小さな魔法使い ⑨
「僕は、彼に助けられて、郷まで運んで貰ったらしいね。ケイナにも郷の掟を破らせてしまったと聞いた」
「兄様まで居なくなってしまうよりはマシです。郷へ戻ったときには、もしかすると、却って兄様まで苦しめてしまうのではないかと悩みましたが、今は正しい判断だったと思っています」
父様と母様は、採集に行って、魔獣に襲われて、帰ってきませんでした。
ずいぶんと、泣いた記憶だけは有ります。
家族を失うのなんて、もう二度と御免です。
ありがとう、と、兄様が、わたしの頭に手を伸ばして撫でます。
「ケイナの処分も、ショージョーの討伐を成功させたことで帳消しになりそうだと、お祖父さまが言っていたよ」
「そうなのですか?」
意外です。
郷の大人たちには、真面目というか、ルール絶対主義の人たちが何人も居るのです。
兄様は、思案するような表情をしました。
「ただ、お祖父さまは、彼の旅に、ケイナを同行させたいと考えているようだね」
「そう・・・ですか」
お祖父さまは思慮深く、民を大切にされるお方です。
わたしをテツさんに同行させようとするのは、ほとぼりを冷ます意味では無いでしょうか。
まだ、納得していない郷の大人たちが居るのでは無いかと思うのです。
「浮かない顔だね。嫌なら、僕が反対して、お祖父さまと直談判するけど?」
「いいえ。決して、そういうわけでは・・・」
少し、気持ちが重くなりました。
兄様が気遣うように、わたしを撫でます。
何があったの? と。
「あの、郷を襲った魔獣の群れを彼とケイナの二人だけで駆逐したって聞いて、お祖父さまと郷の大人たちが驚いて、今、彼と一緒に確認に行ってるんだけど」
「ヒマだから魔獣の群れを見に行くと仰って。お爺様からテツさんのお世話を仰せつかっていましたから、ついていきました。恐らく、最初から討伐するつもりで向かわれたのだと思います」
そうです。
毛皮の鞣し作業に、どれだけ急いでも数日は掛かると言われたので、あの人は、ヒマだと言い出したのです。
遠い目になりました。
「ひ、・・・ヒマだから? それで魔獣討伐に行くのかい?」
「そういう人なんです。だんだん分かってきました」
「変わった人なんだねえ」
兄様も、遠い目になっています。
魔獣討伐は、命懸けの任務なのです。普通は。
「そういえば、兄様。お体のほうは大丈夫なのですか?」
血で汚れた服から清潔な普段の衣服に着替えているので分かりにくいのですが、まだ、兄様は身体中が包帯だらけのはずです。
こうして体を起こして、わたしと話しているのも辛いはずです。
「心配しなくて良いよ。もちろん、まだ傷は痛むには痛むんだけど出血はもう止まっているし、不思議と体が軽くてね。討伐現場の確認に僕も一緒に行くと言ったんだけど、お祖父さまに却下されちゃったよ」
ああ、アレですね。
兄様は苦笑していますが、わたし、分かってしまいました。
「そういうことですか」
「ケイナ、何か知っていそうだね」
つい、と、兄様の目が細められました。
ここは正直に言っておかないと、報復で色々と弄って遊ばれることになります。
「えっと。兄様も、意識を失っているときに、色々と飲まされていましたから」
「色々、って・・・。気になるね」
わたしが気を遣って言い淀んだものを、聞き出したのは兄様ですからね?
小さな魔法使い⑨です。
ヤブヘビお兄ちゃん!
次回、大問題!




