ヒトの街へ ④
極まれり9人のバカどもを頂点とする、傘下構成員総数1万人もの、鼻つまみ者の団体の名は、“不可触民”と名付けられた。
あの名前、言い出したのはハルだっけな。
インテリなんだよアイツ。
良いトコの息子だし、なんでバカやってたのか意味わかんねえ。
語源は、インドだったか、どこだったかの、身分制度で最下層の被差別民階級。
社会のゴミ同然のおバカの集団にはお似合いの名前だろう、ってな。
買収や不当な要求には、一切、応じない、どこかの非合法活動も辞さない連邦国家的治安組織の異名でも有ったんだっけ。
まさに、お似合いだと思ったわ。
まあ、肉体言語で分かり合ってしまった9人が横並びで全国統一を成し遂げて、表面上の平和が訪れた途端、カナの妊娠を知った俺は全部を投げ捨てて足を洗ったわけだけれども。
一応の決着は付けたけど、無責任にも投げ棄てた俺はアイツらに合わせる顔がねえ、って考えてたんだが、アイツらは、ただの友達として縁を切らずにいてくれた。
良いヤツらだよ。
アイツらのことだから、ヒナの状況を知れば助けてくれるだろう。
だからこそ、俺は日本に帰らなきゃならねえ。
一刻も早くヒナの元に帰って、アイツらにも借りを返さなきゃならねえ。
ともかくだ。
潰すにも、潰せない。
無視するにも、無視できない。
囲い込むにも、囲い込めない。
その理由は、利権団体からの擁護でもいい。
世論からの支持でもいい。
自分たちで利権を握っても良い。
名目上の庇護者と敵対さえしなければ、“必要悪”で良いんだ。
名目上の庇護者に敵対する者が現れたら、"協力者"で有れば良いんだ。
この世界にも、再び、俺の“不可触民”を作り出せば良いんだ。
「名目上の庇護者」ってのは「国家権力」だな。
誰にも従う必要は無いが、敵対するのは拙い。
敵対はしないが、手を出せないだけの「対抗力」を持っておく必要は有る。
何が「効く」かは状況次第だな。
「状況」を知るには飛び込んでみるのが手っ取り早い。
薬草やキノコを見つける度、マメに採集するケイナを横目に、道中でお手々を合わせて成仏を願ったドラゴン骨と鱗を残らず回収し、襲ってこない犬っコロを襲い、落ちてこない触覚ヘビを木から叩き落とし、2連滑車で吊して血抜き処理をした美味しい肉と魔石と毛皮と蛇革を着々と備蓄しつつ、2週間もの日にちを掛けて、その日、俺とケイナはヒト族の領域限界、最辺境の国境線を越えた。
低く、細く、なりつつあった樹間を抜けて、貧相ながらも人工物の味わいを醸し出している小麦畑? を見たときは、実に感慨深かったね。
そろそろバッテリー残量がヤバいスマホで、記念写真を撮ろうかと思ったほどだ。
見窄らしい限界集落から黒い煙が立ち上り、住民が逃げ惑っていなければ、だけどな。
魔獣の襲撃か、と、思ったけど、質素な衣服の住民らしき人々を追い回しているのも、小汚い簡易防具を着けて武器を振り翳した人間だな。
どうしようかと逡巡したら、ケイナがフードの下で小さな声で呪文を唱えて居たので、とりあえず、リュックを地面に下ろしてドラゴン棒を引き抜いてブン投げる。
ケイナがヤル気なら、さっさと終わらせてボロが出ないようにするまでだ。
ブオオオン! と、轟音の上げて盗賊らしきオッサンを掠めて外れたドラゴン棒は、家畜小屋っぽい掘っ立て小屋を掠めて屋根の一部を爆散させ、「ブモオッ!?」と牛っぽい悲鳴を小屋の中にいた家畜に上げさせて飛び去り、オッサンどもの足を止めさせた。
ケイナは精霊魔法と気取られないための、擬装用の魔法少女ステッキ―――、もとい、ステッキと言ったら魔法術士の杖だと怒られたので、杖な、杖。
長さ50センチメートルほどの、魔素を通しやすい素材らしい木の棒だ。
それの頭をオッサンたちに向けて、何かモゴモゴ言ったフリをした後、「風」と呟く。
ヒュゴッ! と、目に見えるほどに空気の粒が固まり、散弾のように飛び散った。
散弾の後を追って俺は駆け出す。
敢えて外したのかも知れないが、一斉に、地面に土煙の花が咲いたときには、俺がオッサンたちを張り倒して回っていた。
犬っコロに較べれば、トロい、トロい。
身動きする暇もないオッサンも、武器を振り上げようとするオッサンも、逃げようと身を翻すオッサンも、仲間に合図を出そうとするオッサンも、一人も逃がさねえぞ。
伸びたオッサンどもは全部で10人だった。
ヒトの街へ④です。
いきなりの戦闘!
次回、情報収集!




