小さな魔法使い ⑦
“槍”の爆発で、右ヒザが半ば千切れ掛かって倒れ込んだボスの左腕を脇に抱えて、テツさんが肘の関節を逆向きに圧し折っていました。
そのまま、テツさんはボスの腕から手を離すと、足元から小石をひとつ拾って、倒れ込んで低くなったボスの顔に向けて投げつけます。
「ストラーイク」
狂ったように悲鳴を上げ続けるボスの額に、赤い点が付いた、と、思った瞬間、ボスの後頭部が内側から弾けました。
ぴたり、と、悲鳴が止み、ズシンと崩れ落ちて動かなくなります。
真っ赤な血が地面に広がり、ボスの焦点の定まらない虚ろな目は、虚空を見たままで・・・。
あ、死んだ。と、思ったのは、わたしだけではなかったのでしょう。
数体、生き残っていた群れの配下のショージョーたちが、一瞬、静まり、思い出したようにギャアギャアと騒ぎながら先を争って逃げ出しました。
垂直な幹を駆け上がって、枝から枝へと飛び渡っていきます。
「あっ! つ、追撃を・・・!!」
「ああー。止め、止め」
「えっ?」
「もう良いよ」
精霊にお願いしようとしたわたしに、ひらひらとテツさんが手を振りました。
「もう来ねえだろうから、必要以上に殺すこたあねえよ」
「は、はい」
それは、そうでしょうね。
群れのボスやほとんどの仲間が、無残な殺され方をしたのです。
きっと、人間を恐れて、郷の近くには二度と近付かないと思います。
これで郷の周辺は、元通り、と、までは行かなくても、少しは安全になることでしょう。
「眩しい・・・」
薄暗い森の中に慣れきった目に、陽の光がこんなに眩しいものだとは知りませんでした。
何本もの大木が幹を半ばで抉られて倒れ、木々の間から青空が覘いています。
空から視線を落として周りを見回せば、それはもう酷い有り様です。
そして、陽光に照らされた地面の、そこら中に、倒れた大木と無残な肉片に変わったショージョーの死体が散乱しています。
濃密に漂う血の臭いが森を満たしていて、鼻がおかしくなりそうです。
武器も魔法術式も使わない人に・・・。
たった一人の人間に、こんなことが出来るなんて・・・。
凄い。
本当にショージョーの群れを一人で追い払ってしまいました。
ボスの死骸の検分を始めたテツさんが、どこかからコップを取り出しています。
ああ、やっぱり飲むんですね。
わたしの胸を満たしていた感動と尊敬が、どこかへ引っ込んでしまいました。
「くああ~~~。効く~~~」
額の穴から滴る血をコップに受け止め、グイッと煽ったテツさんは、お酒を飲んだ大人たちのようなことを言っています。
「ほい」
テツさんが、わたしにコップを差し出してきました。
わたしも飲むんですか?
「良いから良いから」
「ええ?」
ていうか、このコップ、お祖父さまの家にあったコップですよね?
コップの半分ぐらいまで注がれた、ドロッとした真っ赤な液体に、ごくりと唾を飲み込みました。
これ、本当に飲むんですか?
今の今まで生きていた魔獣の血液だと思うと、気が遠くなりそうなのですが。
それにしても、と、ボスの胸板に平然と魔石のナイフを突き立てながら、テツさんが感心したように言いました。
「精霊魔法って、スゲエ威力なんだなあ」
あれを普通だと思わないでください!
そ、そうだ! 謝らなきゃ!
「あ、あの! テツさん!」
「んー?」
腕まくりしてボス猿の胸に腕を突っ込みながら、緊張感の無い声で返事を返したテツさんがわたしを見ます。
小さな魔法使い⑦です。
デッドボールです!
次回、気絶!?




