小さな魔法使い ⑧
「さっきは、済みませんでした」
「なにが?」
「わたし、術式の制御に失敗しちゃって・・・」
ぺこり、と、頭を下げましたが、テツさんは不思議そうな顔をしています。
「そうなん? ま。人間、誰でも失敗することぐらい有るだろ」
「でも、もうちょっとでテツさんに当たってしまうところでした」
魔法が得意、だなんて、無理に付いてきて、こんなの・・・。
自分の未熟さを思い知った気がします。
なのに、この人は。
「当たんねえって」
はっはっは、と、気楽な感じで笑っています。
何なんですか。その自信。
お前の術式になんて当たらない、と言い切られてしまうと胸の中がモヤッとします。
「言ったろ。危ないのは“分かる”って」
「その、分かる、というのは・・・」
「昔っから、ヤバそうなときは分かるんだよ」
ズボっと引き抜かれた手には、人間の頭よりも大きいボスの心臓が握られています。
食べるんですか? それ。
その、「やばそう」という言葉の意味もわかりませんが、危険を感じたときは、無条件に避けることにしているそうです。
こちらの世界にきてからは特に顕著で、危険なものが手に取るように分かると。
後ろから何かが飛んできても、問題なく避けられるそうです。
だから、わたしは何も気にするな、と、ニッと笑います。
謝罪すら受け取ってもらえず釈然としませんが、この人の、この笑顔、安心するというか、わたしに向けられると、ああ、大丈夫なんだ、と思っちゃうんですよね。
お祖父さまへの敬愛とも、兄様への親愛とも、少し違う。
・・・父様って、こんな感じなのでしょうか―――、って、わたしは、何を考えているのでしょうか!
何だか恥ずかしくなって、コップの中身をグイッと飲み干しました。
「はうっ!?」
不意に大きな魔素の動きを感じたのだと思います。
そこで、わたしの意識は途切れました。
「・・・う、ん?」
誰かが、わたしの髪を撫でています。
頭が、ぐわんぐわん、と、回っているような気がしますが、重い瞼を、なんとか開けてみます。
「気がついたかい? ケイナ」
「にいさ・・・ま?」
聞き慣れた穏やかな声に、わたしの意識が一気に覚醒しました。
「兄様! 意識が戻られたのですね!?」
あう・・・。
ガバッと起きたはいいのですが、やはり、目が、ぐるぐると回っています。
兄様が、コップのお水を差し出してくださったので、ありがたく、いただきます。
「大丈夫かい? 目を覚ましたら、テツさんという人が大慌てでケイナを担ぎ込んできて、びっくりしたよ」
「はっ! わたし、ボスの血を飲んだ途端に気が遠くなって・・・!」
そうでした! わたし、またテツさんにご迷惑を!
重ね重ね、最悪です!
「聞いたよ。彼、まさか、ぶっ倒れるほどケイナが血を嫌っているとは思わなかったって、反省していたよ」
「あ、いえ。そういう訳では・・・」
「だよね。ケイナ、ブラッドソーセージも、普通に美味しそうに食べるものね」
クスクスと笑われて、つい、ふくれっ面になります。
「もう。兄様のイジワル」
「ごめん、ごめん」
兄様もお水のコップを持ってきて、わたしのベッドの足元のほうへ腰掛けます。
しっかりとした足取りで、今にも死に掛けていた人だとは思えない足取りでした。
小さな魔法使い⑧です。
お兄ちゃん、復活!
次回、名誉回復!?




