郷の掟 ⑩
「これはもう、疑いの余地は無いですのう」
神妙に改まって、ケルレイオスが居住まいを正す。
ピュリケイナちゃんも慌てて爺さんを真似る。
「貴方様は、龍に喚ばれた勇者、に、ございます」
龍の王と戦って生き残り、大蛇の魔獣を何匹も狩り、単身で森オオカミの群れを屠り、あの、巨大な塩水ザリガニまで、容易に討ち取ってみせる。
そう言って、爺さんは指折り数え上げる。
「この世界に来て、たった一週間や、そこいらで、常人に為せる業では有りませぬよ」
えええ・・・。
思わず顔に出ちまった。
「そんなに、嫌そうなお顔を、なさらんでくだされ」
「だってそれ、絶対、厄介事に巻き込まれるヤツじゃん」
「隠しておられたとしても、早晩、バレると思いますがのう」
うわあ。面倒くさそう。
「俺は、黒トカゲを〆(しめ)て、地球へ帰りたいだけなんだけど」
俺の目的を聞いて納得したように頷く。
しかし、と、ケルレイオス爺さんが思案顔になった。
「これは、ちと、問題かもですじゃ」
「問題って?」
「ここ100年ほど、ヒト族の勇者召喚は、神教会が牛耳っていると聞きますでのう」
ふむ・・・?
「独占状態を覆す、野良の勇者を放っておく訳がない、と?」
然り、と頷く。
神教会って、地球人拉致犯のことだよな。
「従わないなら、“消しに”来るってことかな?」
「傲慢な、きゃつらならば、有り得るかと」
「だったら、カルト宗教の影響下にある国に行くのは論外だな」
かると? と、爺さんは首を傾げ気味。
「神教会の専横を良しとしない国家群も存在しますが、そちらに取り込まれても、自由を奪われる可能性が高いでしょうな」
「それは良くねえなあ」
納得しちまった。
黒トカゲに勝負を挑むには、今の俺では、まだまだ力が足りていないと思う。
早く帰りたいと焦る気持ちは有るが、返り討ちに遭っては、元も子もない。
「面倒な連中と関わりたくねえ」
一刻も早く、強くならなきゃならないってのに。
でもまあ、なるほどなあ。
腕組みで、少し思案する。
「なら、十分な力を蓄えるときまで隠し通すか、その何たら教会や国家権力に対抗できる力を持つしかない、ってことだな」
ケルレイオスが、ギョッとした表情で俺を見た。
そんなに驚くことか?
「対抗、ですと?」
「国家に敵対しない形での、無視できない規模の戦力を持てば、無理強いは出来ないんじゃねえの?」
昔、似たようなこと、やったしなあ。
聞いた限り、何とか教会って奴らは、滅茶苦茶なことをしているカルト宗教だ。
カルト宗教ってヤツはクレイジーだから未知数なところは有るが、やりようは有る。
対抗軸としての国家権力を利用すれば、直接的なカルト宗教からの攻撃を躱すことは可能だろう。
国家権力による囲い込みに対抗するにも、独自の対抗力は必要だ。
まあ、こんな提案も、話半分にでも信じられるかどうかは別問題だけどな。
「“戦力”っていうのは、何も、武力だけに限ったモノを、言うわけじゃあねえんだぜ」
「・・・技術、組織、人脈。そういった意味ですかの?」
真剣な目でケルレイオスが返してきた問いに、俺の口角が引き上がる。
やっぱ、この爺さん、人格者だわ。
郷の掟⑩です。
見えてきた敵の影!?
決断!?




