小さな魔法使い ⑪
保有する魔素の総量で発動できる術式の難易度や、規模、行使回数が変わる以上、術式を操る術者にとって、使える魔素の量は切実な問題です。
訓練で魔素の扱いは上達できるのだから、贅沢と言われれば贅沢なのですが、精霊に与える魔素の量は感覚的なもので扱うので、根本的な魔素の総量が大きく変動したとなれば、一から魔素の扱いを訓練し直す必要があるかもしれません。
だと言うのに―――。
「兄様は、楽しそうですね」
「そうかもね。お祖父さまが教えてくれたんだけど、彼が話したっていう、国家権力にも屈しない対抗力を持つ、って考え方。僕は賛成だな。その力は、きっと僕たちにとっても必要な力になると思う」
「わたしには、よく分かりません」
わたしは、首を振りました。
郷の大人たちの中には、わたしたちエルフ族が強力な力を持ちすぎたせいで、世界を敵に回したと言う人も居るのです。
どこまでが許されて、どこからが許されないのか、そんなものが分かるのでしょうか?
「でも、そんなことが本当に出来るのかを、見てみたい、と、ケイナも思ってるよね?」
「・・・そうかもしれません」
「恐らく、だけどね。彼には、その手段―――、いや、方法論かな? 彼はそれを持っているんだと思うよ。そして、それでいて、彼には野心が―――、いいや、欲かな? そういったものが、まるで無い」
驚きました。
その通りなのです。
わたしも、そう感じていました。
黒龍王に並々ならない執着を持っていらっしゃるご様子ですが、テツさんからは、それ以外の”欲”のようなものが感じられないのです。
手元に持っていらっしゃるものを惜しみなく手放されますし、何の見返りも無くご自身の身を危険に晒されます。
わたしよりも接した時間は短いのに、兄様はよく見ていらっしゃいます。
一度話しただけで、そこまで看破できるものなのですね。
「そうですね。だから、見てみたいと思うのかも知れません」
「珍しいね。ケイナが郷の外へ出たがるなんて」
からかうように目を細めました。
もう! また兄様は、そうやってわたしを子供扱いするのですから!
「兄様が負傷して意識を失われたときに思ったのです。森に隠れ住むための掟のせいで、父様と母様だけじゃなく、兄様が死んでしまうかも知れないと。これが本当に正しいことなのかと」
これは、兄様に、だからこそ言える本心。
郷の人たちには聞かせられません。
「確かにね。僕もショージョーに襲撃されたときに思ったよ。こんな危険な森の奥に籠もっていなければ、こんなことは起こらなかったんじゃないかってさ。父様と母様のときもね」
おそらく、お祖父さまも僕らと同じように感じているんじゃないかな、と、兄様は天井を見あげました。
お祖父さまが、本当にそう考えていらっしゃるのであれば、郷長や次期郷長候補の立場があるお祖父さまや兄様に代わって目となるのは、わたしの役目なのでしょう。
決めました。
「兄様。わたし、テツさんに付いていって、外の世界を見てきたいと思います」
「そっか。じゃあ、僕は彼と色々話してみて、森から出る方法を考えてみようかな」
本当に楽しそう。
本当は、兄様はご自分で郷の外へ出てみたいのではないでしょうか。
きっと、兄様は、あえて考えを漏らされたのだと思います。
お祖父さまも、そうやって、わたしたちが心の準備を整える時間を与えてくださる方ですから。
きっと、お祖父さまも、心の裡では、すでにお考えを固めていらっしゃるのだと思います。
そうと決まったら、わたしは自分の魔素の扱いの感覚を掴み直さなくてはなりません。
兄様がそう感じたのであれば、お祖父さまからわたしへ、テツさんの旅への同行を命じられるのも時間の問題でしょう。
お祖父さまから命が下るまで、そんなに時間は残されていないでしょうから。
一刻も早く感覚を掴み直せるように頑張りますよ。
小さな魔法使い⑪です。
このお話で本章は最終話です!
次話より新章、第8章が始まります!
次回、お兄様!




