していても、その所有者がこの国に奴隷を持ち込むことは無いらしい。
入国時に奴隷を連れていなければ、奴隷所有者であることを調べる手段が無く罪に問われない、と。
あくまで、奴隷制度が無いのは「この国に限る」ってのが要注意だな。
他の全ての国に奴隷制度が有るのなら、被差別民であるエルフ族にとって他国は危険すぎる。
このリテルダニア王国にしか居場所が無いのなら、この国との付き合い方を慎重に掛かる必要が有る。
何せ、他に逃げ込む先が無い。
無害を主張して地方に居着く程度じゃあダメだな。
もっと国家の中枢に近く、国家寄りのスタンスで「信用」を築く必要が有りそうだ。
だとすれば、評価を上げて味方を増やしていく方が得策だな。
俺たちが派手に活動を開始して足跡を追跡して身元を調べられた際に、「良い評判」が有ると無いとでは状況が変わるだろう。
手始めは、この村人たちだな。
もう一歩踏み込んで好感度を引き上げておくか。
「なるほどなあ。んで、あの連中の引渡しで貰えるカネは、どう分けるよ」
「分けるって、捕まえた者が受け取れるお金なのに、私たちにも分けてくれるのかい?」
「犠牲者が出てるんだから、遺された家族は困るだろうに」
「あ、アンタ・・・! 良い人だねえ!」
村のオバサンはウルッと来たようだ。
本来は、討伐、あるいは、捕縛した者に受け取り権利があるカネらしいが、死人が出た家庭への援助も必要だろう、と申し出れば、俺の思惑通り村人たちの親密度が一気に引き上がった。
「取りあえず、あの連中を引渡しに行く必要が有るだろう? 手伝ってくれよ」
「おお! 良いとも!」
ニッと笑って村の男たちが協力を申し出てくる。
フレンドリーレベルを具体的に表せば、肩を組んで一緒にスキップするぐらいの勢いだな。
「被害者として証言してくれ。カネは村と俺で折半しようぜ」
「ありがとう! 任せてくれ!」
「アンタ、本当に良い人だねえ・・・!」
「お、おう」
またしても泣いて喜ばれたが、こちとら、身分を証する物が何もない、怪しさ満点の通りすがりだ。
場合によっては、証人がいないと俺たちまで捕縛される恐れが否定できないからな。
リスク回避の必要経費だ。
ていうか、泣いて喜ぶほどなのかよ。
報奨金ってのはそれほど高額なのか、それとも、この村がそれほどまで貧しいのか。
報奨金の金額を聞いてから判断しないと、「お前ら貧乏なの?」とは訊き辛い。
ついでに金銭の価値観も情報が欲しいしな。
カネを手にしてから判断した方が良さそうだ。
「んじゃあ、さっさと行くか」
再び、地面に転がっているオッサンの頬を張ってやれば、ようやく目を覚ましやがった。
村人が後ろ手に両手首を縛られている盗賊どもが凶器を隠し持っていないかの所持品検査を行い、盗賊どもの両足首にも、歩く歩幅程度の余裕を持たせてロープを繋ぐ。
なるほどな。歩くには問題ないが、走って逃げるには歩幅が足りずに走れないわけか。
縛り上げた人間を歩かせて連行する経験は無かったから、逃亡防止措置の方法は知らなかった。
そういえば、地球の奴隷貿易でも足首に枷と鎖が付いてたな。
ヒトの街へ⑥です。
奴隷制度に代わる労役システム!
次回、普通!?




