小さな魔法使い ⑩
「バンダースナッチの血や、カルキノスの血です。口をこじ開けられて、流し込まれていました」
「えええ・・・」
兄様が複雑そうな顔になりました。
分かります。
流し込まれる血を見ているほうも、複雑な気分でしたから。
「それは・・・。彼、吸血種では無さそうだけど、ずいぶんと血に拘るんだね」
「正確には、ご自分で倒した魔獣の血と心臓ですね。血は、一番、効率が良いそうです。肉も食べると効果は大きいけど、心臓は単に食感がコリコリしていて美味しいと」
意味をはかり兼ねたのか、兄様が首を傾げました。
「効率って?」
「強くなれるそうです。それで、わたしも、ショージョーのボスの血を飲むことになったのですが」
「ふぅん・・・。血と心臓で、強くなれるのかい?」
兄様は興味を持ったようです。
やる気、ですか?
微細な魔素の動きを見る眼を持っているので、確かに兄様は、魔術道具を作ったり魔方陣を開発するのが得意ですが、魔法術式の制御が苦手なわけではありません。
兄様自身は勝つための手段に拘らないだけで、郷の者の誰よりも強さを求めていることを、わたしは知っていますから。
それよりも、今は、わたしが直面している問題を解決しなければ。
「実は少し、わたし自身が困ったことになっていまして」
「どういうこと?」
どうしたものかと考えていたのですが、やはり、相談できる相手は兄様かお祖父さましか居ません。
「魔素の加減ができなくなったというか、術式の制御ができないのです」
「ケイナの得意分野じゃないか」
兄様が目を丸くします。
思い出しただけで、自己嫌悪です。
「テツさんのお手伝いをしようと風術式の”槍”を使ったのですが、狙いが定まらなくなって、大爆発を起こしました」
「風の術式が爆発? そんなことって・・・」
ですよね。
さすが兄様です。
おかしな部分に、すぐに気付いてくれます。
「わたしも驚きました」
少し考え込んだ兄さんは、表情を改めました。
何か、原因に思い当たったようです。
「ケイナ。ちょっと、鑑てみていいかな」
「お願いできますか」
わたしを見る兄様の目が、魔素に満ちて色を変えました。
眼が、魔素の動きを追って、忙しなくなります。
「―――これは・・・」
兄様が絶句しています。
特別な目を持っている兄様でも驚く事態が、わたしの身に起こっているのでしょうか。
「どうでしょうか」
「すごいね。もの凄く体内の魔素が増えてる。桁違いに、と言っていいぐらいだ」
兄様の目が興味にキラキラと光って見えます。
わたしは術式を発動したときの様子を思い返してみました。
「術式を発動するときに、精霊たちが騒いでいるように感じたのは、それが原因だったのですね」
「大量に魔素をもらえて、精霊たちも頑張っちゃったんだろうねえ」
精霊は純粋だから、仕方ないよね、と。
溜息が出ます。
「だからって、風術式が爆発するなんて・・・」
「加減を覚えるしかないね。術者としては贅沢な悩みだとは思うけど」
「他人事ではありませんよ。兄様も、魔素が増えたら、こうなります」
本当に、大問題なんですよ?
小さな魔法使い⑩です。
がんばっちゃった!
次回、決意!




